食事を終え、少しの時間が経過した。俺はあの多幸感から一気に現実に引き戻される。俺はこれからどうするのかを思案する。今はまだ、陽が東から南に昇ろうとする時間帯だ。だが、夜は必ず訪れる。正直に言って、夜は怖い。あの巨大昆虫に襲われる光景がどうしてもフラッシュバックするのだ。いくら死んでも蘇るからと言って、自分の命を軽視して良い理由にはならない。俺はそこまで肝が据わっている訳でも、確固たる覚悟がある訳でも、倫理観を失っている訳でもない。何処にでもいる普通の人なんだ。物語の主人公なんかではないんだ。だから、痛い事も死ぬ事も辛いし、とても怖い。出来ることなら二度とあんな危険生物なんかとは出会いたくなどない。しかしながら、ここ島においてそれが不可能なのは残念ながらもう十分に理解してしまっている。青い恐竜に関しては俺が森に近付かないようにすれば極力出会わずに済むだろう。問題は、あの巨大昆虫だ。あいつらは一見平穏に思えるこの海岸にも出没する。あいつらの生態など知る由もないが、あの時の状況から考えて、火を焚くとまた寄って来る可能性が高い。かといって、夜間に火を使わず明かすという選択肢もあり得ない。火がサバイバルにおいて重要な役割を果たすのは俺でも知っていた。実際に俺は一晩この島で暮らしてみてそれを痛感した。南の島っぽいこの場所は昼間は相応に気温が高いが、夜間は意外と冷え込む。特に着衣がパンツ一丁のみの現状では火の助けなしに夜を明かすのは体温の確保という面で非常に厳しいと言える。加えて、夜間に視界が確保できないのも保安上、また精神衛生上よろしくない。理想的には火を起こさなくとも、身の安全や体温を担保できる手段があれば良い。だが、飽くまで現実的な手段でそれを実現できるものは存在しない。唯一俺の無い頭で考えつくのは家を作るという手段だ。家を作れば、雨風に晒されることはないし、日が無くてもある程度は体温を確保する事も出来る。それに、あの虫が来ても壁と屋根があれば、隠れてやり過ごす事だってできるかも知れない。正に現状取れる最善の手立てと言える。しかし、そこで俺に大きな障壁が立ちはだかる。何をすれば良いか、どこから手を出せばよいか分からないのだ。俺にDIYの趣味はない。俺に出来るのはソシャゲと、古文書を解読して史実をまとめる事ぐらいだ。俺は数年前の自分の選択を恨む。こんな極限環境下では歴史学など何の役にも立たないではないか。こんな事になるなら、親友と同じように、もっと実学的な専攻にするべきだった。それならある程度この状況への対処も出来たのだろうか。そんな事を考えても後の祭りだ。まずは、現状の課題を何とかしなければ。
ずっとウジウジと考えていても仕方がない。取り敢えずは、海岸の近辺を回って家の材料に出来そうな物でも探そう。そう思って立ち上がった瞬間だった。俺の左手のひし形が突如点滅し始めたかと思うと、眩い青い光を放ったのだ。
これは視覚情報ではない。そう、「イメージ」だ。俺の頭の中に「イメージ」が思い浮かんでいるんだ。頭に浮かんだのは、「石のピッケル」だった。それは恐らく打製石器と考えられる石錐を木製の柄にひもで括り付けた、いかにも原始的な道具だった。気が付いた時には俺は海岸のヤシの木の前に立っていた。俺はこれから何をすれば良いのか分かる。これもあの光によるものなのだろうか。俺は躊躇いなく眼前の木を拳で思い切り殴った。殴り続けた。一発殴ったところでは、木はビクともしない。それでも俺は殴り続ける。手の甲は擦り剥け、出血し始めている。それでも俺は拳を止めない。俺の本能が手を止めてはならないと告げている様な気がしたからだ。身体も理解しているのか、へこたれる事無く俺の意思に従ってくれている。ついに期の表面はひび割れ、表皮を剥がすことに成功した。俺は高揚した。この木は変わっていた。表皮と木部の間に普通はあるはずの無い部位が存在していたのだ。表皮の中から姿を現したのは、なんと藁の様な外見と触感をした繊維質の「ひも」だったのだ。俺は思わず胸が熱くなる。俺は求めていたものを見つけることが出来たのだ!俺は勢いそのままに、手の痛みなど忘れてあらかじめ拾っておいた太めの木の枝と先の尖った石を藁で括り付けた。そして、ついに「石のピッケル」が完成したのだ。俺でも道具を作れた事に目頭が熱を帯びた。心なしか、少しだけサバイバルに対して自信を持てるようになった気がする。
