モンスターだらけのARKを生き延びろ   作:あるこばれの

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 なんとか今夜のWilds新情報公開までに間に合いました。


Version17.6:レッドウッド

 「済まなかった、オリバー。お前の事情も知らずに先行してしまって。」

 

 

 俺はオリバーの元に跪き、頭を下げる。あれから秀夫を通してオリバーの過去を知った。俺は知らなかったとは言え、トラウマを刺激する様な真似をしてしまったのだ。

 

 

 「あんまり気にしないで欲しいニャ。ボクだって何時までも怖がってるだけじゃ駄目だって思うから。」

 

 

 幸いな事に、テイムしたイャンクックはオリバーによく懐いている。ただ、やはり何かの拍子でオリバーが過去の傷をフラッシュバックさせる可能性もあり得る。日に日に触れ合う時間を増やしていき、徐々に慣れて貰うのが得策だろう。これはかりは時間の力を借りる他無いだろう。

 

 

 イャンクック、命名"クルミ"が来てから生活上の利便性が大きく向上した。現在では、安全な草食島に居を構え、そこに収めきれない物資や畑などは草食島にほど近い本島の海岸に置いてある。そのため、モンスターの襲撃に遭っても即全てを失うとういうリスクは減り、以前よりも安心して住めるようにはなっだ。が、移動や運搬の面で不便が生じるようになってしまった。イャンクックはあのゲリョス程ではないものの、メルノスを大きく離す積載量を持つため、いかだと並んで重要な運送手段として活躍しているのだ。

 

 

 閑話休題、俺たちは漸くバゼルギウスに全滅させられる以前と同等の戦力を取り戻す事が出来た。ついにレッドウッドフォレストへの遠征が現実味を帯びたのだ。目標はその地に住まう犬型の小型モンスターであるガルク。狭い洞窟の攻略を行う上での乗騎として期待している。

 

 

 現在は朝から作戦会議中だ。皆贅沢にも焼いたカツオの柵に齧り付きながら会話を紡いでいる。

 

 

 「しかし、赤杉の林か。いざ赴くとなると身の締まる思いでござるな。」

 

 

 「やはり以前から危険な場所だったんですね。」

 

 

 新之丞さんはどこか遠い目をしながら言う。

 

 

 「某がいた頃は、猛獣共は勿論の事、搦め手に長けた小型の獣が息巻いておった。"みくろらぷとる"に"ぷるろびぃあ"、そして"てぃらこれお"と、己だけの力は大したことの無い者であったが、それ故油断すればたちまち乗騎から引き剥がされたうえに、動きを封じられて獣の餌になってしまうのだ。」

 

 

 かつて生息していた生物の名前を聞いた隆翔はとても驚いていた。どうやら彼らは現代で考えられていた生態と、新之丞さんの知る生態とで大きな乖離があるようだ。特にティラコレオという種はそれが顕著らしい。化石として発見されている種はヒョウとほぼ同等のサイズ感であったらしい。だが、この島の種はその5倍を軽く超える体格を誇り、戦闘能力はドスランポスに近い大きさの肉食恐竜、カルノタウルスに匹敵していたそうだ。モンスターと言い、古代生物と言い、この島の生物は全般的に巨大化する傾向が強いようだ。

 

 

 

 現在の島で彼らを見ることは無いだろうが、その攻撃手段に関しては同様の方法を用いてくる奴が居ないとも限らない。いくら俺たちが強力なモンスターに騎乗したとて、奇襲を食らって無理矢理引き摺り降ろされてしまっては、徒歩とそう変わりは無い。願わくば、現在の島に厄介な生物が生息していない事を祈りたい。さて、本題に戻ろう。

 

 

 「なあオリバー、ガルクのテイム方法は知ってるのか?」

 

 

 俺の問いかけにオリバーは腕を組んで自信満々な様子で答える。

 

 

 「もちろんニャ。何匹もテイムした事があるから任せるニャ。」

 

 

 オリバーの話を纏めるとこうだ。ガルクは本来であれば凶暴な生物なのだが、ある状況下ではそれを和らげられると云うのだ。それが、"アメフリツブリ"と呼ばれる、沼地からレッドウッドに掛けて生息するカタツムリの様な環境生物が放つ霧状の液体を浴びた時だ。この液体は人間が浴びると徐々に外傷が癒えてゆくという効果があるのだが、どうやらガルクにとっては鎮静剤としても機能するらしい。そうして、大人しくなったガルクに対して、ブラッシングを行い毛並みを整えてやるそうだ。すると、背中に乗る事を許してくれるようになり、騎乗して共に野を駆け巡ればいつの間にかテイムが完了するらしい。

