機動戦艦ナデシコ -Shoot it in the steel-   作:古鉄の夜

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 アルトアイゼンはメインシステムを通常から戦闘モードに移行している間、戦闘時に必要な情報は基本的に空間モニターではなくサブモニターに出力される設定となっている。
 これはパイロットの瞬間的な判断力を高水準で要求されるアルトアイゼンにとって、パイロットの視界を遮る空間表示方式は危険極まりない——というマリオンの意向があった為である。


第五話 ビッグバリアを『突き崩せ』

 地球を木星兵器の侵入から防いでいる第一防衛ライン。核融合衛星が生み出すビッグバリアは地球からの脱出を願うナデシコにとっても諸刃の剣。

 こんなトコロで死にたくないわよね。いや、マジで。

 またあの人に頼るしかなさそう。でも、なんとかしてくれるって根拠もないのに信じられるのはどうしてかな? 

 

 

 

 

 

「……どういう事でしょうか? ナデシコを地球から出せない、というのは?」

「君こそ、今の地球の状況をよく見てから発言したまえ。木星蜥蜴の脅威を打ち払う事こそが今、我々に最も必要とされる──」

「お言葉ですが、こちらは地球から火星に向かう為の手続き。その全てを地球連合の了承を得て、火星に向かうとあらかじめ伝えております。

 その契約内容が問題の無いものだと、各種書面等、艦長である私もこの目で見て確認しました。まして、民間の戦艦であるナデシコが軍の命令を聞く義務は無いはずです。そうですよね? プロスペクターさん」

 

 現在、ナデシコは当初の予定通り、地球引力圏から脱出する旨、地球連合統合作戦本部に通達。防衛ライン通過の許可を地球連合軍総司令官に取ろうとしているのだが……やはり、というべきか連合軍は頑なにそれを認めない。

 ユリカは一歩も引かず、ブリッジ正面スクリーンに映し出された総司令官と相対している。許可は他ならぬ地球連合から降りているのだから下手に相手の顔色を窺う必要はないのだ、と毅然とした態度で対応している。

 その姿はブリッジに詰めているクルーに安心感をもたらしていた。ただ一つ、いや、二つ問題があるとすれば……

 

「はい、艦長も申された通り、我がネルガル重工は正式な手続きを踏んだ上で火星に向かうと連合には伝えております。今さら、話をちゃぶ台返しされてしまうというのはどうにも話の筋が通っておらず、こちらとしても困り果ててしまいます。

 ……加えて、ナデシコは連合軍の強引な摘発にクルーが危害を加えかけられております。当社としても、これは看過出来ません。

 いくら戦時下といえど、民間人が軍人に銃を向けられるという異常事態が起きたのですからな。これに関しては後程、厳重に抗議させて頂きます。事と次第によっては裁判ですな。

 いやぁ、しかし不思議ですなぁ。いくらナデシコが高性能といえど、戦艦一隻に対して何故そこまで連合軍が固執されるのか? 

 ナデシコが欲しい。というのであれば、我が社に掛けあい、正規の取引で発注をかけて頂ければそちらがご所望される艦数をご用意させて頂きます。

 わたくし共としましても連合軍の面子を潰したい、とは思いませんので。それは結局の所、地球で暮らす一般の方々の損失となるのですからな。

 どうでしょう? ここらを落とし所としてはもらえませんか。ナデシコを通して頂けるのであればこちらも便宜を計らせてもらいますので」

 

 硬軟合わせた巧みな話術で、なんとか相手の譲歩を引き出そうとするプロスペクター。しかし……

 

「ならん! あくまで地球から脱出を試みるのならばナデシコは地球連合の敵だ! 抵抗するのであれば撃沈する!!」

 

 紋切り型の言葉の羅列と共に、総司令官の通信は一方的に切られた。

 

「…………ちょっと、人としての常識では考えられない対応だなぁ。あれが地球圏最大の軍事組織のトップ? 本当に……? ナデシコ級戦艦が欲しいのならプロスさんの言う通り、ネルガルに発注すればいいだろうに……」

 

 ルリが座るオペレーター席のやや後方、普段は床下に収納されているサブシート席。そこに腰掛け、先程のやりとりを聞いていたユキヤは顔を右手で覆いながら、深い溜め息を吐いた。それはブリッジクルー全員に波及していった。

 

「ホント、バカばっか」

「軍人さんって、あんなに話が通じないものなんですか……?」

「頭が完全にカチンコチンになっちゃってるみたいねぇ……どうしたものかしらぁ」

 

 ルリはそれに半眼となり、このナデシコに来てから口癖になりつつある台詞を零していた。メグミとミナトも肩を落としきっている。あんな硬質的な態度を見てしまえばそれも仕方ないだろう。プロスペクターは気落ちしきったクルーの姿にフォローが必要だろうと口を開いた。

 

「あれが地球連合に所属する軍人の総意、というわけではないと思います。事実、あの総司令官の言葉を聞いて幾人かの連合軍将校が頭を抱えておられましたし、艦長の父君であるミスマル提督も眉を潜めておられましたからなぁ。ナデシコ奪還の際、連合が潔く引いたのもこの軍事行動に道理が無い、とミスマル提督ご自身が理解していらっしゃったからでしょう。

 なれば考えられるのは地球連合になんらかの圧力が掛かったのか。ナデシコの行動をなんとしても妨害せよ、と何処かしらから強力な要請があったのやもしれません」

 

 プロスペクターはユリカに目を合わせながら自身の推論を告げる。父の名誉を汲んでくれた発言。それを態々ブリッジクルーの前で言ってくれたプロスペクターにユリカはぺこり、と頭を下げた。

 プロスペクターはそれにお気になさらず、と目元を和らげて伝えた。

 ユキヤはプロスペクターの推論になるほどと頷きながら、しかしその後半部分が気になった。

 

「プロスさんが以前、言っていた妨害者の差し金、ですか? 地球連合総司令部にプレッシャー掛けられる相手なんて限られてくるハズですが……」

「まぁ、それもナデシコが地球を脱出するまでの間だけでしょう。宇宙に上がってしまえば地球にいる相手は流石に手が出せませんからな」

「その、ナデシコに乗艦している皆さんが地球に帰還してきた際、非難されてしまうという危険性はありませんか?」

 

 地球連合軍の制止を一部とはいえ、振り切って宇宙に上がるのだ。火星から帰ってきたナデシコの乗員が地球の人々にどんな目で見られるのか? それがユキヤには気がかりだった。

 自分やマリオンは良い。元々、ネルガル重工に所属している人間なのだから。会社の給料で日々の糧を得ている身。仕事を貰っているのだから、会社の意向にある程度、沿った行動を取るのに異存は無い。

 しかし、雇われているだけの他の人達はまた違う。このナデシコの航海が終わった後もそれぞれの人生がある。ネルガルとある意味、一蓮托生の自分達とは違うのだ。

 

「ええ、そこは抜かりありません。そもそも、こちらは正規の手続きを全て済ませた上で火星に向かうと関係各所に通達はしっかりと行っておりますから、クルーの皆さんが世間から謂れのない非難を受けてしまう事はありません。

 それは我がネルガル重工が保証します。それでも地球に帰還すれば何やら干渉があるかもしれませんが、それは私が交渉でさせません。

 ──ですので、皆さん、安心してご自分の任務に励んで頂いて大丈夫ですよ」

 

