ありがち出遅れ秘密兵器ちゃんの旅路   作:お竹

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次話のパンが焼けたので初投稿です。作り置きはありません。


パッチワークホリデー

その日、一党『銀の祝杯』の副団長であり、その理知的な性格と知見から常日頃から組合との折衝を任されているラトリアは、その日も組合から呼び出されており帰途の最中であった。依頼を終えた一党とはまた別口での帰還である。

 

無事協議を終え肩の荷が一つ降りたことに安堵し、地平線に半分ほど顔を隠した太陽がもたらす長い影を見つめながら歩く。通り筋の家々からは夕餉の気配が漂い、丘の上では牛飼いの少年が牛を畜舎へと誘導していた。我らが団長は元騎士ゆえか多少血気に逸るところもあるが、騎士の腕前と遜色ないくらいに料理の腕前もまた確かなものだ。今晩の食事はなんであろうか、と頬を綻ばせながら歩いていると、珍妙なモノが目に入った。

 

仲間の1人であるエギーが物陰にうずくまり、色々と表現が憚れるものを口から吐き出していたのだ。

 

「………………」

 

──見なかったことにしてあげよう。彼の尊厳のために。

 

「……何か悪いものでも食べたのかしら」

 

治療院にかかる費用もバカにはならないから、事情によっては彼の手出しにしてもらおう。お調子者の彼のことだから、依頼とは関係ないことでやらかしたのかもしれない。そう取り留めのないことを考えながら拠点の敷地に踏み入れる。なんとなく嫌な予感がするのを誤魔化しながら。

が、無意識に歩幅が緩くなった脚を運ばせると、なんだか防柵は折れているし、植え込みは薙ぎ倒されている。とどめに立て付けが悪くなっていた右門扉は完全に外れて吹き飛んでしまっていた。

 

──ああ、面倒事が起きている……。

 

以前に組合の知人が「家にいるのに帰りたい」と意味のわからないことを吐露していたが、今はその気持ちがわかる。状況は異なるかもしれないが、心情は似たようなものだろう。今度彼女に茶の一杯でも馳走してやろう。最近開業したという店の焼き菓子が評判だったはずだ。そんな現実逃避気味な思考をする。この間5秒。

 

自分の頭の回転の速さが恨めしい。もう少し悩む時間をくれてもいいじゃないか。それでも、中に入らないわけにはいかない。そう諦めの境地とも決意の現れとも分からない息を吐きながら残った門扉を律儀に押し開けながら入ると、

 

 

 

見知らぬ女性がティーカップを傾けながら一党全員を睥睨していた。

 

「何コレ」

 

肩の上に岩が乗った気がした。

 

 

 

 

 

 

「……事情は伺いました」

 

団長──リーグレットからあらかたの説明を受けたラトリアが、長い、それはもう長い息を吐く。いっそこのまま酸欠で気絶して事態を丸投げしたいくらいに。何をしてくれているんだこのヤロウ、という気持ちを言外に滲ませて。

 

「うちの脳足らず共がすみません」

 

「なあそれは私も入っているのか……?」

 

リーグレットが控え目な抗議の声を上げるが

 

「当たり前でしょう主犯格が」

 

取り付く島もないとはこのことか。ぎんのしゅくはい丸は岩場で座礁したようだ。船舶保険は下りない。

 

「ラトリアが厳しい……」

 

が、彼女としてもそれ以上に責任を追及する気はない。自分はあの戦争に従軍した経験はなく、魔王軍の本当の悍ましさや悪辣さを直接体感したわけではないのだから。問題はそれよりも、と決意を込めた表情で件の女性に向き直る。

 

「ですが、こちらの非礼を承知の上で、聞かねばならないことでもあります」

 

「貴女は、何者ですか?」

 

 

 

 

 

 

「私が何者か、か。まあ当然の疑問だな」

 

それまで目の前の寸劇じみたやり取りを眺めていた女性が、ようやく話が進んだことに目を細めながら返事をする。リーグレットから聞いた義肢のことは気になるが、その態度から敵意がないことは明らか。少なくとも直ちに戦闘になるようなことはないだろう。

 

「ヴェルサス災地、聞き覚えはあるか?」

 

そしてその口から出てきた名は聞き覚えも何も、この国どころか世界中で知らない者はいない、忌まわしき地であった。

 

「……はい。この国から東側に位置する、大陸中央部の土地ですね」

 

