モンスターだらけのARKを生き延びろ   作:あるこばれの

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 執筆が遅れに遅れた結果、タイムリーな回になってしまいました(笑)。これからしばらくこんな感じの頻度になるのでご容赦ください。

 先生やコンガをはじめ、XX以前の世界に幽閉されていたモンスターたちが復活するのは良いですね。新しいモンスターとの絡みも気になる所です。


Version17.6:イャンクックを捕まえろ!

「おい、オリバー大丈夫か?さっきから上の空だ。どこか悪いのか?」

 

 

 茂みに身を潜めながら俺たちは目の前の脅威をやり過ごそうとしていた。俺とオリバーは今朝不死虫の採取のため、森の中に入ったのだが、そこで運悪くイャンクックと出くわしてしまったのだ。鉄の鎧を着ているとは言え、戦力的に万全でない状態で正面衝突するべきではない。そのため、今はこうして二人茂みに隠れているという訳だ。なのだが、オリバーの様子がおかしい。イャンクックの姿を見てから冷や汗を掻いており、ずっと心此処にあらずといった感じなのだ。おまけにいつもはピンと上を向いている耳も今は萎れたかの様に畳まれている。

 

 

 幸いな事に、イャンクックはシャベル状の顎を使って地面を堀り起こす事に夢中になっている。何をしているのかと思えば、地中に潜ったクンチュウを啄んで、少し上にヒョイと投げ上げながら丸呑みにしてしまった。イャンクックの首は食後間も無いヘビのお腹の様に、上から順々にヌルりと丸型に広がってクンチュウはそのまま腹の中へと落ちて行った。奴はそのまま食事を続ける様で、更に辺りを掘り返している。こちらに気付きそうな雰囲気は感じられない。

 

 

 オリバーの調子も優れない様だし、この機会に乗じて逃げてしまおう。オリバーを拠点に届けてから、もう一度ドスイーオスを連れてここに来よう。現時点では貴重な大型の飛行生物だ。あわよくばテイムを試みるのも吝かではない。オリバーの事は心配だが、こういったチャンスも都合良く訪れる物ではないため、指を咥えて見逃したくもないのだ。

 

 

 俺はオリバーを抱きかかえて、しゃがみ歩きで音を立てないようにしながらその場を後にした。

 

 「みんな、済まない。オリバーの体調が悪いみたいなんだ。特にモンスターの攻撃を受けた訳じゃないけど、誰か見ててやってくれないか?」

 

 草食島の対岸に設置した拠点、というか倉庫兼畑に近い扱いの場所に戻ると、俺は開口一番でオリバーの後を託す。幸運にも、農作業のため全員ここに居るようだ。俺はそのままの脚でイャンクックの追跡を行う為の準備を始めた。ケストドンの"ドラコ"にテイム道具一式を詰め込み跨がる。隆翔はドスイーオスの"ヴェレーノ"に騎乗した。二人の肩にはそれぞれ、シビレガスガエルとエンエンクが乗せられている。

 

 「裕君、どこ行くの?」

 

 「秀夫、さっきイャンクックを見つけてな。オリバーが調子悪いから一旦引き揚げて来たけど、遠くに行かない内にテイム出来ないかと思ってな。お前はオリバーの事を見ててやってくれないか?場所が分かるのは俺だけなんだ。」

 

 

 秀夫は俺の要請に応じて、オリバーをベッドまで運んだ。

 

 

 「なら俺もお供しよう。一人では危ない。今、新之丞さんは草食島の畑を見ているが、来て貰うか?」

 

 

 「いや、急ぎだからこのまま行こう。人数が少ないから慎重に行動する。」

 

 

 こうして、俺と隆翔の二人は導蟲を伴って先程イャンクックを発見した場所まで急ぐ。道すがら入手したイャンクックの鱗と思われるピンク色の欠片を導蟲にマーキングさせる。これで、仮に先程の場所から移動していてもある程度は追跡が可能になるだろう。俺たちは手綱を引き、海岸から森へと一気に疾走したのだった。

 