 

 

 「ところでその手順なんだが、モンスターの巣窟でやるのは中々に危険すぎないか?」

 

 

 「ボクがやってた時は見張りを沢山用意する人海戦術で周囲の安全を確保して手早くやってたニャ。あいつらが狩りをする時に先陣として一匹、必ず群れから先行して獲物を押さえる個体がいるニャ。そいつを誘導するのが狙い目ニャ。」

 

 

 確かに、それならレッドウッドのど真ん中で事を行う必要がありそうだ。それにしても人海戦術か。今の俺たちは人手が多いわけでは決してない。過去のオリバーと同じ手法を取るのは難しい。何か少人数でも熟せる良い手段は無いだろうか。まさか、一人で一匹ずつ襲い来るモンスターを相手取るのはどう考えても不可能だ。俺が思案していると、隆翔が助け舟を渡してくれた。

 

 

 「なら、イャンクックを使うのはどうだ?あいつの運搬能力なら小型モンスター1匹程度なら掴んで飛べる。それなら上から急襲出来るから、わざわざ一匹ずつ誘導する必要は無い。それに、そのまま安全な場所まで運んで事を進められる。」

 

 

 俺は良い案だと思う。そうか、こちらにはガルクごと運搬可能な手段があるのだ。正直に危険地帯に籠ってテイムしなければならない理由など存在しない。

 

 

 「だったら、昏睡テイム用のグレネードで眠らせてから運ぶのはどうかな?それなら、道中で抵抗されて変な事故が起こるのを防げそうだし。」

 

 

 更に俺たちは秀夫の提案を加え、テイムの手順を組み立てた。群れを発見し次第、上空から昏睡用のグレネードを投下し眠らせる。その後はイャンクックで掴み、海岸など安全な場所まで運搬し、そこで所定の動きをする。作戦自体は非常にシンプルだが、初めて赴く地での実行だ。安全第一での行動を心掛けよう。

 

 

 作戦会議から、一週間後。俺たちは物資を整え、ついにレッドウッドへの旅路に就いていた。今回は、陸路と空路の併用。上空組が先行し安全の確認をしながら、地上組がそれに追従するという形だ。ガルクはモンスターの中ではそこまで大きくはない。空からの捜索だけでは見逃しが発生しかねない。

 

 

 俺はドスイーオスのヴェレーノに騎乗し陸上での戦闘を、オリバーはケストドンのドラコに騎乗して荷物の管理を、新之丞さんはイャンクックに乗って上空での戦闘を、そして秀夫と隆翔はメルノスに掴まれ皆のサポートを担当する。不測の事態に備えて、各々光蟲やシビレガスガエル、ネムリガスガエルなどの肩乗せペットを抜かり無く準備している。ガルクのテイムに必要なアメフリツブリも事前に捕まえてある。

 

 

 装備の方も十分だ。全員が金属の鎧に盾を付けているし、この前のドスイーオスとの戦いで壊れた新之丞さんの刀も補強された上で再度作り直されている。

 

 

 今回の遠征は今までで最も危険なのは疑いようも無い。なにせ、レッドウッドフォレストが位置するのは島の丁度、中央。そこへ辿り着くためには沼地を超える必要があるのだ。此度の要注意モンスターはガララアジャラだ。イャンクックもメルノスも大きな音には滅法弱い。遭遇したら最後、空にいる者は漏れ無く撃墜される事だろう。

 

 

 「悪いな、ちょっとだけ我慢しててくれよ。」

 

 

 嫌な顔をしながら身を縮めるヴェレーノを窘めながら、俺たちは鎧の上から堆肥を塗りたくっていく。沼地を抜け切るまでは無駄な戦闘は行いたくない。そのため、敢えてモンスターの嫌う臭気を身に纏う事で彼らを近寄らせないようにするのが狙いだ。正直、余りの激臭により既に喉元には込み上げて来た物があるが、この際贅沢は言っていられない。ここからは時間との闘いだ。臭気が薄れる前に行動しなければならない。

 

 

 諸々の準備が終わると、俺は直ぐにヴェレーノに騎乗してみんなにハンドサインを送る。皆もそれに応えると、同時にペットたちの手綱を引き、俺たちは駆け出したのだった。この糞を身体に塗る手法、モンスターへの忌避効果は凄まじいのだが、反面強過ぎる臭いによって飲食が出来なくなったり言葉を発せなくなったりと、色々と不便な面があるのもまた事実。ままならないものだ。

