機動戦艦ナデシコ -Shoot it in the steel- 作:古鉄の夜
「エステバリスの点検、補給後にコロニー内の生存者確認と残り一機の0G戦フレーム回収をお願いね」
「へいへい、人使いの荒いフネだねぇ……」
ユリカは艦内居住スペースに向かう途中のエレベーター内で次の命令をパイロット達に出していた。リョーコが休む暇もないなとボヤき、次いでヒカルが口を開いた。
「あっ、そうだ。私、このフネ入る時、ちょこっと壊しちゃったんだけど平気だったかな? とりあえずカベは補修しといたんだけどぉ?」
この人の仕業だったのか! ユキヤとアキトがバッとヒカルに目を向けた。ユリカはあはは……と力なく笑っている。
その横でゴートがコミュニケを通して艦内警戒態勢の解除を全クルーに呼びかけていた。
なんでも脱出カプセルでナデシコに強引に乗り込もうと、突っ込んでしまったらしい。そこがフィールドジェネレータ区画だったという訳だ。
艦内に入ったはいいもののすっかり侵入者扱いされてしまい、乗組員は全員、武装してるでこりゃまずい。
ひとまず、艦内ダクトに身を潜めてほとぼりが冷めるのを待とう……としていた所、自室でゲキガンガーの鑑賞中だったヤマダの上に落下してきたそうだ。
……パイロットにはエステバリスで待機と命令が出ていたのだが、ヤマダはどうもアニメを見るのに夢中でスルーしていたらしい。新参パイロットである三人娘を除いた、他のクルー全員が頭痛を堪える様に額に手をやった。
「そういえばここにいるっていう三人のパイロットってのは?」
「フッ……聞いて驚け! この俺が機動戦艦ナデシコエステバリス隊の要! スーパーエースパイロットのダイ『本名、ヤマダ・ジロウさんです』イ様だっ!!」
……いつもの如く、無駄に張り切りながら自己紹介しようとするヤマダの魂の名乗りを遮る様にルリのモニターが突如、出現。本名を三人娘に告げるとまたサッサとモニターを切ってしまった。
ヤマダはもう一度名乗ろうとしたが、後ろからゴートが話が進まん、と口を強制的に手で押さえられてしまった。
「俺はテンカワ・アキト。コックと兼任だけど……」
「そっか~、だからパイロットの顔してないんだね~」
「……まだまだだと思うけど、皆の足を引っ張らない様に訓練してるとこだよ……」
ヒカルの悪気のない物言いにアキトは苦い顔で返した。コックの仕事とパイロットとしての訓練で四苦八苦してる自分ではそう言われても仕方ない。分かってはいるが正規のパイロットに言われてしまうと結構、胸にクルものがある。
次はユキヤの番だ。
「初めまして、同じくパイロットのミナヅキ・ユキヤです」
「「「この坊主(この子)がっ!!?」」」
――どう見ても十代前半にしか見えないミナヅキさんがパイロットだと知って三人とも驚いてます。リョーコさんは勢い込んでミナヅキさんに質問してます。
「なんでまた戦艦に子供が乗ってんのかと思ってたがパイロットだってぇっ!? さっき唐突に出てきた娘も同じくらいの歳に見えたし、このナデシコってフネはどうなってんだぁ!?
――っとと、まあ、それも気にはなるが……さっき格納庫にあった見た事のねぇゴツい機体……ありゃ、なんだ? エステバリス……なんだよな。新型か?」
「私らのエステちゃんが最新バージョンだって聞いてたのにズルいよねぇ~プンプン!」
やはりパイロットとして気になるのかリョーコさんがアルトアイゼンについて尋ねてきました。ヒカルさんは自分達こそが最新鋭機のパイロットだという自負心があったのか不満そうにしてます。
艦長が首を傾げながら聞き返してます。
「ほえ、アルトアイゼンの事ですか?」
「アルトアイゼン……それが名前か? で、アレのパイロットは誰だよ? コック、にゃあ見えねぇし、やっぱりそっちのヤマダ・
「ガイだ! ダイゴウジ・ガァイ!!」
ヤマダさんがシツコク訂正してますけど、だーれもマトモに受け取ってません。
皆さん、視線をチラリとミナヅキさんに向けています。
なんとなくイヤな予感がしてるのか、少し躊躇いがちに右手を上げたミナヅキさんが口を開きました。
「……アルトのパイロットは俺です」
「何いぃぃーーーっ!?」
「うっそぉ!?」
「こりゃたまげたね……」
リョーコさんがオドロキの叫び声を上げて、ヒカルさんは目を丸くしてます。……表情の分かりづらいイズミさんも思わずといった様子で呟いてしまったみたいです。ま、そりゃ驚くよね。
「な、なんでまたお前みたいな坊主が新型のパイロットやってんだ!?」
「アルトは俺の所属している研究所――ラドムラボで改造されたプロトタイプエステバリスです。換装機構を持たない重装フレームの試作三番機を母体としてラドムラボ所長、マリオン・ラドム博士が開発したのがアルトアイゼンなんです。
俺はラドム博士の研究を手伝って、エステバリスのパイロットとして早くから訓練していました。それでラドム博士にテストパイロットをやってみないかと提案されて……アルトに元々、興味があった俺はそれを承諾しました。それがきっかけです」
