機動戦艦ナデシコ -Shoot it in the steel- 作:古鉄の夜
「ん……ふああ〜、よく寝たぁ。さて、昨日は疲れてたから、飯は自販機で適当に済ませちまったし……今日こそ、食堂に行ってみるか。テンカワさんもいるだろうし」
ベッドの上で半身を起こしたユキヤはうーん、と背伸びをするとそこから抜け出した。
洗面所に向かうと、蛇口をひねり、洗顔をすませる。そして鏡に映る自分の顔を確認する。顔色に問題はない。その
ユキヤは寝間着から着替える為に制服を手に取る。さっと着替えを終えると、ケースから黒のコンタクトレンズを右目、左目の順にはめていく。……もう何年もやってきた事だ。両目ともに付け終えるまで十秒もかからない。黒目となり、コンタクトのずれが無いのを鏡で見て確認すると洗面所を出る。
机の上に置かれたコミュニケを左手首につけるとユキヤは自室を後にした。
「……朝飯の前に格納庫に行ってアルトの様子を見ておくかな、やっぱり」
ナデシコの白い清潔感のある廊下を歩きながら、格納庫に続く通路を見たユキヤはふと呟くと、愛機が置いてある格納庫へと足を向けた。
「おお、綺麗に直されてら……」
アルトが固定されているハンガー。メタリックレッドで塗装された重装の機体を見上げたユキヤはそう呟くと周囲を見回し始めた。機体各部の装甲の組付けに問題は無い。次いでユキヤは機体によじ登るとコックピットハッチを開くと中に潜り込んだ。シートに座ると、IFSスフィアボールをグリップ。システムを立ち上げると各部チェックを開始する。リボルビングステーク、三連マシンキャノン、両肩部スクエアクレイモア。全弾装填済み。各関節、電装系、その他諸々、全て異常なし。コンディションオールグリーンだ。いつでも戦場に出れる――
「おおーいッ! なんだなんだ、誰がアルトアイゼンに乗ってんだ!? 出撃はかかってねぇーだろッ!?」
突如、機体の外部マイクが外の人間の声を拾った。この声は整備班のウリバタケ・セイヤだ。アルトが起動しているので、慌てて見に来たのだろう。ユキヤは外部スピーカーをIFSを介してオンにするとウリバタケに呼びかけた。
『ウリバタケさん? 俺です、ミナヅキですよ』
「ミナヅキ? おめぇー、どうして乗ってんだ。なんかあったか?」
『アルトの各部チェックの為にちょっと……もう、降りますんで』
機体システムを閉じるとコックピットハッチを開いてユキヤはウリバタケの前にジャンプして降り立った。
「アルトの機体状況バッチリです。整備ありがとうございます。初見の機体だというのに流石ですね。プロスさんが言ってたナデシコのクルーは一流だというのを実感しましたよ」
「お、おう。まぁ、昨日の戦闘見てりゃあ、これから先ミナヅキのエステ――アルトアイゼンがナデシコの主力機になるだろーしな。いざという時に速やかに整備を終えられるように整備班全員でしっかり整備計画煮詰めながらイジらせてもらったぜ。アルトが比較的、整備しやすい機体だったというのもあるが……」
「アルトはどうしてもある程度、被弾する事が前提の運用になりますからね。整備しやすさも重点に置かれた基礎設計になっているとマリオン・ラドム博士――この機体の開発主任だった人が言ってましたよ」
「なるほどなぁー。初めて見た時は、なんつー馬鹿げた浪漫機体だと思っていたが、俺ら整備の人間の事も考えたマシンとして造られてるってワケかぁー。いっぺん会ってみたいもんだな、そのマリオン・ラドム博士に」
「ええ、ウリバタケさんなら、ラドム博士も会ってくれると思いますよ。なんなら俺の方から今度、ラドム博士に連絡入れますから」
「お? じゃー、時期が来たら頼むとするかぁ。宜しくたのむぜ、ミナヅキ」
「ええ、都合がついた時にでも言ってください。じゃあ、俺は食堂で朝飯、食べてきますので」
「おお、じゃーな」
お互い、手をヒラヒラ振りながらユキヤとウリバタケは別れた。やはり、ナデシコの整備班は優秀だ。あの人達なら安心して愛機を任せられる。ユキヤは満足しながら食堂に向かっていった。
「――俺は、俺はな。真相次第じゃお前だって殺す。殺すかもしれない」
「えっ……? テ、テンカワさん。な、なにを言ってるんですか……? 今、俺の耳がおかしくなっていなければ――艦長を殺す、と聞こえたんですが……い、一体、何が?」
