ありがち出遅れ秘密兵器ちゃんの旅路   作:お竹

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『Failure』

 

 

 すったもんだの末に盛大に散らかってしまった店内を、とりあえずは片付けようと、使い物にならなくなった調度品はロープでくくられ、『処分品』のタグが下げられ部屋の隅にまとめられる。 割れてしまった陶器類は破片を集め、これまた丈夫な麻袋に雑に詰め込む。 床も汚れてしまっているが、それはもう明日だ明日、ということで割と投げやり気味に放置された。

 

 そうなってしまった原因とも元凶とも言える件の彼女は、適当に空いた椅子に座り一党達が慌ただしく動き回る様を眺めていた。 椅子の背にもたれかかり、腕枕をし、脚をゆらゆらと動かしながら実に寛いだ様子である。 時折チラチラと物言いたげな視線を受けながら、それらを全て無視して。

 

「私は客だからな」

 

 いや、それはそうであるのだが。 というかあれだけ暴れておいて堂々と居座る彼女の図太さはどうなっているのか。 もちろん指摘する度胸を持ち合わせている者はいない。 言いたいことは山ほどあるが、言ったところで意に介さないことは全員が身に染みて分かっていたからだ。 物理的に。

 

 

 

 

 そうしてなし崩し的に始まった食事ではあるが、

 

「なんというか、こう言ってはなんだが、サマになっているな」

 

 リーグレットの声は、やや驚きの意が込められていた。 さきほど本人から聞いた話では生まれが生まれで、その後がその後だ。 礼儀作法を学ぶ余暇があったとは思えないが、食事をする際の彼女の仕草は控え目にみても付け焼刃ではなく実に堂に入ったものだった。 実に手慣れたナイフ捌きで鶏肉のローストをスライスしていく。

 

「私の中のどれかがそういう出身だったんだろう。 別に意識して身に付けたわけではない」

 

「どれかって……」

 

 これも冗句なの?笑えばいいの?

 そんな困惑の声が漏れ聞こえてくる。

 

「……非常に聞き難いことではあるんだが、その、君は、自分の身体をどう思っているんだ?」

 

 彼女はスライスしたローストを口に含みながら、水を一口。 流石に不躾な質問だっただろうか、とたじろぐリーグレットを見据える。 その思いとは裏腹になんだそんなことか、と言いたげに息を吐く。

 

「逆に聞くが貴様は自分の体に一々疑問を抱くのか?この腕は、脚は、本当に自分の物なのかと。 それはまた随分と殊勝なことだな」

 

 

 

 そう、余りにも。

 

 

 

「私は7年前に目覚めたその時からこの身体だ。 ならばこれは私の物で、私以外の誰の物でもない」

 

 

 

 余りにも堂々と言い放つものだから、リーグレットの喉元にまで出かかっていた言葉は萎縮して全て逃げ帰ってしまった。

 

「メンタルつっよ……」

 

「そう褒めるな」

 

 仲間の呟きに対してそう返してフッと微笑む彼女を見て、ああそういえば、笑ったのを見たのは初めてだったな、と思い至る。 こんな風に笑う子だったのか、と。 会話の内容は物騒を通り越してグロテスクだが。

 

「それと先んじて言うがな、憐れんでくれるなよ」

 

 そうして彼女が鬱陶し気に釘を刺してくる。 きっとこのやり取りもまた、今までに幾度もあったことなのだろう。

 

「えっ……」

 

「そういうのは聞き飽きた。 謝罪もだ」

 

 照れ隠し──などではなく心底うんざりした様子でしっしと手を降る。 それでも何も言わないのも気まずい、と思った周囲を代弁してかラティが口を開く。

 

「き、綺麗だったよ?」

 

 吃音り、語尾が跳ね上がる。 疑問形。 頭を抱える周囲。

 

 ──ガスッ

 

「あ痛ァ!?」

 

 悲鳴を上げ、反射的に脚を抱き抱えようとした動きで膝がテーブルの裏面を強かに打ち据える。 分厚い天板はまるでびくともせずに彼女の膝蹴りを弾き返し、反撃を与えた。 隣に座っていた同期入団で友人のテレースが慌てて支えるが、既に半泣きである。