 

 

 ヴェレーノの脚は頼もしかった。背丈の高い草が生い茂り、泥濘んだ悪路でも難無く踏破していた。一方でドラコは元々海岸に生息する生物とあってか、沼地の地面には苦労していたが、それでも牽引する荷車と共に追従してみせたのだ。

 

 

 鬱蒼と茂る木々の隙間から筋状の光が差し込んでくる。久方振りの眩しさに、思わず目を覆ってしまう。

 

 

 俺たちは目の前の光景に圧倒されている。次に目を開けると、そこには正しく巨木が織り成す森が雄大に佇んでいるのだった。その一本一本が軽く20 mを超える高さを持ち、それが視界の一面を埋め尽くす程に所狭しと並ぶ様は圧巻の一言。改めて島での人間の小ささを思い知らされた気分だ。

 

 

 「ぷはー。ようやく新鮮な空気を吸えるね。解放された感じがして清々しいな。」

 

 

 秀夫は消臭玉の煙を自身の身体に浴びせながら大きく息を吐いている。俺たちもそれに続いて消臭玉を使用する。空気が美味い。やはり、空気の味わいを感じるためには鼻から吸うのが一番だ。そんな当たり前な事に感謝しながら、深呼吸をする。モンスターがいなければ、ここは間違いなく景勝地になっていただろう。

 

 

 ほっと一息という雰囲気に包まれたのも束の間、上空から猛禽を思わせる鳴き声が複数、こちらへ向かって来た。俺は急いで望遠鏡を握り締め、その行方を探った。

 

 

 「みんな気を付けろ!ホルクの群れだ!油断すると連れ去られるぞ!」

 

 

 数は三匹。奴らの強さは俺が身を以て知っている。一度肩を掴まれたなら、瞬く間に上空へとひとっ飛びだ。奴らの滑空の瞬間速度は下手な航空機にも迫る。それ故に生物に騎乗していたとしても、引っこ抜かれる可能性は十分に有り得るので油断ならない。

 

 

 「みんな、これを使って隠れるんだ!」

 

 

 隆翔が刈りたての草束をみんなに投げる。俺たちは各々のペットに無抵抗の笛を吹き、草の中に身を埋めた。しばらく息を殺していると、例の鳴き声が次第に遠くなっていくのが分かった。一先ず難を逃れられたようだ。

 

 

 「もう出て来て大丈夫だぞ。」

 

 

 俺が声を掛けると、土が盛り上がりそこから潜っていたオリバーが顔を出した。全員無事のようだ。

 

 

 一箇所に留まり続けるのは好ましくないという事で、俺たちは早速ガルクを捜索する態勢に入った。取り敢えずは、森の中に導蟲を放ちそれらしき痕跡が無いかを探る。

 

 

 周囲の様子を警戒しつつも、導蟲の赴く方向へ足を進める。

 

 

 「これは、ケルビか?相当酷い食い荒らされ方だな。」

 

 

 導蟲は肉食生物の捕食跡と思われる物体の周りに滞留している。件の亡骸はもはや原型を留めておらず、辛うじて視認可能な角だけが元の形を伝えている。

 

 

 「ユータさん、まだほんのり温かいニャ。食った奴はまだ近くにいるかも知れないニャ。」

 

 

 亡骸の周りをよく見渡してみると、白い体毛の様な物が随所に散乱しているのが見て取れた。

 

 

 「痛てっ、何だこれ?」

 

 

 その物体に手を伸ばすと、静電気が走った時の様な鋭い痛みが手に走り抜けた。不用意に触れるべきでは無かったと反省する。屍肉の近くにあるという事は、恐らく何らかのモンスターが落として行ったに違いない。

 

 

 「それはトビカガチの毛ニャ!まだ樹の上に潜んでるかもニャ!早くここを離れるニャ!」

 

 

 オリバーの言葉を聞き、俺は上空の秀夫たちに向かって「移動するぞ」という合図を送る。それと同時に、俺とオリバーはヴェレーノとドラコの手綱を引く。

 

 

 だが、走り出した瞬間こちらの行く手を阻む様にして頭上から急襲を仕掛ける影があった。ヴェレーノはすんでの所で急停止する事に成功したが、勢い余って体勢を崩してしまい、俺もなげ出されてしまった。幸い、オリバーとドラコは無事だ。物資を守る為にも、先へ進むよう促す。