「「ユ、ユキヤ君!?」」
ユキヤがその場を目撃したのは半ば偶然だった。食堂について、いざ、何を注文しようかと悩んでいた所、何やら真剣な表情で話し合っているアキトとユリカを目撃したのが切欠だった。悪いと思ったが、アキトがあまりに真剣な様子だった為、どうしても気になったユキヤは二人にゆっくり近づいて聞き耳を立ててみた所、アキトの先の発言を耳にしたのだ。
……とても聞き過ごしていい言葉ではない。ユキヤは何かの間違いではないかと二人に目配せした。
ナデシコ艦長ミスマル・ユリカはこの状況を冗談などで済ませていい事ではないと即座に判断した。このまま、なあなあで方づけてしまったらアキトとユキヤの間に良くない事が起こると直感した。頭脳をフル回転させて解決策を考案する。夢見がちな少女の様な天真爛漫さによって隠れがちだが、元来、ミスマル・ユリカという女性は非常に聡明な頭脳の持ち主だ。地球連合大学の戦略シミュレーションを主席で卒業する才女であり、また、物事の過程をすっ飛ばして解法を導き出す直感力も兼ね備えている。その直感力から来る人間観察能力も人一倍高かった。
その直感が言っているのだ。ミナヅキ・ユキヤという少年は今の事態を決して軽く考えたりしない。場合によっては力ずくでアキトを止めにかかろうとするだろう、と。
昨日の自己紹介の時も感じたがアキトとユキヤはとても仲がいい。アキトにとっては命の恩人であるし、なにより、ルリへの誠意に満ちたあの言葉。……個人的にもとても好ましい少年だ。アキトとは一回り、歳は離れているがきっと時が経てば親友といえる間柄になるのではないか? そうユリカは感じていた。だからこそ、今の事態はとても楽観視していい事ではないと確信できた。……このままでは二人が仲違いを起こしかねない。それはクルーを守る艦長として、大切な男性を持つ女性として、この少年より多少、長く生きた大人として絶対に避けなければならない事態だと。
「アキト! ユキヤ君! 私の部屋に行きましょう。艦長室でちゃんとお話させて。ユキヤ君、お願い。私とアキトの話をまず、聞いてほしいの。結論を急がないで、お願いだよ……」
急ぎ、ユキヤの手を両手で握りしめると、必死に訴えるユリカ。ユキヤはユリカのその様子に動揺しながら、アキトを見た。アキトはさっきの言葉を他ならぬユキヤに聞かれてしまった事で何を言えばいいのか分からずパニック状態になってしまっていた。
ユリカは左手でユキヤを掴んだまま、少し強引に引っ張ると右手でパニックから抜け切れていないアキトの手を取り、そのまま、食堂から出ていこうとした。
「お、おおい艦長。そんなおっかない顔してテンカワとそのボーヤ連れてどこ行くんだい!?」
このナデシコ食堂を預かるシェフであるリュウ・ホウメイが三人のその行動に吃驚しながら訪ねてくる。
「すみません、ホウメイさん。今、私とアキトのケンカでユキヤ君を誤解させてしまったので、ちょっと私の部屋にいって三人で話し合ってきます。後で、私からも謝罪をさせて頂きますので、今だけは許してください。お願いします」
二人の手を握りながらも、ユリカはホウメイにバッと頭を下げた。ユリカの真剣そのものの様子に何かを察したのかホウメイはすぐに許可を出した。
「……分かった。しっかりと話し合ってきな」
「ありがとうございます。行こう、アキト、ユキヤ君」
「あ、ありがとうございます。シェフ」
「す、すみません……」
ユリカのその姿に動揺が治まってきた二人はなんとかホウメイに返答すると、ユリカに引き摺られるように廊下に出た。成人男性の身体を持つアキトと、子供とはいえ、パイロット教育を受け、それなりに鍛えているユキヤを引いて歩けるユリカの腕力。女の細腕とはいえ、良く鍛えられている。やはり、連合宇宙大学でプロの軍人教練を受けてきたのだという事がそこからも窺える。
「か、艦長、分かりました。艦長とテンカワさんの話、しっかり聞かせてもらいますから、一度、手を放してください!」
「そ、そうだぞ、ユリカ! 逃げたりしないから放せって!」
「……本当? 二人とも……」
二人を引いて廊下をずんずん歩いていくユリカ。通りすがりのクルーがなんだなんだと見ているが、ユリカの真剣そのものの表情に何も言えず、黙って見送っていく。たまりかねたユキヤとアキトの声にユリカが一度、足を止めると不安そうに後ろの二人を見た。
