ちょこちょこ知り合いのネタを入れているので、ご注意下さい。
機体の背中越しに轟音が響く。
サイズを活かして狭まった岩場に逃げ込んだは良いものの、結果としてそれは間違いであった事はすぐに理解出来た。
一瞬立ち止まって考えれば分かりそうなものだが、咄嗟に動いて悪い方に走ってしまうのは、未だ直らない悪い癖だ。
どうも自分は、落ち着いて考えるという事が苦手らしい。
『いつまでもコソコソしやがって!さっさと終わらせろよ!』
オープン回線で怒号が飛んでくる。
自分が中々に鬱陶しい事をしている自覚はある。しかし、相手には申し訳ないが、この機体はこうでもしないとそもそも勝負の土台に立てないのだ。これもめぐり合わせだと思って貰う他ない。
向こうの機体は距離を詰めて来ることはなく、此方にビームの嵐を撃ち続けている。
―EDM-GA-01、ガンダム・ルブリス・ウル。『機動戦士ガンダム 水星の魔女』に登場するMS。相手方のガンプラはそれの改造機だ。
ガトリングが二丁に増設され、ミサイルポッドも追加されていた。塗装も含め、EWのヘビーアームズを意識した改造だろう。
正直、初見の時点でマトモに戦う事は諦めた機体の一つ。火力でも装甲でも勝てる未来は見えず、あまつさえ初めはガンヴォルヴァさえ連れていた。
誰かに撃破して貰う事を願ってここまで来たが、現実はそう甘くない。
「他の連中をやってくれただけでも、感謝かな……。」
面倒な機体は他にも多くいたし、それらが撃破されている事もまた事実。実際、撃破ログの多くはあのルブリスによるものだった。
それに、僅かでも消耗しているのは好機だ。ミサイルは撃ち尽くしたのか、此方に撃ち込んでくることも無い。随伴機が墜ちている事も有難かった。
リロードのタイミングさえ合えば、まだ行けるかもしれない。
岩場が耐えてくれているこの時間に、全身の武器を装填して強襲に備える。
「(……今ッ!)」
銃撃音が止まった刹那、脚のスラスタを全開にして岩壁から飛び出した。
『コイツ!』
相手のルブリスは素早く
その瞬間、手元のグリップを操作して、手に持っていたグレネードを高く放り上げた。
ルブリスは回避運動を取ることも無く、機関砲を構え射撃を開始した。
再び閃光の弾幕が展開される。今度は身を隠せるものは無く、避けるだけでもギリギリだった。
二度、三度と機体をビームが掠め、設定されている体力があっという間に減っていく。危険を知らせるセンサーは先ほどから鳴りっぱなしで、一撃を与える間もなくハチの巣にされそうだ。
「当たれよッ!」
自らを鼓舞するように叫び、アサルトライフルと頭部バルカンを斉射する。弾幕の量では勝てるはずも無いが、注意を引くのにはそれで充分だった。
ルブリスの砲撃がライフルを一方的に焼き、右腕ごとライフルが誘爆する。コクピットのコンソールが赤々と輝き、機体の耐久力も僅かとなったその瞬間。
『―なっ!?』
周囲に大量のスモークが広がった。
ルブリスのダイバーが吃驚したと同時にルブリスの動きが止まる。
弾丸の暴威が止まった瞬間に、その巨体に迷うことなく一直線に突っ込んでいった。
機体の半身に対するリターンとしては上出来だろう。
ナノミラーチャフを混入したグレネードは、目論見通り相手の動きを止めてくれた。
残った左腕のナイフを抜刀し、ルブリスの胴体目掛けて全速力で飛び込む。
鋭利な風切り音を鳴らし、渾身の一突きを見舞った。
「……!」
筈だった。
突き出した左腕は空を切り、目の前に居たはずの巨体は自身の背後に回っていた。
全身の
『パーメットスコア、4……。』
通信越しに聞こえた
反射で意味を理解した刹那、機関銃が押し付けられ、そのまま地面に押し倒された。
――――
ロビーに戻り、直近の戦闘の結果を確認する。50人近くのダイバーの名前が連なる中、自身の名前の横に『23』の文字が見えた。
「まぁ、頑張ったほうかな。」
これまでのバトルで20位代後半ばかりだった事を考えると、上々の結果だ。
コンソールを操作し、ロワイアルの参加報酬を受け取る。進歩の記念として、アバターに着付けておきたかった。