「お前はそのラドム博士ってー人とどういう関係なんだ!?」
「……俺の保護責任者です」
……ミナヅキさん、少し顔を俯かせてしまってます。リョーコさんはその様子に事情を察してくれたのか、追求をやめてくれました。ヒカルさんも「……リョーコ、その位で」そう小声で注意してくれました。イズミさんも口にはしませんが目線でリョーコさんを制止してくれてます。
ミナヅキさんがアルトアイゼンのテストパイロットをやっているのはもしかして……いえ、きっと自分を育ててくれたラドム博士へ恩返しをしたいという気持ちもあるんでしょうね……。
「アルトはさっきも言った通り、試作三番機の改造機ですから皆さんのエステバリスが最新型だというのは間違いありません」
「そ、そうか。まあ、最新鋭機のエステバリスライダーの俺達が来たからにゃあ、そんな旧式の改造機と子供を無理して使わなくても平気さ。俺らに任せときな!」
そんな言い方……。これまでナデシコを守ってくれていたのはミナヅキさんとアルトアイゼンなのに。
流石にアルトをあからさまに馬鹿にされては黙ってはいられないのか、ミナヅキさんは口を開きました。その顔は先程とは違って全くの無表情です。
「……一応、アルトも量産化のトライアルに出す予定があるので、それなりの性能は確保されています。足手纏いにはなりません」
『そうです。現在ナデシコ、エステバリス隊で最も高性能な機体はフレーム換装による汎用性を抜きにすれば、ミナヅキさんとアルトアイゼンの組み合わせです』
ミナヅキさんに続けて私も思わず通信を繋いでしまいました。
私は……多分、このとき怒っていたんだと思います。友達が大切にしているものを貶されたから。
『貴女はまだナデシコに来たばかりでミナヅキさんがパイロットとしてどれだけ頑張ってきたかは知らないはずです。なのにミナヅキさんとアルトを馬鹿にする様な言い方は控えて下さい!』
「んだとぉっ!!?」
「ホ、ホシノ!? 落ち着いてくれ。俺は何もそこまで気にはしていないからさ! リョーコさんも!!」
気が付いた時、私は思わず叫んでいました。リョーコさんが顔を赤くして拳を震わせながら私を睨みつけてます。
ミナヅキさんはギョッとした様子で私のモニターとリョーコさんの間に立って、両手を互いの前に上げて待ったを掛けてくれました。その姿を見て、私は少し冷静になれました。……でもリョーコさんへ抱いてしまった悪感情はそう簡単に拭えません。負けじと睨み返す私。そこへ――
「そこまでーーーっ!! 二人とも一旦ストップ! ユキヤ君の言う通りです。ここは冷静になりましょう? ルリちゃんもリョーコさんも」
艦長がこれまでで一番大きな声を上げて私達を制止してくれました。
「リョーコッ! タンマ、タンマ! 小さな女の子相手にそれはダメだってばッ!!」
「そうだよ。あんたが言い過ぎたのは事実なんだ。ここは抑えな! 大人気ないよ、リョーコ!!」
艦長の言葉にハッとしたヒカルさんがミナヅキさんを押し退けて、私に食ってかかろうとするリョーコさんの前に出て、肩をおさえてくれてます。
イズミさんもリョーコさんの肩に右手を乗せ、自分の方に引き寄せながら止めてくれています。
……私はそれを見て頭が冷えてくるのを感じました。ミナヅキさんが、艦長もテンカワさんも心配そうな顔を私に向けてくれてます。
『…………ごめんなさい。言い過ぎました』
やってしまいました。私はリョーコさんに頭を下げてモニターを閉じました。どうしよう? 皆さんに……なによりミナヅキさんに迷惑をかけてしまって。次、ミナヅキさんに会った時、どんな顔で話をすればいいんでしょうか?
「テンカワさん。俺、ちょっとブリッジに行ってホシノと話してきます。整備が完了するまでには格納庫に戻りますので」
「そうかい? そのユキヤ君、大丈夫? ルリちゃんと、その……」
「良ければ私も一緒にルリちゃんとお話ししようか……?」
アキトに続いてユリカもそうやってユキヤを気遣ってくれた。
あの後、気まずい雰囲気になったエレベーター内はフロアに到着するとひとまず解散となった。
ユキヤはそのままブリッジに向かうつもりだった。艦長であるユリカも当然一緒だ。アキトも先程の様子からユキヤとルリが心配だったのもあり、同行してくれていた。
「ありがとうございます。でも、ケンカしにいくわけじゃありませんから」
「……ルリちゃんが怒るのも無理ないと思う。もし、ルリちゃんが言ってなかったら俺が怒鳴っていたよ」
「リョーコさんにはプロフェッショナルのパイロットとしてのプライドがあるんです。
俺もアルトのテストパイロットを任された自負心がありますから、あの人の気持ちも分かります。……だからって言われっぱなしで終わる気はありませんけど。それをちゃんとホシノに話してきます」
「ユキヤ君が話した方がルリちゃんも納得しやすいと思うしなぁ……分かったわ。もし、拗れそうになったら私もお話してあげるからね」
