モンスターだらけのARKを生き延びろ   作:あるこばれの

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 1話目からずっと暗い感じの回が続いていたので、お口直しに少し明るい回にしました。裕太君は何を食べるのかな?それでは本編スタート!


Version3.0:初めての食事

 案の定と言うべきか、俺はいつもの海岸で目を覚ました。どうやら俺の推測は間違っていなかったらしい。やはり、間違いなく俺は死んで、生き返ってを繰り返したのだろう。しかも死ぬ度に肉体は交換されていると来た。これから俺は本当に人として在れるのだろうか?俺は蘇生できた事を素直に喜べない。むしろ、あるのは俺という存在が揺らぐ事への恐れのみだった。

 

 

 あまりにも現実離れし過ぎた現象の数々に心が押し潰されそうになる。もし仮にここから戻れたとしても、ここであった出来事は誰も信じてはくれないだろう。俺は物語の世界に迷い込んだとでも言うのか?あまりにも荒唐無稽で馬鹿馬鹿しい考えだが、あの生物たちを見た後には完全に否定する事は難しい。どうせ迷い込むなら、中世ファンタジー風な異世界とかが良かった。大体、こういうのは、迷い込んだ側はお客様待遇で、何処から湧いて出たのか分からない謎の魔法とかスキルとかが使える様になるのがお約束なはずだろう。だがそんな自分にだけ都合の良い事が一切無いあたり、やはり現実は、自然は常に厳しいものなのだろう。ああ、こんな無駄な事ばかりを考えている暇はないのに。そんな事ばかりが思い浮かぶのは俺の頭がパンクしきっている証左だろう。はっきり言って、もう疲れた。これが悪い夢じゃないのは流石にもう分かる。この島の怪物・怪獣達は紛れもなく「現実」に存在しているんだ。今自分が置かれている状況に俺は頭を抱えてしまう。これから俺はどう生きればいいんだ?

 

 「グウゥゥゥー」

 

 

 鳥たちのさえずりを掻き消す様にしてその音は鳴り響く。こんな時でも腹の虫だけは元気のようだ。思えば俺はこの島に来てから何も口にしていない。肉体は何度か入れ替わっているからそちらに関してはそれほど飢餓感は感じないが、心理的には何でも良いから口に入れたいという気持ちが強い。記憶は連続している様なので、もしかすると俺の脳は、飢えていると判断したのかも知れない。取り敢えずは、近くで何か食べられそうな物を探そう。俺は一先ずの目標を定め、気を引き締める。

 

 

 俺は食料を探しに行く前に、たき火の元へ戻った。擦ると火が出るあの赤い石を回収するためだ。幸いあの虫は近くにはいない。しかし、その場所にたどり着いた時、あるべきはずの物が無いことに気が付いた。「最初の俺」の死体が消えていたのだ。察しの悪い俺でも理解できる。何者かが「処理」したのだろう。肉を喰らう生物があの青い恐竜だけとは限らない。あいつかも知れないし、まだ見ぬ怪物の仕業かも知れない。俺は周辺を警戒しつつ、赤い石だけを拾い、すぐにその場から立ち去った。

 

 最初の海岸付近に戻った俺は、そこで何か食料になりそうな物を求めて辺りを見渡してみる。一見しただけでは、特にそれらしき物は見当たらない。ただ、それでも島の奥に潜るような真似は避けたい。また、あの青い恐竜に遭遇する可能性が高いからな。俺はどうしようもなくなり、しばし逡巡する。強いてこの辺りで何かありそうな場所と言えば、近くのヤシの木の周りにある茂みぐらいだ。あまり腹が膨れそうな物があるとは思えないが、調べる価値はいくらかあるだろう。見た所、複数の種類の植物があるようなので、レパートリーに富んでくれていると嬉しいのだが。俺は茂みの外側から順に調べていく。俺は中腰になり、身を乗り出して植物に顔を近づけ、何か無いかを入念に観察する。そして、俺は黒い果実が群生しているのを発見した。色こそ黒いが、ブルーベリーの様な形の果実だった。俺はそれを一粒だけ摘み取り、顔に近付ける。俺は待ちきれずついに口に放り込もうとした、その時だった。その果実から薬品を彷彿とさせる匂いが漂ってきたのだ。俺は文系なので、そういった物には疎いのだが、昔歯医者で嗅いだような匂いがして思わず手を止めてしまったのだ。これは本当に食べても大丈夫なのか?そんな迷いが俺の中で生じた。昔、飲食店のコマーシャルで耳にした、「迷ったら食ってみろ!」というキャッチコピーが俺の頭を過った。やはり空腹には勝てず、俺はままよと思い、再び口に運ぼうとする。しかし寸での所で思いとどまる。この島の動物は俺が見た中では危険物揃いだ。本当に植物もその限りでないと言えるのか?そんな思考が俺の中で芽生えたのだ。第一、俺が青の恐竜に殺されたのも不用意な行動によるものだったではないか。流石に、二回も死を経験したら俺も疑心暗鬼に、というか用心深くなる。やはり、疑わしきは何とやらで、ここは慎重な行動を選択すべきだ。そうして、俺は黒い果実を捨て、別の茂みを漁り始めたのだった。