「はい、もちろんです」
「お、おお……そうだ」
ユキヤはユリカを安心させようとしっかりと頷く。アキトはユリカの見せる気弱そうな姿に若干、ドギマギしつつ、首をなんとか縦に振った。そして、次の瞬間、ユリカの腕のコミュニケにブリッジのメグミから通信が入った。
「良かった……」
『艦長……アレ? アキトさんとユキヤ君も一緒にいるんですね。至急、ブリッジまで、ユキヤ君と一緒にきてもらえますか? 重大発表があるそうなんですが……』
「ごめんなさい、メグミちゃん。今、アキトと一緒にユキヤ君とどうしても話さないといけない事があるの。だから発表には遅れるって皆に伝えてもらえるかな……?」
『いやー、それは困りますな、艦長。ナデシコの行く末に関する重大な事案なので艦長には来て頂かないと困るのですが……』
「本当に申し訳ありません、プロスさん。お叱りも罰もしっかりとお受けします。だから今、少しだけ時間を貰えませんか……?」
『そこまでの……一体何があったのですか?』
「それは……」
ユリカはアキトの両親の死についての事。そして、あの発言がアキトのナデシコでの立場を悪くしてしまう事を考えて、新たに通信を入れてきたプロスペクターに対して口に出せなくなってしまった。それを見たユキヤは画面向こうのプロスペクターに対して頭を下げた。
「プロスペクターさん。その、事情については艦長とテンカワさんの名誉に関わる事なので、出来れば聞かないであげてもらえませんか? 罰ならば、俺も艦長と一緒に受けます。だから、どうか……」
「すみません、プロスペクターさん、俺からもお願いします。俺もユリカ、いや艦長とユキヤ君と一緒に罰を受けますのでどうか、時間をください」
『ユキヤ君にテンカワさんまで……』
『分かった。三人でしっかりと話し合いたまえ。ただし、話し終えたら速やかに艦長とミナヅキ君はブリッジまで来るように』
『て、提督!? いや、しかしですな……』
ユリカとユキヤの二人にだけ頭を下げさせてはいけないとアキトもプロスに頭を下げた。三人のその様子に困り果てたプロスペクターだったが、そこへフクベが助け船を出した。
『プロスペクター君。我々、大人には大人の事情があるように、若者には若者の事情というものがあるのだよ。立ち入ってはいけない領分というものは存在する。それに艦長、ミナヅキ君、テンカワ君は昨日の戦闘に置ける勝利の立役者だ。三人の人柄も充分、信頼に値する。ならば……ここは見守ってやろう。大人の忍耐力とは若者の成長を助ける為に備わっているのだから』
提督であるフクベの年経た者だけが持つ深い見識。それにプロスペクターも黙り込む。よくよく考えた末に「……分かりました、発表を少し、遅らせましょう」と溜め息と共に言葉を吐き出した。
「「「ありがとうございます、提督、プロスペクターさん」」」
三人はそんな理解ある大人達に深く、頭を下げた。
「ここが私の部屋だよ。入って」
「失礼します」
「し、失礼します……」
――艦長がカードキーをスリットに通し、部屋の扉を開けました。ミナヅキさんが真剣な表情で、テンカワさんはおずおずと艦長室にそれぞれ入室していきます。
……私は、この日。いつも通りに朝起きて、朝食を摂り、ブリッジのオペレーター席に座りました。今日、ミナヅキさんに会った時、どんな話をしようかと頭の片隅で考えながら。……それを楽しみにしている自分を意外に思いながら、仕事をしていました。
だから、プロスさんから重大発表があるという話が出て、メグミさんが艦長にコミュニケ通信を入れた時、あの艦長が真剣そのものの表情でテンカワさんとミナヅキさんと話があるので発表に遅れると聞いた時、ホントにビックリしました。あの脳天気な艦長があんなに必死に頼み込む姿を見る事になるなんて思ってもいませんでした。テンカワさんとミナヅキさんが一緒に頭を下げる姿にも……
ミナヅキさんの口調だと艦長とテンカワさんの間で何かあったのをミナヅキさんが聞いてしまった様子でしたが……
「艦長があんなに真剣になるなんて……一体、テンカワさんとユキヤ君との間に何があったんだろう?」
「メグちゃん、そこは聞かないであげよう? 提督も言っていたけど、人には踏み込んじゃいけない事情もあるのよ」