 

side オリバー

 イャンクックの姿を見てから、ずっと動悸が収まらない。地面を抉るあの動作が、どうしてもあの憎き黒い鳥と重なってしまう。住処の外で放心するなど本来ならば絶対に在ってはならない事。今回はユータさんが一緒にいたから事無きを得られたけど、何時でもそう都合良く物事が運ぶとは限らない。彼には申し訳無い事をしてしまった。イャンクックが苦手なのはボクの勝手なのニャ。

 

 

 「オリバー君、水持って来たよ。咽ない様にゆっくり飲んでね。あと、何か食べたい物とかある?取って来るよ。」

 

 

 ベッドに横たわるボクにヒデオさんが声を掛けて来る。

 

 

 「ご飯はいいニャ。それよりも少し話を聞いて欲しいニャ。」

 

 

 気が付けば、ボクはそんな事を口走っていた。慌てて取り消そうとするも、その前にヒデオさんはボクの隣に腰掛ける。その様子にボクは観念して話し始めた。今まで話して来なかった、話そうとも思わなかった、ボクがこの島に来てからの事を。

 

 

 『

 ボクが島に来た頃は、まだ沢山の同じ獣人族が日々暮らしていた。島で生まれたという人が殆ど、と言うか気付いたら島の海岸で目覚めていたなんて出自のアイルーはボクしかいなかった。左手に「インプラント」が着いていたのもボク一人だけだった。

 

 

 そんなおかしな身の上のボクでも、集落のアイルーたちは恐がる事無く認めてくれた。生活の中で他の人との違いを感じた事は無かった。それ程、当時の生活は充実していたのだ。釣りをして、採取をして、たまにモンスターの巣を間違えて突いてしまった時なんかはもう悲惨だった。みんなしてティガレックスから逃げ回った時は生きた心地がしなかった。でも、そんな日々はボクを強くしてくれたニャ。こんなボクを受け入れてくれたみんなを、ぽかぽかした楽しい時間を守りたい。その一心で戦闘技術を磨いた。ボクの戦い方は率直に言えば、危険そのもの。本来なら身体の小さなアイルーがモンスターの背中に乗ったり、懐に潜り込んだりするという戦法を取るのは自殺行為でしか無い。リオレウスにもナルガクルガにもジンオウガにも出会った。それでもボクは戦って生き抜いて来た。そうやって死線を潜り抜けて、気が付けばボクは集落の中でも一番強くなっていた。みんなに必要とされて、ここが永遠に自分の居場所だと信じていたのに。

 

 

 でも、闘う力を得てしまったのが仇になるとは思いもしていなかった。

 

 

 生き物は普通、闘いを好む者ではない。無駄な戦闘は徒に自身の身体を消耗させ、生存の確率を著しく下げるものだ。もし、それでも闘争が発生するのならば、それは糧を得るため、己の縄張りを護るため、理由はいずれにせよ最終的には生きるための一言に帰結する。それが普通の筈なのだ。

 

 

 でも、例外は存在した。"イャンガルルガ"、それがたった数分でボクたちの集落を壊滅させた、ボクの仲間を皆殺しにしたモンスターの名前だ。

 

 

 あれと同じ位の強さのモンスターは、実の所島の中に多く存在する。ただ、そういった手合でも、近付かず、触れず、刺激せずを徹底すればアイルーと敵対する事は無かった。むしろ、ボクたちはその様な大型モンスターを避けるために、メルノスなどの僅かなペットと共に集落の場所を定期的に移動させながら島中を転々としていた。だからこそ、集落全体でモンスターと衝突することは無く、仮に何かの間違いが有ってもボクたち戦闘員が小競り合いをするだけで済んでいた。

 

 

 イャンガルルガは生物としては珍しく、というか異常とも思える程に戦闘を、特に強者との争いを好むのだ。それは最早執着とも取れる程に。

 

 

 ボクの闘いが奴の目に触れてしまった事。それが何よりの失敗だった。あの日のボクは移動を終えたばかりの集落近くに現れたイャンクックの狩りに出ていた。普段であれば自らこちらに近付いて来る事は少ないのだが、珍しくその日のイャンクックは気が立っており、暴れていた。それに加えて、身体の所々に生々しい新しい傷も浮かんでいた。思えば、この時にイャンクックの異変に気付き、集落を再び移動させていれば今もななお、嗚呼これ以上はダメニャ。

 

 