 

 

 土煙が晴れると、白い体毛に覆われたムササビの様な生物が姿を現した。これが話に聞くトビカガチという奴だろう。大きさはイャンクックよりは一回りほど小さい。襲撃を受けるまで、一切奴の気配を感じ取る事が出来なかった。相当、隠密行動に長けた種のようだ。

 

 

 ヴェレーノが怯んだ隙に、トビカガチは前脚の飛膜を広げ、跳び上がった。飛び掛かりを行う構えだ。今からの再騎乗は間に合わない。死を覚悟したその時、上空から火球が降り注いだ。

 

 

 「裕太殿!急いで森から出るのだ!ここは我々に任せ給え!」

 

 

 新之丞さんが叫ぶと同時に、隆翔がスリリングショットからこやし玉を打ち出す。それは火球に怯んだトビカガチへ見事に命中した。奴は身体を揺さぶりながら明らかに嫌がる素振りを見せている。そこへ、更に二発のこやし玉が直撃する。白く美しい体毛は茶色く染まり、見るも無残な有り様と化している。トビカガチはこちらを睨みつけながらも、不利を悟ったのか木々の間を次々に渡りながら一瞬の内に何処かへ消えてしまった。

 

 

 「みんな、ありがとう。助かったよ。」

 

 

 ヴェレーノから落とされた時は肝が冷えた。三人のフォローが無ければ、俺は今頃黒焦げの骸骨になっていた事だろう。それにしても、トビカガチが逃げる際の滑空のスピードはかなり速かった。あの速度と機動力で追いかけ回されていれば、ヴェレーノの健脚を以てしても逃げられたのかは分からない。テイムすればレッドウッドに於いては重要な戦力となる事間違いなしたが、地の利が向こうにある以上、弱らせるのには相当な苦労を要するだろう。

 

 

 「マジでやられるかと思った。疲れたし、ちょっと休まないか?」

 

 

 命の危機が去って緊張の糸が解れると、一気に疲労感がみ上げて来たのだ。それに、何処からか甘い匂いが漂っている所為か、空腹感も一潮だ。待てよ、甘い匂い?違和感を感じた俺は、思わず周囲を見渡した。すると、一本の大木から大量の樹液と思われる液体が流れ出しているのが見て取れたのだ。その樹液は非常に粘ついており、色合いはハチミツに酷似している。また、樹液が流れ出る源となる場所には大きな傷が付いており、人間の顔ほどもある一匹の巨大な蝶の様な昆虫が止まっている。

 

 

 「あれはオオシナトニャ。」

 

 

 「知ってるのか?」

 

 

 「マルドローンと同じ猟虫だニャ。」

 

 

 マルドローンと言えば、以前に秀夫がテイムしており、戦闘面でとても頼もしかったのを思い出す。空中における機動力と細かな命令でも確実にこなす高い知性を組み合わせた陽動や、あのアンジャナフですら怯ませるパワーによって幾度となく俺たちは窮地を救われた。オリバー曰く、このオオシナトという猟虫はマルドローンよりもスピードに優れているそうだ。テイムが出来れば大型モンスターとの戦闘や洞窟探索でも強力な助っ人となってくれるのは確実だ。

 

 

 「ちょっと待って裕君。この木の傷、なんだか変だよ。」

 

 

 俺がオオシナトのテイムを申し出ると、秀夫が待ったを掛けた。それと同時に、腰周りに漂っていた導蟲たちが一斉に木の傷跡近くを飛び回り始めたのだった。俺はもう一度その近辺を注視してみる。

 

 

 「これは、何かの爪か?」

 

 

 傷は一筋ではなく、三本の筋が縦に連続して並んでいた。その形は、爪で引っ掻いた後のようにも思える。

 

 

 「これは!?間違いないニャ!まだ新しい。ティガレックスの爪跡ニャ!オオシナトは後ニャ!今はここを離れて身の安全を確保するのが先ニャ!」

 

 

 一難去ってまた一難。忍び寄る強大なモンスターの気配に、再び緊迫した空気が立ち込める。そんな状況に呼応する様にして、周囲の木々の木の葉は突如として揺れ始める。ペットのメルノスたちは身を震わせながら、辺りをキョロキョロと見渡す仕草を取り出した。その直後、ここから少し離れたであろう場所から獣の咆哮が轟いた。秀夫たちは怯えるメルノスたちに無抵抗の笛を聞かせて、なんとか落ち着かせようとしている。