「ありがとうございます。艦長」
アキトと別れたユキヤとユリカは一路、ブリッジへと急いだ。
ブリッジに入室したユキヤは、そのままブリッジ中段のオペレーター席に向かう。ユリカは上段の艦長卓から二人の様子を見守る。
通信席にメグミの姿はなかった。操舵席に座っていたミナトはユキヤの姿を認めると、弱った顔でユキヤに両手を小さく上げてお手上げのポーズを取った。
オペレーター席には顔を俯かせたままのルリの姿があった。元々小さな身体が今はそれ以上に小さく見えた。……ブリッジメンバーの中でも比較的、仲の良いミナトの言葉すら聞けないほど機嫌を損ねてしまったらしい。ユキヤはミナトに一つ頷き返すとルリの側まで近寄った。
「……ホシノ、さっきはありがとな。俺の分まで怒ってくれて」
「……ミナヅキさんは悔しくないんですか? あんなこと言われて……」
そのお礼の言葉に俯いていたルリがそろり、と顔をユキヤに向けてきた。申し訳ないという気持ちとやっぱり許せないという気持ちが同居した微妙な表情。ユキヤはそれに苦笑しながら答えた。
「そりゃあ少しはな……ただ、俺はあらかじめラドム博士から言われてたから、さ」
「なにを言われたんですか……?」
「うん、『貴方は未だ子供です。侮られる事もあるでしょう。そんな時、無理に反論しても相手を納得させるのは難しい。だから現場で文句の付けようがない結果を叩きつけて黙らせてやりなさい。そうすれば誰も貴方を侮らなくなる』ってさ。
俺も正直、ナデシコに来る前は色々と覚悟してたんだ。やっぱり始めは子供だから色々言われちまうんだろうなー、とか結果を出したとしても偶然だとかで片付けられてしまうかも、とか。
……一番ありえるのがそもそも、俺が現場で判断ミス起こして信じてもらえないってパターンか。戦場じゃ何が起きるか分からない。そのプレッシャーに耐えながらどこまで訓練通りの力を発揮できるか……まぁ、それなら俺が単純にパイロットとして未熟だった、鍛え方が足りなかったって話なんだけどな。
だから、ナデシコ出航時の戦闘も『焦るな、落ち着け、普段通りにやれ』って自分に言い聞かせながらアルトを操縦してたんだ」
「……そうだったんですか? とても、そうは見えませんでした。落ち着いて対処できてたじゃないですか」
「そう、見えたか? なら訓練の成果が出せたな。それとホシノのオペレートが正確だったお陰だな」
「いえ、そんな……」
そうして微笑みかけてくれるユキヤにルリはさっと顔を俯けると朱の差した頬を隠した。先程まであった胸のしこりは大分解けてなくなっていた。
「あの時はアルトも結構、無駄弾もらってたし、信用してもらうにはまだ足りないかもって思ってた。だから皆がすぐに認めてくれて正直、意外だった」
「あれだけ活躍して、それでも認めないとかいう人がいたらそれはもう只のわからず屋です」
ユキヤの自己評価の低さにルリは少しムッとしてしまった。
同時にあの緒戦で何故ユキヤが力んでしまっていたのかも理解した。だからミナヅキさんは戦闘のあと、少し自信無さそうにしてたんですね、自分に厳しい目を向けていたから……
それでもユキヤはもっと自信を持っていいとルリは思った。少なくとも自分はユキヤを信用している。パイロットとして、同じナデシコクルーの一人として。
「ありがとう。まぁ、だからリョーコさんに言われた時もカチンとは来たけど、やはりそうなるかと思ってたんだ。けど、俺だって舐められたまま終わる気は毛頭ない。実戦で証明してやるさ、俺とアルトの力を。ラドム博士にも言われたからな。『見せつけておやりなさい。貴方と私のMk-IIIを』って」
「ハイ、見せつけちゃってください」
マリオンを真似た不敵な笑顔を浮かべるユキヤ。それにルリも安心した様な笑顔を返した。ミナトが二人の様子を見てうんうんと頷いている。少し、ハラハラしながら見守っていたユリカも今はいつものニコニコ笑顔だ。そして何かに気付くと、自分のコミュニケのタッチボタンを押すと三人娘へ通信を繋いだ。
「……私達がユキヤ君をスカウトする為にラボへお邪魔した時、そうおっしゃっていましたな、ラドム博士は。
さて、そろそろエステの整備が完了するようですよ、ユキヤ君。格納庫へ向かった方がよろしいのでは?」
二人の微笑ましい様子に以前の事を思い出すプロスペクター。コミュニケの時間表示に目をやりながらユキヤに言葉をかけた。
「あっ!? もう時間ですか。それじゃあホシノ、俺いってくるよ」
「はい。ミナヅキさん……その、無理はしないで下さい」
少し心配そうにしているルリへ、ユキヤは軽く手を振って答えるとブリッジを去っていった。
――アルトアイゼンに乗り込んだミナヅキさんがヘルメットを被って、首元の装着具合を確認しています。赤と黒のツートンカラーのパイロットスーツ。ラドムラボ仕様の特注スーツだそうです。
初めて見た時は結構ハデかも、と思いましたけど要所に入っている黒が全体を引き締めていてシックなイメージ。……ミナトさんも言ってましたけど、よく似合っています。