 無事にイャンクックを倒して、集落に戻った後の事だった。辺り一帯に唸った轟音が鳴り響いたと思えば、リオレイアよりも遥かに威力の高い火球が、クロスボウの弓矢なんて目じゃない速さで何発も降り注いだ。明らかにボクを狙った攻撃ではあったが、その範囲は想像を絶する程に広範過ぎた。見る見る内に集落のみんなは火達磨になり、けたたましい音量の呻き声が周囲を支配した。

 

 

 悔しい事に、イャンガルルガは戦闘において隙を作るのがどれ程愚かな事かを理解している。火炎ブレスが撃ち出された直後、一瞬の間も置かずにサマーソルトから、頭部の叩き付けを繰り出して来た。ボクは幸い回避する事に成功したが、流れ弾は未だ生き残っていた仲間たちを着実に減らしていったのだった。

 

 

 それから、ボクは無我夢中で抵抗した。そして、イャンガルルガの片耳を抉り、更に片目を潰す事に成功した。しかしながら、ボクの命運はそれまでだった。小さなアイルー1人の体力など、イャンガルルガの前では無力でしか無かった。体勢を立て直そうと地中に退避した瞬間を、嗅ぎつけられてしまいボクの命は啄みで刈り取られた。

 

 

 ボクの命脈は集落と共に完全に終わったと思い込んでいた。でもそれは違った。この時、ボクは初めてみんなとの違いを明確に意識させられたのだ。ボクだけが立っていた。無惨にも焼き尽くされた集落の残骸と、そして仲間全員の亡骸の上で生き返ってしまった。

 

 

 その時から、ボクはイャンガルルガや、それによく似たイャンクックを受け付けなくなった。一目見るだけで、あの惨状が目に浮かんで、震えが止まらなくなるのだ。

 

 

 それからは、もう日付けの感覚も、方向感覚も無くなっていた。どれだけの期間、島を彷徨ったのかも覚えていない。その間に何回かモンスターに殺された記憶もあるけど、最早そんな事などどうだって良かった。帰るべき集落も、護るべき仲間も誰もいない。それ以上、無駄に生存し続ける理由も見つからなかった。

 

 

 そんな時だった。リオレイアに襲われている一団を発見したのは。アイルーの倍以上はある体格の見たことが無い種族。最初こそ警戒しながら様子を伺っていたが、何故か知らない言語を操る筈の三人の言葉が理解出来た。今でこそ左腕のインプラントの不思議な力による物だと知っているが、その時はそんな事など露知らず。運命的な何かを感じて、気が付けば助けに入っていた。

 

 

 結果から言えば、その時動いたのは正解だった。ユータさんを初めとしたみんなはボクに害意を持ってはいなかった。それどころか、お互いの利害は一致していた。みんなはボクと同じインプラントを持っていて、生き返る事を経験していた。だから、ボクはまた前に進む決心が出来たのかも知れない。

 

 

 みんなとの生活は楽しかった。島の中しか知らなかったボクにとって、外の世界の話は衝撃の連続だった。美味しそうな食べ物や、オベリスク程ではないけど巨大な建物に埋め尽くされた街並み、アプトノスの荷車の何倍もの速さで動ける鉄で出来た車など、想像も出来ない様な話の数々に胸の高鳴りが止まらなかった。そうして、いつしかボクは島の外に行きたいと思うようになっていた。みんなが言う難しい事はよく分からないけど、晴れて島から出られたら、その見た事無いは美味しい魚の料理が食べたいな。

 

 

 ボクの話をヒデオさんは何も言わずに聞いてくれた。

 

 

 「辛いこと思い出させてしまってごめんね。」

 

 

 ヒデオさんはボクを膝の上に置いて、背中を撫でてくる。

 

 

 「ペット扱いしないで欲しいニャ。」

 

 

 「あ、ごめんね。オリバー君は家で飼ってた猫に毛並みとか目元とかがそっくりだから、つい。」

 

 

 それからしばらくの間沈黙が続いた後、ヒデオさんが重々しく口を開いた。 

 

 

 「もしも、裕君たちがイャンクックをテイムして帰ってきたらどうする?二人には悪いけど、きっと事情を話せば逃したり、オリバー君の目に入らない様にしてくれたりすると思うけど。」

 

 