 

 「この距離ならどの道接敵は避れられないニャ。クルミとメルノスを早くこの場所から遠ざけるニャ!あいつの咆哮を聞いたら飛んでいられなくなるニャ!」

 

 

 「秀夫たちは先に逃げるんだ!ここは俺とヴェレーノで誘導して時間を稼ぐ。今ここで貴重な戦力を失う訳にはいかない。みんな、何とか生き延びてくれ!」

 

 

 俺が言うと、秀夫と隆翔はメルノスに指示を出し上空へと駆けて行く。

 

 

 「新之丞さん、ドラコの荷物はここに捨てて行きます。なので、クルミでドラコを掴んで運んでやって下さい。」

 

 

 「承知した。裕太殿、ご武運を祈る。某らは沼地の川を越えた先の浜辺におるだろう。無事に生き延びられたなら、そこで落ち合おう。」

 

 

 三人の姿は次第に見えなくなっていく。しかし、それと時を同じくして件の獣は木々の合間から姿を現したのだった。

 

 

 山吹色を基調とした虎を彷彿とさせる体色に、筋骨隆々で力強く大地を踏み締める強靭な四肢。これまでに遭遇したどんな大型モンスターよりも、原始的な恐怖を感じさせられる。俺は震える手にグッと力を込め、ヴェレーノの手綱を握り締める。ティガレックスはこちらを視界に入れると、上体を持ち上げ、息を吸い込む。

 

 

 「オリバー、ちゃんと掴まったか?援護は任せるぞ。」

 

 

 オリバーはヴェレーノの尻尾を掴み、後ろを向いている。そこから投擲などで時間稼ぎをしてもらう算段だ。

 

 

 

 「飛ばすぞ!」

 

 

 俺は片手を使い全力で手綱を引き、同時に沼地の方角を指差しながら移動の口笛を吹く。ヴェレーノのは急加速する。俺はその速度に耐えきれず、俺は身体を丸めヴェレーノに抱き着く様にして必死にしがみつく。いつ振り落とされても可笑しくはない。

 

 

 後方からもはや衝撃とも表現できる程強烈な勢いのある空気塊が押し寄せる。その瞬間、両耳から頭の真ん中にかけて途轍もない激痛が迸った。比喩の領域を超えて、本当に頭が割れてしまいそうだ。頭を押さえたいが、今この手を離せば俺は間違いなく落馬する。そうすれば、俺だけじゃなくオリバーもヴェレーノもお陀仏になりかねない。だが、頭ではそうやって理解出来ているが、身体は言う事を聞いてくれない。ヴェレーノに掴まる腕の力も、跨る脚の力も自分の意志に反して徐々に弱々しくなってゆく。

 

 

 そんな時、ふと耳元に押さえ付ける力が加えられるのを感じた。その手はフワフワとしており、痛みは感じない。オリバーは俺の肩の上から視線を送ってくる。それは、気にせず自分の事に集中しろとでも言いたげであった。頭に貼り付いた柔らかい感触により、心なしか痛みも少し楽になった気がする。俺はなんとか再び力を入れる事に成功し、この場を切り抜けられたのだった。

 

 

 先程の衝撃波は収まりを見せたが、未だに俺の頭の中には耳鳴りの不快なノイズが鳴り響いており、到底周囲の音など聞き取れる状況ではない。幸い、ヴェレーノはあの轟音の影響を受けず、変わらぬ速度で走り続けている。もはや俺に出来るのは信じて手綱を握り続ける事だけだ。

 

 

 森を抜け、濁った水面が目に入る。レッドウッドフォレストからの脱出には成功した。だが、ティガレックスは相当に執念深い性格のようで、見逃してくれる気配はない。ヴェレーノらドスイーオスは自動車に勝るとも劣らない圧倒的な速力を誇るが、ティガレックスは恐ろしい事にその倍の体格を持ちながらも同等のスピードで追い回して来る。奴の脚力の前では沼地の不安定な足場など物の数にも入らないらしい。

 

 

 沼地の木々の中に逃げ込もうとした矢先、俺たちの頭上を巨大な影が通過した。俺は慌てて停止の命令を吹く。次の瞬間、何本もの木々は倒れ、俺たちはティガレックス正面に捉えたのだった。

 

 

 奴は着地した際の勢いなどお構い無く、すぐに充血した赤々と染まった恐ろしい形相の前脚を振り上げ、ヴェレーノに向ける。

 

