side ???
我が仇たる”にゅうれぎおん”の盟主は、どうやら乱心との報せ在り。どうやら、天晴なまでの武勇と知略で島を恐怖に陥れた”幹雄、がいうす”もこれまでのようだ。奴さんは自らの兵を総動員して島で最も高いあさまへと進軍を開始したという。これはまたと無い好機と見た我ら”はうりんぐうるふ”の長は、某らの部隊に”にゅうれぎおん”の本丸を攻撃するよう指示した。その時、某が感じた興奮は未だ忘れられぬ。
某はこと武勇に関しては一日の長があると自負している。某がこの竜が犇めく島に流される前は、立花城を皮切りに高麗陣に至るまで数多の戦場を駆け巡り、ついには影打ちではあるものの主君と同じ刀である雷切を賜る程であった。誰が呼んだか戦場の雷。某らは今日、散々煮え湯を飲まされた憎き敵に一矢報いるのだ。
栄華を極めた部族の最後は余りにも呆気無い物だった。敵の兵は集落に殆ど残されておらず、もはや戦とは言えぬ有様であった。”がいうす”がこの様な采配を取った意図は全く以て理解できぬ。半日と経たず内に某らは”にゅうれぎおん”の集落を制圧し、残った住人を捕虜として連れ帰る算段まで立てられた。今にして思えば、慢心していた。敵も民草だけとはいえ、ただ滅びを待つだけの愚かな衆ではなかったのだ。敵は最後の抵抗と言わんばかりに、上空に待機させた怪鳥”ぷてらのどん”を丁度某の元へ嗾けたのだ。よく躾けられたもので、かの”ぷてらのどん”は自らの命を顧みず、某に対して回転飛行で突撃。終いにはその体に取り付けられた”しーふぉー”なる爆薬が炸裂し某の身体を二つに寸断した。
如何なる強者でも一寸先は暗闇、そのような戦場の掟を不覚にも某は失念してしまっていた。己の武勇に溺れた故の末路だ。某の最後の景色はこれまでの武功からすれば、あまりにも惨め極まりない物であった。無様に血に伏し腹を切る事さえ許されず、果ては巨大な蜻蛉”めがねうら”に全身を貪られる始末。某は失意の中、涙ながらに再び生を閉じたのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー―
こうして目覚めるのはもう二度目だ。褌一丁というのもあの時と変わっていない。島の聡明な学士達は、自らが島に流された理由をやれ小難しい言葉を並べて説明しようとしていたが、某からすれば神仏からの試練、導きだ。かつて某らを訪れた"へれな"や"ろっくうえる"なる南蛮人が標榜していた科学とやらはほとほと理解出来ぬ。
某は直ぐに周囲を見渡した。正確な位置までは分からぬが、どうもこの辺りは”ぺいんとしゃあくす”なる海の猛者共が活動していた島の南側の浜辺らしい。某らが居た北の雪原とは程遠い場所だ。”だいあうるふ”を伴っているのならいざ知らず、徒歩の状態では北方まで辿り着くのは骨が折れる。尤も、あのような無様な失態を見せた以上おめおめと集落に帰る訳にはいかない。刀がない以上、腹を切る事も出来ない。八方塞がりとは正にこの事。
しかしながら、腹の虫というのは時と場合を弁えぬもので、この様な時分においても元気溌剌だ。某は近くの茂みへ赴き、手頃な果実を探す。そこで、ふと違和感を感じた。茂みを漁る手にべたべたと何かが纏わり付く感覚がしたのだ。手元に目を見やると、粘っこい葉っぱがこびり付いていた。見た事の無い草だ。某は仕事柄、遠征先で自給をする機会が何度かあったが、果実を採集する際にこの様な草に手を煩わされた事は一度として無い。不快感を覚えながらも自生する”あまるべりー”と”あずうるべりー”を手に取り、口へ運んだ。
腹は満たされたというのに、未だ胸の内の焦躁は消えない。先程の未知の草の件もそうだが、某の勘何か異常があると頻りに警告して来る。だと言うのに、島の風景は某が知る物と何ら違いが無いのだから、それが却って気味の悪さを引き立てている。
