機動戦艦ナデシコ -Shoot it in the steel-   作:古鉄の夜

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この物語は機動戦艦ナデシコのフリした機動戦……機動突撃兵アルトアイゼンとなる予定です。


プロローグ

「はぁ、はぁ、はっ……残り9機ッ!!」

 

 機体の足元を機銃の火線が撫でていく。コックピットで荒い息を吐いていた男――まだ10代前半の少年だ――は右手に握ったI・F・S(イメージ・フィードバック・システム)スフィアボール、戦闘の振動ですっぽ抜けるのを防止する為に五指に合わせたグリップが追加されたモノを握りしめる。右手のナノマシンタトゥーが淡く輝く。ナノマシンを介して、パイロットの指令を拾った機体背部のランドセルスラスターから蒼炎が噴き出した。機体が弾丸の如く加速。遮蔽物にしていたビルから飛び出す。

 その機体は紅かった。メタリックレッドの装甲を持つ重厚なロボット。ネルガル重工の開発した汎用人型機動兵器“エステバリス”

 正確にはプロトタイプエステバリスMk-III(マークスリー)カスタム。開発コードネームは“アルトアイゼン”

 重厚な見た目通りの分厚い装甲、左腕に三連マシンキャノン、右腕はリボルバー式杭打ち器、リボルビングステークを固定兵装として備えている。頭部には一本の衝角が屹立している。これは高熱を発して、敵機を切り裂くヒートホーン。主に非常時に使用される武装である。

 そして、最も特徴的なのは機体から張り出した両肩部アーマー。無数のベアリング弾発射機構を兼ねた兵装、スクエアクレイモアの存在だろう。

 これを駆るのは13歳の少年、ミナヅキ・ユキヤ。現在、ネルガルが所有する演習用の仮設フィールドの一角で実弾を装填したドローン二十機程を相手に、実戦を想定した評価試験を行っている真っ最中だった。

 遮蔽物代わりのプレハブ建築物を盾代わりに機銃の掃射を凌ぎつつ、ドローン群の外縁に位置する個体を狙いすます。

 

「今だ――!」

 

 刹那、両肩部後方の折り畳み式スラスターが可動。下方向を向いていたスラスターが機体後方に向けて跳ね上がった。そして、背面に背負ったランドセルと腰部後方に据えられた大推力バーニア・スラスターが同時に点火。機体が一瞬でドローンの目前に移動。いや、ドローンに向けて発射された。

 

「トリガー!!」

 

 右腕のリボルビングステークでドローンを貫く。そのまま、貫いたドローンを他のドローンが密集している箇所に向けて撃発。フレーム内のステークが薬莢の炸裂によって撃ち出された。ドローンが衝撃で吹っ飛んでいく。即席の質量弾と化したドローンが他のドローン群を巻き添えに叩きつけられて、さらに爆散した。これで残り四機。

 ユキヤは油断せず、他に集結したドローン群に三連マシンキャノンをフルオート射撃しつつ、牽制。ドローンの機銃を避けて、アルトを有利なポジションに脚部スラスターを吹かしつつ、移動させる。機銃が何発か装甲を叩くが分厚い装甲を持つアルトにとって問題にもならない。

 ――射程に入った。

 

「クレイモア……ッ!」

 

 両肩部前面のクレイモア発射口を覆うハッチが解放された。そして無数の炸裂鋼球弾が一斉発射された。扇状に放射されたベアリング弾がドローン群を撃ち砕いていく。

 ――ターゲット全撃破。サブモニターに演習終了を示すメッセージが表示された。

 

「はあ、状況を終了する……」

『ユキヤ、よくやりました。これにて本日の演習を終了します。Mk-IIIをハンガーに格納して、身体を休めなさい』

「はい、ラドム博士」

 

 正面モニターに白衣を着た女性が映し出された。歳は30。燃える様な赤髪。キツめの顔立ちの美人。いや、女傑と言うのが正しいのだろうか。マリオン・ラドム。ユキヤの保護責任者であり、このアルトアイゼンの開発者でもある。極端な性能の機体を開発し、軍から煙たがられていた為、敢えて、民間のネルガル重工に就職し、そこで人型機動兵器の開発に携わっているという変わり者である。