 常に飄々とした態度を崩さないプロスペクターに珍しく、真剣そのものと呼べるその口調。交渉人としての確かな矜持がそこからは窺える。

 ブリッジ上段からこちらを見つめてくるプロスペクターの目線を受け止め、ユキヤは小さく頷いた。やはり只者ではない。マリオンが信用する人間だけの事はある……

 そう考えていたユキヤの頭を優しく撫でてくる手があった。ふと、そちらに目をやると、ミナトが慈愛を宿した瞳をこちらに向けている。いつの間に席を立ったのだろうか? ユキヤはそれに大いに戸惑った。

 

「ありがとう、ユキヤ君。私達の事、そんなに心配してくれて……私、嬉しいわ」

「優しいですね、ミナヅキさんは……」

「ユキヤ君、本当に良い子だね」

 

 ミナトだけではない。ルリ、メグミからの心からの称賛にユキヤは頭を下げた。顔中が熱くてたまらなかった。

 

「あ、当たり前の事、です。そ、そんな褒められるような……」

 

 駄目だ、気恥ずかしさで口が回らない。三人の温かい目がむず痒くてたまらない。ちらりとブリッジ上段を見てやればいつものニコニコ笑顔を浮かべているユリカが自分を見下ろしていた。

 

「それはそうとして……艦長もホシノも何故、着物を着ているんですか? 何か、説得する為の策なのかと思って、今まで黙ってましたが……」

「え? ああ、外人さん達に日本人なりの愛嬌を感じてもらえないかな~~? と、思って♪ 

 どう、ユキヤ君。お友達の、ルリちゃんの振り袖姿は! 可愛いでしょ?」

 

 そう、今ブリッジ上段から見下ろしているユリカもオペレーター席に座っているルリも何故か振り袖姿なのだ。ユリカは桃色のナデシコのロゴマークが入ったもの。ルリも水色で同じデザインの振り袖を着ていた。

 二人とも、普段はユリカはストレート。ルリはツインテールに結っている髪をアップにして纏めており、かんざしを刺している。

 ナデシコは民間人がクルーの多数を占めている戦艦だ。狭い艦内生活で息が詰まってしまう、という事態にならないように艦内レクリエーションを行える様にこういった衣装も用意されている……らしかった。

 

「ホラホラ、ユキヤ君♪ せーっかくルリルリが綺麗に着飾ってるんだから、何か言ってあげるコト、あるでしょう?」

「え……?」

 

 ルリルリ……? 唐突に愛称で呼ばれたルリはミナトをそろり、と見上げた。自分の両肩に優しく手を置き、席をユキヤと向き合う位置に動かし、その反応を見る。

 ルリとしてはユリカに半ば巻き込まれる形であった。

 ただ、「ユキヤ君、きっと喜んでくれるよ!」という言葉にユキヤの反応が気になってあれよあれよという間に着せ替えられたのだが……

 正直、口車に乗せられてしまった感が否めない。早まったかも。ミナヅキさんに変に思われたらどうしよう……? と今更、後悔の念を胸に抱きながらユキヤを見やる。

 

「えっ……ああ……その、似合っていると、思うけど……?」

 

 突然、ルリと正対してしまって、しどろもどろになってしまうユキヤ。目線を合わせるのに少し苦労したが、こういった事はちゃんと顔を見て言わなければ駄目だと思い、はっきりとルリに伝えた。

 ……ルリの顔がみるみる真っ赤になっていく。嬉しさと気恥ずかしさでとてもユキヤの顔を見ていられない。顔が下向いてしまうが、せめてこれだけは……

 

「あ……ありがとう、ございます。ミナヅキさん……」

「ど……どういたしまして……」

 

 二人とも、黙りこくって俯きながら固まってしまった。ブリッジの面々は初々しい少年少女二人をしばらく微笑ましく見守っていたのだった。

 

 

 

 

 

 ──ふう。

 ちょっと、恥ずかしい思いしました。

 私もバカよね。

 ……でもミナヅキさんに似合っていると言われた時……止めましょう。それよりこれからのナデシコの進路の説明が先です。

 

 地球には木星兵器侵入を警戒するため、各種飛行兵器活動範囲に合わせた7つの防衛ラインが引かれてます。一番外側から説明すると、

 

 第1防衛ライン(高度35786㎞)バリア衛星によって展開される空間歪曲バリア、通称“ビッグバリア”。

 第2防衛ライン(高度30000~500㎞)各種無人武装衛星による迎撃。

 第3防衛ライン(高度400㎞)有人宇宙ステーション、およびそこから発進する宇宙戦闘部隊による迎撃。

 第4防衛ライン(高度200㎞)地球発進のミサイルによる迎撃。

 第5防衛ライン(高度100㎞)地球発進の宇宙船部隊による迎撃。

 第6防衛ライン(高度50㎞)地球発進のスクラムジェット戦闘機部隊による迎撃。

 第7防衛ライン(高度25㎞)地球発進のジェット戦闘機による迎撃。

 

 です。

 私達はこれを第7から第1防衛ラインに向かって、ぜ~んぶ突破していこうってんだから、大変よね。

 

「スクラムジェット戦闘機の航続高度はすでに突破。空中艦隊はバッタと交戦中。事実上、この二つは無力化していますから、現在は地上からのミサイル攻撃。すなわち第4防衛ラインを突破している最中です」

「めんどくさいねぇ。一気にビューンと宇宙まで出られないの?」

「そう、それができないんだな~」

 

 現在、ナデシコは最終防衛ラインに向けて、ぐんぐん高度を上げている真っ最中。ブリッジ床下スクリーンに地球を覆う各種防衛ラインの簡易図が映し出されています。皆さんはスクリーンの縁に立って、それを確認中。

 状況はさっき、プロスさんが説明した通り。サッサと地球を出られないものかとメグミさんがミナトさんにボヤいてます。

 あ、ナデシコ迎撃の為、上がってきた艦隊ですが……纏まった軍事行動が久しぶりだった為、木星兵器が刺激されたのかそれらと激しく交戦中、とのこと。

 しっかり、軍人としての職責を果たして木星蜥蜴を退治してもらいたいです。ナデシコに構ってないで。

 ……ちなみに、私はオペレーター席に座ったままです。さっきからミサイル攻撃の余波でナデシコは振動しっぱなし。ディストーションフィールドで艦体にダメージこそありませんが衝撃までは減殺しきれません。

 元々、ディストーションフィールドは木星蜥蜴のグラビティブラストを防ぐ為の装備。実体弾を受けると出力が低下していっちゃいます。

 この着物って服、結構、動きづらいんですよね。足も草履だし……このまま突っ立ってたら多分、転んじゃいます。

 私はメグミさんの疑問に補足説明する為に口を開きました。

 

「地球引力圏脱出速度は秒速11.2㎞。その為には、ナデシコのメイン動力である相転移エンジンを臨界まで持っていかないとそれだけの脱出速度は得られないの。

 でも、相転移エンジンは真空をより低位の真空と入れ替える事でエネルギーを得る機関だから、より真空に近い高度じゃないと臨界点は来ないワケ」

「相転移反応の臨界点は高度2万キロ。だけど、その前に第3、第2防衛ラインを突破しなければいけないから──あっ!?」

「艦長!」

 

 一際、大きな振動が走り、艦長が大きくバランスを崩してしまい、あわや転倒。しそうな所で、ミナヅキさんがダッシュで艦長の両脇に手を入れ、支える事でなんとか転ばずに済みました。

 ミナヅキさんは艦長を立ち上がらせると、そっと離れました。

 そして隣りで心配そうに艦長を見上げてます。

 

「大丈夫ですか? 艦長」

「う、うん。支えてくれてありがと〜、ユキヤ君」

「腰、打ったりしないで下さいね」

「……心配させちゃってゴメンね? 私は大丈夫。ユキヤ君のお陰だよ」

 

 艦長、やっぱり転びかけてます。ミナヅキさん、ナイスフォローです。危ないな、と身構えてたのかもしれませんね。

 それにしても、ミナヅキさんのあのダッシュ力。けっこう離れた場所に立っていたのに一瞬で艦長の元に到達してます。驚きです。

 ミナヅキさんも揺れの影響を受けてたハズなのに……前にチラッと聞いた剣術訓練の賜物かな? 

