モンスターだらけのARKを生き延びろ   作:あるこばれの

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Version17.4:昏睡テイム

 「ここは?」

 

 

 侍風の男を救助してから丸一日、俺たちは交代で彼の容態を見守っていたが、ようやく目を覚ましてくれた。発見した時はどうなる事かと思ったが、傷もすっかり癒えて一命を取り留められたようで何よりだ。

 

 

 「ああ、お目覚めですか?酷い怪我をしていたので、まだ安静にしていてください。」

 

 

 ふらつきながら起き上がろうとする男に声を掛ける。食事を用意する旨を伝え、俺は食糧庫に向かった。いきなり固形物を食べさせるのは酷な話だろう。ここは治癒を促す活力剤と水、あとはベリーを擂り潰してを持って行こう。

 

 

 「食べやすいように擦ったベリーと、この黄色いのは滋養強壮に効く薬です。よろしければ召し上がってください。」

 

 

 「命を救って頂いたばかりか、食事まで。かたじけない。」

 

 

 男の食べっぷりは非常に良かった。少なくとも丸一日以上何も口にしていないのだ、当然だろう。見た所、男の手足は問題なく動いており、怪我による後遺症の心配は無さそうだ。改めて回復ミツムシの効能の凄まじさを思い知らされた。男が食べ終わるタイミングを見計らって声を掛ける。

 

 

 「足りないようでしたら、追加で持って来ましょうか?丸一日以上眠られていたので、栄養も不足している事でしょう。」

 

 

 「しかし、これ以上の厄介になる訳にはゆきませぬ。」

 

 

 男がそう発言した瞬間、部屋の中に腹の虫の鳴き声が響き渡った。男は気不味そうな表情で目を反らしている。幸い、今の俺たちは食料に困窮していない。備蓄も十分にある。俺は気にしないよう言い聞かせ、秀夫に声を掛けてしっかりした物を持って来るように伝えた。まだお互いにぎこちない空気が漂っているし、秀夫を待つ間アイスブレイクも兼ねて話を聞いてみるのもアリだろう。

 

 

 「食事の代わりと言っては灘ですが、そちらの情報を教えては下さりませんか?他の方がどういった経緯でこの島に流れ着いたのか等も含めて我々も知りたいんですよ。」

 

 

 「一宿一飯の恩義がある故、その程度の事であれば幾らでも協力致そう。まず、某の名は少弐新之丞(しょうに しんのじょう)にござる。」

 

 

 彼の名を聞いた瞬間、俺は文字通り目が丸くなると同時に、素っ頓狂な声を吹き出してしまった。彼の名には聞き覚えがある。というか、多分俺が世界で一番詳しかったと言っても過言では無い。なにせ、俺の大学での研究テーマだった人物と全く同じ名前だったからだ。

 

 

 「あ、あのちなみにご出身と、せ、生年月日を伺っても。」

 

 

 驚きのあまり呂律が回らない舌でどうにか言葉を紡ぐ。

 

 

 「出身は豊後の国でござる。生まれた日は天文の二十一年の睦月の壬午にございます。(1552年1月24日)」

 

 

 見事にビンゴだった。出生地、生年月日ともに俺が研究していた”少弐新之丞”と完全に一致している。俺はあまりの出来事に硬直してしまった。過去に拾った先人たちの記録からこの島には様々な時代、地域にルーツを持った人々が生活していたのは理解している。21世紀出身のウォーカー博士や古代ローマ出身のネルヴァ氏などが良い例だ。だが、流石に自分の研究対象である人物とピンポイントで遭遇するなど誰が予想出来ようか。余りにも恐れ多すぎる。

 

 

 俺が固まって使い物にならなくなっている間に秀夫が駆けつけ、俺の代わりに新之丞さんから色々と話を聞いてくれていた。曰く、彼はこの島に生まれ落ちたのは二回目であるそうで、なんと一度目はこの島にモンスターが現れる前、しかもウォーカー博士たちと同時期に活動していたという。新之丞さんはネルヴァ氏の率いる”ニューレギオン”の敵対勢力である”ハウリングウルフ”の兵士として活躍していたそうだ。

 

 

 

 そんな彼が亡くなったのは、以前拾ったネルヴァ氏の記録の直後だったという。記録ではニューレギオン及びウォーカー博士がドラゴンを討伐した事が記されていたが、その後に彼らは島で最も高い火山、すなわちTEK洞窟へ赴いたという事を新之丞さんは語っていた。どうやらその際に、ニューレギオンは保有する全兵力を投入しており、拠点の防備が手薄だったらしい。その隙に乗じて新之丞さんらハウリングウルフは侵攻を行ったようだ。ニューレギオンというか、ネルヴァ氏はかなり強権的な人物であったようで、島全土を自らの物にしようと、あらゆる部族に戦争を仕掛け滅ぼしていたそうだ。また、ウォーカー博士は当時の島の中でも指折りの知識人として有名であり、それを聞き付けたネルヴァ氏が無理やり捕縛していたという話も聞けた。ただ、新之丞さんが知る範囲ではTEK洞窟に進入した者の顛末は知る事が出来なかった。彼らは無事に島を脱出したのか、それとも。