 まぁ、それだけではないのだが……その性格も顔立ち同様、激しいものであり、『やるからには徹底的に』をモットーに汎用性を度外視した特化性能を持つ機動兵器を生みだす事に長けていた。エステバリスの関節部サーボモーターの開発を担当しただけあって才覚は間違いなくあるのだが……やはり天才にありがちな風変わりな一面も持つ人物でもあった。

 

「失礼します、ラドム博士」

「来ましたね、ユキヤ。先の演習、見事でした。大分、Mk-IIIの扱いに慣れてきましたね」

「いえ。正直、まだ持て余している所が……もっと精進を重ねていきます」

「貴方もMk-IIIもまだまだ発展途上、という事ですわ。けれど実弾を使用した演習をクリアした以上、次の段階。即ち、実戦に投入する時期が来ましたわね……」

「地球連合軍の何処かの部隊に配属を、という事ですか?」

「……それについては候補を幾つか考えています。が、明日、面白い話を本社から来る使いの人間が持って来るそうです。それ次第、という事になりますわね。まぁ、今日は家に帰りましょうか。夕飯は私が作りましょう。バターチキンカレー、貴方の好物でしたわね?」

 

 演習施設内のマリオン・ラドム博士の為に割り当てられた一室。デスク付きの椅子からガタリ、と立ち上がったマリオンはユキヤに微笑みかけた。

 ユキヤはそれに一瞬、パッと顔を明るくすると「じゃあ、帰り際、スーパーに寄っていきましょう!」と少年らしい溌剌とした声音で返した。

 テストパイロットとしてかなり成長しましたが、好物の話をしただけでこれとは……まだまだ子供ですわね。と、マリオンは内心で呟きながら自分のノートパソコンを片し始めた。演習でユキヤが出した結果が満足いくものだった為か、普段より幾分穏やかなラドム博士であった。

 

 

 

 

 

 そして、その翌日。ネルガルのラボラトリーの一つ。マリオン・ラドムが預かるラドムラボの執務室。そこにやってきたのは、ちょび髭眼鏡の人の好さそうな笑顔を浮かべた男。そしてもう一人はむっつりとした顔つきの大男。デスクの椅子に座ったマリオンの横に立ったユキヤはなんだかアンバランスな二人だな。と、そのネルガル本社からの使いを見て思った。

 

「いやあ、この度は、わたくしどもの為に時間を割いて頂きありがとうございます。マリオン・ラドム博士。それで、そちらの少年が噂に聞く博士の――?」

「芝居がった挨拶は結構です、プロスペクター。早速、話を伺いましょう。ユキヤ、コーヒーを貴方の分も含めて四人分、頼みますわ」

「はい、ラドム博士」

 

 どうぞ、そちらのソファーにおかけになって、とプロスペクターと呼んだ眼鏡の男と大男を案内するマリオンを横目に見ながらユキヤは部屋に置いてあるコーヒーメーカーに向かった。

 

「どうぞ。砂糖とミルクはお好みで使ってください」

「ああ、これはどうもご丁寧にありがとうございます」

「……頂きます」

 

 お盆に乗せた四つのコーヒーカップ。その内、二つをプロスペクターともう一人に配膳する。砂糖とミルクの入ったバスケットも置いておく。大男も口数少なくユキヤを見て、話しかけた。そして三つ目を彼らの対面のソファーに腰掛けるマリオンのテーブルの前に置く。ユキヤはマリオンの隣りのソファーに腰掛けて自分の分のコーヒーを置いた。全員がまず一口、コーヒーに口を付ける。そして落ち着いた頃を見計らってプロスペクターが話し始めた。

 

「では、まずは自己紹介を。わたくし、ネルガル本社から参りました、プロスペクターと申します。そしてこちらがゴート・ホーリー。まず、名刺をどうぞ」

 

 テーブルの上に差し出された二枚の名刺。内、一枚を手に取ったマリオンは「知っています」とぶっきらぼうに呟きながら名刺を受け取り、白衣の内ポケットにしまい込む。もう一枚を受け取ったユキヤはそこに書かれたプロスペクターという名前を改めて読むと先程、疑問に感じた事を聞いてみた。

 