 あ、提督が大きく咳払いしてます。

 

「艦長。ホシノ君と一緒に着替えてきたらどうかね?」

「あ、は〜い。じゃ、ルリちゃん。一緒にいこ?」

「はい」

 

 やっと着替えられます。やっぱり、慣れない格好はするもんじゃないですね。

 まぁ、たまには良いかも知れませんが……

 

「あ、でもその前に……」

 

 そのまま大人しく着替える、とは行かないみたいです。ウチの艦長は。

 

 ……トコロ変わって、現在、私達はテンカワさんの自室前に来てます。それとテンカワさんは骨折してたヤマダさんと相部屋みたい。表札にテンカワさんとヤマダさんの名前が入ってます。

 山田二郎のネームプレートがマジックでバッテンされてダイゴウジ・ガイ(漢字ではなんて書くんだろ?)になってます。

 なんでも昨日の出撃の際にも出撃させろと騒いでたらしいですが、ウリバタケさんがスパナでハタいて気絶させてたとのコト。ま、怪我人出てたら作戦がややこしくなってた可能性あったし、仕方ないよね。

 

「ちょーっと待っててね、ルリちゃん。せっかくだからアキトに私の振り袖姿を見せてあげたいの!」

「はぁ。なるべく早くしてくださいね、艦長。また、転んじゃいますよ」

「はーい。アーキートー」

 

『ジョオオオオオオオオッ!!』

 

「ん? なんだ、ユリカ。お前、またマスターキー使って勝手に入ってきたのか……って、なんだその格好!?」

「えへへ♪ どう? 私の振り袖姿。可愛いでしょ? やっぱりアキトにも見てもらいたいなぁ〜って思って」

「お前、それだけの為にわざわざ……」

 

 テンカワさん、溜め息吐きながら部屋の奥からドア近くまでやってきました。

 ……ヤマダさんはまた部屋の奥であのゲキなんとかって暑苦しい漫画を映写機で見てるみたいです。

 

「ううっ……ジョーが……俺のジョーが……ッ!」

 

 とか言ってあげく涙まで流してます。バカ。

 あ、テンカワさんに見つかっちゃいました。早く、終わらないかなと壁にもたれて待ってようと思ったんですけど……

 

「ル、ルリちゃんまでどーして着物なんだ!?」

「艦長に付き合わされました」

 

 一言、答えた私にテンカワさんは「ユリカ、お前……」と呆れ顔で艦長を見てます。テンカワさんと艦長は幼馴染みだそうで、昔っからこーいう事はよくやってたのかな? でも、艦長は笑顔のままです。

 

「そーだよ? 綺麗にしたルリちゃんをユキヤ君に見せてあげたいなーって思って、ね?」

「か、艦長!」

 

 思わず艦長を見上げて声を荒げてしまいました。テンカワさんは目をぱちくりさせた後、ちょっと感心したような顔で艦長を見ると、次いで微笑ましいものを見るような視線を私に向けてきました。

 

「ユキヤ君、似合っているって言ってくれたでしょ?」

 

 ……忘れようと思ってたコト思い出させないでほしいな。頬が火照って顔を上げていられません。

 目を彷徨わせていると、テンカワさんの手に支給品のタブレット端末が握られてるのに気付きました。なんでしょう。ヤマダさんと漫画見てたワケじゃなかったのかな? 

 

「テンカワさん、それなんです? 何か見てたんですか?」

「ん? これはユキヤ君からもらったパイロットの基礎マニュアルだよ。これだけは頭に叩き込んでおいて下さいって昨日、シミュレーター訓練が終わった後、データ渡してくれたんだ」

「そうだったんだ? ユキヤ君、アキトのパイロットとしての先生になったんだね」

「ああ、俺から頼んだ。訓練に付き合ってくれるだけじゃなくてこんなものまで用意してくれるなんて……ユキヤ君には頭が上がらないよ」

「ミナヅキさん、しっかりとテンカワさんの訓練について考えてくれてたんですね」

「……アキト、頑張ってね。それはそうと! ねぇ、私の着物はどう? 私もアキトからなにか聞きたいな~?」

「いいっ!? い、いや、それはその、なんていうか……い、言えるかよ! そんなことーーーっ!!」

「ああん、待ってーアキトッ! 私もアキトに似合ってるって言ってもらいたーい!!」

 

 艦長とテンカワさん、二人でバタバタと追いかけっこ始めちゃいました。こっちは早く着替えたいっていうのに……

 やっぱりナデシコのクルーって、

 

「バカばっか」

 

 みたいです。……でも私もか。

 

 

 

 

 

 ナデシコは順調に高度を上げていた。もうじき第三防衛ライン、すなわち有人部隊の迎撃が行われる高度まで到達しようとしていた。

 ユキヤは赤と黒のパイロットスーツを着込み、アルトアイゼンのコックピットで待機していた。そこへブリッジのルリから通信が入る。

 

「ミナヅキさん。宇宙ステーションから有人機動兵器の発進が確認されました。アルトアイゼン、発進お願いします」

「了解」

「エステバリス隊の皆さん! 出撃お願いします。気を付けてくださいね」

 

 ユキヤの前に制服へ着替えたルリと通信士のメグミの顔が映ったモニターがエステバリス各機に表示された。平常心であるルリの画面は通常通りの大きさだが、メグミは激励を込めているのか大きい画面で表示されていた。

 ユキヤはコックピット脇に置いてあったヘルメットを手に取るとすぐさま被る。首元の装着具合を手で整えて確認する。もう成層圏だ。もし戦闘でコックピットの気密が破れた場合、最悪、窒息死してしまう。ヘルメットのグレーシェードが入ったバイザーを下げるとIFSスフィアボールをグリップ。各部システムを起動していく。

 

「システム、通常から戦闘モードへ移行。テンカワさん、ヤマダさん、準備はいいですか?」

 

 ルリとメグミの画面が一旦、閉じるとサブモニターに映し直された。

 

『ふっふっふ、これまでは坊主とコックにいいカッコさせてたがこれからはそうはいかねぇ! このダイゴウジ・ガイ様の活躍で見事、ナデシコを宇宙まで送り届けてやるぜぇ! 見てろよ見てろよぉ!!』

『……う、うん。こっちもいつでも行けるよ!』

 

 ヤマダの暑苦しい返答。アキトの若干、戸惑った返答をそれぞれ聞きながらユキヤは機体を重力カタパルトまで移動させていく。

 一番手はヤマダのエステバリスだ。作戦参謀のゴートとウリバタケが通信で話しかけているのだが全く聞いていない。通信電波状況が最悪であること、ナデシコが発信している重力波ビームの範囲外ではエステバリスはあっという間に動けなくなってしまうのだが、耳に入れてなくて平気なのだろうか? 

