機動戦艦ナデシコ -Shoot it in the steel-   作:古鉄の夜

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すみません、今回は短めです……。


第七話 艦長と『お葬式』

 火星に向かって進んでるナデシコ。新しく加わったパイロット達も期待通りのバカばっか。……私も人のコト言えません。

 なーんか人間関係フクザツになってる人達もいて、唯一まともにやってくれてるのってあの人だけなんじゃないかな? でも、それが逆に心配になってしまう事も。ままなりません……。

 

 

 現在の宇宙艦船の殆どはシャトルも含めてほぼ、完璧な重力制御システムが搭載されている。これによってシステムの制御下である艦内ブロックは地球と同じ1Gの環境下で人間は過ごす事が可能となっている。無重力下に長く暮らす事によって起こる筋力の低下からの解放。地に足着いた生活を行える安心感。これらが人類の宇宙進出を更に推し進めたのは言うまでもない事実である——木星蜥蜴が現れるまでは。

 最新鋭の戦艦であるナデシコもこれは同様であり、加えてオモイカネによる自動航行制御によって非常時以外はクルーは自由に過ごせる。

 その間、ナデシコでは先日の隕石コロニー、サツキミドリ2号で亡くなった人達の葬儀が行われていた。ユキヤも艦内合同葬に出席した。

 戦艦に乗る以上、人の死と向き合う機会はこれからもあるだろう。だが、これを当たり前だと思ってはならない。人の死に慣れてしまえば、命の大切さを忘れてしまいかねない。ユキヤは亡くなった人達の冥福を祈った。

 今回は命を守ろうとする前に奪われてしまった。だが、まだ間に合う時、居合わせる事ができたならば……全力で守り抜く。

 

 ネルガル重工は亡くなった人の希望に合わせた葬式をする方針らしい。各国の風土、宗教にによって葬式の形式は様々の為、ナデシコの責任者であるユリカは神主等の代行としてそれらを取り仕切らなければならなかった。

 膨大な死者が出てしまった為、やってもやっても終わらないという状態。それにユリカは徹底的に精神を磨り減らす羽目になった。

 見知らぬ人とはいえ、葬式で手を抜く訳にはいかない。葬儀の形式を、その優れた頭脳に一瞬で叩き込んでひたすら葬式を執り行う毎日……。

 

 ユキヤはそんなユリカを少し心配しつつ、火星領域での戦闘に備えてエステバリス隊の面々と訓練、アルトアイゼンの調整を並行してやっていた。火星到着まで残り二週間。詰められる所まで詰めておかなければならない。

 そんなある日。そういえば、ホシノにオモイカネと話してみたいと言ってたんだっけ。色々あって、機会をずっと後回しにしてしまっていた。ユキヤは昨日の訓練データが表示されていたパソコンの電源を落とすと、自室からブリッジへと向かう事にした。

 

「ホシノ、こんにちは。今日も変わりないか?」

「あ、ミナヅキさん。こんにちは。ええ、時おり散発的な砲撃が来るだけです。ミナトさんなんて朝寝坊しちゃってます。……何かご用ですか?」

 

 ブリッジ中段。ルリのいつもの仕事場であるオペレーター席。途中、女性誌を読んでいたメグミに軽く挨拶を交わすとユキヤはいつものようにルリに声をかけた。それにルリも返事を返してくれた。その顔には少しだが笑顔が浮かんでいた。

 サツキミドリでの戦闘以来、木星蜥蜴の攻撃は様子見程度の長距離砲撃のみに留められていた。これはナデシコの性能を計る為、完全に制空権が確保されている火星までは本格的な攻撃はしてこないのでは、とルリは予測していた。

 ミナトの姿がブリッジに見えないのはその為か。まぁ、火星に到着すれば忙しくなるのは明白なのだから今の内に羽を伸ばしておくのも良いだろう。

 

 

「うん、邪魔でなければでいいんだけど、オモイカネに挨拶してもいいかな? いつか食堂で話したけど、色々あって先送りにしてたから……」

「あの時の事ですね、覚えてます。もちろん、構いませんよ。——オモイカネ。ミナヅキさんが貴方と話してみたいんだって」

『OK!』

『どうぞどうぞ』

『わーい』

 

 ルリの呼びかけにオモイカネは沢山のモニターを表示させていた。良かった、歓迎されてないというわけではないらしい。ルリが席を立ち、ユキヤにどうぞ、と着席を勧めてくれた。

 

「じゃあ……」

 