「そうだ。私はそこの生まれだ」

 

「バカな。あそこに生物が、ましてや人が住めるわけがない!!」

 

リーグレットが語気荒く反論する。なぜなら自分はその光景を己が目で見てきたから。それが生じる、その瞬間を。

 

ヴェルサス災地。そこは、地表は常に摂氏100℃以上の熱を帯び、嵐が襲おうと吹雪が覆おうと決して消えぬ大火の地。地下水も雨水も瞬く間に蒸発し、噴出した有毒ガスが滞留する死の土地。あらゆる国、種族が調査あるいは占有を目論み、三日と経たずに諦めた常燃の廃地。

 

八年前に魔王ヴェルサスが刻み込んだ、決して癒えぬ傷痕。

 

「だろうな。私も私以外の生物など一度も見たことがない」

 

「それに!あの地がああなったのは八年前だ。君はどう見てもその倍以上の年齢だろう」

 

常ならば女性の年齢を詮索するほどの不粋さは持たない彼女だが、因縁深い件との関わりもあり冷静さを欠いていた。その剣幕を鬱陶し気に流しながら、女性は溜息を吐く。

 

「それも含めて説明すると言っているんだがな……おい、この中にヒヨッコはいるか?」

 

「……?いや、皆それなり修羅場を経験した自負はあるが……」

 

周囲を見渡すが、皆それ相応の顔つきをしている。一党で最も加入が新しく歳若いリーラも、既に五度の依頼をこなしている。一般的な冒険者の基準でいえば、殻が取れた、というところだろう。いつの間にか戻ってきていたエギーの顔色は悪いが。

 

「そうか、ならいい」

 

そう言いながら彼女はしゅるり、と首後ろの結び目をほどいていきなりドレスを脱ぎ出した。

 

「「待て待て待て───!?」」

 

「なぜ脱ぐ!?」

 

団員達が必死になって静止しようとするが、彼女は一切気にすることがなくまるで手を止める気配がない。門扉が壊れたままだとか、外から見えるかもしれないだとか、一切。

 

「喧しい。見せた方が早いからに決まってるだろうが」

 

「何を!?いや恥じらいとかは!?」

 

「知るか。貴様らが我慢しろ」

 

いや普通逆なのでは、そう突っ込むヒマすらなく、ぱさりはらりと脱いでいく。

 

止めたい。止めなければいけないが、女性の身体に無闇に触れるのは憚れる。なにより蹴られたくない。あと蹴られたくない。それと蹴られたくない。

右往左往する周囲を他所に、とんとん拍子で脱いでいく。そうして華美なドレスの下から現れたのは、見た目から想像できる通りの細身の身体、簡素な拵えの下着と、

 

夥しい、傷痕だった。

 

「「……!?」」

 

全員が息を呑む。

 

首、二の腕、手首、腹部、肩、胸。

 

それらを間断なく走る、裂創。

 

肌の色すら不均一な、真綿で締め付けられた痕がそのまま沈着したような、痛々しい姿。

 

そして、太腿の半ばから繋がれた総金属製の両脚の義肢。

 

健康的な人の肉体、とは口が裂けても言えない姿だった。

 

──我慢しろ、とはそういう意味だったのか。

 

あまりに凄惨なその姿に、歴戦の猛者である団長ですら言葉を失う。

 

──なぜこれで生きている。生きてこられた。いや、これは……?

 

「ふふん、見惚れたか?」

 

胸を張ってそう言うが、余計に傷痕が強調されて逆に痛々しい。男性団員達は特にどんな顔をすればいいのかわからない。なまじ顔が整っているだけにその下とのギャップが激しい。いや、そういう趣味の者も世の中にはいるかもしれないが、少なくともここにはいなかった。

 

「いや、その……」

 

「冗句だ。笑え」

 

「ははは……」

 

無茶振りである。冒険者といえば古今東西老若男女問わず常に飲めよ騒げよが習わしであったが、この時ばかりは引き攣った笑い声で喉を震わすのが精一杯だった。

 

「で、私の年齢だがな。目覚めたのは7年前、身体は16かそこら。合わせて23か?まあ、好きに捉えろ」

 

一党が目に収めたのを確認してから、またドレスを着ていく。表情や仕草に一切変化はなく、まったくもって平常通りである。本当に恥じらいが無いらしい。

 

