魔女と悪魔と天使と神様と一般通過異世界転生者俺   作:鉄の掟

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1章 魔女と一般通過異世界転生者俺
魔女


 

 

 

 

「兄様……私の後ろに隠れて下さい」

「……あ、あぁ」

 

 さっきから頭の中がめちゃくちゃだ。

 つまり……シエールだと思っていたのは実は悪魔で、俺を殺そうとずっと狙っていた。

 逆に、ランエルは天使で、シエールもといアズモワールから俺を守ろうとしていたと言うことなの……か? 

 

 いや……そもそも何故天使や悪魔が俺を殺そうとしたり、守ろうとしたりする……? 確かに俺はこの世界では唯一の人間の男だが、それがこいつらに何の関係がある……? 

 

「……アズモワール……古い聖戦でミカエル様に封印されたと聞いていましたが……」

「封印されてるさ、今もずっと……だからこんな回りくどい方法でルインを殺しに来たんだ」

「……何故、兄様をそうまでして殺そうとする」

「神がそいつに鍵を授けたからさ、地獄の門を開ける為の三つの鍵……人間共から奪った二つの他に三つ目が長い時間見つからなかったが、まさか人間の魂をそのまま鍵にするなんてねぇ……」

「成程……兄様を殺せば魂の鍵が消え、封印が開くという訳ですか」

「当ったりー、ゴミでも多少は頭が回るんだなぁ」

 

 地獄の門……? 三つの鍵……? 

 一体何の話か分からないが……俺の今までの異世界知識から行くと、この世界の悪魔はきっと地獄に封印されていて、それを何とか解く為にこのアズモワールの他にも、色んな悪魔が俺を殺しにくる……という事か。

 ……いや、異世界滅茶苦茶じゃねぇか、ざけんな。

 

「……元々この世は我らのものだった。

 それを空に住むお前らゴミ天使と神が奪い、私達を暗い地の底に追いやった……そうして長い時を過ごした我らは、その土地を【地獄】と嘆き慟哭し、復讐を果たす為、再びこの世に戻った。

 ……なのに貴様らは、我らが死をも超える苦しみを味わい続ける間、【人間】という生殖能力に優れた種族を作り、そいつらとの交尾の快楽に溺れ、あまつさえ百年前の戦いにおいては、我らを地獄に再び追いやっただけじゃ飽き足らず、封印の門を閉じやがった」

「……戯言を言わないでください、アズモワール」

「だから……お前らにも思い知らせてやるよ……奪われる苦しみを、苦痛を暴力を嘆きを悲しみを……このアズモワールが終わらぬ悪夢を見せてくれよう……」

 

 そう言い、アズモワールは爬虫類の様な目を赤く染め、ゆっくりと身体から上気を溢れさせる。

 それはシエールの時のとは比べ物にならない程に熱く、更にアズモワールの周りには陽炎のような歪みが生じ、アズモワール自身の肉体からは炎の様に揺れる黒い煙が上がっていた。

 

「……兄様、ここは私が食い止めます……逃げて下さい

「ラ、ランエル……」

「ははは! ……たかだか下界に降りてきて数千年のお前に、終わりなく続く古き戦いの頃から戦い続けてきたこのアズモワールを食い止めるって……?」

「貴方に殺され喰われた我が天使達の仇を討つ時」

「覚えてねぇよいちいち……でも、久々の天使の魂は美味いだろうなぁ!」

「兄様っ! 早く!!」

 

 蒸気が辺りを覆い尽くした瞬間、微かにランエルの剣とアズモワールの爪が激しくぶつかるのが見えた。

 その二つの強大な力は辺りにとてつもない衝撃波を生み出し、俺は無力にもその衝撃波に押し出されるまま、村の外れへと飛ばされていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ここは……まさか俺、気を失ってたのか?」

 