 アルトアイゼンはラドムラボで開発された高効率バッテリーパックが搭載されているのでビームの範囲外であっても早々にエネルギー切れを起こすという事はない。

 突貫機という機体の性質上、敵陣に飛び込む運用が求められるアルトアイゼンにとって長時間の独立行動能力は必須だった。

 フレーム換装機構を持っているエステバリスは機体構造に余裕が無いので搭載不可となっている。

 換装機構を持たない三番機フレームだからこそ載せられた装備であった。

 

『木星蜥蜴が宇宙から攻めてきてる真っ最中だっていうのに、なんで地球人同士で争わなきゃならないんだよ……?』

「人が何か新しい事をやろうとすると必ずなんらかの反発する勢力が現れるものなんです。今回だと新型宇宙戦艦を開発したネルガルの躍進を恐れた誰かが連合に働きかけた、のかもしれません」

 

 どうにも気が進まない、というアキトにユキヤは自分の推測を口にした。これが人間の(サガ)、というべきものなのかもしれない。

 

『そんな……俺達は火星に人助けに行きたいだけだっていうのに』

「それが善意から出たものであっても全ての人が納得する答えなどありえない。それが人の世だとラドム博士が言っていました……でも、だからこそ俺達は自分が信じた事をやりましょう。テンカワさん」

『ああ、そうだね。ユキヤ君の言う通りだ』

 

 ユキヤ君は俺なんかより遥かに地に足のついたものの考え方をしている。彼を育ててくれたラドム博士という人の教えをしっかり自分のものとして世の中を見ているんだな。

 俺ももっとしっかりしなければ。この子に頼りきりになってばかりじゃ駄目だ。せめて、足だけは引っ張らないようにしないと! 

 

 

「スペース・ガンガー、行くぜぇっ!!」

「ミナヅキ・ユキヤ。アルトアイゼン、出ます!」

 

 ヤマダ、続いてユキヤの機体が順次、発進していく。次は自分の番だ。

 ──パイロットになるという事は、一般のクルーよりも当然、危険が大きくなります。戦闘の結果、命を落としても文句が言えない戦闘単位となる事を了解したと見做されるんです──

 ユキヤに言われた言葉が胸の内から響いてきた。命を落としても文句の言えない戦闘単位。それがパイロット。知らず身体に震えが走りそうになるがアキトはそれを振り切るが如く、声を張り上げた。

 

「テンカワ・アキト! 行きます!!」

 

 そして、ナデシコから三機のエステバリスが出撃していった。

 

(アルトで空間戦闘をやるのは初めてだ。シミュレーターでは何度もやったが、実戦とのギャップがどれだけあるか……)

「左30度、第三防衛ライン。デルフィニウム、13機接近。プラス60度、距離8000m」

「おー! 来やがった来やがったぁっ! 束になって来やがったぁっ!!」

「二人とも、先鋒は俺のアルトが務めます。先行して俺が敵を散らしますので、敵機がばらけた所を2機がかりで1機づつ、仕留めてもらえれば──」

「んな必要はねぇッ! 俺にゃぁ作戦がある!!」

 

 ルリの報告から作戦を伝えようとするユキヤだったが、ヤマダは全く耳を貸さずに空戦フレームのバーニアを吹かせてデルフィニウム部隊に突撃していく。

 デルフィニウム。連合宇宙軍で使用されている有人機動兵器だ。ロケットの先に手をくっつけた不恰好な機体なのだが……機体構造が単純で安価なのと、上昇性能の優秀さを買われて、第三防衛ラインの主戦力として採用されていた。

 ……その集団の中へとヤマダの空戦フレームは突っこんでいく。ライフルも持たずに。

 デルフィニウム各機がミサイルをヤマダ機に向けて発射。

 ある程度、飛翔した後ミサイル先端のカバーが展開。その中に搭載された小型ミサイル──多弾頭ミサイルが発射され、ヤマダ機を覆い包むように向かっていく。 

 

「おお~~~~~っ! タァァッ!!」

 

 ミサイルが命中する寸前、エステバリスの進行方向を90度鋭角ターン。ミサイル群が直前までヤマダ機がいた空間を通り過ぎていく。

 孤立したヤマダを仕留めようと追尾するデルフィニウム。それを後ろで見ながら、ヤマダは無駄に自信たっぷりにニヤリと笑ってみせた。

 

「おお~し、ついてきた、ついてきたぁ!! 今だ! ウリバタケッ! スペース・ガンガー重武装タイプを落とせ!」

「あ? ねぇよ、んなモン」

「だぁからッ! スペース・ガンガー重武装タイプを落とせ!?」

「ウチにゃあ、スペースだかアストロだか知らねえがガンガーなんて載せてねぇんだよ」

 

 全く人の話を聞かないヤマダに、呆れ果てたウリバタケがウンザリといった様子で答える。

 ……相当、キテいる様だ。隣にいた整備スタッフがB1タイプの事ではと恐る恐る、ウリバタケに話しかけている。

 エステバリスは頭部と胸部、アサルトピットと呼ばれるコックピット部以外を様々なフレームに換装する事で各戦況に対応する兵器だ。B1タイプとは主に要塞攻略や威力偵察時に運用される重機動フレームである。

 

「わぁかった。すぐ射出するから受け止めろよ」

 

 ウリバタケの捨て鉢気味の言葉と共にB1タイプが重力カタパルトから打ち出された。 

 この時点でユキヤと、昨日ユキヤから突貫工事とはいえ、エステバリスの実戦に置ける運用基礎を教わっていたアキトは嫌な予感を憶えていた。ヤマダは何をするつもりなのだろう? 

 

「ふふふ、完璧だ。敵はこっちが武器を持ってないと思ってる。とぉころが、俺様は空中でスペース・ガンガー重武装タイプと合体。驚く敵を一気に殲滅。名付けてガンガー・クロスオペレーション!!」

「ば、馬鹿な!? そんな作戦上手くいくはずがない!」

「敵だって撃ってくるんだぞ!? わかってんのか、ガイ!!?」

 

 

 ──ミナヅキさんとテンカワさんの画面がブリッジで大写しになって表示されてます。

 ミナヅキさんは戦闘時でも比較的、落ち着いている人なので珍しい光景です。

 ……というか、パイロットとしてこれまでナデシコを守ってきたミナヅキさんと新人(ルーキー)のテンカワさんでも無茶だって分かっている作戦を躊躇いもなくやろうとするヤマダさんって一体なに考えてんでしょうか? 

 

「ふっ、心配無用だ、坊やたち! 見てろ、ガンガァァァァァ・クロォス・オペ──」

 

 どっかーん。 

 次の瞬間、B1タイプは換装しようとしてたヤマダ機の目の前でデルフィニウムが放ったミサイルで撃墜されちゃいました。バカ。

 

「言わんこっちゃない! テンカワさん、ヤマダさんの射撃支援に回ってやって下さい。俺の事はある程度、離しておいて構いませんから」

「え、でも、それじゃユキヤ君が……」

「今はヤマダさんを一人にしておく方が危ない。あの人、ライフルも持ってないんです。俺は大丈夫ですから」

「分かった、任されたよ。ったく、ほんとにあいつはもう……」

 

 ヤマダさんの独断専行で作戦変更を余儀なくされてしまったミナヅキさん。テンカワさんはヤマダさんとタッグで。ミナヅキさんは単独でデルフィニウムの相手をするみたいです。

 

「ヤマダ君って一応、正規のパイロットなのよねぇ? ナデシコで二番目に年下のユキヤ君とまだパイロット始めたばかりのアキト君がフォローに走り回ってるってまずくなぁい?」

「臨界ポイントまで後19700㎞……さっきから訳の分からない事ばかり言ってますけど。あの人、漫画と現実をゴッチャにしてませんか? 