 ユキヤはオペレーター席に座り、コンソールに手を置くと自分のIFSでオモイカネにアクセスを行った。

 

『初めまして、オモイカネ。俺はミナヅキ・ユキヤ。……こんなに挨拶が遅れてしまって、ごめん』

『初めまして、ユキヤさん。気にしないでください。貴方が自分の仕事をしっかりしているのは知っていますから。

 私はオモイカネ。貴方の事はルリさんから良く聞いています。それでつかぬ事をお聞きしますが……ユキヤさん、ご趣味は?』

『俺の趣味だって? そりゃまた唐突だな。う〜ん……エステバリスに関する事全般かな。動作プログラム、機体整備、戦術理論とか。もちろん一番好きなのは操縦だな。だからパイロットをやってるんだし』

『……それは趣味といえるのでしょうか?』

『えっ? 違うのか?』

『ユキヤさんのそれは全て仕事に関する事柄です。趣味とは分けて考えるべきでは?』

『やっていて楽しい事なんだけどなぁ……』

 

 ——モニター上にミナヅキさんとオモイカネのやり取りが次々と表示されてます。

 良かった、二人とも仲良く話せてる。でも、ちょっとミナヅキさん困ってるみたい。オモイカネが初対面の人にあんなにズケズケとした物言いするなんて珍しい……。そんなに待ち遠しかったのかな?

 ミナヅキさんに助け舟を出して上げた方がいいでしょうか……。いえ、もう少し様子を見てみましょう。なんだかんだで楽しそうにしてますし。

 

『そうですね……ユキヤさん、ビデオゲームはお好きですか?』

『ゲームか? エステのシュミレーター……は違うんだよな。う〜〜ん、なんともいえないな』

『では私と友達になって一緒にゲームをしましょう!』

『え? これまたいきなりだな……まぁ、いいけど。それじゃあ後で一緒にゲームで遊ぼうか。それと、俺と友達になってくれるか?』

『もちろんです! ルリさんとも一緒になって遊びましょう♪』

『あはは、分かったよ。じゃあ、そろそろホシノに変わるから』

『はい。私のプライベートアドレスを伝えておきますね。今度からはコミュニケで私に話しかけてください』

『確認したよ。またな、オモイカネ』

『ばいばい』

 

 オモイカネとのやり取りを終えたユキヤはオペレーター席を立った。

 

「ありがとう、ホシノ。オモイカネと話させてくれて」

「……少し、オモイカネが困らせてしまいましたか?」

「そんなことないぞ。遊ぶ約束もしたしな。お前がいつか話してくれた通り、オモイカネは良い子みたいだな」

「なら良かったです」

 

 ブンブンと顔を横に振るユキヤにルリは安心したと笑顔を浮かべた。入れ替わりにオペレーター席に座るとそっとオモイカネにコンタクトを取ってみた。

 

——オモイカネ。ミナヅキさんとお話ししてみてどうだった?

《新しい友達ができました!》

——そう、良かったね。これからもミナヅキさんと仲良くしてあげてね。

《はい!》

 

 ルリは少し興奮気味に報告してくるオモイカネの様子に顔を綻ばせた。やっぱりミナヅキさんは優しい人ですね。オモイカネを単なるAIとしてではなく、ナデシコの仲間として見てくれる。

 ルリの心に温かいものが灯った。ユキヤと話している時によくある感覚だ。……なんでしょう、この気持ち? ルリは心の中で首を傾げていた。

 

「ふええぇえぇえぇぇぇ〜〜〜〜っっ……疲れたよう……」

 

 ——その時、ブリッジにくたびれきった艦長の声が響き渡りました。どうやら午前の分のお葬式が終わったみたいです。私はナデシコのシステムをオモイカネに預けてブリッジ上段に向かう事にしました。ミナヅキさんも一緒です。艦長卓にカオを預けてへたり込んでしまっている艦長を発見しました。

 

「艦長、アタマ」

「ふぇ……」

 

 艦長が被っていたカソックの帽子(十字架が描かれたあれです)が艦長が頭を傾げた途端、卓上から床へコロコロ〜と転がり落ちました。ミナヅキさんが律儀に拾って後の席、その端の方に帽子を置いてくれました。いつもはフクベ提督が腰掛けているシート席です。ミナヅキさんは少し心配そうな様子で艦長を見ています。

 

「艦長、本当に大丈夫ですか……?」

「うん、身体は全然大丈夫…………でも…………くたびれたよぉ〜〜うぅ〜〜〜〜」

 