 

 

 

 それから、秀夫はインプラントに保存されていたヨンキ氏の記録を見せた。新之丞さんは、恐竜たちとハウリングウルフを一瞬にして絶滅させたドラゴンの存在にショックを受けていたが、同時に幾らか納得している様子でもあった。記録に残った”ハウリングウルフ”の本拠地と旗印は彼がトライブにいた時と大きく変わっていたそうだ。どうやら、ヨンキ氏が活動したのはウォーカー博士よりも時系列的に後である事が判明した。

 

 

 

 彼が再び島で目覚めた後、モンスターの事を一切知らない状況で雷を操る飛竜、オリバーによると「ライゼクス」と呼ばれるモンスターと、ジンオウガに同時に遭遇してしまったらしい。その際の被弾が原因で、あのような凄惨な状態にさせられたという。ただ、そんな絶望的な状況でも一命を繋ぎ止めたのだから、新之丞さんの力は相当なものと言える。俺であれば、間違いなくライゼクスと遭遇した時点で死んでいる。

 

 

 

 「ありがとうございます。最後に、島の洞窟について何か知っている事はありませんか?場所は何処で、中には何があったのかとか。どんな些細な事でも構いません。僕たちはこの島から脱出を目標にしています。そのためには洞窟にあるアーティファクトが必要なんです。」

 

 

 

 秀夫が尋ねたのは俺たちが今一番知りたい情報の一つだった。過去の島を知る人物であれば、何かしら有力な情報を持っていると踏んだのだ。

 

 

 「其方らが求める”ああてぃふぁくと”とやらが眠る洞窟は九つか十程ありまする。某らが拠り所としていた北方の雪原には二つございました。その他の場所については某らも赴いた事が無いので分かりかねます。ただ、一つ申せるのは洞窟へ赴くのはあまりお勧め出来ませぬ。先程話題に出た”へれな”という女子の要請もあって、某らも洞窟に潜ってはおりましたが、あそこは筆舌に尽くしがたい程過酷な場所でござるよ。中の生き物は厄介な物が多いのもそうでありますが、不思議な事に洞穴の生き物共は種を超えて団結して人に襲い掛かって来るのです。それに、別の部族の話ではありますが、”ああてぃふぁくと”を使用したところ、恐ろしい大蜘蛛との戦闘を余儀なくされ、壊滅寸前にまで追い込まれた者たちさえおります。」

 

 

 

 やはりと言うべきか、この島の洞窟も例外なく危険が付き纏うらしい。決して、探検して終わりという訳ではないのが、この島らしい。

 

 

 

 「失礼を承知で申しますが、見たところ此処には戦闘に耐えうる獣はいない様であります。その様な状況で洞窟や守護者に挑むのは些か無謀かと思われます。」

 

 

 

 生活の立て直しこそ進んでいるが、戦力の拡充までには至っていない。そのため、今の俺たちの状態を見ればそう思われても仕方の無い事だろう。

 

 

 「ああ、実は。」

 

 

 俺は島に漂流してから今に至るまでの事跡や今後の目的を話した。新之丞さんは変わり果てた島の様子に大層驚いていた。特に、過去に存在した部族の全てが消滅していた事と、現状俺たち以外の人間の集団が見当たらない事に対してショックを受けた様だ。

 

 

 

 加えて、これまで出会ったモンスターについてやバゼルギウスに壊滅させられる前には、アオアシラのヨルンやゲリョスのゲンキを始めとしてある程度の戦力を抱えていた事も伝えた。

 

 

 「しかし、それ程の怪物を飼い慣らすのにはさぞ苦労なされた事でしょう。碌に弓矢も通じぬ相手を寝かすのは並大抵の事ではないですからのう。」

 

 

 新之丞さんの発言の一部にどこか違和感を感じた。お互いのテイムに関する認識にズレが有るように思える。かつての恐竜たちのテイム方法とモンスターのそれとの間に何か違いでもあるのだろうか?

 

 

 「彼らは眠らせた訳ではなく、好物を与えて手懐けました。ちなみに、お聞きしたいのですが、眠らせてというのは?」

 

 

 「うむ。某らは主に麻酔と呼ばれる毒を塗った矢を用いて動物を眠らせた後、餌付けを行っておったのです。勿論、起きた状態で好物を手渡しする種もおりましたが、戦力になる者は大抵寝かすものでした。」

 

 

 これは非常に有益な情報である可能性が高い。これまでテイム方法の分からないモンスターが多かったが、彼の言う通りなのであれば、その中の幾種かは昏睡させてからの餌付けという工程を踏むのかも知れない。上手く行けば以前よりも多くの戦力を得るのだって夢じゃなさそうだ。

 

 