 

 つまり蹴ったのだ。 テーブルの下で。 義肢の先端の、つま先で。 脛を。 ガコッと。

 

「心にもないことを言うな。 余計に腹が立つ」

 

「だってえ」

 

 普段はその何事にも前向きな言動で周囲を元気付ける彼女だが、流石に今回は相手が悪かった。 ついでに脚が届く位置に座っていた運も。

 今のは怒られても仕方ない、と周囲からも同情の視線はない。 蹴るのはどうかと思うが。

 

 そうして体躯のせいか少食の注文であった彼女は一足早く食事を終えると簡単にドレスを整えて身支度をしていた。 ようやく立ち去るのか、と一党が安堵していると、そういえば、とリーグレットが口にした。

 

「なかなか聞く機会が掴めなかったのだが、君は名前はなんというんだ?」

 

「フェイリア」

 

「へえ、綺麗な名前」

 

 魔族にしてはこう、なんというかごく普通の、'らしい'名前であった。

 

「意味は『出来損ない』だ」

 

「………………」

 

 前言撤回。 ぶち壊しである。

 

「目が覚めたときに培養槽に貼られていたラベルだ。 面倒だからそのまま使っている」

 

 ちょうどあんな感じにな。 と目線で指し示す先には先ほど片付けられた『不用品』の山。

 

「いいのかそれで……いや、他人がとやかく言うことではないが……」

 

 もうなんなんだこの人。 言葉にはしないが、それが全員の共通の感想であった。

 

「ではな、馳走になった」

 

「どこか行く宛てはあるのか?」

 

「さて、宿の一つでも空いていれば良し。 なければ納屋でも馬小屋でも構わん」

 

 いやそれはどうなんだ、という心配と困惑。 しかし彼女なら何があっても返り討ちにするだろうという確信。 もういいから今日はとにかく早く寝たい。 そんな心持ちであった。

 

 

 

 ──が、そんな事情はお構いなく。 ゴンゴン、ゴンゴンと裏手から木扉を派手に叩く音がした。 一般客は正面から入ってくるため、この裏口に用事があるのは身内もしくは

 

「組合のエナンナです!!どなたか、いらっしゃいますか!?」

 

 ──非常事態である、ということだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどつまり、階級に見合わない依頼を勝手に受領した者が帰って来ていない、と」

 

「はい。 幸い紛失した依頼書は控えがありますので向かった先はある程度わかりますが……」

 

「その者の仕業である、という根拠は?」

 

「昼間に一度同じ依頼をこちらから拒否していること。 その際に妙に食い下がってきたこと。 宿泊している宿へ確認した外出した時間と依頼書紛失の時期が重なっていることから判断しました」

 

 ほぼほぼ黒である。

 

「情報の取捨選択もできん未熟児が勝手に動いてくたばっただけのことだろう」

 

 そう切り捨てるのは面白そうだからと居残った彼女。 あまりにも直截的な言い方ではあるが、要はそういうことである。 くたばったかどうかは定かではないが。

 

「そもそも組合にそこまで面倒を見る義務があるとは聞いたことがない」

 

 当たり前だが、冒険者というのは自己責任が基本である。 組合とて依頼の紹介や斡旋は行うが、その先で何が起きたかまでは責任は取れ切れない。 無論、その何かが起きないように細心の注意を払い依頼の細かな選定や振り分けを行うが、今回のことは流石に管轄外であった。

 

「依頼書を盗んだだけとかは?いたずらで」

 

 それもまたよくある話である。 冒険者を目の敵にする無頼の輩の単純な嫌がらせ。 あるいは正規の手続きを経ていなくても依頼をこなしてきたのだから金を寄越せ、と。 証拠とはとても言えぬ残骸を携えて。

 

「それは、恐らくないと思います」

 

「訳アリか」

 

「はい」

 

 こんな時間に諸々の手続きをすっ飛ばして駆け込んできたのだ。 つまりそういうことなのだろう。

 

