ありがち出遅れ秘密兵器ちゃんの旅路   作:お竹

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三者三謝

 

 

 

 

『半月後にまた会おう』

 

 そう言い残してリーグレットは事態がよくわかってないラティを引き連れてさっさとどこかへと立ち去ってしまった。

 

 あまりの急展開に理解が及ばない間に、決闘という言葉を聞きつけた周囲の冒険者がまさにお祭り騒ぎのように大盛り上がりし──事実彼らにとっては喧嘩祭りのようなもの──そうしてひとしきり騒いだ後に、調子に乗った1人がフェイリアの肩をバシバシと叩いたりして、派手に蹴り飛ばされた。

 

 そして蜘蛛の子を散らすように解散して今に至る。 半月後に『銀の祝杯』団長が決闘をするぞ、という噂を口々に広めながら。

 

 つまりまぁ、なし崩し的に挑戦を受けるハメになってしまったのだ。

 

「…………なんなんだアイツは……」

 

 こめかみを抑えながら片肘をついて俯くのはフェイリア。

 

「…………えっと」

 

 そしてどうしていいのかわからないのはカウンターに立ち尽くす受付嬢。

 

「……エナンナといったか貴様」

 

「は、はいっ!?なにでございますでしょうか!?」

 

 もう明らかに機嫌が悪い。 疲れと呆れと怒りを混ぜ込んだ態度の彼女を前にした受付嬢だが目じりに涙が浮かんでいる。 言葉が上擦れしてでも言い切った自分を褒めてやりたいという心情であった。

 

「ここの依頼は私でも受けることが出来るのか?」

 

「え、あ、はい。 正式な手順ではありませんが、フェイリアさんは既に二件、依頼を遂行されています。 これを実績として加味すれば、ある程度の依頼を受注することが可能です」

 

 存外まともな質問だったことに安堵する受付嬢。 ここで腹が立つから蹴らせろなどと言われた日にはすぐにでも辞職願を叩きつけて逃げ出す覚悟であった。

 供物モードから受付モードへ。 このあたりの切り替えの早さは流石に荒事が絶えない組合職員としての経験の賜物であった。 本人は嬉しくないであろうが。

 

「正式に登録すれば、より柔軟な対応が可能となりますが……なにか希望される条件はございますか?」

 

「いや、いい。 所詮暇潰しだ」

 

「わかりました。 ではそちら3枚ある掲示板の、左端1枚下段に貼られているものが現在のフェイリアさんが受注できるものとなります」

 

「わかった」

 

 そう言って彼女は適当に何枚かの依頼書をむしり取り、受注手続きを終えると組合から去っていった。

 

「………………はぁ~~~~~~」

 

 いつ大荒れになるとも知れない積乱雲が過ぎ去ったことに安堵した受付嬢はそのままへたりこむ。 騒動を聞きつけた上司が様子を見に来るまで、彼女は立ち上がれないでいた。

 

 余談だが、この国における冒険者とその依頼は、組合の審査した依頼の難易度や冒険者の実績によって3色3段階の計9段階に分けられる。 これは三色旗の国章にちなんだものである。 フェイリアは未登録であるため本来ならば登録申請が必要であるが、その前に依頼を達成してしまったために例外的な処理となった。

 

 まあそれでも名前・年齢・出身地など最低限の確認の際に受付嬢がドン引きしたのは言うまでもない。

 

「怖かったぁ……でも年齢不詳ってどういうことなんだろ……私とそう変わらないように見えたけど……」

 

 受付嬢、エナンナ。 現在恋人募集中の19歳。

 

「それにヴェルサスって……あそこ、人が住めるの……?」

 

 

 

 

 

 

 

  ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 彼女──フェイリアがこの地に訪れてから10日ほどが過ぎ去った。 組合での唐突で一方的な宣戦布告、決闘しよう──という脳足らずの言葉によって、彼女はこの地に勾留され続けている。 気にせずに立ち去ることもできたのだが、それはそれで勝負から逃げた、と見做されるであろうことが癪に障りこの場に留まっている。