エステバリス隊はこれから崩壊したサツキミドリ2号の調査に向かう為に全機出撃準備中です。
その時、私のコミュニケにプライベート通信が入りました。相手は……リョーコさん。それにヒカルさんとイズミさんです。
さっきのやり取りがあった手前、通信に出るのに躊躇がありましたが……やはり出る事にしました。
ミナヅキさんから気持ちを聞かせてもらったんです。私もちゃんとあの人達とお話しなきゃいけません。
私は一度深呼吸をすると、オモイカネに頼んでコミュニケを遠隔操作してもらって通信画面を開きました。気持ち小さめなモニターが三つ、私の前に開きました。
「……はい。何かご用でしょうか?」
『あー、ホシノ・ルリ、だよな? 名前……』
「はい。ナデシコのオペレーター、ホシノ・ルリです」
リョーコさんはあー、とかうーん、とか要領を得ないコト言って視線を泳がせてます。……この人が切り出したい話がなんとなく分かっちゃいました。すると――
「リョーコ。ホシノちゃんにきちんと謝らないと。艦長にも言われたでしょ?」
「この子は先に謝ってくれたよ、リョーコ」
「わ、分かってら! ……さ、さっきは、お前のダチに悪ぃこと言っちまって……その、すまねぇ……」
ヒカルさんとイズミさんが促してくれました。バツが悪くて仕方ないといったリョーコさんの表情。それに私は胸の中につっかえていた最後のトゲが取れた様な心地になりました。
「いえ、私もカッとなって年上の人に失礼なコト言っちゃいました。ごめんなさい。……もう怒ってはいません。その、コロニーの調査、気を付けて行って来てください」
「おう! 任せときな!」
明るい顔でそう言ってくれるリョーコさん。笑顔で手を振ってくれるヒカルさん。シニカルな笑みを浮かべて一つ頷いて返してくれたイズミさん。三人のモニターが閉じると同時、色違いの0G戦フレームが動き出しました。
……ミナヅキさんもアルトの機体状況を確認しています。グレーシェードが入ったバイザーにアルトの各部インジケータが反射されて写り込んでいます。それをミナヅキさんは鋭い視線でチェックしています。ブリッジで私に見せてくれた優しい笑顔とはまるで別人のよう。……当然ですね。パイロットなんですから。
チェック完了。コンディションオールグリーン、です。
「システム、戦闘モードに移行。――出します!」
外部スピーカーをオンにして整備班の人達に告げるミナヅキさん。付近にいた整備スタッフが一斉に走り去って行きます。
アルトが壁面ウェポンラックからシシオウブレードの鞘を掴み取る。ロックが解除され、前後二箇所の固定具が外れました。アルトはそのまま、左腰マウントラッチにブレードを固定。
そして、一歩前に踏み出す。脚部関節から排気煙が放出されています。そのまま、重力カタパルトへと歩みを進めていくアルトアイゼン。
「じゃあ、ちょっくら行ってくらぁ!」
「期待して待っててね〜♪」
先にリョーコさん達のエステバリス。赤、黄、水色の0G戦フレームが発進していく。次はミナヅキさん、テンカワさん。ヤマダさんの順番です。
ヤマダさんは0G戦フレームの数が足りてないので砲戦フレームでナデシコの直掩に付くそうです。……当然、文句言ってきましたけど、艦長がパイロットには待機命令出してたのに自室でくつろいでましたよね? と告げると大人しくなりました。
艦長の額にはチョッピリ青筋が浮かんでました。
その時のヤマダさんのカオ。なんというか、へのへのもへじ……? になってた様な。幻覚でしょうね。疲れてるんでしょうか、私。体調は問題ないハズなんだけどな……。
後、ミナヅキさんとテンカワさんの相性の良さもあると思います。ここでパイロット技量の差からテンカワさんが居残りになってしまうと、ミナヅキさんと息を合わせられる人がいなくなっちゃいます。
リョーコさん達三人は、フォーメーション訓練も充分に積んでますから、下手な連携だと付け焼き刃になりかねません。
ちなみにテンカワさん、そのヤマダさんのコトでパイロット査定の再計算をしてたプロスさんから雇用時の保険に問題が見つかったそうで。
戦闘時に壊したエステバリス、その他装備に関する保険に不備があったみたいです。
言うまでもありませんが兵器というのはとっても金食い虫。
いくらナデシコクルーの給与が良いと言っても兵器の損耗額をそこから差っ引かれてたらテンカワさん、あっという間に無一文で借金生活に突入しちゃいます。これに気付いたプロスさんはテンカワさんに平謝り。しっかり保険加入を条件付けしたそうです。
……これにはテンカワさんも青ざめてました。真面目に仕事してたのに、実は借金してたなんて笑い話にもなりません。ま、当然よね。
そんなこんなでリョーコさんが持ってきた最後のエステバリス0G戦フレームはテンカワ機に換装されてます。
テンカワ機のパーソナルカラーはピンク。でも0G戦フレームはグレー一色で塗られているから、アタマだけピンクなのが少しミスマッチかも。