「目覚めた?合わせて?そこは16じゃないの?」

 

「なんだ察しが悪い。年増の割に脳のシワが少ないな貴様」

 

「シ、シワ……」

 

気丈にも質問を投げかけたエルフの少女──名はラティという──が強襲内野安打で轟沈した。ランナー無死一塁。それにしても口が悪い。ついでに脚癖も悪い。

 

その会話を耳にしながら、リーグレットは胸中に浮かんだ違和感を反芻しながら消化していく。ひと際異物感を主張する義肢に大きく目を奪われたが、身体の傷痕にしては気になる点があった。戦場で多く見たものとは違う。生傷でも、治療痕でもない。あれはむしろ、傷というより、継ぎ目のような──

 

そうだ。似たものを目にしたことがある。会戦で遭遇した、魔王軍が繰り出してきたモンスタ─の合成獣。その表皮に。

 

「まさ、か…………君の身体は……」

 

「ほう?伊達に修羅場は潜ってないようだな?その割に弱いが」

 

「君はいちいち一言多いな!?」

 

「素だ。受け入れろ」

 

「横暴すぎる……」

 

一つ、訂正を入れておくならばリーグレットは決して弱くない。むしろ国内でも上位一桁には確実に入る腕前である。だが、このやり取りをもって彼女は確信が持てた。持てて、しまった。その悍ましい内実に。

 

「ご明察、というやつだ」

 

そうして彼女は語る。

 

──知る由もないだろうが、当時の魔王軍とやらは随分と貴様等を目の敵にしていたようでな、どうにかこうにか潰せないかと対策を練っていたそうだ。

 

──巨獣同士の掛け合わせ、魔導ゴーレム、あるいは同士討ちを狙った計略。

 

──だがどれもこれも決定打にはならなかった。

 

──そうして行き着いた先が私だ。

 

──凡庸な十よりも究極の一。よくありがちな話だ。

 

──魔法が使える者を片っ端から収集し、腑分け、練り混ぜ、繋ぎ合わせる。

 

──随分と慌てていたようだぞ?結局調整が上手くいかずに間に合わなかったそうだ。

 

 

「そうして『大殲』の終結から1年後、目覚めた場所があの土地だ。言っただろう。16かそこらだと。つまりそのあたりの寄せ集めだ、私は」

 

あまりに衝撃的な内容に全員が言葉を失う。

 

「随分と苦労したぞ?見た目がコレだからな、見境なく襲ってくるモンスター共を蹴り潰しながら路銀を稼いでのその日暮らしだ」

 

「……モンスターから襲われるのか?」

 

確かに彼女の見た目は人間の女性のソレと変わらないのだから、モンスターからすれば格好の獲物に映ったことだろう。一人旅となればなおのことである。だが、彼女は出自が出自だ。モンスターはいわば友軍ではないのか、と。

 

「なにせ未完成だったからな。情報の共有もされてなかったのだろうよ。低級の有象無象共はそもそも魔王の姿すら知らんから貴様のように気付くこともない。私としても畜生以下のアレらを同類などとは欠片も思わん。肉すら不味いとはどういうことだクソが」

 

──食べたのか。

 

そこのところに興味が惹かれないとは嘘になるが、この場で聞く気にはなれなかった。

 

「………………改めて、申し訳ありませんでした」

 

一同を代表してラトリアが頭を下げるが、それを彼女は手で制する。

 

「いい。慣れている」

 

つまり、それは、行く先々で、国々で、似たようなことがあったのだろう。

 

なんかもう、本当に自分達はとんでもなく失礼なことをしてしまったのではと自覚したが、後の祭りであった。

 

「………………」

 

気まずい空気が漂い、所在なさげに互いの顔を見やる団員達。誰か声をかけろ、話題を変えろ、自分以外が。そんな思惑が透けて見えていた。その様子を見て埒が明かない、そう思って切り出したのは、被害者であるはずの彼女。

 

「で、だ。いい加減これを頼みたいのだがな?」

 

そうヒラヒラと振るのは、注文票。辛気臭い空気はお開きだと。それよりメシを食わせろ、と。

 

その所作は、こちらに気を遣ってくれているのは明らかで。

 

──意外と優しいのかこの人?

 

 

 

結局、一党9人全員を含めた夕食となったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 




他人に見せてはいけない体が美しすぎるからではなく本当にエグいパターン、ヘキです。
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