 

 リーグレットを探そうともしたが既に彼女は拠点の店にも不在で、一党もその行方を聞いていないらしい。

 

 やり取りの一部始終を見ていたエナンナから報告を受けていた組合などは、影騎士を蹴り潰すような真似ができる彼女がいつか暴れ出すのではと懸念していたが、予想に反して問題はほとんど起こらず、ときおり妙にボロボロになった破落戸(ゴロツキ)がそのへんに落ちているのを見かける程度。

 

 うん、問題は起きていない。

 破落戸が減っているのだから、治安的な意味ではむしろ向上している。

 

 そう、治安的には問題なかった。

 

 では何かというと、当の彼女は宿を転々としながら、組合に出される依頼を適当につまんでは暇潰しにこなしていた。

 

 無論彼女は仮登録のような状態なので、受けることができる依頼は畑の畝作りや岩の切り出しなどそんなものである。 魔物の討伐依頼もあるにはあるのだが、ここ最近はその数が妙に少ない上に、その数少ない討伐依頼には人気が集中して彼女が組合に顔を出す頃にはきれいさっぱりなくなっていた。 刺激と栄誉を求める冒険者は、土木作業よりも魔物討伐をやりたがる傾向が強いためである。

 

 

 

 ──つまりそんなわけで、畑作りを手伝って欲しいなぁ程度の軽い気持ちで出した依頼に。

 

 ──初見で貴族と見紛うようなドレスを着た女性が。

 

 ──手ぶらで農家にやってくるのである。

 

 

 

 そんなことに全くもって心当たりがない農夫などは、もしや納めた税が足りなかったのか、はては貴族の癇癪だろうか、さてはどこぞ預かり知らぬ所で恨みを買ってしまったのだろうかと、戦々恐々としながら腰を抜かしてしまう。

 

 銅貨の蓄えはわずかばかり。 錆まみれ、傷まみれのそれを手のひらに積み上げ、どうかこれを納めてくんなせえ、と平身低頭で懇願する。 春に生まれたばかりの乳飲子を含めた、一家全員でだ。

 

 その様子を見てため息を吐き、埒が明かぬ、と農夫の前にずいと差し出されるのは、納税の督促状──ではなく、組合の依頼書。 ミミズがのたくったような、ぎりぎり、なんとか、文章として判読できる、それ。

 

『腰を痛めてしまってこのままでは種蒔きに間に合わない。 手伝い募集』

 

 確かに自分が書いたものである、と。

 

 

 

 組合に、心の臓が保たんからどうにかしてくれ、という陳情の束が上がるのに、そう時間はかからなかった。

 

 

 

 

 

 組合庁舎二階の面談室。 そこで腕を組み、脚を組み、ムスッとしながら腰かけている彼女。

 

「………………」

 

 供された紅茶を無言で呑む仕草からも、誰がどう見ても不機嫌だとわかる、それ。

 

 対峙するのは、会議用机の中央に座る初老の男性である組合長クストー、受付嬢のエナンナ、諸々の事情に詳しいからと急遽呼び出された立会人のラトリア。

 

 誰が最初に声をかけるのか、と無言の牽制合戦が繰り広げられる。

 しかし、用事があるならさっさとしろ、とその金属の爪先が床をコンコンと叩き始める。

 その様相に更に怖気づく二人と、私傍観者ですから、と観客席で日和見を決め込む一人。

 ますます機嫌の悪くなるそれ。 心なしか床が凹み始めている気がする。

 

「……あの、ですね、フェイリアさん」

 

「なんだ」

 

 年功序列はどんな世界でも共通なのか、組合長からせっつかれた生贄1号エナンナが勇気を振り絞って発言したのだが、はぅぁ、と続く言葉が後ずさりしてしまった。

 

「その、苦情と言いますか、懇願といいますか……」

 

「私を呼び出したのはそっちの痩せぎすの男だと聞いたが?」

 

「ひぃ!?」

 

 生贄作戦は失敗したらしい。

 