「どうにも、締まらねぇ色合いだな……。仕方ねぇ、帰ってきたらフレーム塗り直すか。おーい! テンカワァッ! そーいうわけだから大事に乗れよ、その0G戦フレーム! いきなりぶっ壊してくるんじゃねぇぞ!?」
「は、はーーーい!!」
ウリバタケさんも気になるみたいです。テンカワさんとの間でそんな会話がされてました。
テンカワさんは0G戦フレームに乗っての出撃はこれが初めてです。一応、シュミレーターで一通りのフレームは扱える様に訓練してたそうですけど……慣性駆動にまだ不慣れだとミナヅキさんから聞いています。
宇宙空間は重力がありませんから一度、勢いがついてしまうとカンタンには止まれません。姿勢制御をしっかり行うには機体各部のアポジモーターを適切に噴射しないと機体がスピンしっ放しになっちゃいます。これの制御にテンカワさんは苦労してるのだとか。
アルトアイゼンがカタパルト発進位置に到着しました。私は発進のアナウンスを告げる。
「重力カタパルト、チャージ完了。射出タイミングをアルトアイゼンに譲渡します」
「了解――ミナヅキ・ユキヤ。アルトアイゼン、出ます!」
重力波によって加速したアルトがナデシコから発進していく。
メタリックレッドの装甲に星々の煌めきが反射して輝いて見えます。
先行する三機のエステバリスを追いながら蒼いスラスター光を尾に引いて増速していくアルトアイゼン。テンカワさんの発進オペレートを行いながら、私はそれをしばらく見つめていました。
「ユキヤ君、色々あったけど、まずは目の前の任務に集中するんだよ? 私からもリョーコさん達にはしっかり話しておいたから。……大丈夫。三人とも分かってくれたよ」
「はい。先程、リョーコさんから謝ってもらいましたし、実戦で俺の動きを見て判断して下さいとも伝えましたから」
「そっか、良かった! ……アキト、リョーコさん達はフォーメーションが固まってるみたいだから、ユキヤ君のフォローお願いね?」
「ああ、任せとけ。ユリカもナデシコを頼んだぞ」
「もっちろん! アキトの帰るナデシコは愛する私が守ってみせるからね♪ ユリカ、目一杯頑張っちゃうから!」
「ば、馬鹿! 何デカい声で言ってんだよ!? はぁ、とにかく行ってくるよ……じゃあな」
「アキトさん、私も応援してます! 頑張ってくださいね」
「……う、うん。ありがとう、メグミちゃん」
出撃してしばらく。ユリカからユキヤとアキトに通信が入った。何故か最後にメグミからアキトにやたらと意気込んだ激励にアキトはやや戸惑いながら礼を言った。
……ユリカはアキトに頼りにされて嬉しいのか、頭の上にお花畑を咲かせていた。
「テンカワさん、メグミさんと何かありましたか?」
「い、いや、展望室でちょっと話しただけなんだけど……」
「おい、てめーら! いつまでも喋ってんな。ナデシコのエネルギーライン、そろそろ切れるからな!」
「はい!」
「わ、分かった!」
リョーコの注意に意識を引き締め直す二人。目の前には破壊されきったサツキミドリ2号がスクリーン一杯に拡がっていた。
エステバリスはナデシコから発信される重力波ビームによってエネルギー供給がされている。当然、コロニー内の閉鎖環境ではビームが通らないので内蔵バッテリーの残量分しか動けない。
ラドムラボ製の強化バッテリーパックを持つアルトはともかく他の四機はラインから外れてしまえば、十分も持たないだろう。残りの0G戦フレームの回収は手早く行わなければならない。
「生物反応は無し」
「目的ポイントの位置、確認!」
「豚の角煮……クククッ」
明るいヒカルに自分で思いついた駄洒落に忍び笑いするイズミ。対してバッテリー切れの恐れがある状況での作業に唾を呑み込むアキト。もし敵が潜んでいたら、もし敵が目の前にいるというのにバッテリー切れを起こしてしまったら、と思うと身体から嫌な汗が噴き出すのを止められなかった。
「テンカワさん、あまり気負いすぎないで。もし、エネルギー切れを起こしても俺達がフォローしますから」
「う、うん。ありがとう、ユキヤ君」
雰囲気が強張っていたのを察したユキヤが通信を入れてきた。アキトは礼を返しながら、自分は一人ではない。仲間がいるのだと思い直した。ユリカに言われたからって訳じゃないけど、ユキヤ君のフォロー位はしっかりやってみせる。アキトはIFSスフィアボールを改めて掴み直した。
三人娘の先導の元、サツキミドリのコロニーの格納庫へと足を踏み入れた五機のエステバリス。ここに残り一機の0G戦フレームがある。木星蜥蜴に破壊されていなければ、だが。
「あーーっ♪ おっきい真珠みっけーーー!」
ヒカルの脳天気な掛け声に、他の四機は格納庫奥に仰向けに倒れていた0G戦フレームにカメラアイを向けた。
「さてと、じゃあ回収作業始めっか」
そうやって倒れ込んでいる0G戦フレームに近寄っていくスバル機。しかし、ユキヤはアルトのセンサーが異常を感知した警告音に身を強張らせた。
