どうにかしてベル・クラネルを手に入れようとするのは間違っていないですよね?   作:ゴリラズダンジョン

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シル・フローヴァのざわめく日常

「ベルさん、これお弁当です」

 

「ありがとうございます、シルさん。じゃあ行ってきます!」

 

 娘として生きる事を決めた女神は、日常を送っていた。まだ陽が射さない時間帯、こうしてその少年に手作りのお弁当を渡すのも、以前と何ら変わらない。

 

 でもその走り去っていく白の背が、深紅(ルベライト)の瞳が愛おしくて仕方が無い。

 悠久の神々にも関わらず、焦燥感は増していくばかりだ。

 

「まだまだ、飽きられ無さそうですね」

 

 胸に抱く淡い炎は、きっとこれからも燻り続ける。

 薄紅色の髪を揺らす少女は、この先もベル・クラネルに恋をし続ける。

 

 だがそれは成就する事のない悲運神だが、代わりにこっぴどく玉砕、『失恋』をしてしまった。

 

 所謂、負けヒロインの座を確固としているシルが、将来的に想い人の少年を結ばれる可能性は――ない。

 

 神々の叡智を有しているからこそ、それを断言できる。

 一連のベル・クラネルの冒険を物語として見た時に、シルは彼の伴侶争奪戦からは既に外れているに違いない。

 

 だからこそ、砂粒ほどの可能性しかないシルは早い段階から一手を進める必要がある。

 

 しかし、気持ちとかそう言った問題ではなく、ベルを攻略する上で立ちはだかるのがその【憧憬一途(スキル)】だ。

 

 それがある限り、シルに関わらず甘美な誘惑を押し退けて少年は走り続ける。

 何時かその憧憬の先に辿り着いても、その隣に居るのは他でもない【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインだ。

 

 と言う訳で――、

 

 

「そんなのズルいと思いませんか?」

 

「……すまない、話の脈絡が見えないのだが。つまりどうして、貴方は私をこんな場所に連れて来たのだ?」

 

 『豊穣の女主人』、まだ開店前の魔石灯がぼんやりと照らす店内で、薄紅色の娘と向かい合うのは彼女に劣らない容姿を有するエルフだった。

 

 結った金の長髪に深緑の瞳は正にエルフらしく、妙齢の年齢故に残る幼さは異性を惹き付ける。

 

 ローリエ・スワル、シルと面識はないが、最近とあるアンケートをしている際に知った少女だ。

 

「ローリエさん。貴方は白髪赤眼の十四歳ヒューマンに恋をしていますよね?」

 

「なっ……!どうしてそれをっ!」

 

 知っての通りエルフは高潔な精神の持ち主で、こと恋愛に関してはポンコツになる事も多いが、ローリエは包み隠す素振りも見せなかった。

 

「でも単刀直入に言います。貴方は所謂、負けヒロイン……というか、本遍に出ていないキャラが主人公と結ばれる事はありません」

 

「違う、ベル君はダンジョンで助けた私の事を覚えていた。そうこれは、運命の導き。つまり、ダンジョンで白兎と出会ったのは間違っていない……!」

 

「わぁ。その表情、邪神に組する妄信的な信者にそっくりです」

 

 

「口を慎め、フローヴァ女史。第一、メタ的な発言はルール違反だ、私にだって可能性はある」

 

「そう、きっと可能性はあります。だけど、それはずーっと小さな砂粒……遠い空にある星屑の欠片程度です。ベルさんを追ってる貴方なら、それに気付いているんじゃないですか?」

 

 シルの透徹とした瞳に、ローリエは静かに目を瞑った。

 

 【憧憬一途(リアリス・フレーゼ)】、その効果や抱いている対象を知らない彼女だが、調査活動と称して所属する【ヘルメス・ファミリア】の情報源も活用し、ベル・クラネルを研究(ストーカー)しているローリエも、薄々は気付いている。

 

 相手を選ばなければ直ぐに結婚できる金髪のエルフでも、きっとあの少年の心を動かす事は出来ないと。

 

「で・す・か・ら、一緒に可能性を紡ぎましょう!」

 

「……言っておくが、私はLv2だ。上級冒険者ではあるが、武力に期待しない方がいい」

 

「大丈夫です、私がローリエさんを選んだのにはちゃんと理由があります」

 

「それは……?」

 

「妹認定されてしまっている小人族や、明らかに出遅れている予知夢系少女もいますけど、彼女達と比べても貴方は圧倒的に出番が少ない!なら、適当な設定もこじつけ易いと思ったからです!」

 

「やっぱりそんな理由か!」

 

 

 こうして恋する乙女二人は結託(シルの一方的な圧力)する事になったのである。

 

 ――ややあって。

 

「つまり、ベル君が抱く憧憬がある限り、私達に可能性は無いと言う訳か?」

 

 【憧憬一途(スキル)】には触れる事無く、負けヒロイン脱却の唯一の希望をシルはローリエに語った。

 流石【ヘルメス・ファミリア】に所属しているだけあって、理解が早いし、余計な詮索をしない所は弁えている。

 

「そう言う事です。でも、その憧憬は凄く強い『金の糸』で剣でも切れてはくれない。と言う訳でローリエさん」

 

 改まったシルは、小悪魔染みた笑みを宿して。

 

「どうにか時、戻してくれませんか?」

 

「時……というのは、不可逆に流れる私達の住む時間軸の事を言っているのか?」

 

「その通りです」

 

 手遅れな状況なら、そもそもその状況を防ぐために時を戻せばいい。

 シルが口にした事には現実味がなく、当然ローリエも難しい顔を浮かべる。

 

「仮に出来たとして、今のベル君を壊す事にならないか?」

 

「私が言っているのは、あくまで憧憬の対象を変更しちゃいましょうってことです」

 

 まだ神の力も授かって間もない無名の少年だった時、彼が【剣姫】に抱く筈だった憧憬を変革する。

 

「当然、女性じゃ駄目です。ベルさんと結ばれるフラグが立たない男性ではないと」

 

「とはいうが、フローヴァ女史。ベル君は金髪金眼の少女だからこそ、憧憬を抱いたのではないか?」

 

「確かにそうかもしれないですね。でも、私の知り合いに【剣姫】以上の実力を有していながらも、更に男女関わらず冒険者になら誰しもが認める人が居ます。私は今からその人を説得して連れて来るので、ローリエさんはどうにかして時を遡る方法を探してください!」

 

 制服を翻して小走りで去っていくシルに、もはやローリエは声を荒げない。

 

 ―まぁこの後、なんやかんやあってローリエは過去に行く方法を見付けた。

 方法とか、そもそも世界観をぶち壊すなとか、そう言った事は大人の事情で許して欲しい。

 




ほのぼのと書いていきます。
アイズより強くて冒険者全員の憧れ、一体どこの猪なんだ……。
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