人革連のパイロットスーツに似合うかどうかはさておき、こういうのは気分の問題だと捉える。
「さて、どうしようか。」
今日はこれ以上バトルをする気は起きなかったが、このままログアウトするのも些か勿体ない気もした。
と、ふとある事を思い出す。
「……ああいや、そうか。今日はまだだったっけ。」
バトルロワイアルの実施に合わせ慌ててログインした事で、日課を忘れてしまっていた。
格納庫にファストトラベルを行い、見慣れた愛機の前に立つ。
グリモシーカー。
SDよりも小柄なその機体は、ある人に憧れて作り出したガンプラだ。
元々バトル目的では使用していなかったが、今ではある程度戦えるようにはなっていた。
機体の中に転送された後、目の前のパネルを弄り、出撃するマップを選択する。
周囲の景色が射出ゲートに代わり、これから出て行く世界から光が差し込んで来る。ゲート内部が外の光で満ちる度、僅かながら自身が興奮していくのが理解出来た。
『Ready?』
アナウンスと同時に発進の権限がこちらに移る。
アバターを通じて軽く息を吸い込み、手に持つグリップを全力で前に押し込んで、外の世界へと飛び出していった。
――――
GBNには数多くのマップが存在する。バトル専用の物もあれば、ガンダム作品を再現した物まで様々である。
自分が飛んでいるこの場所は、GBNのワールドマップそのものだ。GBNはエリア間で区切られてはいるが、その一方でオープンワールドとしての性質も併せ持つ。
現在地は地球内部という扱いになっているが、宇宙まで視野を広げるとその広さは計り知れない。適切な機体構成でないと目的地に辿り着く事さえ難しい。
勿論そうならない為に、エリア間を移動する為のゲートが置かれている。またファストトラベルも可能だ。
しかし、中にはあえて自らの足で移動しようとする者もいる。実際、自分もその内の一人である。
GBN稼働当初から、広い世界を巡ってみたいと考えていた。それが実現できた時は、心から感動した事を覚えている。
他のダイバーとすれ違う事もあるし、道中で交友を深める事もある。見えてこなかった景色もある。だから、決して意味のない行為ではないと思う。
以前、ダブルオーの改造機を駆るダイバーと出会ったが、その人との交流は特に想い出に残っている。サポートマシンとの合体を見せて貰った時は、思わず童心に帰った心地だった。
「あの人、元気にしてるのかな。」
想いを馳せながら大空を進んでいく。今の所明確な行先は決めていないが、気の向くままに動くのも楽しいものだ。
それに、行ったことのない場所は幾らでもある。コンソールに表示されたマップには大量のピンと、それを上回る数の未踏のエリアが数多く表記されていた。
サボっていたわけでは無い。寧ろマップ埋めには積極的に取り組んでいたし、シーカーを作った理由もGBNの探索が元々だった。それでも追い付けない程に世界が広い、ただそれだけなのだ。
マップを拡大し、適当に右へ左へスワイプして今回の目的地を決める事にした。明滅する大量のピンは、ロビーの置かれた大陸の西側に集中していた。
「今日は……こっちにしよう。」
現在地から少し東に離れた場所へピンを立てる。
ソコを選んだ理由はない。ただ何となく、行ってみたかっただけだ。
操縦桿を奥へ押し込み、機体を加速させる。センサーの再現する振動が、音が、視界が、まるでこの世界で生きているかのような実感を自分に抱かせた。
GBNも日々進歩している。以前まではこういった感覚の再現は難しいとされていたのだが、ある事件を切欠に得た技術を基に、ここまでの感覚再現を可能にしたらしい。
噂程度でしか聞いていないが、もし本当ならば運営様様と言った所だろう。
お陰で今、こうして世界をリアルに旅して回れるのだから。
「ん?」
10分ほど進んだ時だ。ふと、視界が薄暗くなった。
夜には早すぎるし、一瞬で変わる筈も無い。とすれば、何かが自機の真上に立ち、太陽を遮っているのだろう。