 絶対だと勝手に思っていた自分の耐久力、あの二人がぶつかり合った、ただの衝撃波だけで気絶するまでダメージを負ったということか……。

 それに……落ちてきたのが少し固い地面という事もあるだろうが、全身が軋む様な痛みも感じる……産まれて十年、体の痛みなんて感じる事なかったのに……。

 

「……おいおい一体何処まで飛ばされたんだよ……」

「あそこに見えるのが、村の近くにある山だとすれば……数キロ近くは吹っ飛ばされたって訳か」

 

 俺の村、【サン・ヴェンガンザ】。

 森と川に囲まれたあの村には、古くから神と天使が舞い降りるという山がある。

 その山の頂上はどんな天気であろうと濃い雲が掛かっていて、あの山の頂上には決して立ち入ることは出来ないと、まだ小さい頃この世界の両親が俺に話していた。

 

 そんな神の山、ヴィシャス、

 そのヴィシャス山から下って下に見えるのが、村の外れにあるウェンドラコ通りだろう……とすると、今いるここは……。

 

「……【魔女の街道】か」

 

 固い石の道、道の脇に沿って作られた街頭の模様。

 この世界の両親に、何があっても夜にこの街道に近づいてはいけないと言われていた、魔女の街道で間違いないだろう。

 そう考えてるのも束の間、辺りの木々の影が薄く果てしなく伸びていき、俺の視界も徐々に光が消えていく。

 

 ……そういえば俺がシエールの身体を縫合してる時には、もう既に日が落ちかけていた。

 それに俺がここに落下して直ぐに目を覚ましたとも限らない……これは嫌な予感が……。

 

「おいおい、灯っちゃったよ」

 

 嫌な予感的中、視界が完全に真っ暗になった瞬間。

 街道の脇にあった街灯の一つが、不気味な暗い青色で辺りを照らし始める、そしてその街灯に連動するかの様に、一つまた一つの街灯に暗い灯りが灯り始め、あっという間に木も地面も俺も、暗い青色に照らされた。

 

「……あれ〜? こんな所で何してるの?」

「!! い、いや……別に」

「ん〜……?」

 

 突然後ろから15歳ほどの少女が声を掛けてくる。

 ……顔は暗くてよく見えないが、特徴的な尖った大きな【黒い帽子】、そして手に持っている少女の身長と同じ程の長さの箒……この目の前にいる少女はきっと【魔女】で間違いない。

 何ともまぁ、イメージ通りの姿だ。

 

「んー……まぁいいや、丁度間に合って良かったし」

「……? 何の話」

「まぁまぁ……落ち着きなよ〜」

「……?」

 

 一体何の話をしてるんだ、こいつ? 

 俺は別に慌てる素振りなんて……。

 

「……【異端の魔女 シルバ・ハルト・グース】、何をしている」

「それはこっちの台詞だよ、【グラムニエル】……その人間は私が先に見つけたんだ、つまり私のだよ」

「……は?」

 

 冷たい金属の感触が首をなぞる。

 そしてその正体は街灯によって少しずつ姿を現し、俺の首元に当たる短く鋭い短刀が、今まさに俺の首を切り裂く寸前で止まっていた。

 ……一体いつから、これは俺の首元にあった? 目の前の魔女と話していた頃か、それとも……まさかそれよりも前から? だとしたら笑えねぇ。

 

「ちょっ、ちょっと待ってくれ……」

「動くな、少しでも動けばお前の首を切り裂いてやる」

「そ、そもそも何で俺の事を殺そうとするんだ……?」

「っ! お前達人間が! 私達魔女を迫害したからだ!」

「そんな事俺は身に覚えがないんだが……」

「黙れっ! 人間の穢れた魂は私達魔女が、全て根絶やしにしてやる……」

 

 ……そういえばこの世界の魔女は人間に恨みを持っていたんだっけ、確か昔に迫害されていたとか何とか。

 それは酷い話だとは思うが、生まれて十年の俺みたいな子供の命まで奪うのは、迫害よりもよっぽど罪なんじゃ……? 