「そうだね。レイナード君、ハルカ君。ここは儂に免じて追及は避けてあげてほしい。それに三人のあの様子……ある程度、結論は出ているのだろう。そう悪い事にはなるまい。後で、どうしても問題になりそうだと感じたその時は、儂が個人的にあの三人から話を聞こう。プロスペクター君、気を揉ませてしまって悪いが、そこを理解してあげてくれないか?」
「……まぁ、若い人達が艦内で暮らしていれば何かしら起きるかもしれない、とは私も予想しておりましたからなぁ。そもそも、ナデシコは軍艦ではありませんし。当人達の話し合いで解決できるのならば、それが一番良いのでしょう。むしろ、不和の芽が早期に見つかったというのであれば、僥倖とみるべきかもしれません。承知しました、提督」
「……はい、分かりました。提督、私も聞かないようにします」
メグミさんの疑問にミナトさん、提督は大人として若者を信じて見守るべきだ、というスタンス。プロスさんも問題が早く解決できる機会が来たのならそれに越した事はないって考えみたい。メグミさんも納得してくれました。
でも、私は……気になります。艦内監視システムにオモイカネにリンクしてアクセス。三人の姿を他のブリッジクルーから見れない自分の膝の上にモニターを表示する。そして、艦長室に入室していく三人を見ました。
――艦長室。各クルーに割り当てられた部屋の中でも最大レベルのプロテクトが施された部屋です。
ナデシコのほぼ、全てのシステムにオモイカネを通じてアクセスできる私でもおいそれと覗いたりする事は出来ません。クルーの中でも最重要幹部であり、機密……あっ、社内秘となる重要な情報を扱う事になる艦長の部屋ですから当然ですけど。艦長はそれを見越してミナヅキさんとテンカワさんを自室に招いたのでしょう。ここなら他人に聞かれたくない話も安全に話せます。
でも、艦長室……女性の部屋にパイロットとコック兼臨時パイロットを、それも昨日会ったばかりの男性二人を入れるなんてちょっと尋常じゃありません。艦長はテンカワさんと昔からの知り合いみたいだから信用してるのかもしれないけど、ミナヅキさんは……まぁ、子供ですし、そこまで警戒する必要もない、と思って入れたのかな。二人とも良からぬ事をしようとか考える人達とは思えませんし。そもそもマジメな話をする為なんでしょうから。
――オモイカネ、艦長室のプロテクトを解除、室内の映像を見せて。艦長達にバレないように。
《非推奨。重大な規定違反になります。最悪、ルリさんがナデシコに居られなくなる可能性も……再考をお願いします》
オモイカネ。ナデシコに積まれている
オモイカネは素直で論理的でとってもいいコ。ただ、キャンセルしたデータを何処かに残してしまう変なクセがあるけど。……大切なお友達です。今も違反を犯してまで艦長室を覗こうとしている私の事を心配してくれてます。でも……
――それでも、お願い。こんな事、もう二度としないから。今回だけは私の言う事を聞いて。
《……分かりました》
三秒。AIとしては長すぎる時間をかけてオモイカネは私の頼みを聞いてくれました。ありがとう……私は何をやっているんだろう? こんな危険な事をしてまで三人の話を聞く必要があるのか。フクベ提督やミナトさんが言う様に何も聞かないのが人としての礼儀なのかもしれない。ふと、私の中の冷静な部分がそう指摘してくる。道理の合わない事をしている自覚はある。――でも、それでも知りたい。自分でもよく分からない衝動に駆られたまま、私は画面の向こうの三人の話し合いに耳を傾けました。
艦長の部屋は一般クルーのものと比べて立派な造りになっていました。室内は年頃の女性らしく綺麗にまとめられており、あちこちに艦長の私物らしき可愛らしい小物が置かれてます。ベッドにはいくつものおっきなヌイグルミがあります。
テンカワさんは知り合いのしかも若い女性の部屋に入った緊張感からか、見事に挙動不審になってしまっています。顔も真っ赤です。あちこちに視線を彷徨わせてしまっています。そしてミナヅキさんは……少し顔を赤くして、部屋をぐるりと見回していましたが、やがて、そんな自分を恥じたかの様に顔を潜めると、艦長とテンカワさんにのみ視線を固定しているように見えました。……なんとなく思っていましたが、生真面目ですね、ミナヅキさんは。艦長がプロスさんに事情を聞かれた時も真っ先に聞かないであげてほしいとこの人は頭を下げていましたっけ。