 それでミナヅキさんとテンカワさんが苦労するっておかしいと思うんですけど」

「……ユキヤ君にテンカワさん。二人のパイロット査定には色を付けてあげなければなりませんなぁ」

 

 ミナトさんのボヤきに私は報告とヤマダさんから薄々、感じていた違和感を口にしました。プロスさんの苦み走った声が響くナデシコのブリッジ。微妙な空気が流れてます。

 ナデシコクルーの選考基準は曰く、『性格に難はあっても腕は一流』らしいのでヤマダさんもパイロットとしての腕は一流のハズなんですが……

 それでも性格に問題がありすぎるとダメなんじゃないかな? 

 

「艦長、デルフィニウムから通信が入っています」

「繋いで、メグちゃん」

 

 ブリッジのメインモニターに連合宇宙軍のパイロットが大写しで表示される。わざわざ、通信してきたんだし、この人がデルフィニウム部隊の隊長さんかな。

 アレ? バイザーで顔の上半分が見えないけど、この人ってもしかして……

 

「ユリカ、最後のチャンスだ。ナデシコを地球に戻して!」

「ジュン君……」

「君の行動は契約違反だ」

 

 やっぱり副長のアオイ・ジュンさんでした。そーいえば、トビウメにいったきり帰ってきてませんでしたね、この人。忘れてました。

 艦長の呟きとゴートさんのサラリーマンらしい、いかにもな咎めも無視してアオイ副長は艦長に投降を呼びかける。

 

「ユリカ、力づくでも君を連れて帰る。抵抗すればナデシコは第3防衛ラインの主力と戦う事になる。僕は君と戦いたくない……!」

「どうします、艦長?」

 

 プロスさんの疑問に艦長は──

 

「ごめん、ジュン君。私、ここから動けない」

「っ!? 僕と戦うっていうのか?」

「ここが私の場所なの。ミスマル家の長女でもお父様の娘でもない。私が私で居られるのはここだけなの」

 

 副長にハッキリとそう告げました。

 ……艦長は連合宇宙軍ミスマル・コウイチロウ提督の一人娘。世間一般ではお嬢様として扱われる人。

 どこに行ってもついて回る周囲の眼に窮屈な思いをしてきたのかもしれません。

 

 艦長も軍人の名門の娘としてではなく、自分の人生を精一杯生きようとしている……

 

「…………やっぱり、アイツがいいのかい? 分かったよ、ユリカ。ならば! まずはエステバリスを破壊する!」

「へっ……?」

 

 副長は歯を戦慄かせると、何を思ったのかエステバリスに攻撃を開始しました。艦長のなぜそうなるのか分からないという反応を置き去りにして。

 ……アイツって多分、テンカワさんの事よね? つまり、副長は艦長が好きなんですね。ミもフタもない言い方をすると。

 わざわざ軍ではマイナスイメージの強いIFS処置を受けてまで止めに来るんだから相当、惚れてるんだろうな。

 ……地球ではIFS処置はあまり好まれてはいません。改造人間の証明みたいなイメージが付いてしまうそうです。

 私は物心ついた頃からIFS処置を受けてモルモットにされてましたから今更、どうこう思いませんけど……

 ミナヅキさん、たった一機で六機のデルフィニウムを相手に戦ってます。並のパイロットなら白旗上げてしまいそうな状況。

 でも、ミナヅキさんは敵機に包囲されないように、アルトの加速力で強引に振り切っています。

 細かく機体の向きを調整する事で、突進力を活かした機動戦を行ってます。

 それと、ミナヅキさんは大気圏内での戦闘は初めてのハズですから、動作感覚を確かめているのかもしれませんね。

 あ、ブースト全開でデルフィニウムの懐に入ったアルトがリボルビングステークを突き刺しました。

 

「──トリガー」

 

 衝撃と共にステークが撃ち込まれデルフィニウムが粉々に破壊されました。機体頭部のコックピット部が切り離されて離脱していきます。

 ミナヅキさんは撃墜した敵機には目もくれず、次のターゲットに三連マシンキャノンを撃ち放つ。銃弾が命中した敵機の飛行姿勢が崩れる。

 

「隙を見せたな……撃ち抜くっ!」

 

 先と同じようにアルトはフルブーストで敵機の懐に飛び込む。デルフィニウムはなんとか身をよじって回避しようとしましたが……

 チッと火花を散らせて二機が交錯した後、デルフィニウムのエンジン部に大穴が空きました。さらに機体各部からスパークも上がっています。パイロットはこの機体はもう駄目だと判断したのかコックピット部を切り離して離脱していきました。

 リボルビングステークは単純な貫通力も凄まじいのですが……それ以上に衝撃伝播によるダメージが痛いそうです。

 機動兵器は基本的に精密機器で構成された複雑な内部構造となってます。

 そこへステークの撃発によって生じた衝撃が機体内部に浸透すれば、それらの機器はあっというまに動作不良を起こしてしまいます。

 直撃でなくとも当たりさえすれば、相当の損害を敵機に与えられる。

 それがアルトアイゼンにリボルビングステークが搭載された理由の一つだと昨日、ミナヅキさんから聞きました。

 あと、単純に機構がシンプルで壊れにくいから愛用してるとも言ってましたっけ……

 

「なんだ! あの赤い奴の性能は!?」

「重装型の機体がなぜあんな速度で動ける!?」

 

 敵機、デルフィニウムのパイロットさんから困惑と驚愕の入り混じった叫びが無線通信で木霊してます。

 ……ま、ほとんど一瞬で味方を二機も撃墜(おと)されたんだから当然よね。

 

「落ち着け! 赤い奴──アルトアイゼンの突進力は確かに脅威だが……あくまで直線だけだ! よく見れば避けられる。距離を離せ。機体の正面には絶対に立つな。撃ち抜かれるぞ! 遠距離からミサイルを撃ち込むのに徹するんだ!」

「……たった2度の出撃、さっきの戦闘機動を見ただけでアルトの対応策を考えついたのか。優秀だな。流石、アオイさん。ナデシコの副長に選ばれただけのことはある……!」

「……分が悪いとわかっているのなら投降してくれ、ユキヤ君! 君が説得してくれればきっとユリカも……」

 

 ミナヅキさん、アルトに合わせた対策を短時間で立ててみせた副長に素直に感心してます。でも、どうせならその優秀さをナデシコの為に発揮してくれたらもっと良かったのにな。

 なーんかミナヅキさんを利用して艦長の事、説得しようとしてるみたいですけど……

 まだ、会って間もないとはいえ、艦長に信頼されるようになったミナヅキさんの言葉なら聞いてくれると思ったのかな? 

 なんかヤだな、その考え方……

 

「──だが、戦い方が分かっているというだけで容易く破られてしまう程、俺もアルトも甘くはない」

 

 そして、ミナヅキさんも簡単に白旗を上げてしまう程、諦めのいい性格はしていないみたいです。

 しっかりとした口調からは自分の力量と愛機への自信が感じられます。

 

 第二ラウンド開始、ってトコかな? 