 

「そこまでだよ〜……グラムニエル、私の前で人間を殺す気かい?」

「異端の魔女……貴方は本当に変わらない」

「君達もリアに相変わらず着いて行ってるんだね」

「あの方は私達弱い魔女を人間の迫害から救ってくれたお方……そんなお方を貴方は裏切り、今も私からこの人間を助ける気か……?」

「……復讐の果てには虚しさしか残らない」

「……それでも、積み重なった恨みは晴れるっ!」

 

 そう言い終わったグラムニエルの短刀が俺の首元により近づく。

 もう刃は俺の首に当たり、少し引けば俺の首からは血が噴き出すだろう……しかし、その刃は目の前の異端の魔女によって止められた。

 ミシミシと、異端の魔女シルバが掴むグラムニエルの腕から嫌な音が鳴る、それに耐えかねるかの様に苦痛の声を上げながら、グラムニエルは後ろに下がった。

 

「おぉ……死ぬかと思った」

「いや〜危なかったねぇ……? ルー君?」

「……ルー君?」

「っくそ……異端の魔女、ふざけた真似を」

 

 俺の肩に手を置き、寄りかかる様に身体を預けながら、シルバはグラムニエルから目を離さない。

 この時初めて見えたシルバの顔は、西洋人的な目鼻立ちにジトっとした睡眠不足のような目付き、そして特徴的な銀色の髪がおかっぱの様になっていて、まるで日本人と外国人が合わさった様な顔つきだった、正直に言うとめっちゃ可愛い。

 ……それとこの顔つきからして、もしかして人間と魔女のハーフだったりするのか? 

 後、ルー君??? 

 

「……そんなに見ないでよ〜……」

「あ、悪い……」

 

 下から顔を見つめる俺の視線に気づいたシルバは、恥ずかしそうに帽子を深く被るが、シルバより身長の低い俺には対して意味がない。

 帽子の下に隠れた、少し口角を上げ、頬を赤らせ微笑むシルバの顔は丸見えだ。

 ……シエールやランエルもそうだが、この世界の顔面偏差値高すぎん? 

 

「さて……それでどうする? グラムニエル……本気で私とやる気?」

「はっ、今更……おめおめと見逃すとでも……? 人間の男、そして貴方も……今ここで、このグラムニエルの手で血に染めてやる」

 

 グラムニエルは箒を紫色のローブから取り出す。

 すると、グラムニエルの持つ箒から赤い炎が丸状に浮かび上がり、その丸い炎を浮かばせたまま、短刀を右手で構えると、俺とシルバを睨みつけた。

 その瞬間にグラムニエルの顔も見え、その顔は憎悪と復讐に囚われている様に感じ、グラムニエルの片目は何かでくり出された様に無くなっていた。

 ……グラムニエルも少し童顔だが、黒く長い髪をポニーテールで結んでおり、かなり可愛い……っくそ! 折角の本物の魔女! しかも可愛い女の子! それなのに欲望のままに抱き締める事もできないなんて……! 

 

「……ルー君、私に捕まって」

「……え……こ、こうか?」

「……離しちゃだめだよ〜?」

「……異端の魔女、人間と共に眠れっ!!」

 

 グラムニエルがそう言ったのと同時。

 気付けば俺は……【空】にいた。

 

「うおおおぉぉぉいいい!!??」

「ははっ! 楽しそうで嬉しいな〜」

「降ろしてくれ、降ろし……降ろせー!?」

「はいはい、グラムニエルを撒いたらね〜」

「な!? マジかよ!?」

 

 本来なら魔女の箒で空を飛ぶなんて、俺みたいな奴にはご褒美でしかないが、今の状況では流石に楽しむ余裕なんてない。

 想像してたよりも安定しないし……まるで物凄い揺れる安全装置なしの一人用観覧車に乗ってるような感じだ。

 冷や汗が止まらない俺の後ろで箒を操作するシルバは、いつの間にか後ろから追いかけて来ていたグラムニエルに向かって、火球を数十個出現させると、物凄いスピードで、火球はグラムニエルに向かっていった。