「二人とも、クッションあるからそこに座って。そうだね、紅茶でも淹れるから……」
「いえ、艦長。すぐにでもお話を聞かせてください。時間をもらっているとはいえ、皆さんを待たせてしまっていますから悪いです……テンカワさんもいいですか?」
「あ、ああ、分かったよ、ユキヤ君。それじゃ、ユリカ。座らせてもらうぞ」
「う、うん。どうぞアキト。それにユキヤ君も。私も失礼してっと」
艦長、ミナヅキさん、テンカワさんが動物の形をしたクッションにそれぞれ腰を下ろして三角形を形成されました。暫く沈黙した後、ミナヅキさんがまず口を開きました。
「それで、まずはどうしてあんな話になったのか、経緯を教えてもらってもいいですか?」
「ああ、それは……」
「アキト、まず私から話すよ。最初から話さないとユキヤ君、わからないと思うし」
「……分かった、ユリカ、頼む」
感情的な話し方をしてしまうテンカワさんでは上手く伝えられないと判断したのか、艦長がまず、話を進めてくれるみたいです。普段、艦長を邪険にしてるテンカワさんもここは艦長を頼ってます。非常に珍しい光景です。でも、今の艦長は私達が今まで見てきた姿とは全く違って見えます。遊びがない、というか理知的で聡明な面が現れているような。いつもこんな感じだったらクルーの皆さんからもすぐにでも信頼されそうなのに。
「まず、私とアキトは小っちゃい頃、火星に住んでてね。家がお隣同士だったからよく遊んでたの、仲良かったのよ」
「……テンカワさんから、少し聞きました。ユートピアコロニーで暮らしてたんですよね?」
「アキト。ユキヤ君に昔の事、話したの?」
「ああ、といっても後はコネクター付けた事くらいだけどな、話したのは。時間もそんなに取れなかったし」
「そう……それで、私、10歳の時に家の事情で火星から地球に移住する事になったの。私、地球に着いて落ち着いてからアキトに連絡を何度も取ろうとしたの。でも、繫がらなくて……
お父様から『テンカワの家は火星の事故で全員亡くなった』って聞かされて。もの凄くショックだったよ……だから、このナデシコに来てアキトと再会できてホントに嬉しかった! 沢山、お話しようと思ってアキトの部屋、尋ねたの。どうやって火星から地球に来たのか、おじ様とおば様――ご両親はどうなさっているのか、聞こうと、思ったんだけど……」
そこまで話していた艦長の口調が急に歯切れが悪くなり、テンカワさんに申し訳なさそうな目を向けています。テンカワさん、なんか怖い顔で目を下に向けています。というか睨んでいます。
「……あれは事故なんかじゃない。俺の親父とお袋は殺されたんだ。ユリカを空港に迎えにいった日に。俺は真相を知りたいんだ」
「……警察はなんと言っていましたか?」
「言ったさ! 親父とお袋は殺されたんだ! もっとちゃんと調べてくれって! 何度も、何度も何度も何度も!! でも、まともに取り合ってくれなかった!! なんでだよ!? 人が殺されたんだぞ! 俺の両親がっ! なんでっ……なんでっ……でも、気付いた。俺が刑事や警察にしっかり調べてくれって尋ねた時、奴ら、なんか妙に口籠ったり、視線を逸らしたりしてる事に。まるで、これ以上触れられたくないとでもいいたげな妙な態度だった。アレは……」
「――誰かが警察に圧力をかけてテンカワさんの両親の死をもみ消そうとした……?」
テンカワさんのまるで血を吐くかの様な叫び。ミナヅキさんはそれを受けて、顔を蒼白にしながら自分の予測を口にしました。考えたくありません。私もそんな人の死を無かった事にするなんて指示を誰かがやってたなんて考えたくありません。でも、テンカワさんはご両親を殺された当事者です。納得なんてできるはずがありません。テンカワさんはミナヅキさんの呆然とした声に首を錆び付いた金具を動かすようになんとか縦に振りました。
「そして、気付いた。ユリカの家は軍人の家系で父親はかなりのお偉いさんだった。あの日、ユリカが火星を発った直後、俺の両親は殺された。あまりに都合が良すぎる。もしかしたら、何か知っているんじゃないかって。元々俺はナデシコに乗ろうと思って乗った訳じゃない。両親の死についてユリカに尋ねる為にサセボ基地に来て、成り行きでナデシコのコックとしてプロスさんに雇われたんだ」