 ヒデオさんの気遣いはとても嬉しい。でも、オベリスクを起動する為には、イャンガルルガと闘う必要があるかも知れない。そうじゃなくても、万が一鉢合わせてしまえば戦闘は避けられない。その時にみんなに迷惑を掛けたくは無い。だから、

 

 

 「そ、それは大丈夫ニャ。何時までも怖がってばかりじゃいられないニャ。だから、少しだけ頑張ってみるニャ。」

 

 

 「そっか。なら、僕も一緒に頑張らせてよ!頼りないかもだけど、ちょっとぐらいなら力になれると思うから。」

 

 

 少しだけ心の荷が軽くなった気がする。根拠は無いけど、今なら怖いイャンクックが来ても、きっと何とか出来る気がする。

 

 

side裕太

 「見ろ、裕太。土が掘り返された跡があるぞ。」

 

 

 下を向くと、確かにシャベルで掘り返された様な跡が森の地面に複数存在し、ひっくり返ってのたうち回るクンチュウの姿も確認出来た。土はまだ湿っており、地表に打ち揚げられたミミズもまだ生きている。ともすれば、先程のイャンクックはまだこの近くにいる可能性が高いという事だ。俺は急いで地面の痕跡に導蟲を向かわせる。すると、導蟲は森の更に深い場所へと飛び去って行った。俺たちは手綱を引き、歩みを進めるのだった。

 

 

 「接敵したら、まずは安全な海岸方面に誘導しよう。成功した暁には、俺が降りてからこの盾を使って囮になる。その間に裕太はヴェレーノに指示を出して、削ってくれ。必要ならドラコの荷物にある俺のパチンコを使うんだ。」

 

 

 隆翔は自身の右手に持った金属製の大盾を掲げながら言った。言うまでもなく、危険な役回りだ。

 

 

 「分かった。俺もなるべくお前に危険が及ばない様にハジケクルミなんかで援護するよ。あと、ヴェレーノの流れ弾に当たらない様に気を付けてくれ。」

 

 

 お互いに段取りを確認している間に、とうとうイャンクックの元へ到着した。俺はヴェレーノとドラコ双方に聞こえるよう、大きな音量で無抵抗の口笛を吹いた。誘導中に不意の反撃を行わせないようにして、流れを崩させないためだ。

 

 

 俺はイャンクックに向けて石を投擲する。それと同時に、隆翔は手を叩きエンエンクのガスを浴びせる。イャンクックは好戦的な気質では無いようで、ガスを浴びただけでは中々、こちらへ迫る素振りが見えない。そこで、俺たちは身に着けた金属鎧をドラミングの要領で叩く事で大きな音を立てて、挑発を行った。

 

 

 それを数十秒も続けていると、流石に温厚な生物と言えども堪忍袋の緒は持たないらしく、耳を扇子の様な形に大きく広げ、飛び上がると隆翔とヴェレーノの背後に回り込んだ。その瞬間に隆翔はヴェレーノの手綱を持ち上げ、ジャンプをさせる。ドスイーオスの跳躍力は目を見張る物があり、見事イャンクックを跳び越え、海岸への退路へ就く事に成功した。

 

 

 「裕太、奴は今完全に俺とヴェレーノに釘付けになっている。先に海岸へ向かうから、お前たちは後ろから追い掛けてくれ。」

 

 

 荷物を抱えたドラコの足力では、全力のヴェレーノの速度にはどうやっても追いつけない。俺は一心不乱に移動の笛を吹きながら、森の出口へと突き進む集団に追走する。両者が地面の草葉を踏み締める音の迫力に圧倒されそうになるが、それを振り払う様にドラコへ移動の笛を吹き続ける。

 

 

 

 そうして森の出口に差し掛かると、俺は直ぐに隆翔とイャンクックの位置関係を確認した。隆翔は未だにヴェレーノに跨り、奴と十メートル程離れた場所で、睨み合いの膠着状態を演じている。ドラコの耳元に口をやり、彼にだけ聞こえる音量で無抵抗の指示を与える。ドラコには、戦闘に巻き込まれないよう、森と海岸の境目にある茂みに身を隠して貰うのだ。ちなみに、複数のペットが同時に一つの命令を聞くのは、時として都合が悪い。一度、うっかり拠点内で大音量の追従笛を吹いてしまった結果、大小構わず全てのペットがこちらに集まってしまい、てんやわんやな事態に陥ってしまった事がある。今回に関して言うと、ヴェレーノが今無抵抗になってしまうとイャンクックの攻撃に対処出来なくなってしまう。