 

 しかし、飛んでいった火球はグラムニエルの火球に相殺され、燃え尽きる様に消えた。

 その煙の中からグラムニエルは箒に乗ったまま、スピードを上げ俺とシルバに迫る。

 

「ちょっと飛ばすよ〜」

「待て待て待て!? これ以上はマジで落ちるって!」

 

 俺の静止の声も聞かず、シルバはどんどん加速していく。

 前からの風のせいで碌に目も開けられないが、それでもシルバの腹に回した腕だけは、何とか力を込め続ける。

 こんな雲と同じ高さから落下したら、流石の俺も死ぬかもしれない……どうやら俺の体は不死身って訳じゃないらしいし。

 

「流石のグラムニエルだ……箒を操る才能は私以上だね〜」

「お、おい……今どうなってるんだ?」

「大丈夫、私に任してルー君は目を閉じてて」

「そうは言ってもなぁ……うおわっ!?」

 

 突然、体が空中に放り出された様な感覚に陥る。

 反射的に目を開けた俺の視界には、空と地面が反対に写っていて、その真ん中には数十個の火球を浮かばせたグラムニエルがいた。

 

「お、おい、あれまずいんじゃないか……?」

「大丈夫、大丈夫、相殺してる間は当たる事はないよ……問題は……」

「……おいおい、マジかよあいつ!?」

 

 視界に映るグラムニエルは火球の攻撃を止めたかと思えば、今度は青色の火球を浮かび上がらせた。

 そして飛んできた数十個の青い火球をシルバは箒を操り避けたが、飛んで行った火球は、下にある森に直撃し、辺りを一瞬にして消し飛ばした。

 遠く離れた空からでも感じる冷たいような熱いような感覚……これが【魔女】の力か。

 

「な、なぁ……お前もあいつに攻撃して撃ち落とせばいいじゃねぇか」

「ルー君、彼女は私の仲間だよ? 流石に仲間を殺したくはないかな」

「……でもこのままじゃ、その内落とされると思うんだが」

「安心してよ〜……もう着くから」

「……?」

 

 目の前のシルバは遠い先を見つめながらそう言った。

 

「あそこにある大きい木、見える?」

「あ、あぁ……あの木がどうしたんだ?」

「あの木は私の家、そしてあの木の周りには魔法を使えなくする結界を張ってあるんだ〜……だからあそこまで行ければ私達の勝ちだよ」

「成程……そういう事か」

 

 確かにここから数キロ先に、周りよりでかい木が一つある。

 相変わらず後ろからばかすかグラムニエルは火球を撃ち続けてるが、それもあそこの近くに行ったら使えなくなるって事か。

 ……それにしても魔女が魔法の使えない家に住んでるって言うのは、少し矛盾してないから? 別にいいんだけど……折角なら色々魔女の力を見てみたい気もする……。

 

「うわっ!? 危ねぇ!?」

「ははは! 惜しかったねグラムニエル!」

「笑ってる場合かよっ!?」

 

 すぐ後ろで火球が爆発したのに、シルバは楽しそうに笑う……が、俺的にはちっとも笑えない。

 そこら辺の森を消し炭にしまくる火球がすぐ後ろまで迫ってたんだ、死が目の前だったのに笑ってる、この魔女の方がどうかしてる。

 っていうかこの魔女は平気で「あ、ミスちゃった〜ごめん」とか言って来そうだ……その瞬間俺はチリも残さず爆発するだろうがな。

 

「あ……ごめん、撃ち漏らしちゃった」

「……は、はあああぁぁぁ!?!?」

 

 俺の視界いっぱいに青い火球が迫る。

 ……ほら見ろ言わんこっちゃない、あ……もうダメだ……死ぬ……。

 