某の周囲に、ホタルの如き黄金色の光を放つ虫の集団が集り始めた。奴らは某の身体に貼り付くでなく、ただ身体の周りを漂っている。かと思うと、群れは少しずつ、まるで光の筋を描く様にして飛び去って行った。某の直感が告げる。共に進むべきだと。しばらく歩みを進めると、虫共はある竜の周囲へと纏わり付き始めた。某にも見覚えのある草食の竜”ぱらさうろろふす”だ。しかし、どうにも様子がおかしい。某の知る”ぱらさうろろふす”は、目の前の竜の様に物々しい姿をしていなかった筈だ。少なくともあのような仰々しい棘を尻尾から生やしてはいなかった。それだけではない、”ぱらさうろろふす”もどきの群れの影からもう一種類の竜が姿を見せたのだ。此方は”ぱきけふぁろさうるす”に似ているが、身体も二回りほど大きいし、頭の鶏冠もあれ程大仰ではなかった筈だ。
見た事の無い生物が我が物顔で闊歩する光景に立ち尽くしてしまう。思えば、目覚めてから某の知る動物とは一度も遭遇していない。空を舞うのは”ぷてらのどん”ではなく、青く強靭な脚を持つ怪鳥だし、憎たらしい盗人”いくちおるにす”の代わりに見かけるのは烏を思わせる不吉な黒い鳥だ。そのどれもが某の知る生物より大仰で、強大に見える。嫌な予感が込み上げ、不覚にも額から汗が垂れてしまう。
刹那、鳥たちは荒ぶり、目の前の草食竜たちは錯乱して四方八方へと散らばって行く。眼前の光景に某はただならぬ気配を感じた。先程の虫たちは森の中へと光の筋を作って進んでいる。某はその光に導かれる様にして共に森の中へと吸い込まれたのだった。歩けば歩く程、殺気が肌を突き刺すのを感じる。その主が只者では無い事はもはや疑いようがない。
けたたましい獣の声が響く。同時にその主は某の前に姿を現した。島の人々は巨大な蜥蜴の事を竜と形容し、某もそれに従ってきたが、奴の姿を目にしてはそれが全て間違いだったのだと気付かされる。あの”てぃらのさうるす”をも遥かに上回る体格、怪鳥とは比べ物にならぬ巨大な翼、力強く大地を踏み締める健脚、それら全てが真に竜と呼ぶに相応しい圧倒的な存在だ。その惠体の総てを覆い尽くす黒く刺々しい外殻は屈強な甲虫を思い起こさせる。頭から生える角は見る者をこれでもかと威圧する。対して、半透明の透き通った翅は虹色に輝いており神々しい美しさすらも感じさせる。
竜はこちらを見るなり、耳が割れかねない程の雄叫びを上げた。雄叫びによって木の葉は落ち、空は揺れる。それでも某は武士だ。敵を眼前にして背中を見せるなど言語同断。偶然落ちていた太めの木の枝を拾い、構えを取る。そんな某の戦意を汲み取ったのか、竜も翼の先端を地に付け、雷を思わせる大量の光の筋を放った。それと同時に、竜の角と両翼、尻尾が翡翠色に輝く。
「それがお主の真の姿か。相手にとって不足は無い。」
先に動いたのは竜の方であった。その翼をまるで腕を振るうかの様に乱暴に某の元へ叩き付けたのだ。某は後方へ跳躍し紙一重ながら回避に成功した。彼奴が地を殴った瞬間、その場所からは翡翠の光の筋が立ち昇り、鉄砲のそれとは比べ物にならない轟音が轟いた。草々は途端に焼け焦げ、土は大きく抉れている。その威力たるや、あの悪魔の王に勝るとも劣らない。正しく傑物だ。森に巣食う支那の獣の女王ですら彼奴に敵う保証は無い。
さて、お次は某の番とさせて貰おう。某は彼奴の頭に向かって駆け出すと同時に、脚に力を込め跳び上がった。そのままの勢いで脳天へ渾身の一撃をお見舞いしたのだった。竜の鶏冠は想像以上に堅固で、手にした木の枝は打ち付けたその瞬間に真っ二つに割れてしまった。もはや某に得物と呼べる物は存在しない。だが、それでも先祖伝来の武士の意地を捨てる訳にはいかぬ。某は竜に向き直り、拳を構えたのだった。
己を奮い立たせるが、気付けば自然に後退っており、背中に木が当たるのを感じた。面白い。あの碧蹄館ですらこれ程の緊張を味わっただろうか。愛刀の雷切を失った事が悔やまれる。出来る事ならこの強者に某の全身全霊でぶつかり合いたかったものだ。
耳を突く甲高い音が響き渡る。それと同時に竜は頭を天に向かって振り上げた。彼奴の天辺に先程までとは桁違いの量の光の筋が集まり、ついにはそれらが纏まって束となる。まるで一つの大剣だ。光が弾ける度に周囲の空気がひりつくのを感じる。某には解る。これこそが、かの竜の全力の一撃なのだと。
彼奴の太刀筋が見えた。その刹那、某は身体を横に転がしたのだった。木々が音を立てて倒れ、周囲には砂塵が巻き上がった。またもや、間一髪の所で難を逃れられた。が、このままでは埓が開かぬのもまた事実。