 艦長、相当まいっているみたいです。いつもはヒマワリみたいなニコニコ笑顔を浮かべている人ですけど、今は完全に萎れちゃってます。ミナヅキさん、いよいよ心配になってきたのか「少し待っていて下さい。コーヒー淹れてきますから」とだけ言って、ブリッジから出てすぐ横にある給湯室へ入っていっちゃいました。

 

「……ユキヤ君、ありがとぉ〜〜。ねぇ、ルリちゃん。艦長って一体なんだろう……?」

 

 どうやら自分の仕事にまで疑問が出始めてしまったみたい。そんなコト私に聞かれても……。でもそれで艦長の疑問が解決されるなら。

 

「知りたいですか?」

「うん、知りたい……」

「直接、教える事は出来ませんが、データなら閲覧できます。いつごろの艦長にしますか?」

「あ、ここ100年でお願い……」

「オモイカネ、データ転送。ライブラリより検索、艦長の傾向と分析」

「ルリちゃん、すごい……」

 

私はオモイカネに頼んで艦長の正面にモニターを表示した。艦長も身体を起こして前に目を向けてくれました。

 検索画面に切り替わりました。……オモイカネならすぐに検索結果を出せるはずなのですが。デフォルメされたアルトアイゼンがチョコチョコ歩いていく背景。中央には『検索中』の文字。……オモイカネの仕業ですね。いつのまにこんなの作ったんでしょうか? 敢えてこーいった演出をしてくれてるみたい。

 

「出ました。最近の艦長の傾向と分析。第二次大戦以降、名艦長と呼ばれる艦長は出現していない。現代の様に戦闘がメカニックによりシステム化した時代は、僅か一艦の長の決断に戦闘の優劣を決める程の力はない。

 艦長は、戦艦のシンボルになるような象徴、ないしは戦闘員の不平不満を気持ち良く吸収する役目が取れればよい。旧年は頼りになりそうな冷静沈着な老人タイプが多かったが、若者にやる気を持たす為、美少年タイプ、美少女タイプの艦長も多い。要するに現代は作戦能力や決断力等の本質的な意味での艦長は必要としないのである」

「それってどおいうこと……? それって……それって……?」

 

 艦長の目の焦点が虚ろになってます。……ま、つまるところそれは今、艦長が薄々感づいてる通り……

 

「それって早い話、誰だっ「あの、艦長。ちょっと聞きたい事があるんですけど……」

 

 メグミさんが止めの一言を放ちそうになったその時、割り込むカタチでミナヅキさんが艦長に尋ねました。

 

「お、おお~ユキヤ君。何かな? 何を聞きたいの?」

「あ、その前にこれ。俺が淹れたコーヒーです。砂糖とミルクもありますから、よければどうぞ」

「あ、ありがと~。私、ブラックのコーヒーはちょっと苦手で……お砂糖とミルク使わせてもらうね」

「はい、どうぞ」

 

 カップを上に乗せたソーサーを艦長卓に静かに置くミナヅキさん。……手馴れた仕草です。艦長は砂糖とミルクをコーヒーに入れて、ソーサーの上に置かれてたスプーンを使ってゆっくりかき混ぜた後、一口、すすりました。

 

「……はぁ~、美味し~い♪ ケーキとか甘いもの欲しくなっちゃう! ユキヤ君、コーヒー淹れるの上手なんだね」

「研究で大変な思いしてるラドム博士によく作ってあげてましたから、慣れました」

 

 笑顔一杯になった艦長にミナヅキさんもにっこりと笑顔を返してます。

 ……私もミナヅキさんのコーヒー。ちょっと飲んでみたい、かな? でもどうやって頼めば……いきなりコーヒーください、なんて恥ずかしくて言えません。

 

 「あ、それで聞きたい事の内容なんですけど……俺達、エステバリスのシミュレーター訓練してる真っ最中で。予想される火星での戦闘のシミュレーションデータ。ラドム博士が作ってくれたものなんですけど、それを全員でクリアしようと頑張ってる所で……」

「うんうん、それで?」

「俺達はあくまでパイロットです。だから、実戦での部隊運用で甘い所があるんじゃないかと思うんです。……そもそもナデシコには戦略の専門家(スペシャリスト)である艦長がいるんだから、俺達がやってきたシミュレーションデータを見て、意見を聞かせてもらいたくって」