 

 

 ユキヤが単機でデルフィニウム部隊を相手取っている間、ヤマダとアキトも二機がかりで七機ものデルフィニウムと交戦を開始していた。と、言ってもそれは連携しているというよりも無謀な突撃を繰り返すヤマダをラピッドライフルと背部ミサイルポッドによる射撃支援でアキトがなんとか支えるという一方的なコンビネーションだったが。

 ユキヤはアキトに訓練を課す際、まずは射撃戦を教え込んだ。パイロットの技量の差がモロに出る接近戦については、どうしても、目の前の敵機に視線が集中してしまって視野が狭くなりがちになる為、教えるには時期尚早だろうという見立てがあったからだ。

 アキトは昨日、訓練を受けたばかりとはいえ、良くやっていた。

 

「無駄弾を撃つな、無駄弾を撃つな!」

 

 自分に言い聞かせる様に何度も同じ言葉を繰り返すアキト。デルフィニウムの機動をしっかりと目で追い、照準レティクル中央に捉える。ターゲットロックオン。ラピッドライフルのトリガーを引き絞る。

 確実な狙いによる一斉射はデルフィニウムのエンジンに吸い込まれていき──敵機を爆散させていた。爆発の中からコックピット部がまたもやステーションに向けて帰還していく。

 

「ぃよしっ……!」

 

 思わず拳を握ってしまう。そのアキトの先にはヤマダの青いエステバリス空戦フレームがデルフィニウムにブースト全開で突っ込んでいく。

 

「っくぜぇ! ガァイ! スゥパァーー! ナッパァーーーー!!」

 

 敵機の放ったミサイルをするすると避けながら内懐に飛び込む。

 右拳周辺に展開した小規模なディストーションフィールドを張った一撃をデルフィニウムの土手っ腹に打ち込む。また一機、撃墜された。

 

「ぬふふふ、こいつあ、行けるぜッ!」

「ガイ! 早く敵機と距離を取れ。囲まれて集中砲火されるぞ!」

「わぁーってるよ!」

 

 ヤマダ機を囲もうとするデルフィニウムにミサイルを一斉発射して追い散らしながら、アキトはユキヤの方に目をやった。

 今頃、たった一人で残りのデルフィニウムの相手をしているはず。なんとか援護にいってやりたいが……

 テンカワ機の向いている方角に釣られてユキヤのアルトに目を向けるヤマダ。対抗意識が自分の中で膨れ上がっていく。

 自分はヒーローであるはずなのに、自分より年下の子供ばかりが活躍している。自分とあの子供とで何が違う? 今回の出撃にしても、さっきの作戦を華麗に決めて格の違いを見せつけるつもりだったというのに……! 

 

「くうーっ! たった1機で多勢に立ち向かうたぁ、相変わらず俺よりも目立ちやがるな、あの坊主は!」

「おい、ガイ。いい加減にしろ! ユキヤ君は俺をお前の援護に回す為に一人で頑張ってくれてるんだぞ!? おかしなこと考えるな!」

「ヤマダさん! これ以上の勝手は流石に許可出来ません。今はアキトと二人で目の前の敵機への対応を最優先にして下さい! これは艦長命令です!」

「ぬぐっ……! わ、分かったよ……」

 

 ヤマダの言動にまた独断専行の匂いを感じたのかアキトだけでなく今度はユリカも止めに入った。

 流石に、これ以上二人に負担がかかる無茶をさせるのは艦長として認めるわけにはいかない。ユリカの口調はいつになく厳しいものだった。

 ヤマダも艦長にこうまで厳命されては我を通すのも難しかった。とっておきの作戦を失敗させた後なので尚更だった。今は汚名返上の機会を探る時だろうとヤマダは己を抑える事にした。

 そんなヤマダ機を冷ややかに見つめているルリの視線にも当然、気付いていなかった。

 

 

 自機に向けてデルフィニウムが多数のミサイルを発射したのをユキヤは見てとった。ジュンの言葉通りデルフィニウムは遠距離からのミサイル攻撃で仕留めるつもりのようだ。ユキヤは冷静にミサイルとの距離を離しながらその時を待つ。ミサイルが分裂した。

 アルト、ミサイルが向かってくる方角から見て真横へと機体をAMBAC──腕や脚の振りにより姿勢制御を行う方式──と各部アポジモーターを同調噴射させてクイックターン。両肩部スラスターが後方に跳ね上がる。全バーニアスラスター点火。大G加速でミサイルとの距離を一気に離す。

 ミサイルが自機を捕捉しきれる距離を保てる位置で急停止。さらにクイックターン。ミサイルとアルトが正対する形となる。ユキヤは正面から迫るミサイルを見据えながらチラリとデルフィニウムに視線をやった。

 

「──ホシノ。デルフィニウム各機の位置座標、行動予測、各種データを寄越してくれ」

「はい……今送りました」

「よし、迎撃──今っ!!」

 

 アルトアイゼンの両肩部ハッチが解放された。──スクエアクレイモア。

 放たれる無数のベアリング弾。散弾地雷(クレイモア)の散布域が最大となる位置に大量のミサイルが飛び込み、一斉に起爆、他のミサイルも誘爆していく。

 アルトとデルフィニウム隊の間に爆発によるカーテンが出現した。

 爆発がデルフィニウムパイロットの視覚を塞ぐ。そして各種センサーをも狂わせた。ターゲットロスト。

 

「ブレード、アクティブ」

 

 シシオウブレード抜刀。だが、デルフィニウム隊と違ってユキヤはルリのオペレートによって爆発で視界を遮られながらも敵機の位置を正確に掴んでいた。IFSを介して送られてきた情報、それらを体内のナノマシンによって形成されたサブ脳で直接、知覚(・・)する。アフターバーナー全開、フルブースト。

 爆発の中心目掛けて突撃していく。

 

「──なッ!?」

 

 敵機パイロットが驚愕の叫びをあげた。

 爆炎を突き抜け、デルフィニウムが三機。アルトから見て直線位置に並んでいる所へシシオウブレードを八相に構えながら、弾丸の如く加速。

 

「叩き、斬る──!」

 

 スラスター光を尾に引く流星と化したアルトアイゼンが駆け抜けていく。三機のデルフィニウムがほぼ同時に真っ二つに斬断されていた。

 ユキヤはアルトを制動すると残心を決めつつ、シシオウブレードを鞘に納刀する。

 

「少しはお前を扱えたか、アルト……?」

 

 ユキヤは、装甲を爆発の余波で少し焼け爛れさせた愛機に声をかけた。

 

 

「ば、馬鹿な……今度は三機同時に沈めただと……?」

「爆風の影響で赤い奴のセンサーも役立たずになった筈だ。機体の性能差か、それとも只の勘なのか……?」

 

 違う。あの攻撃(アタック)を成功させる事が出来た最大の要因はルリの迅速、かつ的確な情報伝達のお陰だ。

 急な頼みにも関わらず、ルリは一言の疑問も差し挟まず敵機捕捉に必要な各種データを転送してくれた。

 ほとんど、間をおかずに寄越してくれたお陰で余裕を持って突撃コースを選定できたのだ。

 彼女のサポートが無ければ、やはり勘頼みの特攻となってしまっていただろう。

 

「ホシノ、ありがとう……」

「お役に立ててなによりです」

 

 我知らず呟いていた感謝の言葉。サブモニターに嬉しそうに微笑むルリが映し出される。どうも聞かれていたようだ。

 

「いきなりだったというのに即応してくれて助かったよ。本当に」

「そんな……ミナヅキさんとアルトの力あってこそです。自信持ってください」

 

 ユキヤは心からのお礼を口にした。ルリも頬を赤く染めながら彼と愛機の健闘を称えた。

 自分はユキヤの指示通りにデータを送信しただけだ。アルトの苦手な遠距離戦という不利な状況をミサイルの迎撃、それを隠れ蓑にした超高速突撃という戦術でひっくり返して見せたのは紛れもなくユキヤの手腕なのだから。

 