背後を確認すると、シーカーの4つ眼が巨大な機影を捉えた。
ガルダ級だ。世界観を構築する為に置かれたオブジェクトと言うべきか。近くの海辺に着水する予定なのだろう。
とは言っても、ここから近くの海洋マップはまだ少し先だ。恐らく徐々に高度を下げていき、最終的に海へドボン……といった所だろう。
「そうだ、折角だし。」
幸い、目的地はガルダの移動ルートの道中にある。これも何かの縁という事で、ガルダ内部に乗り込むことにした。
こうしたオブジェクトの利用は何も特別な事ではない。sfsを持たないダイバー達にとっては、機体のエネルギーを節約できるという事もあって、半ば乗り合いバスのような扱いだ。
ある程度補給も受けられるし、少なくとも損をするような事は無い。エネルギーの余裕は充分だが、何事も準備は万全の方が良いだろう。
――――
「そろそろか。」
マップのピン上空に差し掛かったところで、ガルダの後部ハッチに立つ。高度は乗り込んだ時よりもずっと下がっていた。
「それじゃ、お邪魔しました。」
ガルダの背後からひょいと飛び降りると、自機を転送して乗り込んだ。
目的地は、この真下だ。
シーカーのカメラを望遠モードに切り替え、着陸地点をざっと探る。センサーにも反応は無く、何かが潜んでいる可能性も無さそうだ。
”何もない”というのも味気なくて少し寂しいが、闇討ちをされる事と比べると圧倒的に良い。以前はそれで酷い目に逢った。
機体を俯せの状態から直立に切り替え、下半身のスラスタを吹かして落下速度を落とす。
機体は徐々に減速していき、緩やかに目的地へと降り立った。
「よし、到着……っと。」
今回は森を目指していたらしい。
カメラ越しに見渡しても何かがある訳では無く、センサーの拾う情報も目ぼしいものはない。ここから先は降りてみた方がより分かり易いだろう。
シーカーの搭乗を解除して地面に降り立つ。木々の隙間から太陽光を再現した光が漏れ、穏やかな雰囲気を醸し出していた。
辺りにも何かあるだろうと思い、一先ず歩いてみる事にした。
「あ、コレはいらないか。」
数歩歩いたところで思い出したように人革連のヘルメットを取る。無機質な被り物を外してダイバーの素顔を空気に晒した。細かい事に、そうするだけで息苦しさが無くなったように感じる。
顔を遮るものが無くなったおかげで、これまで以上に鮮明に辺りの情報が入って来る。緑の香り、風の感覚が心地よい。
改めて歩き出す事5分、広く開けた場所に辿り着いた。
無造作に岩が積み重ねられ、見ようによっては遺跡のようにも見える。
ガンダムシリーズで遺跡と言えば∀のホワイトドールだが、それとは明らかに異なる雰囲気だ。
しかも単なるテクスチャではない。表面の質感や手触りまで、現実に存在しているかのような感覚だ。
「こんなのまであるのか……。」
果たしてGBNとはどこまで作り込まれているのか。雰囲気づくりの為とは言え、運営の本気を垣間見た瞬間だった。
もう少し回ってみよう、そう思った時の事だ。
「あの。」
突然、背後から声を掛けられた。
慌てて振り返ると、一人の少女が怪訝そうな顔でこちらを見つめている。
見慣れない服装に身を包み、青水色の髪が風で微かに揺れている。
怪しい者ではないと言いたかったが、こんな場所にいる事自体が既に怪しいだろう。
素顔を晒していただけ、まだマシだとは思いたい。
「え、えっと。変な事はしてない……ですよ?」
我ながら最低の言い訳だ。ここに入った時点で、運営側にとってはアウトの可能性だってある。
噂では、”裏GBN”なんて存在もあるそうだ。この場所がそこの入り口という場合すらあるのだ。どの道、この場は素直に立ち去る方が賢明だろう。
「それじゃ、自分はここで!」
踵を返して来た道を戻ろうとした時。
「あっ!ま、待って下さぁい!」
少女の声と共に強烈な衝撃が背後から加わり、もんどりうって地面に転げる。
痛みに藻掻きながら、今だけは感覚を再現したGBNを激しく恨んだ。
気が向いたら続きを書くかもしれませんし、書かないかもしれません。
いい加減で申し訳ないです。