「なるほど~。じゃあさっそくデータを見せてもらえる?」

「はい、これなんですけど……」

 

 ミナヅキさん、ズボンの後ろポケットから端末を取り出すと液晶ディスプレイをタッチ。艦長の前方にモニター画面が表示されました。

 

「ふんふん。ここはヒカルちゃんにちょっと引いてもらって援護射撃に専念してもらってからユキヤ君とリョーコさんに前へ出てもらって――」

「あ。じゃあ、ここはアキトさんに時間差で俺達の後ろを追う形で突撃(チャージ)をかけてもらった方が――」

「待って。それならイズミさんに……」

 

 ミナヅキさんと艦長。モニターと睨めっこしながら、あーでもないこーでもないと意見を交わしつつ、エステバリス隊の部隊運用について話し合ってます。とはいえ、さすが艦長。連合宇宙大学戦略シミュレーション主席卒業の肩書は伊達じゃありません。まるで敵の動きが全て分かっているみたいにエステバリス隊各機を的確に動かして隊の損耗を最小限に抑えながらクリアしてみせてます。ミナヅキさんも最初はある程度、艦長と同じ様に口を出してましたけど、艦長の先々を見通した戦略眼に今は同調するのが精一杯という感じ。

 ……でも、ちょっと二人とも、顔、近くないですか……おでことおでこがくっつきそうになってるんですけど。熱中してる艦長とミナヅキさんは気付いてないみたい。……なんでしょう、胸の奥がざわつくようなこの感覚は……艦長とミナヅキさんの仲が良いって知ってるハズなのに……。

 

「で、この局面はアルトが突貫して敵陣中央でクレイモアを発射。敵機の数を一気に減らして——」

「待って。それはまだ早いよ」

「……何故です? ここは皆の負担を速く減らす為にもアルトが中央突破仕掛けた方が良くないですか? アルトなら敵機の攻撃がある程度集中しても、充分、持ち堪えられます」

「うん、でも隊の二時方向を良く見て。他の敵群から離れてこっちに来てる敵機がいるでしょ? あれにエステバリス隊の側面が取られたら突破をかけたアルトアイゼンの援護を他のエステバリスが出来なくなっちゃう。

 いくらアルトが頑丈だからって避けられるリスクは避けなきゃ逆にエステバリス隊を危険に晒しちゃうよ。

 だからここは少し辛抱して、あの近づいてくる敵機を確実に撃破してからアルトが突破を掛ける。他のエステの援護をしっかり受けられる状態でね。それがベストなんだよ」

「……は〜〜っ。俺もまだまだだな。やっぱり専門家の艦長には敵わないや」

「ユキヤ君もパイロットとしてはすごくレベルが高いよ。このまま頑張れば現場の部隊指揮官としてやっていけると思うけど……。

 う〜〜〜ん、ユキヤ君。困った時って突撃してなんとかしようとしたくなっちゃうのかな?」

「……ッ!? はい、やっぱり俺の一番自信がある戦術といえば敵陣の中央突破なので(見透かされた……?)」

「それは乗ってる機体がアルトアイゼンだからかな?」

「そう……ですね。というより俺が実戦で戦果を上げられる。生き残れる確率の高いと思える戦術が近接格闘戦(クロスコンバット)なので……それはアルトに乗る前からそうです。多分、ラドム博士は俺の性向を見越してアルトのテストパイロットに推薦してくれたのだと思います」

「うん、自分の得意とする戦術があるのはとても良い事だよ。でもそれをやる前にもう一度周りを見渡してみてもいいんじゃないかな?

 自分を抑える……というより周囲のチームメンバーと息を合わせると言った方が良いかな。そうすればユキヤ君とアルトはもっと強くなれると思う」

「やっぱり艦長は凄いです。今は亡くなった人達のお葬式で大変だと思いますけど……俺はナデシコの艦長はミスマル艦長しかいないと思っています。

 サツキミドリの時、艦長の指揮がなかったら俺は素早く配置に付けなかった。それに艦内に侵入者が出たと報告があった時も焦って勝手な行動を取ってしまっていたかもしれません。

 俺は一般論としての艦長ではなく、目の前にいるミスマル艦長を信じます。クルーの皆だって、分かってくれている筈です。艦長が下した決断ならば俺は迷わずついていきます。だから……自信を持ってください」

「あ、あ、ありがと〜〜〜! ユキヤ君! 私……わたし、うれしいよ〜〜〜っっ!!」

 