……目の前のエステバリスから
「リョーコさん! その機体から離れてください!!」
「何ぃ!?」
ユキヤの切羽詰まった叫びにのけぞるスバル機。直後、スバル機がいた空間を銃弾の雨が薙いだ。
「あ、あっぶねぇ!」
「なんだありゃ!?」
「ふえぇぇ、デビルエステバリスだぁぁ!」
「トカゲにコンピューター、乗っ取られてる!?」
糸の切れたマリオネットの様な奇妙な動きを見せながら、エステバリスが立ち上がる。見れば小型のバッタが機体各部に取り付いている。ヒカルが少し怯んだ様な声を、イズミも流石にシリアスな様子で目前の機体を見つめていた。
次の瞬間、全身に取り付いたバッタの背面が展開。マイクロミサイルが一斉発射され、エステバリス各機に殺到した。
「チッ!?」
ユキヤはアルトをミサイルが飛来してくる方へと仁王立ちで待ち構えた。背面の各推進器にもらう訳にはいかない。
幸い、ミサイルは無差別に発射されており、アルトに向かってくる数自体はそれほど多くない。この程度の火力であれば――
「硬さが頼りだ。まだいける!」
ミサイルが数発、着弾するが、重装甲を誇るアルトアイゼンは余裕で耐えてしまう。他のエステはディストーションフィールドで防いでいる。
しかし実弾兵器だとある程度、フィールドは減衰させられてしまう。何機かが爆発によって転倒、もしくは大きく後退させられていた。
「見た目通り、分厚い上に重たいんだねーユキヤ君のエステって。線の細い美少年が無骨なロボットのパイロットやってるってギャップが……そっかそっか、こーいうのもアリかぁー」
「なにアホなこと言ってんだ!!」
なにやら感銘を受けているのかヒカルがうんうんと頷いていた。リョーコがすかさずツッコミを入れる。ヒカルの冗談はユキヤにはサッパリだったが、三人娘は敵機からの銃撃をしっかり避けていた。先程は不意を突かれたのもあってフィールドで受けてしまって無駄にエネルギーを消費してしまった。これ以上もらう訳にはいかない。
「総重量はそっちの方が重てぇんだ。スピードの差で懐に潜りこんで、接近戦なら!」
敵機のパターンを見切ったスバル機が旋回速度の遅さを突いて死角に回り込む。一撃入るかと思ったその時――腕部に取り付いたバッタが機体の上半身を格納庫天井の機材に向けて発射。バッタの下半身と繋がったケーブルを高速で引き戻し、機体を機材に取り付かせた。間一髪スバル機の攻撃を回避。そのまま、空いた手のバッタから機銃を掃射してくる。
エステバリス隊はコロニー生存者の安全を考慮してライフルなどの中~長距離武装を持ってきてはいない。迂闊に発射すると、どこにいるか分からない生存者に当たってしまう可能性もあった。
勢い、敵機を倒すには接近戦に持ち込まなければならないのだ。
しかし、敵機はワイヤーアクションもかくやとあちこち飛び回っていて、どうにも間合いが取りづらい。
「ふえぇぇん、早すぎるよぉ~~」
「図体重そうな癖にやるわね!」
「うわぁぁ! どおぉっ! 全く慣性って奴はどうしてこうも……!」
ヒカルとイズミも変則的なその動きに舌を巻いていた。アキトは攻撃を避けるだけで重労働らしかった。それでもシュミレータで訓練し始めたばかりの頃より格段に進歩している。曲がりなりにも敵機の射撃をほぼ避けきってみせているのだから。アキトの成長スピードは、ユキヤの目から見ても相当早かった。
ユキヤもアルトの装甲に頼るだけでなく、脚部スラスターを駆使した回避運動で被弾を抑えていた。とはいえ、0G戦フレーム程自在に動けるわけではない以上、避けきれない弾は出てくる。
受けざるを得ない弾はなるべく装甲の厚い面で受けるか、機体を傾がせて装甲表面で跳弾させる事でダメージを最小限に留めていた。
「どうするリョーコ!?」
「こちとら売られた喧嘩だ。やぁってやるぜっ!!」
「待ってください、リョーコさん! ここであのフレームを完全破壊してしまったらエステバリス隊全機での0G戦フレーム運用が不可能になってしまう。コロニーでの補給ができなくなった今、ここで0G戦フレームまで失うのは痛すぎます!」
血気盛んなリョーコにユキヤが待ったを掛けた。ウリバタケら、ナデシコの優秀な整備クルーなら0G戦フレームをまた造り上げる事も不可能ではないかもしれないが……その為に消費される資材はこれから火星に向けて長い航海をしなければならないナデシコにとって無視できないロスだ。火星に着けば、地球とは比較にならない物量の無人兵器群と果ての無い戦闘を繰り広げなければならないのだ。
「じゃあどうすんだよ!?」
「流石にあんな暴れまくられてちゃ撃墜するしかないと思うけど?」
「……何か考えがあるんだね? ユキヤ君」
無茶言うなとリョーコとイズミが反対してくるが、これまでの付き合いでユキヤに何か策があるのだと察したアキトがサブモニター越しに神妙に尋ねてきた。
「申し訳ないんですが、リョーコさん達のコンビネーションで敵機の注意を一時、惹きつけてもらえますか?