「部下に任せきりとはいい身分だな?先に立つ気概もないのか?」

 

「すみません!?」

 

「用件はなんだ、と聞いている」

 

「そ、そそそそ、それは、その」

 

 彼──クストー組合長はフェイリアとの対面はこれが初である。 ゆえにその存在感に完全に圧倒されてしまっていた。

 

「……依頼者の方々から陳情が来ておりまして。 いえ、決して貴女が悪いというわけではないのですが、その……」

 

 どうにかこうにか勇気をふり絞り言葉を紡ぐ生贄2号のクストー組合長。 心の中で気合を入れて眼前の強敵に立ち向かう。 気分はドラゴンと対峙する村人Aである。

 

「はっきりせん物言いだな。 簡潔に言え。 それでも一組織の長か」

 

 が、村人がドラゴンに敵うわけもなく、どころか逆に説教をされてしまった。

 

「はい、すみません。 ……それで、ですね。 依頼者からはせめて服装がどうにかならないかと、お願いがありまして」

 

「ほう、冒険者にドレスコードがあるとは初耳だな?」

 

「ないですぅ……」

 

「そもそも服装について指図される謂れがない。 仕事にも不手際はないはずだが?」

 

「はいぃ……」

 

 消え入るような声である。

 

 そう、困ったことに彼女は受けた依頼は全て完璧にこなしていたのだ。

 

 ここからあそこまでの土地を耕して欲しいと言えば脚の一振りで、ずぱん、と土地が割れ。

 あの岩を切り出して欲しいと言われれば、ずこん、と岩が割れる。

 

 その精度はまさに熟練工ですら唸りを上げるものだった。

 

 ただまあお貴族様の視察を受けている気分で、農夫や工夫からすれば気が気でなかったが。

 

 だから組合としても強く出れないでいた。 彼女にだけ依頼の許可を出さない、というわけにもいかないし、討伐依頼を優先的に回す、というのもそれはそれで他冒険者からのやっかみを買うことになる。

 

 ゆえになんとか彼女を説得するしかない、ということで面談の場を設けたのであった。

 

「チッ……勘案してやろう」

 

「はい、ぜひとも、ご検討のほどよろしくおねがいします……」

 

 これが相手ならどこぞの有力部族の後継者候補の方が百倍マシだ!と心の中で叫ぶ組合長である。

 

「私どものからの話は以上です……。 何か質問はありますか?」

 

「むしろこっちが聞きたい。 なあそこの眼鏡。 お前のところの頭目はなんなんだアレは」

 

 眼鏡、とはラトリアのことである。 観客席から闘技場へ引きずり降ろされてしまった。

 

「はい……それはもう……申し訳ありません」

 

 依頼の件が平穏?に解決したと思ったら水を向けられてしまった。 これにはただただ平謝りするしかない。 自分とこの頭目がなんかいきなり喧嘩を売った。 それも二日連続で同じ相手にだ。

 

「私は別にこの街に留まる理由がないんだ。 だが貴様のとこの頭のせいでいらん苦情まで受ける始末だ。 どうしてくれる?」

 

 それはもう本当にそうである。

 

「私が何かしたか?なぁ。 確かに店で一暴れはしたがあれは手打ちになったはずだろう」

 

 めっちゃ怒ってる。

 

「多少は目端が利くと思ったんだがな。 見当違いだったかあの木偶め」

 

 めちゃくちゃ怒っている。

 

 床がバコン、と割れた。

 

 

 

『半月後に戻る。 彼女が街に滞在するように仕向けた。 ラトリアはその間に出来るだけ耳目を集めてくれ』

 

 一方的にそう告げて、どこかへ去っていった我らが一党の頭目。 戻ってきたら平手打ちの5発や10発でもしてやらないと気が済まない。 そう決心するラトリアであった。

 

 

 

 なお、なんだかんだ言いながらもフェイリアはどこぞの店で購入してきた安物の服に着替えて依頼に赴いていた。 このツケも上乗せしてやろうかとますます不機嫌になりながら。

 

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