再び立ち上がり、竜の方へと向き直る。だがその時、地鳴りと共に森の中は揺れ始めたのだった。あまりに突然の出来事ゆえ、某も竜も音の方角に釘付けとなる。獣の足音と思われる音は次第に大きくなってゆく。時を同じくして、雷の如き蒼白い光を放つ虫が足音の方向から此方へ向かって飛来する。一歩また一歩とゆっくりとだが、着実に音の主は近付いている。更なる強者の登場の予感に武者震いが止まらない。
場の緊迫が頂点に至った時、満を持して主は姿を現した。その姿は狼を思わせる巨大な獣だった。ただの獣風情ではないのは一目見ただけでも明白だ。老練の武者を思わせるその風格は黒き竜にも勝るとも劣らない。そんな蒼き獣は某の前を堂々たる足取りで通り過ぎる。暴れるでもなく、ただ某の目前を歩む、ただそれだけであるのに、某など歯牙にも掛けぬその様子に佇む事しか出来なかった。獣はほんの一瞬だけ流し目で某を一瞥したと思うと、悠然と竜の元へと進んで行った。
それから、某は恥も外分も全てを投げ捨て、近くの茂みへと姿を隠した。にも関わらず、胸の内の高揚感は留まることを知らない。見届けたい。某とて武人の端くれ。これ程の強者同士の闘いを見れる機会など後にも先にもきっと無いだろう。最早某の出る幕など無い。士同士の決闘の場に居座る程、某も野暮ではない。仮に無様にも流れ弾に当たって命を散らすとしても、この闘いだけはしかと目に焼き付けておきたかったのだ。
件の獣は竜の眼前に迫ると、雄叫びを上げた。獣が連れ立っていた蒼の虫たちは、その声に呼応するかの様にして、獣の白い毛が生えた背中へと集まる。それと同時に目を覆う程の稲光が生じた。
「アオォォォォーーン!」
獣の物と思われる咆哮と雷鳴が轟く。目を開くと、そこには雷をその身に宿した獣の姿があった。その目は蒼白く発光しており、妖かしの類を彷彿とさせる。だが、荒々しく逆立った毛並みと背中からしきりに溢れる雷は妖しさを通り越して、神々しささえも感じさせる。竜も負けじと翡翠の電を纏い直す。
一触即発の睨み合いの中、先手を仕掛けたのは竜の方だった。竜は目にも留まらぬ速さで飛翔し、あろうことか自身と同程度の体格を誇る筈の獣を空中へ持ち上げてしまった。それから、勢い良く脚を振り上げ、竜は獣を地面へと叩き落とした。獣は立ち上がろうと藻掻くが、尚も竜の攻勢は続く。竜は一気に上空へ昇ったと思うと、直ぐに踵を返して獣へ翼から突っ込んだ。その瞬間、竜の翼の先端から幾筋もの電が迸り、爆ぜる。竜の暴虐は止まらない。弱々しい声を上げる獣を力づくで押さえつけ、首根っこに噛みつこうとする。正に傍若無人を体現した様な、破天荒ながら見事な戦いぶりだ。
勝負ありと思われたその瞬間、獣は長い尻尾を使った一撃を竜にお見舞いし、怯ませた。その隙に乗じて獣は拘束を脱し、竜の顔面に雷の力を纏わせた拳を一撃かました。竜は勢いを殺しきれずその場で転倒し、じたばたと藻掻いている。獣はその右腕に力を集中させている。腕には蒼い光が次々に集まっている。輝きが最高潮に達した所で、獣は胴体を大きく持ち上げ竜の頭に光り輝く拳を叩き付けた。某はあまりの輝きに反射的に目を閉じてしまった。景色は見えども、こちらにまで飛んで来た土埃からその破壊力の凄まじさを実感させられてしまった。
目を開けると、獣は竜に対して馬乗りになり、尚も拳を叩き付けようと腕を振り上げる。しかし、竜も負けじと獣に掴みかかり、両者地面を二、三度転がった後、某が控える茂みの真前まで迫った。それでも、両者は構わず取っ組み合いを続ける。押しに押されぬ攻防は某の目の前で繰り返される。終いには両者とも雄叫びを上げ、獣は蒼き雷を竜は翡翠の雷をこれまでとは段違いの威力で爆発させた。某は避けようとするも、間に合わず雷にこの身を焼かれてしまった。