「だから、真相次第では艦長を殺す、と言って、いたんですね……」
ミナヅキさんがやっと……なんとか得心がいったというように呟きました。そして、艦長が口をつぐみ、ミナヅキさんがプロスペクターさんに事情を聞かないであげてほしいと必死に頼み込んだ理由が分かりました。……確かにこんな事、大勢の人の前で話せません。個人の事情にあまりに踏み込み過ぎています。今更ですが、私も後悔してきました。こんな、盗み聞き、なんて、してしまって……でももうやってしまった以上は取り消せません。ミナヅキさんも艦長も項垂れてしまっています。言葉が出ないのでしょう……でも、ミナヅキさんは決心したかのように顔を上げると、テンカワさんを見据えて口を開きました。
「その、これは、事件を外から見た第三者の意見としてテンカワさんに聞いてもらいたいんですけど……」
「……なんだい、ユキヤ君」
「テンカワさんのご両親が何らかの陰謀によって殺されてしまったとして……それでも艦長にそれらに関与する事が出来たとは俺には思えないんです」
「えっ……?」
「ユキヤ君……?」
そう言ってミナヅキさんは決然とした表情できょとんとしているテンカワさんと艦長を見つめました。
「まだ、会って二日ですが……俺には艦長――ミスマル艦長が殺人なんて大それた事、出来る人には思えないんです。さっきまでの俺達への態度を見て分かりました。人間として善い人です、とっても。それは幼馴染みであるテンカワさんの方がよく知っているはずでしょう?」
「そ、それは……」
テンカワさん、戸惑った顔で艦長を見ています。艦長、善い人ですって他人であるミナヅキさんに言われて照れてます。嬉しくてたまらない。その
「それに、艦長が10歳の時に殺人に関われたとも思えません。仲の良かった友達の両親を殺めようとするなんて……正常でいられるはずがありません。女の子ならなおさらです。だから、テンカワさん。怒りをぶつける相手を間違えないでください。俺はテンカワさんが艦長を、同じ艦の仲間を殺めようとする姿なんて絶対に見たくありません、お願いだ……」
「う、うん、そうだね。ユキヤ君の言う通りだ……ユリカ、すまん。殺すなんてひどい事、言っちまって……俺、どうかしてた。本当にすまん……」
「ううん、私、気にしてないよ、アキト。ご両親を亡くされたんですもの。平然としていられるはずがないわ。私もお父様に通信で尋ねてみるから。ユキヤ君もありがとね。私の事信じてくれて。そして、アキトの事、一生懸命説得してくれて……私、凄く、嬉しい」
「俺からもお礼を言わせてくれ、ユキヤ君、きみが気付かせてくれなかったら、俺、間違いを犯しちまってたかもしれない。本当にありがとう」
「き、気にしないでください。人間として当然の事をしただけですから……」
ミナヅキさん、艦長とテンカワさんに揃って頭を下げられて顔を真っ赤にして両手をぶんぶん横に振ってます。間違ったこと言ってないと思うし、謙遜しなくていいのに。
「あっ!? は、話は終わりましたし、そろそろブリッジにいきましょう。艦長。皆さんをずっと待たせたままですし……」
「う、うん、そうだね、ユキヤ君。じゃあ、一緒にブリッジに行こっ♪ あっ、アキト、食堂に戻るならホウメイさんに後で私から謝りに行きますって伝えておいてもらえるかな……? 勝手にアキト、連れ出しちゃったから」
「ああ、分かった。伝えとくよ。てか、元は迂闊な事言っちまった俺の責任でもあるからな。俺もしっかり謝らないと……」
そうして、三人は立ち上がると艦長室から出ていきました。そこにはこの部屋に入室した当初の張り詰めた空気はありません。私も艦長室の映像を閉じると二人がブリッジにやってくるのを待つ事にしました。覗いてしまった罪悪感はあります。でも、艦長とテンカワさんと、ミナヅキさんが和やかな雰囲気になれたのを見て確認できたのは、それだけは本当に良かったです。
……私はミナヅキさんもとっても善い人だと思いますよ?
アレ? この話でアルトアイゼンもう一度出撃まで持っていくつもりだったのになんかキャラが勝手にコロコロ動き回って全然ストーリーが進まない……
じ、次回こそ再出撃まで持っていきます(汗)