 

 

 それから、俺は必要な物を荷車から取り出すと、ヴェレーノの元へ駆けた。それを確認するなり、隆翔は騎乗解除し、果敢にもイャンクックの頭部へと走る。そして、そのまま脳天にシールドバッシュをお見舞いした。鈍く重い音が木霊するのだった。

 

 

 隆翔の攻撃を受けたイャンクックは、白い吐息を漏らしながら怒りを昂らせている。その形相に俺は恐ろしくなったが、これは絶好のチャンスでもある。そうして奴の視界が狭まっている隙を利用して、俺はヴェレーノと共に背後に回り込んだ。

 

 

 奴は素早い啄み攻撃を連続で繰り出している。隆翔は腰を入れた体勢を保持しながらそれを防ぎ続けているが、その右腕は垂れ下がり、盾は左手に持ち替えられている。これ以上の防戦は不可能だ。俺はすぐさまヴェレーノに毒液を吐くように指示した。高い粘度を持つブレスは放物線を描きながら飛んで行く。毒液を目で追いながら、当たってくれと祈る。幸いにも、最後にはイャンクックの背中から首にかけての位置に着弾した。

 

 

 奴は咄嗟にこちら側へ振り返ると、俺たちの方と、隆翔の方と、視線を交互に往復させる。どうやら、どちらを先に叩くべきか迷いが生じているらしい。今が攻め時だろう。俺はヴェレーノから急いで降り、跳び掛かりを仕掛けるよう笛を奏でる。ドスイーオスの長所は高い瞬発力と跳躍力を活かした機動性だ。だが、それ故に俺は騎乗していると速い動きに対応が出来ず、振り落とされてしまうので、戦闘時は降りるようにしているのだ。

 

 

 そのままの流れで、瞬く間にヴェレーノは奴の背中に鉤爪を突き立て、毒素を含む牙で齧り付いている。イャンクックは地面を転がり、無理矢理にヴェレーノを引き剥がした。だが、先程のブレスと併せてしっかりと毒は回ったようで、口からは紫色の唾液を止め処なく垂れ流している。顔を歪ませながら苦悶を浮かべるその様は見るからに痛々しい様相だが、明らかに奴の動きは出会った時と比べて緩慢だ。俺は奴の足元にグレネードを一発だけ投げ込む。ヴェレーノには中立の命令を吹き、俺は爆煙のどさくさに紛れて隆翔の元へ駆け寄った。

 

 

 

 「大丈夫か?ミツムシの液だ。流し込むぞ。」

 

 

 隆翔の盾はもはや原型を留めない程に変形している。俺はそう言うと、小瓶の栓を乱暴に引き抜く。ここまで耐えてくれた事に感謝を述べながら、中身を隆翔の右腕の篭手の隙間から流し入れた。

 

 

 「ありがとう。大分楽になったよ。」

 

 

 「それなら良かった。復活早々悪いが、こっちが引き付けてる間にトラバサミと捕獲用のグレネードをドラコの中から取って来てくれ。そろそろ良い頃合いだと思うんだ。」

 

 

 「分かった。そっちも気を付けろよ。」

 

 

 隆翔を見送ると、俺は再びイャンクックの方へ向き直った。奴は未だにヴェレーノと交戦している。昏睡させるためにはもう少し削る必要がありそうだ。

 

 

 残念なことに、現状はヴェレーノが劣勢に立たされている。イャンクックの毒は既に完治しており、動きのキレも元に戻っている。イャンクックは飛行能力を生かす事で、完全にヴェレーノの間合いの外に位置取っている。それから、滑空で後方に離脱したかと思うと、一瞬にして仰向き火炎液を三連射した。火力としては、リオレイアが放つそれには及ばないものの、脅威である事には変わり無い。ヴェレーノのはジャンプをして内二発を回避する事に成功したが、着地の隙を狙われる形で最後の一発に被弾してしまった。

 

 