動きの止まった敵機に俺がブースト全開で壁面に縫い付けて、動きを封じます。その隙にイミディエットナイフでバッタの排除を――エステを乗っ取っているのは恐らく機体各部に取り付いている小型バッタだ。あれを全て破壊すればエステも機能停止するはずです」
「でも、その間、バッタの銃撃をモロに浴びちゃうよ……?」
「アルトの装甲なら充分、耐えられる。耐えてみせます。皆さんがバッタを倒しきるまでは」
「分かった。やろう、ユキヤ君!」
力強く言い切るユキヤにまずアキトが同調する。作戦がそれなりに筋道立てたものであった為、三人娘もモニターの中で首を縦に振った。
「じゃあ、まずは私達から行くよ、イズミちゃん!!」
「くわばら、くわばら」
アマノ機、マキ機が独特の交差機動で敵機に突撃していく銃撃ではなく、手甲部ナックルカバーを下げて二機を迎え打つ構えを取る。
「必殺、ダブルアターック! じゃなくってぇー」
右、左と拳が振るわれ、アマノ機とマキ機が吹っ飛ばされていく。しかし、敵機の動きは完全に止まってしまった。そこへ――
「ブースト! 後はぶつけるまでだ!」
アルトの両肩部スラスターが後方に跳ね上がる。全バーニアスラスター点火。一瞬で敵機との距離を潰すとリボルビングステークで敵機の左腕に付いたバッタを貫く。右肩を左手で捕えると猛烈な加速で敵機を格納庫壁面に叩きつけた。頭部に取り付いたバッタが機銃をアルトに放とうとしてくる。が、ユキヤは予め起動していた頭部ヒートホーンでそれをつんざいた。
しかし背部スラスターの二機と左腕に付いた一機が機銃を浴びせてくる。アルトの装甲が至近弾の直撃によって、みるみる損傷していく。
ユキヤはコックピットに響く警告音を無視して叫んだ。
「アキトさん! リョーコさん! 今です!」
「うおおおおおおっ!!」
「他所様のモン勝手に使ってんじゃねぇーぞコラァッ!!」
イミディエットナイフを抜いたテンカワ機、スバル機がアルトに続いて突撃していく。それぞれのナイフがバッタを刺し貫いた。残った一機は勝ち目が無いと判断したのかエステバリスから離脱しようと飛び立った。しかし――
「逃がすワケ、ねぇーだろぉっ!!」
ナイフから手を離したテンカワ機がバッタに鉄拳を打ち込む。最後の一機が爆散した。覚悟を決めた事で集中力が増したのか、アキトの操縦にもたつきは見られない。
やはりセンスだけならばアキトも他のパイロットに負けていない。
残された0G戦フレームにユキヤは油断なく視線を向けていた。もし、バッタによる乗っ取りがシステムの根幹部にまで及んでいたら流石に完全破壊するしかない。……エステバリスに再起動する気配は見られない、動力反応も無し。どうやら自分の推測は当たっていたらしい。
「敵機の機能停止を確認。0G戦フレームの確保成功です」
「ふぃー、手間取らせやがって。ったくよぉ」
「みんな、バッテリーの残量ヤバイよ! 一旦、ナデシコのエネルギーラインに戻ろう、急いで!!」
一息吐くリョーコ。そこへ珍しく焦ったヒカルが全機に通信を入れた。
「了解、0G戦フレームは俺が引き上げます。皆さんは先にナデシコへ戻ってください」
「ユキヤ君、アルトは平気かい? 結構もらってただろう?」
「大丈夫、機能低下を起こす程じゃありませんから。……というかバッテリー残量、一分切ってます! 行ってくださいアキトさん!」
「お、おう!」
滅多に見ないユキヤの切羽詰まった叫びにアキトは自機を翻すと三人娘を追って格納庫跡から脱出したのだった。
0G戦フレームをナデシコに収容した後、(ウリバタケによると規格の合わないコンピュータで地球製マシンを無理やり操っていた為、電装系、制御系統はほぼ全滅していたが、それを入れ替えれば運用可能との事)ユキヤ達は生存者を探してコロニー内を隅々まで探して回ったが残念ながら一人も見つける事は出来なかった。
「生存者、発見できません……非戦闘員であっても、皆殺しにするというのか。蜥蜴どもめ……」
――ナデシコ正面スクリーンに気落ちし切ったミナヅキさんが映し出されています。ブリッジのあちこちから落胆の溜息が聞こえてきます。
……ミナヅキさん、俯きながら肩を震わせています。初めて見ました、あんな姿……心配です。
「無人兵器ゆえの慈悲の無さ、でしょうな……艦長、無念ではありますがここは先を急ぎましょう」
プロスさんが木星蜥蜴の行動パターンをそう分析しています。コンピュータ制御によって動く木星蜥蜴は人間と違って良心や罪悪感を感じずにどんな虐殺行為もプログラム通り実行してしまう。
敵を滅ぼす……この一点に尽きるなら木星蜥蜴は理想的な兵器群と言えるのかもしれません。……嫌ですね、自分の考えにゾッとしてしまいます。
プロスさんに促された艦長は悔しそうに俯いていましたが、やがて顔をキッと正面に向けると、改めて指示を出し始めました。
「エステバリス隊、全機ナデシコに帰還して下さい。本艦は当初の予定通り、火星を目指します!」
各クルーが了解を返す中、ミナヅキさんもなんとか返事を返してくれましたが、いつもの元気がありません。
どうしよう……私に何かしてあげられるコトってないかな。さっきミナヅキさんは落ち込んでいた私を気遣って励ましてくれました。何かお返ししてあげたい。でも私には励ますとかどうやってすればいいのか思いつきません。私もミナヅキさんみたいに積極的に他人と話すことができたら……。
「ルリルリ。ユキヤ君、落ち込んじゃってるわ。格納庫、行ってあげなさいな」
ミナトさんがそう言って私を促してくれました。でも……
「どんな言葉を掛けてあげればいいのか思いつきません……安易なことを口にしてミナヅキさんを傷つけてしまったら……」
「大丈夫。無理に話そうとしなくてもいいわ。ルリルリが側にいてくれたらきっとユキヤ君、落ち着いてくれるわ。そしてあの子が話したそうにしてたらそれを静かに聞いてあげればいいの」