「ふっ……! くっ……! はぁはぁはぁ……糞熱いなぁ、まったく」

「あああぁぁぁ……あ? お前……その腕……」

 

 目と鼻の先にある火球の熱さに思わず目を瞑るが、何故か俺の体には何の衝撃も痛みも伝わって来ない。

 恐る恐る目を開けた俺の目には、腕をグラムニエルの方に突き出し、火球を素手で受け止めるシルバの後ろ姿が映った。

 

 しかし、その腕には痛々しい火傷の傷ができ、痛みも相当なものなのだろう。

 あれだけ余裕そうだったシルバは、その顔を苦痛で歪ませていた。

 

「なっ!? まさか重力の魔法を習得しているなんて……!」

「くっ……! お、驚いた〜……?」

 

 人より何倍もあるでかさの火球を手の中で消したシルバは、だらんと黒焦げになった右腕を垂らしながらも、笑ってグラムニエルに話しかける。

 対するグラムニエルは、信じられないと言った表情でシルバを見つめていた……もしかしてこのシルバは凄いやつだったりするのか? ……というか早く治療しないとヤバいんじゃ……。

 

「……それ程の魔法を使える貴方が、何故私から逃げる」

「も、もしここで……私が君を殺せば……私も姉さんと……いや、リア・ハルト・グースと同じ罪を犯してしまう……それだけは……出来ないんだ、父様と母様との約束だからね……」

 

 シルバは暗い声でそう語った。

 きっと何か俺の知る由もない事情があるのだろう、しかしそんなシルバにグラムニエルは、容赦なく数え切れないほどの火球を浮かび上がらせる。

 

「貴方は甘い……冷酷な決断を下せない貴方は、本当に……魔女に似合わない人だ」

「……君達……からしたら……そうだろうね」

「私は貴方が好きだった……遠い昔、迫害をする人間から幼き私を、リア様と共に救い出してくれた……貴方には感謝しても仕切れない……そんな貴方にこれ以上苦しませぬよう……チリも残さず消し去ってやる……!」

 

 グラムニエルの周りの火球が更に大きさを増す。

 まるで空を覆い尽くす無数の太陽が浮かんでいるみたいだ、夜の闇を照らし出す無数の火球を目の前にして、思わず狼狽える俺とは裏腹に……シルバは小さく囁くように笑い、後ろの俺に話しかけた。

 

「やったねルー君……私達の勝ちだ……」

「……え」

「さらばだ、異端の魔女っ!!」

 

 シルバは無事な左腕を空に掲げる、その瞬間まるで重力の向きが変わったかのように、俺とシルバは横方向に投げ出される。

 そしてある空間を過ぎた時、見えない何か……まるでシャボン玉の中に入ったような、そんな感覚が俺の体に伝わった。

 

 それを追うようにグラムニエルの太陽のような無数の火球が眼前に迫るが……その火球は目の前で、まるで歪んだ空間に入り込むようにして消えてしまった。

 ……もしかして今入ったあれが結界か? 成程……恐らくだがシルバの使っていた重力の魔法? の応用なのだろう。

 シルバはさっきグラムニエルの火球を素手で止めていた……恐らく重力の魔法とは、魔女達が使う魔法に対抗する魔法なのだろう……俺もシルバに頼めば使えたりってしねぇのかな、ぶっちゃけ言ってかなり興味があるんだが。

 

 目の前に見える、シルバの言っていた大きな木の前まで到着し、地面に降り立つ。

 ……久しぶりの地面だ、お帰り地面。

 それはそうと、隣で激しく呼吸するシルバはかなり辛そうだ、何より右腕の火傷が酷い。

 魔女ならポーションとか作ってるだろうし……それでどうにか出来ればいいが。

 

「なっ!? ……そうか、重力を操り結界を……ならば!」

「ふ〜……まぁ諦めないよね〜……」

「いや、諦めてくれよ……」

 