 

 「オリバー!!」

 

 

 俺が叫ぶと同時に、ティガレックスの眼前で投げ付けられたハジケクルミが炸裂する。効いている。怯む奴の顔を真横に、ヴェレーノは沼地の茂みの中へと走り去る。

 

 

 「ふぅ、危なかったな。また助けられた。済まないなオリバー。」

 

 

 「油断するにはまだ早いニャ。あいつはあんなので諦める程ヤワな奴じゃないニャ。」

 

 

 ようやく一息吐けるかと思ったのも束の間、今度は地面が揺れるのを感じた。進む程にそれは強くなり、終いには目の前の地面が盛り上がる。俺はまたヴェレーノを止め、後ろへ下がるよう指示した。

 

 

 地面の膨らみはより大きくなり、最後には破裂する。俺たちは飛び散る土に目を瞑らざるを得なかった。そして、目を開けると、先ほどまではここに無かった山が鎮座しているのだった。

 

 

 いや、正確に言うとそれは山ではない。苔生した体表と、背中に生えた二つの大きなコブがそう錯覚させる。その正体は、実の所は山と見紛う程巨大な体格のモンスターなのだ。全体的やフォル厶はバフバロと似ているが、大きさはその比ではない。更に、戦鎚の如く肥大化した尻尾がより物々しさを感じさせる。

 

 

 「あれは、"ドボルベルク"ニャ!あいつは縄張り意識が強いニャ!」

 

 

 見た目からして草食動物っぽいが、穏やかな気質ではないらしい。俺たちが今乗っているのが、肉食動物のドスイーオスであるという点も、ドボルベルクを刺激する一因となっているのかも知れない。

 

 

 俺たちは迫り来るドボルベルクを前に、後方へと退こうとするが、それは許されなかった。木々は足音ともに倒壊し、俺たちの退路は塞がれる。やはり、まだ追ってきていたか!?

 

 

 ドボルベルクが雄叫びを上げると同時に、俺たちの背後からはティガレックスが跳躍し姿を現した。正に絶体絶命。強大な存在に囲まれたせいか、ヴェレーノも萎縮している。彼らに毒液を吐かせた所で致命傷を与えるのはほぼ不可能だろう。逃げるにしても前にも後ろにも進めない。光蟲を使えば、両者ともに目を眩ませられる。だが、それでは確実にヴェレーノに影響が出る。

 

 

 次の一手に悩む俺たちの胸の内など知った事かと言わんばかりの勢いで、ティガレックスは大ジャンプを繰り出しドボルベルクへと飛び付く。ティガレックスは豪快にも上からドボルベルクのコブへと噛み付き、前脚で押さえながら動きを完全に封じようとしている。だが、ドボルベルクも負けじと身体を揺らし、引き剥がす。正にパワーとパワーのぶつかり合いと言える凄まじい争いだ。とはいえ、見入っている場合ではない。今のうちになんとか逃げなければ。

 

 

 「オリバー、煙玉だ。今なら奴らに気付かれずに逃げられる。」

 

 

 ヴェレーノが走り出すと同時に、煙玉が着火される。これで奴らは俺たちを見失うに違いない。只でさえ、両者とも互角の闘いを演じていたのだ。仮に決着が付いても俺たちになど構っている余力は無いはずだ。

 

 

 その後は特に何事も無く、沼地を脱出する事が出来た。恐らく、力を持った大型モンスターが複数集まっていた事が原因で、小型モンスターも軒並み避難していたのだろう。なにはともあれ、命に別状なく逃避行が成功して良かった。

 

 

 他のみんなやペットたちも全員無事で、約束通り再会出来たのは不幸中の幸いだろう。結局、今回の遠征は思わぬ外敵との遭遇により、何一つ達成すること無く失敗に終わったのだった。




 今回新登場したモンスターは、トビカガチ、ティガレックス、ドボルベルクです。前二者はworldやriseにも登場しているためご存知の方が多いと思います。ドボルベルクは、MHP3rdが初出の獣竜種のモンスターで、体力お化けです。私は3Gの頃、カヤンバを助けるクエストが中々クリアできませんでした。


 レッドウッドは原作のARKだとミクロ、プルロ、ティラコ、テラバなど搦め手が厄介な生物が多数登場しますが、本小説では純粋に強いモンスターが生息する地となっております。ここを如何に活かしていくかに、今後の彼らの運命が掛かっていると言っても過言では無いでしょう。
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