 ドスイーオスの皮膚はなぜだか耐火性に優れており、ヴェレーノにとって大きなダメージにはなっていない。しかしながら安堵感に束の間、気が付けばヴェレーノの身体は大地から引き剥がされ、宙を舞っていた。どうやら、先程のイャンクックのブレスは陽動だったようで、本命はヴェレーノの捕縛だったと思われる。俺は慌ててパチンコを構えるが、狙いを素早く定められない。下手に撃ってしまえば、ヴェレーノも巻き込んでしまう。だが、今俺が動かなければ状況が好転することが無いのもまた事実。

 

 

 俺は意を決して弦から手を離す。ハジケクルミは空中にいる両者にヒットし、衝撃によって制動を失ったイャンクックはたちまち落下したのだった。

 

 

 ヴェレーノは先程の衝撃で地面をのたうち回っている。それは同時に落下した奴も同様だ。イャンクックの体力を削るまたとない好機。ヴェレーノが動けない今、俺がやるしかない。

 

 

 俺は槍を握り締め、イャンクックの翼へと近づく。見た所、ここが最も甲殻による装甲が薄いのだ。これなら俺の力でも槍を通す事が可能と思われる。俺は即座に腰を入れた体勢となり、全力を以て翼の上腕部に槍を突き立てた。その瞬間、血飛沫が舞い、奴から苦悶の表情が浮かび上がる。それと同時に奴は怒りの証左である白く荒い息を吐き出すが、その耳はしわがれ畳まれている。

 

 

 「裕太、こっちだ!」

 

 

 隆翔の呼び声が響き渡る。俺はヴェレーノの無抵抗かつ待機の笛を吹き、一人仕掛けられたトラバサミの元へ疾走したのだった。

 

 

 イャンクックの昏睡は見事、成功した。 俺たちは発見した地点に戻り餌となるクンチュウやミミズを確保した。クンチュウの亡骸を無理矢理に丸めてから、イャンクックの口に突っ込んだが、器用にも丸呑みしてくれた。そんなこんなで、無事にテイムを終え、俺たちは秀夫らが待つ海岸の第二拠点へと帰還したのだった。

 

 

 拠点に帰ると新之丞さんも含めた三人が出迎えてくれた。

 

 

 「ほう、これはまた見事な怪鳥でござるな!あの"けつぁるこあとるす"には少々見劣りするが、戦力としては十分期待が持てそうですな!ともあれ、ご苦労でござる。」

 

 

 後で新之丞さんには、イャンクックの運用について相談しよう。彼は生物を使った戦いには一日の長がある。ヴェレーノとの連携も含めて効率的に動かす方法を考えたい。例え格下のモンスターでも上手く動ければ格上戦える事は、先のアンジャナフを討伐で確認済みだからだ。

 

 

 「お、おかえり、ニャ」

 

 

 オリバーは何時になく、おどおどとした声色でこちらへ向かって来た。それに、秀夫の脚にしがみついてイャンクックから隠れる様な仕草までしている。

 

 

 普段のオリバーからは想像も出来ない、か弱い様子に呆気に取られていると、秀夫に背中を押されたオリバーは覚悟を決めた表情でイャンクックの元へ一歩、また一歩と蝸牛の歩みを見せた。その余りに緊迫した動作は、俺たちを静粛させるに十分だった。オリバーが足を止めるとイャンクックは首の位置を下げ、オリバーと見つめ合う姿勢となった。秀夫はそんな両者を心底心配そうな表情で見守っている。俺もこの場の緊張感に思わず息を飲んでしまった。

 

 

 イャンクックは首を二、三回傾げたと思うと、オリバーに頬ずりをした。予想外の行動にオリバーは完全に面食らってしまっている。すると、イャンクックはその嘴でオリバーを咥え上げた。俺たちは急いで無抵抗の笛を連呼した。だが、どうやら心配はいらなかったようだ。オリバーはイャンクックに投げられ、いつの間にか背中に乗っていたのだ。イャンクックはオリバーに懐いたのか、嬉しそうにそこら中を走り回っている。一先ず、安心しても問題無いだろう。

 

 

 「おーい、オリバー大丈夫か?」

 

 

 「大丈夫、大丈夫ニャ!」

 

 

 オリバーの顔はとても晴れやかだった。

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