 

 

 その後も、別の茂みを探し続けた俺は、今度は赤いサクランボの様な形をした果実の集合を見つけた。それは、よく見るサクランボより一回り程大粒で一つの柄から三個から四個の実が伸びている。形は少し潰れた様な楕円形で歪ではあるものの、その赤色は俺の食欲を刺激するのには十分過ぎる程鮮やかで、魅惑的だった。俺は実が三個付いている柄を一つ千切った。一応、匂いを嗅いでみる。先程の黒い果実の様な変な臭いはしない。代わりに、ほんのりと甘酸っぱい匂いが鼻孔を擽った。ゴクリ、と俺は息を飲む。そして、俺は震える手で一つ果実を口に突っ込んだ。

 

「ーーッッーー」

 

 次の瞬間、ほんのりとした酸味を伴った甘い果汁が俺の口一杯に広がった。雲一つない青空が、この絶妙な酸味を引き立たせ、夏の海水浴場のように透明度に満ちた清涼感を生み出す。それから、俺は二回、三回と果実を噛んでいた。その度に甘い汁が喉奥まで広がり、乾いた喉に束の間の安息をもたらす。気付けば、口の中の実は、種に変わり果てていた。俺は種を吐き出す。すかさず俺は二つ目の果実を放り込む。今度の果実は一つ目のよりも酸味が強かった。これはこれで良い。甘さで緩み切った俺の口内が強い酸味によって再び引き締まっていくのを感じる。俺は耳の下が痛むのを堪えながら、過剰に分泌された唾液を飲み込む。俺はしばし下顎に未だ残る余韻に浸った後、最後の一つの実を丁寧に柄から外した。そして、それをゆっくりと口の中に運ぶ。この実は、三つの中で最も甘かった。引き締まっていた口内はまた先程のようにだらしない状態へと戻る。思わず、笑みがこぼれた。三味一体とは正にこの事を指すと言っても過言では無いだろう。俺の疲れた心身に染み渡るこの果実はまるで佐吉が差し出した三杯の茶のようだった。少しだけ、いつも資料からしか垣間見えなかった雲の上の先人の感動を理解出来た気がした。それからは、もう夢中で俺は赤い実を何度も取っては、食べ続けた。俺はこの島に来てから初めて満ち足りた感情になれたんだ。この一瞬だけ、俺は色々な事を忘れられた。この島で見た化け物のことも、俺が死んだことも、「今の俺」という存在への不安すらも。ああ、この瞬間が永遠に続いてくれたら良いのにな。




 食レポシーンは結構長い時間考えた割に自信が無いのですが、いかがだったでしょうか?補足になりますが、今回裕太君が食べたのはARKの「ティントベリー」というアイテムです。「メディカルブリュー」という回復薬の原料になるかなり後々重要になりそうなアイテムです。ちなみに、捨てた黒い方は「ナルコベリー」といって、食べると昏睡するヤバイやつです。ARKの数ある初見殺し要素の中でもかなり質が悪いなと個人的には思います(笑)そんな初見殺しを躱した裕太君はきっと成長しているのでしょう。

 次回は今週の木曜日か金曜日あたりに投稿しようと思います。少々お待たせしますが、どうか次回もお楽しみに!
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