 後ろで声が聞こえ、振り向くと箒を手に持つグラムニエルが、短刀を握りしめ俺を睨みつけていた。

 ……そこまでして俺を殺したいのかよ、異世界は好きだしこの世界も気に入ってたけど……流石にやれ悪魔だ魔女だって……命を狙われ続けたら、少しだけ前の世界に帰りたくなって来た。

 

「これで最後だ……貴方はもう戦えない」

「さ、さて……どうかな〜……?」

「この後に及んで……戯言を……よく見るがいいその右腕、それで万全の状態の私に勝てるとでも?」

「……うん、勝てるさ」

「……もういいっ!!」

 

 終始余裕そうなシルバに対し、まるで負けを懇願するかのように話すグラムニエルだったが、勝ち誇ったように薄ら笑いを続けるシルバに流石にキレたのか、短刀を大きく振るうと、目にも止まらぬ早さで向かって来た。

 その動きはただ真っ直ぐ殺意を込め、俺とシルバの喉笛を切り裂こうと、短刀を振り上げた。

 

 

「……果てぬ眠りへ誘え【ロスト】」

 

「……遅いじゃないか〜【マクスウェル】……」

 

 ……グラムニエルの短刀は俺の首の数センチ先で止まった。

 グラムニエルの姿さえ見えなかった俺は、急にグラムニエルが意識を失ったかのように倒れなければ、そのまま首を切断されていたかもしれないだろう。

 ……しかし……また新しいのが出て来たぞぉ、おい。

 

「お許し下さいシルバ様……急な出来事だった故……」

「はぁ〜……まぁいいよ、それより私もこの腕を治療しないと……あ、ルー君紹介するよ〜」

 

 そう言って、近くで見ると見上げる程の大木の根元に作られたドアから出てきた、18歳ほどの少女を起用に左手で俺の方に寄せたシルバは、シルバと同じ魔女のローブに白いエプロンを着て、丸眼鏡をかけた黒い髪のショートボブの女の子、【マクスウェル】を指差した。

 

「この子は……いてて……私の一人弟子のマクスウェル、ちょっと気難しい子だけど、君と同じ人間だから仲良くしてあげてね〜」

「え、あ……ど、どうも……?」

「……シルバ・ハルト・グース様の弟子であるマクスウェルです、よろしくお願いします」

 

 そう言ってマクスウェルは頭を下げる。

 ……分かる、分かるぞマクスウェル……あんた俺の事嫌いだろ? そんな目で睨み付けられたら、あんたの師匠にバレるんじゃないか……? 

 

「仲良くしてね〜」

 

 あ、ダメだわこれ。

 

「シルバ様、あそこにいる魔女は……」

「うん……リアの方の魔女だよ……でも、魔力を大分消費してるから、少し中で休ませようか」

「宜しいのですか……?」

「この中じゃ魔法は使えないし、それに身体強化も魔力が回復しない限りは出来ないから……おっとっと……」

「! シルバ様!」

 

 マクスウェルの隣にいるシルバがマクスウェルの方に寄りかかる。

 ……やはり魔法は魔力というものを消費して使うのか……それならグラムニエルの火球を撃ち落としながら、重力の魔法も使い、その上右腕に酷い火傷を負ったシルバは……うんかなりヤバくね。

 

「わ、悪いんだけど……ルー君、そこに寝転がってるグラムニエルを運んできてくれない?」

「あ、あぁ分かったけど……その、大丈夫か?」

「……早く休みたいね」

 

 そう言い残して、シルバはマクスウェルに連れられ大木の中に入って行った。

 俺は一応短刀と箒をグラムニエルから取り、背中に俺より少し大きいグラムニエルを何とか背負うと、いそいそと大木の中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……うーん……CよりのB……? 

 

「…人間…殺してやる……ムニャムニャ」

 

 

 

 


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