「今回は特殊でして、その件の方が隣国のサルバスから来られたカーリバリ家の方で、その傍系ですが長子の方なんです」

 

 東方に国境を接する外交関係にある隣国の、有力部族の、後継者候補。 なるほど、実に面倒な手合いであった。

 これなら国内のどこぞの貴族だとかのほうがよほどマシである。

 

「なんでそんな人が冒険者やってんすか」

 

 思わずそう突っ込むのは年若いリーラ。

 やるにしても自国でやればいいだろう、と。

 

「サルバスは国の文化として個人の武歴を重視する。 そういう成り立ちだからな」

 

 歴史的に遊牧民が多数派を占め、戦に長ける。 一つの王朝が長く続くことはなく代替わりが激しいが、代わりに血気盛んで勇猛さで知られる。 先の戦争でも多くの騎兵を輩出していた。

 

「傍系といったな?ならそこで部族長になるなら相応の経歴がなければ他部族に舐められる。 要は箔付けだ」

 

 勝手知ったる地元の土地よりも他国で手柄を挙げたほうが同等の戦果でもより価値がある。 一人でならなおさら。 迷惑な話ではあるが、そういうことである。

 

 存外つまらん話だったな、と興味が失せたように漏らす。

 

「詳しいな。 行ったことが?」

 

「20日ほど滞在していた。 食事は気に入ったが土地が肌に合わん」

 

 組合としても対処に頭を悩ませていた。 外交問題になるかならないかでいえば、微妙なところであったからだ。 有力部族とはいえ国家の主権ではなく、後継者とはいまだ未確定。 正規の手続きを経て入国している以上下手に追い返すわけにもいかず、とりあえずはそこそこの依頼をこなして帰っていただく、というのが方針であった。 その矢先のコトであった。

 

 そんな面倒な手合いだから組合近くに拠点を構え、信頼度も高い『銀の祝杯』に依頼が回ってきたと。

 

「あの……ところで貴女は……?」

 

「部外者だ」

 

「ええ……」

 

 えらく堂々とした見慣れない人が混ざっているな、と思い切って聞いてみればそうらしい。

 

「わかった。 私達でなんとかしよう」

 

「助かります!後付けとはなりますが、正規の依頼として処理しますので」

 

 相談は相談。 依頼は依頼。 必要な確認であった。

 

「ところでフェイリア」

 

「なんだ」

 

「君も、救援に向かってくれないか?」

 

「は?」

 

 別に面白い話でもなかったからさて帰るか、と去ろうとしていた彼女が脚を止める。

 

「正直、君の人となりはそれなりに信用はできると思う。 しかしその考え方の奥がどうなっているかまでは分からない」

 

 暴君で、理不尽ではあるが、悪人ではないのだろう。

 

「当然だな。 私も全てを洗いざらい話したわけでもないし、話すつもりもない」

 

「だから、この一件をもって信頼させてほしい」

 

 むしろその幹は驚くほどに真っすぐで、頑丈で、折れない強さを感じる。

 

「分からんな。 それがどうして信頼に繋がる?信頼されたとして私になんの得がある?」

 

「君は定住先がなく、今日の宿も決まっていないのだろう?私はそこそこに顔が利くし、都合も付きやすい」

 

「宿代の肩代わりか。 救援の代価としては妥当なところだな。 で?」

 

「私とラティが同行する。 そこで君を見極めたい」

 

 だから、後はその根が広がる先を知りたかった。 周囲に害を振り撒く侵略的な外来種なのか、そうでないのか。

 

「彼女は優秀な斥候だ。 対象人物を見つけ出すのにも役に立つ」

 

 えっ、となんだか知らない内に巻き込まれた少女が目を丸くするが、そこに拒否権はなかった。

 

 

 

「……わかった、引き受けてやろう。 ただし宿代はいらん。 貴様に貸しをつけていたほうが役に立ちそうだ」

 

 

 

 なんだか大きな借りになってしまいそうだが、そういうことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ガラクタとか失敗作でいい具合の単語がないかなと検索していたろくでもない作者です。
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