「プロスペクター……本名ですか?」

「いえいえ、これはペンネームみたいなモノでして……」

「はあ……」

「マリオン・ラドム。このラボの所長ですわ。そして隣にいるのが今、私が手掛けているエステバリスMk-IIIのテストパイロットを務めている――ユキヤ、自己紹介を」

「初めまして、プロスペクターさん、ゴートさん。ミナヅキ・ユキヤといいます。ラドム博士の下でパイロットをしています」

「それで、本日はどういったご用件で?」

 

 ユキヤの自己紹介が終わるや否やすぐさま本題を聞こうとするマリオン。無駄を極端に省きたがる彼女らしい聞き方だ。ユキヤは思わず、苦笑してしまう。

 

「では、単刀直入に申し上げます。ラドム博士、そしてミナヅキ・ユキヤ君。我がネルガル重工が社運を賭けて建造した最新鋭宇宙戦艦、その名も機動戦艦ナデシコ。そのパイロットとして貴方をスカウトしたいのです。貴方が乗る試作型エステバリス。ええと、あのコードネーム機、《アルトアイゼン》と共に」

「エステバリスMk-IIIですっ!!」

 

 マリオンはプロスペクターの台詞を強い口調で遮った。それにプロスペクターは、ですからそれはトライアルに合格されたら、という事でしょうに……小声で呟いていたが。マリオンはアルトアイゼンというコードネームを嫌っている。まぁ、その意味がドイツ語で言う“古い鉄”転じてクズ鉄とも呼べるコードネームなのだから当然だが。自分の造り上げた機体に絶対の自信を持つマリオンにとって、そんな不名誉な名で呼ばれる事は我慢ならなかった。

 そもそも、そんなコードネームを付けられる経緯となったのはこの機体の設計コンセプトに寄る所が大きい。

 『絶対的な火力を持って正面突破を可能とする機体』という設計コンセプトの元、過剰ともいえる改造を施したのがアルトアイゼンだ。

 現在、ネルガルで量産化が推し進められているアサルトピットというコックピットブロックを中核としたフレーム換装によって陸海空、全ての環境に対応する汎用性を得た1番機。これがネルガルで正規のエステバリスと呼ばれている機体群となっている。

 対してアルトアイゼンはフレーム換装の無い重装甲フレームである試作3番機を母体とした機体だ。本社の人間がこの機体の量産化を決定すれば晴れてこの機体はエステバリスMk-IIIと呼ばれる運びとなるのだが……その設計コンセプトが余りにも古臭すぎる。前時代的だという評価を受けてしまい未だ、この機体はユキヤが乗る一機のみしか存在していなかった。

 最も、ユキヤはそのコードネームも含めてアルトアイゼンの事はそれなりに気に入っていたので、マリオン程、気にしていなかったのだが……

 

「……ネルガル本社で新造戦艦が開発されているという噂は私も耳にしていました。それがナデシコという事ですわね。民間企業が戦艦を建造している問題に関しては……今更ですわね」

 

 軍への根回し、その他諸々済ませた後、という事なのだろう。そういう会社だ。マリオンもだからこそ、ネルガルで人型機動兵器の開発を行う道を選んだのだから。……自分が開発に関わった部品等も恐らく建造に使用されているはず。本社から降りてくるいかにも戦艦に使いそうなパーツの開発依頼はこれだったわけだ。問題はこの艦の目的だ。

 

「それで、これだけの艦を造って。私のMk-IIIをパイロットごと持っていって、あなた方は何を企んでいるのです?」

「いやはや、耳の痛い事で。実は木星蜥蜴によって占領された火星に取り残された人々、我が社の研究施設、重要なデータを回収しようという計画が立案されているのです。その名はスキャパレリ・プロジェクト! この計画を成功させるには優秀な人材が多数、必要となります。で、ありまして貴方以外にも大勢のクルーを私どもネルガルはスカウトしているのです、ハイ」

 

 西暦2195年――木星から謎の兵器群が飛来、火星への侵攻を開始した。木星方面からやってきたそれらは木星蜥蜴と呼称された。地球連合は火星軌道上で迎え撃つものの、圧倒的な技術力の差によって敗退。そのまま、月まで勢力下に収められてしまった。それから一年。地球にまで木星蜥蜴の魔の手は伸びてきており、地球連合は、目下、それらと戦争中となっている。というのが現在の状況だ。