あれからどれ程の時間が過ぎて行ったのかなど分からない。獣たちの消息も不明だ。気付けば某は黒焦げになった身体を引き摺り、砂浜へと戻っていた。もはや某の身体にはそれ以上の事を為す力など残されておらず、微睡みの中に吸い寄せられる事しか出来なかったのだ。だが、不思議と某の胸中は満たされていた。武人としての最期は失態による惨めなものであったが、そのお陰であの様な幻獣が織りなす一世一代の戦に立ち会えたのだ。決して武士として褒められた最期でないのは重々承知だが、某個人としてはこれ以上ない程に満足な生涯であったと言える。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー―
side 裕太
草食島の拠点の整備は荒方終了した。最近では秀夫たちの頑張りによって鉄の精錬も順調に進んでおり、また以前の様に鉄製のツールを気兼ねなく使用できる程に生活を立て直す事が出来た。それもあって、今は本島の方に足りない作物を栽培する追加の畑兼陸棲生物の係留所となる拠点の作製を行っている所だ。これが完了すれば本格的に大型モンスターのテイムを行える様になり、洞窟攻略への大きな一歩となる。現在は、用地の確保は済んでおり、建設予定の場所にはスパイクウォールを用いた囲いと、数株ではあるが育成中のプラントXが設置してある。
今日は俺とオリバーの二人で建材用の木材集めを、秀夫と隆翔には建材の製作と動物小屋の建設を任せていた。そんな昼下がり、俺たちは食事を終えてひと休憩挟んでいる所だった。
しかし変化が訪れるのは突然で、緩み切った空気は一瞬にして緊迫した物に変わった。空からは大量のニクイドリの鳴き声が木霊し、森の中へと向かって大群が飛翔している。ニクイドリの軌跡を見るに、彼らの向かう先、すなわち大型モンスターが出現した地点は、ここからはまだ比較的離れていると思われる。
「念の為に一旦草食島に戻るニャ。作業は中断ニャ。」
ただならぬ雰囲気を感じ取ったのか、オリバーが撤退を促す。その直後、落雷と思しき轟音が森の方角から轟いた。それと同時に周囲の茂みから雷光虫が数十匹単位で姿を現し、森の中へと飛び去って行った。その光景に俺は嫌な記憶がフラッシュバックするのを感じる。今のこの出来事はジンオウガが出現した時の状況と似ているのだ。
「重要な物だけいかだに積んでさっさとづらかろう。」
俺はいかだを発進させる準備を始めた。森からはケルビやガーグァなどの草食動物が次々に、逃げ惑う様にして姿を現している。悠長にしている時間は無さそうだ。
「裕君、大変だ!酷い怪我をした人が森の中から出て来て!とりあえず寝袋の上に寝かせてるけど、一刻を争いそうなんだ。」
秀夫が慌てた様子で俺の元に駆け寄って来た。俺も急いでその人物の元へ向かう。
件の人物は見事な髷を結った筋骨隆々とした壮年の男性だった。彼はまだ呼吸は辛うじてあるものの、全身に酷い火傷が見られ、所々皮膚が黒焦げになっている箇所も見受けられる。恐らく、ジンオウガの攻撃に運悪く当たってしまったのだろう。
「二人ともどいてくれ。ミツムシを確保出来たぞ。」
隆翔が大回復ミツムシを伴って戻って来た。どうやら、ミツムシ寄せのお香を使ったようだ。現状使えるお香の数は限られているが、瀕死の人を目の前にしてはそんな事を気にしてはいられない。救命が先決だ。周囲の状況は気になるが、傷が癒えてない状態で徒に怪我人を動かす訳にはいかない。多少のリスクはあるが、ここはミツムシの効果が現れるまでの間、待つのが賢明だろう。
治療を待つ間、スパイクウォールの外ではオリバーがジャグラスの群れと交戦したそうだ。逃げる草食動物を追って森から出て来た小規模な群れだったそうで、対処には手間取らかったのが幸いだ。怪我をした侍風の男は意識こそ取り戻してはいないものの、火傷の痕は大分消えており呼吸も安定してきた。俺たちは彼を丁寧に抱えていかだに乗せると、急いで草食島に向けて出港したのだった。
今回新たに登場したモンスターは電竜・ライゼクスです。MHXのメインモンスターの一体で、雷属性を使う飛竜種です。原作ではリオレウスのライバル的ポジションとして描かれており、生態設定や武器名など随所でリオレウスとの対比が意識されています。また、MHXのオープニングムービーでの飛竜同士の激しいドッグファイトは一見の価値ありです。最近ではST2やサンブレイクにも登場しており、記憶に新しい方も多いと思います。