 「そのテイム方法があるのは知りませんでした。他にも様々な有益な情報を下さりありがとうございます。今日はもう遅いですし、体調も回復しきっていない事でしょうし、お休み下さい。今後の事については、また明日お話しましょう。」

 

 

 「こちらこそ、何から何まで世話を掛けてしまい忝ない。この御恩は必ずや返してみせましょう。奥方殿にも世話になった。感謝致す。」

 

 

 新之丞さんの言葉に秀夫は複雑な表情を浮かべた。秀夫はその容姿の所為で昔からよく女性に間違われていたが、本人にとってはそれがコンプレックスでもあるのだ。とはいえ、新之丞さんに悪意があった訳ではない。俺は新之丞さんに事情を説明すると、彼は申し訳無さそうに謝罪していた。秀夫にも後でフォローを入れておこう。

 

 

 それにしても今日は人生の中で最も長い一日と言っても過言では無い気がする。まさか、文字通りの歴史上の人物と邂逅するなどとは考えてもいなかった。案外、無人島に漂流するのも悪くないのかも知れない。今なら島での生活を楽しく思える秀夫や隆翔の気持ちが理解出来る。明日も長い一日になりそうだ。

 

 

 

 翌日、完全に回復した新之丞さんと隆翔やオリバーの顔合わせを行った。現状、新之丞さんに行く当ては無いそうなので、ここに残って貰う事になった。彼曰く、所属していたトライブが無くなった以上、島に残り続ける理由も無いため、久々に故郷を目指すのも悪くないとのことだ。島に来る前の一度目の死が海を渡った先の異国だった彼にとっては、故郷というのは特別な思い入れがあるそうだ。俺たちとしても戦闘の心得がある人が加入するのは大きなメリットがあるし、もっと言えば人手が増えるだけでも有り難い。それに、俺個人としても彼には沢山聞きたい事がある。追々で良いから親交を深めていきたいものだ。

 

 

 

 オリバーと出会った新之丞さんは、その姿を見て一度、声を聞いて二度驚いていた。かつてのこの島にも、人語を操る獣人や亜人的な類の人物は存在していなかったらしい。尚の事オリバーのルーツが気になってしまうが、本人があまり話したがらない以上詮索し過ぎるのも良くないだろう。

 

 

 それから、俺たちは新之丞さんにここでの生活について説明すると共に、今後の見通しについて話し合った。主な議題は、戦力増強の要になる可能性を秘めた、昏睡テイムに関してだった。

 

 

 「一番の問題は、硬いモンスターにどうやって麻酔を行き渡らせるかだな。」

 

 

 隆翔が唸っている。正直、これが昏睡テイムを試す上で最も大きな障壁だと思われる。新之丞さんの話だと、かつての恐竜たちは弓矢や弾丸への耐性が高く、種類によっては数十発撃ち込まれても命に別状が無い程だったという。その性質を利用して麻酔矢や麻酔弾を大量に浴びせる事で深い昏睡状態に陥れていたのだ。だが、モンスターの外殻は硬く、現在俺たちが準備可能なレベルの装備ではまず貫く事は不可能だ。更に、ネムリガスガエルのガスを持ってしても話に聞く程の深い昏睡状態にはならない。

 

 

 「石の矢で無理なら、鉄の矢を使えば何とかならないかな?」

 

 

 俺は提案した。

 

 

 「やれない事は無いと思う。ただ、」

 

 

 やや歯切れの悪い様子で秀夫が答え、続ける。

 

 

 「対モンスターに使うなら、矢尻だけじゃなくて矢柄も鉄で作らないと耐久性が確保出来ないと思う。それに鋳造品だと脆いから、打って鍛えた物じゃないと大型モンスター相手には通用しない。でも、現状の設備だと手作業で鍛造しなきゃいけないから、まとまった量を用意するは難しいかな。勿論、鉄矢は作るけど、同時にもっと効率的に麻酔を回す手段も考えた方が良いと思う。」

 

 

 確かに、秀夫の言う通り手作業で用意できる矢の数は高が知れている。モンスター1匹に対して数十発、それを最低数匹分用意するというのは、時間的にも厳しいだろう。大型モンスターから自衛するための戦力を求めているのに、その準備に時間を掛けるあまり壊滅するというのも本末転倒な話だ。

 

 

 「この件俺に預けてもらえないか?アイデアがあるんだ。すまんが、一週間程時間が欲しい。」

 

 

 話が煮詰まった中で、隆翔が挙手した。こういった分野は隆翔が得意だから、変に素人が考えるよりも任せるのが吉だろう。

 

 

 「良いんじゃないかニャ。ボクも何かあれば手伝うニャ。」

 

 

 取り敢えず、この場は纏まった。テイムに関して新たなアプローチを得られたのは大きな収穫だった。必要な道具類の準備は隆翔と秀夫に一任する。残った俺たちは先立つ物、資材や作物の確保を行おう。バゼルギウスに襲われて以来、久々に進展を得られた気がする。 この良い流れを維持して進み続けられる事を祈るばかりだ。

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