 成程、軍の正規のパイロットを引き抜くのは容易な事ではない上に、まず連合自体が手放したがらない。それで――優秀ではあるがネルガルでも若干、扱い兼ねているラドム博士とアルトアイゼン。そのパイロットである自分にお鉢が回ってきたという事か。ユキヤはチラリと隣に腰掛けているマリオンに視線を寄こした。

 

「直接、行くのは貴方ですわ、ユキヤ。自分で決めなさい」

 

 マリオンからすぐさま、返答が返ってくる。自分の返答によってアルトの調整も完璧にこなしてみせる――言葉にしなくてもマリオンの目がそう言っていた。それにユキヤはテーブルの上に置かれたコーヒーカップ。その黒い液面に目を落とした。映った自分の顔がむっつりとした表情を浮かべている。……確かに悪い話ではない。このまま、連合軍の何処かの部隊で実戦データを収集するとしても、正直、アルトはじゃじゃ馬扱いされる事になるだろうとユキヤは心の奥底で思っていた。

 ならば同じ会社であるネルガルの戦艦の方がアルトをマトモに運用できるのではないだろうか? 後は自分が見知らぬ人達が大勢いる戦艦の中でうまくやっていけるかどうかだが。これは手探りでやっていくしかない。自分も自立するべき時が来た、という事なのだろう。

 この六年間、マリオンは貴重な研究の時間を割いてまで自分を育ててくれた。その恩に報いる為にも、アルトが実戦でも十分戦果を挙げられる機体だという事を証明してみせたい。自分とてアルトアイゼンにはこの一年、乗り続けてきたのだ。愛着がある。それに何より、自分には強くならなければならない理由があるのだから。来たるべき時が来た時の備えとして。しかし……

 

「ユキヤ、貴方はもうどこへいっても充分にやっていけますわ。何より、貴方自身もMk-IIIに賭けてみたいという想いがあるのでしょう? ――見せつけておやりなさい。貴方と私のMk-IIIを」

 

 ふと、響いてきたマリオンの声に沈思黙考していたユキヤは顔を上げて横に今一度、目を向けた。そこには不敵な笑みを浮かべたマリオンの姿。どうやら自分が何に悩んでいるのか、この人には当にお見通しらしい。その上で、貴方ならば出来る。と背を押してくれている。……ユキヤの肚は決まった。

 

「――わかりました。その話、お受けします。乗りますよ、その機動戦艦ナデシコに」

「……ありがとうございます。ユキヤ君、それにラドム博士も。では、此方が契約書になりますのでよくお読みになられて下さい」

「プロスペクター、そのナデシコが出航するのはいつになるのですか? 此方としても色々と準備がありますので、聞いておきたいのですが」

「はい、一週間後、サセボ基地にあるネルガルドッグから出航となりますので、それまでに来ていただければ」

「一週間……なんとか、間に合うか? プロスペクター、Mk-IIIの搬入は出航当日でも構いませんか? どうしても持たせたい物があります」

「は、はぁ………ナデシコの艦載機となるエステバリスなので、なるべく早く搬入して頂きたいというのが本音なのですが……分かりました。しかし、出航当日にはなんとしても間に合わせて頂かなければ困りますよ?」

「ええ、出航には絶対に間に合わせます。それだけは確約しますわ」

「かのマリオン・ラドム博士の言葉です。信用しましょう」

「ユキヤ、Mk-IIIの実機を使った訓練スケジュールは、全てキャンセルします。明日からシミュレーターを使っての訓練で、ありとあらゆる状況を想定したミッションをこなしてもらいます。私はMk-IIIを実戦に則したチューニングへと変更しますわ。ギリギリまで調整しますから」

「はい、ラドム博士」

 

 契約書を熟読しながら、ユキヤはマリオンの言葉に返答した。こうして、ユキヤとアルトアイゼンの新しい職場、機動戦艦ナデシコへの異動が決定したのだった。




相方の白騎士は出そうか出すまいか、迷い中です。
ナデシコの出番は次回になります。
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