「そうでしょうか……?」
「ええ、ユキヤ君は気遣ってくれる人の厚意を無下にするような子だった?」
「そんなはずありません!」
「ならルリちゃん、一緒に行こう! 私も疲れて帰ってきたアキトを労ってあげなきゃだし……もし、ユキヤ君との会話で困っちゃったらユリカがフォローしてあげるから♪」
そうやってミナトさんに続いて艦長が自信満々にそう言ってくれました。いつもなら能天気だな、と思ってしまうトコですけど……今は不思議と頼もしく見えます。
「いいんですか、艦長?」
「艦長さんに任せなさい! って、アレ? ユキヤ君から通信だ。なんだろ?」
「……艦長。こんな時にあれなんですけど、艦長に許可をもらいたい事があるんです」
帰還途中のアルトアイゼンから艦長に通信が入りました。モニターに映ったミナヅキさんは少しすまなそうに話しを切り出しました。
なんだろ? 艦長に許可をもらわなきゃいけないなんて……。
「私に? なになに、どーゆうこと?」
「重力波通信システムの使用許可をお願いします。俺の所属研究所、ラドムラボにこれまでのアルトアイゼンの運用データを纏めた報告書を送信したくて」
「ああ、そういうコトかー。許可します、もちろんオッケーだよ! ユキヤ君」
「ありがとうございます、艦長」
「ユキヤ君。差し出がましい様ですが、報告書の暗号化等はしっかりできておりますか? これまでの貴方の評価ですからな。ミスがあったりしたら勿体ないですよ」
プロスさん、仕事に関係する事柄に関しては口を挟まずにいられないのかすかさず確認を取ってきました。ミナヅキさんは嫌な顔一つせず、頷いて返してます。
「はい、ラドム印の暗号化ツールでしっかりロック掛けてありますから」
「ならば良いのですが。今回の報告書、ラドム博士はきっと喜んでくれると思いますよ」
「……そうでしょうか? 正直、反省点も多い報告書なんですけど」
「いえいえ、扱いの難しいアルトアイゼンであれだけの戦果を出してみせたのですから大丈夫。私が保証しますぞ」
事実、ユキヤが研究所に送った報告書を見たマリオンは執務室にて――
「素晴らしい! 素晴らしいわよユキヤ!! 僅か三度の実戦でこうもMk-IIIを見事に扱ってみせるなんて! もうなんの問題もないわ。Mk-IIIもきっと喜んでいるわ……きっと! いいえ間違いないわよ!!」
そうやって歓声をひとしきり上げ続けていたのであった……。
――トコロ変わって、ここはナデシコの格納庫。テンカワさん目当ての艦長と一緒にミナヅキさんとお話しようと来たはいいんだけど……
「…………ゑ゛っ…………? アレってメグちゃん? そーいえば、いつの間にかブリッジからいなくなってたけど……」
私達の視線の先、テンカワさんと向き合って、なにやらカオ赤くして話しかけてるメグミさんがいます。艦長がミナヅキさんと通信してる時にそそくさとブリッジから走り去っていきましたけど、やっぱりテンカワさんがお目当てだったみたいです。ぶっちゃけ抜け駆けですね。
……テンカワさんの横にはミナヅキさんがいます。二人ともメグミさんの様子に困惑してるよーな。メグミさんはテンカワさんしか目に映ってないみたいで一方的に喋ってます……ミナヅキさんは完全に眼中に無し。
さっき、出撃前に展望室で落ちこんでたメグミさんをテンカワさんが励ましてあげてたとオモイカネが教えてくれました。それが切っ掛けであーなったのかな?
あ、手持ち無沙汰になったミナヅキさんが少し離れた所にいた私達に気付いてくれました。
「アキトさん、艦長が来てくれてますよ。ホシノも一緒です。ほら、向こうに……話したいことあったんじゃないですか?」
「えっ? ああ、ほんとだ。メグミちゃん、ちょっとごめんね。また後で話そう」
ミナヅキさん、テンカワさんの腕に手を置いて、そう促してくれました。
テンカワさんはメグミさんに断りを入れて私達の方に歩いてきてくれました。それを見た艦長、ぱあぁっと顔を輝かせてます。ホント、分かりやすい人です。
「ユリカ……。戻ったぞ」
「艦長、ホシノ。今、帰艦しました」
「うん! お帰りアキト、ユキヤ君」
「ミナヅキさん……ご無事で良かったです。テンカワさんも」
ミナヅキさん、笑顔を見せてくれました。やっぱり艦長と来たのは良かったみたいです。私だけだったら話かけられなかったかも。
「みんな、お腹空いてない? 折角だから四人でご飯食べようよ!」
「わっ! 押すなよユリカ。飯にするにしても、まずはパイロットスーツから着替えさせろって」
「そうですよ、艦長。まずは着替えさせてください」
「は~い。ルリちゃんと二人で待ってるからね♪」
「ホント、ウチの艦長って強引なんだから……」
テンカワさんとミナヅキさんの背中を押しながら、艦長はいつものニコニコ笑顔です。
このあと私達、お二人が制服に着替えた後、食堂でご飯を頂きました。艦長が雰囲気を明るくしてくれたから、ミナヅキさんもいつも通りの様子に戻ってくれましたし、私も普通にお話できました。
……こんな風に大勢で食事するのも悪くない、かもしれませんね。
言い訳をさせてもらえると私は決してリョーコを悪者にしたい訳ではありません。
あれは自分よりもはるかに若い子供が本来、エースでなければなれない試作機のテストパイロットをやっている事への軽い嫉妬と自分達、訓練を積んだパイロットが来たからにはもう安心していいぞというプロフェッショナルとしての自信から出た言葉です。主人公の推測は半分だけ当たっていました。
アキトとユリカが世話好きな近所のにーちゃんとねーちゃんと化している……。
まあ、ナデシコという作風でギャグに走りまくっているから変人に見えるだけで本来、二人とも極めて善良な人間ですからね。