「うむ、素晴らしい連携だったよ。ミナヅキ君、ホシノ君」

「うんうん! 凄かったよ、ユキヤ君! ルリちゃん! さぁ、あとひと踏ん張り、頑張ろう!!」

 

 フクベとユリカも二人に惜しみない賛辞を贈った。とはいえ、まだ作戦は続いている。ユリカは二人に集中を切らさないように声をかけるのも忘れなかった。

 

「はい……第三防衛ライン突破。臨界ポイントまで残り19500㎞」

「了解です」

「相転移エンジン稼働率50%! 速度上昇中!」

 

 二人ともすぐに気を引き締め直すと、それぞれの仕事に意識を向け直した。

 

「少尉! 活動可能なデルフィニウムはあと5機しかありません!」

「このまま、やって勝てるのか……!?」

 

 ユキヤが3機同時撃破をやってのけた間、ヤマダとアキトも更に2機、撃墜していた。全滅──この二文字が頭をよぎり始めたのか、他のパイロット達からも弱気な声が上がっていた。

 ジュンは歯噛みした後、テンカワ機に目を向けた。

 

「くっ……こうなったら僕と戦え! テンカワ・アキトッ! 一対一の勝負だ。僕が負ければデルフィニウム部隊を撤退させる。他の者は手を出すな!」

「な、何言い出すんだ、コイツ!?」

 

 部隊長としてこれ以上の被害を出せない。ジュンもこれは半分、私的な感情から来た行動である事は何処かで分かっていた。それでも止まれない理由があるのだ。

 

「男の男の戦いか……いいじゃねぇかっ! やれ、アキト! これは降りちゃならねぇ一戦だっ!!」

「そんなのやれるか!?」

「ふむ、確かにここらを落とし所としたいものですな」

 

 ジュンのデルフィニウムがテンカワ機向けて加速していく。ヤマダはジュンの提案に男として感じ入るものがあったか、乗り気の様だ。

 プロスペクターも宇宙ソロバンを弾きながら計算を巡らせる。エステバリスの性能の高さはこの戦闘で充分、確認できた。先も言った通り、連合軍の面子を潰すつもりはこちらには無いのだからそろそろ決着を付ける頃合いだろう。

 

「テンカワさん、アオイさんに踏ん切りをつけさせるには、貴方がこの勝負に勝つしかありません!」

「くっ……!」

 

 ユキヤにまでそう言われてしまい、アキトはようやくジュンと戦う覚悟を決めた。機体をジュンのデルフィニウムに向けると突撃していく。

 

「少尉!」

「──アオイさんの言葉を聞いてなかったんですか? 一対一の戦いでしょう。援護に行くなら相手になります」

「男と男の戦いに、水差しちゃ野暮ってモンだぜ! ええっ!?」

 

 デルフィニウム部隊はジュンへの援護を断念せざるを得なかった。道を塞ぐように現れたユキヤとヤマダ。この二人相手にたった4機では荷が勝ちすぎている。

 

 

「でも……ジュン君、どうしてアキトに突っかかるのかしら」

『は?』

 

 所変わってナデシコのブリッジではユリカが不意に放った一言に、クルーが間抜けな声を出していた。

 

「それは艦長お分かりでしょう。男の純情……」

「は?」

「だって、アオイさんは艦長の……」

「大事なお友達よ?」

 

 沈黙が走る。いや、ミナトとメグミはジュンに若干、気の毒そうな視線を送っていたが。

 

「臨界ポイントまで19400㎞」

 

 そして、ルリは素知らぬ顔でオペレートしていた。

 

「待てよ待てよ待てよ!? お前絶対勘違いしてるぞ! 俺とユリカはなんの関係も無いんだ!!?」

「信じられるか! 大体、そんな個人的な事情は関係ない!」

 

 

 ――充分、関係あると思うけど。副長はテンカワ機に向けて、デルフィニウムのマニピュレーターを展開して遮二無二、突進していきます。

 そのまま、テンカワ機が放ったカウンターパンチを受けると互いにブースト全開で押し合いを始めた。

 

「僕は子供の頃から、地球を守りたかった! 地球連合軍こそ、それを叶える場所だって信じてるんだ!」

「……俺だって思ってたさ。信じ続ければ、きっと正義の味方になれるって……でもなれなかった」

「僕は違う!」

「でも! ユキヤ君と話して思ったんだ! たとえ、今までがどんなにダメだったとしても、それを理由にこれから先の事まで諦めるのは違うんじゃないかって。だから俺は火星に行く! 行ってみんなを、取り残された故郷の人達を助ける! それが俺の願いだ!!」

「くっ……!?」

 

 テンカワさんの決意表明に副長は黙りこんでしまいました。なんだかテンカワさん。ミナヅキさんと関わり始めてから性格がみるみる前向きに変わっていってます。

 

「アキト……かっこいい〜」

「確かに、結構、良いかも……」

 

 艦長とメグミさんが顔を赤らめてます。……メグミさんまで? なんかトラブルの予感がしますが、ひとまず置いておきましょう。

 

「だとしても、僕は……この手で地球を守ってみせる! 正義を貫いてみせる! 一人の自由に踊って、夢や誇りを……忘れたくない!」

「アオイさん、それは違う!」

 

 ミナヅキさんが副長の叫びにそう返しました。副長が言っていることは間違ってはいない、と私も思います。

でも、違和感がある……ミナヅキさんもそう感じたのでしょうか?

 

「地球がある程度、木星蜥蜴の侵攻に対抗出来ているのは火星会戦で生き残った連合の残存艦隊が敵のデータを持ち帰ってくれたからです。

 いち早く敵の情報を知らせてくれたから軍は対抗手段を考案する時間を得られたんです。月まで勢力下に抑えられてしまいましたが……

 今、地球が木星蜥蜴に押し込まれていない。ある程度、民間の人達の平穏が保てているのはその為です。

 でも、その過程で地球は火星に住んでいる人達を見捨てる不義理をしてしまいました。木星蜥蜴の重力波技術に地球側は歯が立たなかったからだ。

 俺の乗っているアルトアイゼンもその時、持ち帰られたデータを元に武装の仕様が決定されています。

 ……その結果、木星蜥蜴と戦えている我が身を自覚すれば火星に残された人達の苦境を見て見ぬフリなど出来るはずがない。

 それは俺達、地球で生きている人達全員が少しづつ、背負わなければならない責任のはずです。

 アオイさん、ナデシコが完成した今、不義理を雪ぐチャンスを俺達は与えられたと考えることは出来ませんか? チャンスというのは自分で作り出すか、巡ってきたチャンスをモノにするかしないと無かったのと同じになってしまいます。

 俺は後になって『何故、あの時、助けに行かなかった? 助ける機会はあったハズなのに?』と後悔したくはありません」

「ユキヤ……君」

 

 ――そう、アオイ副長は地球を守る事に拘りすぎて、考え落ちしてます。

 今、火星の人達を助けに行かなければ多分、連合は木星蜥蜴との戦争が終結するまで火星は放ったらかしのままでしょう。

 それまで火星の人達が生きていられるかどうか……戦争が終わるまで、何年先になるかも分からないのに? 時間が経てば経つほど生存の可能性は下がっていきます。

 ……やはり、ナデシコが完成した『今』しかないのかもしれません。

 

「臨界ポイントまで19000㎞」

「第2防衛ライン、射程距離に入ります」

 

 私に続いてメグミさんも現状報告。ナデシコが武装衛星のミサイルにロックオンされたのをオモイカネが教えてくれました。ビッグバリアを突破する為に速度と進路を維持しなければならない以上、避ける事は出来ない。ナデシコの防御はディストーションフィールドに頼るしかありません。