更なる「イメージ」が俺の頭に現れた。今度は「石の斧」だった。俺はその声に従って、ピッケルで岩の一部を砕いた。砕けた欠片の中には初日に拾って世話になった赤い石と同じ物があった。俺はそれを先程と同じ要領で藁をひも代わりにして木の枝と結びつけた。俺は難なく「石の斧」を完成させることが出来た。俺はすぐさまそれを持って先程殴りつけた木へ向かった。あの程度の太さの木であれば、もしかするとこれで伐採出来るかも知れないと思ったからだ。俺は木の表皮が剥がれた部分に思い切り斧を突き立てる。2 [cm]ほど入っていった。俺は繰り返し、木にできた傷に向かって斧を振る。本当にこれが正しい方法なのか何て分からない。それでも俺はただひたすらに繰り返した。そして木は倒れた。その瞬間俺は、顔中を流れる大量の汗など気にも留めず、斧を天に掲げ雄たけびを上げたのだった。
陽は傾き辺りが夕焼けに染まる頃、俺は自らの城で限界を迎え横になっていた。ただ、城と言っても、一マスの正方形の小屋にドアが付いただけの、サバイバルクラフトゲームの用語を借りるなら、「豆腐建築」そのものだ。それに、材質は藁製という文字通り吹けば飛ぶような粗末な代物だ。だが、それでも俺は一つやり遂げたんだと胸を張って言える。サバイバルやDIYの知識が皆無の俺でもたった一日で家を作れたんだ!これで、今日はあの虫に臆することなく眠れる。俺は今日一日の出来事を思い返す。二度目の蘇生をしたと思ったら、左手のひし形が青く光って、それで急に必要な道具のイメージが思い浮かんできて気付けば家まで作っていた。あれは一体何だったのだろうか?まだまだ謎は多いが、案外これは俺を助けてくれる物なのかも知れない。無意識の内に木を殴り始めた時は、我ながら気が触れてしまったと思ったが、藁を手に入れる事ができて結果オーライだった。あれのお陰でピッケルや斧を作れたし、その後に浮かんできた藁製の建材の材料にすることも出来た。それに、この島で自生する草は束ねると繊維状になってすぐに糸やひもとして利用できることを知れたのはかなりの収穫だ。それにしても、この建材の「イメージ」はとにかく凄かった。支えとして使う木材の量や長さ、果ては藁を木材に括り付ける位置、さらには加工手順までもが鮮明に思い浮かんできたのだ。これがあったおかげで、素人の俺はでも驚くほどに短時間で土台、壁、ドア、天井を作る事ができ、今こうしていられるのだ。本当にこの島に来てから不思議な事は尽きない。慣れない作業で疲れた俺はドアを閉め、チクチクと藁が皮膚に刺さる床の上で眠りに就いた。明日も無事に終えることが出来ますように。
ついに「挑戦」を始めた彼は何処に導かれるのだろうか。それはまだ「神」のみぞ知る。
やはりARKの序盤と言えば、木を殴るに限る!きっとへレナさんは呆れているでしょうけど(笑)個人的にエングラムはExtinctionのヘレナさんみたく、自分が目的のために何をどうするべきかという情報がインプラントを通して脳に流れてくるのではないかと解釈しています。皆さんの解釈とずれていたら申し訳ありません...
前回、今回とモンハン要素が少なかったので、次回は主題でもあるモンハンのモンスターや環境生物を登場させようと思います。ちなみに環境生物も肩乗せサイズ生物の枠として出そうと考えています。来週は編集する時間があまり取れないので、投稿できても一本になるかなと思います。大変お待たせしますが、どうぞ次回もお楽しみにお待ちください!