 艦長、ミナヅキさんの右手を両手で取って、おでこにくっつけて感激してます。……胸のざわつきがますます強くなってきました。私は思わずミナヅキさんの手を掴んで艦長から離そうとしてしまいました。

 

「艦長。ミナヅキさん困ってますよ。嬉しいのは分かりますけど……もうちょっと加減してください」

「あっ! ごめんね、ルリちゃん! ユキヤ君。もしかして手、痛かった?」

「い、いえ、そんなことありません。艦長が元気になってくれて良かったです」

「う、うん。じゃあ、もう少し続けようか。……それにしてもアルトって既存の兵器とはやっぱり違うなぁ~。あ、アルトを馬鹿にしてるわけじゃないからね」

「いえ。時代に逆行してるとか、前時代的だとかよく言われてましたから。そもそも、アルトアイゼンが突貫機という決着を急ぐコンセプトなのは木星蜥蜴のチューリップに対するカウンターとしての意味合いもあるんです」

「ふんふん、それで?」

 

 頷く艦長にミナヅキさんは説明を続けます。現在、地球連合軍が木星蜥蜴に苦戦している大きな理由としてチューリップに搭載されている無人兵器の収容数が多い……いえ、多すぎるからだと言われてます。

 明らかに艦内体積以上の無人兵器を吐き出してくるんですから軍からしたらたまったものじゃありません。そのせいで消耗戦を強いられてジリ貧となってしまう。それが連合が苦戦している理由です。

 チューリップを速やかに撃破する為に、汎用性のある機体ではなく、いっそ突破力を極限まで高めた機体でチューリップへの血路を切り開く。そして対艦装備を持つ機体や戦艦の主砲で破壊して後続を断つ。然るのち、残存戦力を各個撃破していく事で結果的に自軍の兵の損耗を防ぐ。

 その戦術ドクトリンを実現すべくアルトアイゼンには人型兵器として破格とも呼べる突破力と火力が持たされている。それがラドム博士がアルトアイゼンを開発した理由だそうです。

 

「……艦長はどう思いますか? ラドム博士の考えを」

「え? う〜ん。斬新な考え方だな〜と思うよ。でも、今の連合の戦略だとやっぱり汎用性のあるエステバリスの方が採用されてしまう、かも」

「やっぱり、そうですよね……」

「エステバリス自体、まだそこまで連合に普及してる兵器じゃないからね。通常兵器の延長として運用できる機体の方が昔からの指揮官からするととっつき易いんだよ。私は戦略に組み込めるけど……」

 

 

 このユリカの発言は別段、他の連合軍人、既存の指揮官を下に見ているという訳ではない。自分の力量ならばアルトアイゼンの運用も可能だと考えているからであり、全く自然な判断であったのだ。

 天才にカテゴライズされ、まだ年若いユリカは柔軟な思考で戦略を考案する事が出来る。普通は何度も検証してからようやく実戦に出せる様な新機軸の兵器群をユリカは持ち前の“直感”で効果的に運用してみせた。最も、これはナデシコが民間の戦艦だから成せる技でもあったのだが。アタマの固い軍人ばかりの部隊であったらこうはいかなかっただろう。

 事実、ユリカはこの先、アルトアイゼンに代表される極端な性能を持つ機体、兵器群を運用する作戦を幾つも考案、戦果を上げてみせていく。そして後に“蜥蜴戦争”と呼ばれるこの大戦に於いて連合軍史に名を残す名艦長として“エステバリスを組み込んだ新戦術、戦略発案の母”と呼ばれる程に成長していくのだが……それはもうちょっと先の話であった。




一般的な連合軍指揮官が見たアルトアイゼン→ん? なんだこのポンコツは。こんな欠陥兵器、前線に出せるか! あまり戦局に影響の出ない戦場に適当に出しとけ。

ユリカが見たアルトアイゼン→ふむふむ、こういう機体特性なのかー? だったらこうやって運用すればいいよね♪ ……火力も突破力もあるからエステバリス隊の先鋒に最適。しかも装甲も厚いから私も安心して見てられるね! もう手放せなくなっちゃった♪

既存の安定した戦略、戦術に固執してしまうのが通常の指揮官。機体特性を見てサッサと自分の戦略に組み込んで最適な運用法を編み出してしまうのがユリカ。正に柔軟思考のカタマリ……。
その為、ユリカに戦略、戦術の基礎を教えた父、コウイチロウからもなんとも型破りな指揮を執る娘だ。と評価されてしまっている。
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