 

「だけど、このままじゃ、ユリカが地球の敵になってしまう。ぼ、僕はそれに耐えられない……」

「そうならない様にプロスさんが交渉してくれる! 俺達が一方的に地球に敵視されない為に。連合軍にもユリカの親父さんみたいにナデシコへの対応がおかしいと思ってる人達だっているって言ってた! 俺達は決して孤立無援で火星に向かうわけじゃないんだ! ……あ、あれっ? 動けない!?」

 

 いけない。テンカワ機が副長のデルフィニウムと押し合いへし合いしている内にナデシコの重力波ビームの圏内から外れてしまいました。エネルギー切れでエステが行動不能になってます。

 見ればデルフィニウムを相手にしていたヤマダ機もエネルギー切れを起こしてるみたいですが……あ、今、アルトがヤマダ機を掴んで重力波ビーム圏内に放り投げてくれました。そういえばアルトは強化されたバッテリーパックを搭載しているからビーム圏外でもすぐに動けなくなってしまう事はないんでしたっけ。

 

「武装衛星、ナデシコを捉えました」

「エンジン、臨界ポイントまで後15000㎞」

「今、ミサイルが来たら避けられないわね~」

 

 武装衛星からミサイルがついに発射されました。

 ……? 副長のデルフィニウムがミサイルの進路に向けて飛んでます。ちょうどミサイルがナデシコに向かうコースを塞ぐように。

 

「武装衛星からのミサイル。三方向から接近中」

「エンジン臨界ポイントまで後10000㎞」

 

「ユリカは……やらせない」

「あの野郎、ミサイルの盾にっ!?」

「やめろおぉぉーーっ!!」

「ジュンッ!?」

 

 ミサイルからナデシコを庇うように副長のデルフィニウムが両手を広げて立ち塞がる。ヤマダさん、テンカワさん、艦長が悲鳴にも似た叫び声を上げています。

 ……好きな人を守る為に自分の命を投げ出す。正直、私には理解しがたい行動です。それで死んじゃったら結局、守られた人達を哀しませてしまうじゃないですか。それとも私がまだ子供だから理解出来ないだけなのかな?

 ……でも、そんな副長の行動を見過ごせない人がナデシコにはいるんです。

 

「危ない! 出力全開ッ!!」

「ッ!? うわぁっーーー!!」

 

 アルトアイゼンが全速力でデルフィニウムの前へ飛び出す。そのまま、副長の機体をナデシコの方へと蹴り飛ばして自分がミサイルの直撃コースに留まる位置で停止しました。

 

「間に合えッ!!」

 

 アルトの両肩部ハッチが解放。“大剣”の名を冠した散弾地雷発射機構が、唸りを上げて大量のチタン製ベアリング弾を放射していく。

 クレイモアの散布領域にミサイル群が接触した瞬間――大爆発しました。

 

「ぐはッ!!」

「「ユキヤ君!?」」

「ボーズ!!」

 

 ミサイルの爆心地付近にいたアルトが吹き飛ばされてしまいました。

 副長を退がらせる為、ミサイルに接近しすぎていたんです。

 

「ミナヅキさんっ……!」

「ユキヤ君! 大丈夫なのっ!?」

「ユキヤ君! しっかり、しっかりして!!」

 

 艦長とメグミさんが正面モニターに向けて声を上げてます。ブリッジの他の皆さんも息を飲んで見守っています。でも吹き飛ばされたアルトのコックピットの映像は砂嵐(サンドストーム)のままです。

 爆発の衝撃でアルトの通信機が故障した? ミナヅキさんは大丈夫なのだろうか……そう思っていたらコックピットの画像が映し出されました。

 ミナヅキさんは顔を俯かせてぐったりしています。その姿に胸に氷を突き込まれたかのような心地になりました。

 まさか、ミナヅキさんに限ってそんな……思考が纏まらなくなりそうになったその時――

 

「うっ……ううっ……はっ! やべっ! 気絶しちまってたのか!?」

 

 ミナヅキさん、すぐに目を覚ましてくれました。衝撃で意識を一瞬、飛ばしてしまっただけみたいですね。良かった……ナデシコのエネルギーラインに復帰したテンカワ機が副長のデルフィニウムをヤマダ機に任せて、アルトの腕を取るとナデシコに牽引してくれてます。

 

「ユキヤ君! ムチャしすぎだ!!」

「す、すみません。アオイさんを助けて、自分も生き残るにはあれしか方法が考えつかなくて」

「ゴメンよ、ユキヤ君。僕が考え足らずだったばかりに危険な目に合わせてしまって……」

「いえ、俺こそ蹴とばしたりしてしまってすみませんでした、アオイさん。ホシノ、臨界ポイントまであとどれくらいだ?」

「残り300㎞です。残り250。200……」

「来た来たぁっ! エンジン回ってきたぁ!」

「ディストーションフィールド、最大へ!」

「四人を収容。全員バリア突破に備えて!」

 

 ウリバタケさん、メグミさんの報告。次いで、艦長の指示で副長のデルフィニウムを含めた四機がナデシコへ収容されました。ナデシコは更に加速していきます。

 

「100。50。……エンジン、臨界点へ到達」

 

 ミナヅキさんが墜としきれなかったミサイルが何発か着弾しますが最大出力で展開されたディストーションフィールドの前では艦に振動を与える事すら出来ません。

 そして、ナデシコ船体前方に一対、装備されたディストーションブレードがバリアに接触。

 一瞬の拮抗の後、バリアの発生器がオーバーロードを起こして爆発を起こした。

 

「ビッグバリア突破。ナデシコ、宇宙空間に出ました」

 

 私の報告と共にブリッジに安堵の溜め息があちこちから漏れだしました。

 あの後、アオイ副長はブリッジに出頭となりましたが、特にお咎めなしで、再び副長に復帰する形となりました。

 今回、ナデシコが地球連合に与えた損害についてはネルガルが全額弁償。しかし、これ以上、ナデシコの航海へ干渉しない。ナデシコ級戦艦、もしくはそれらの技術等の連合への優先的供給。これらをプロスさんがネルガルのお偉いさんを通じて連合軍に通達してくれるそうです。

 弁償に当てたお金を今後のナデシコ級戦艦等の売買によって回収、結果的にネルガルは出費以上の利益を出して潤う。一方的にネルガルとの約束破った連合に対しても、今後、カドが立ち過ぎないように上手く調整する。プロスさん、ホントにお上手ですね。

 

 ……アルトアイゼンは爆発のダメージで装甲を大分焼かれていました。アチコチ捲くれあがっている箇所も散見されています。ウリバタケさんにもいくら装甲が分厚いといっても限度がある。過信はするな、と怒られてました。

 ……意識を失ったミナヅキさんを見てしまった時の全身が凍ったような感覚。アレはあまり思い出したくありません。あのような事態をなるべく防ぐ為にも私も仕事をしっかりしなきゃ。

 ミナヅキさん達、現場のパイロットが欲しいと思った情報の即時伝達。戦局に合わせたオペレーティングをオモイカネと訓練しておかないと……あ、ミナヅキさんに直接、相談してみるのがいいかもしれませんね。

 今、ナデシコで一番エステの扱いに長けているのはあの人ですし、テストパイロットならではの意見も聞けるかもしれません。

 それをきっかけにして、もっとミナヅキさんとお話できればいいな……

 




主人公は援護防御の技能持ち(持ってないと味方が死んじゃう)
うーん、大分詰め込みぎてしまいました。もっとコンパクトな文章にしないと。
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