どうにかしてベル・クラネルを手に入れようとするのは間違っていないですよね? 作:ゴリラズダンジョン
「最近、腕が上がったと思うんです。今日のお弁当、美味しかったですよね!?」
「はい、凄く美味しかったです」
その少年の瞳に色はない。
日常の一コマである筈なのに、彼――ベルが安らぎを感じる事はなかった。
「……実は今日、お砂糖とお塩を間違えちゃって……凄く辛い味付けになってたと思います。ベルさん、貴方は味覚が無いんじゃないですか?」
「そう、かも知れないです。でも、僕に食べ物を美味しく食べる資格はない」
「でも食べ物を美味しく食べないと、牛さんや鳥さんが悲しみますよ?」
「確かにそうですね」
数か月前の一件で、【ヘスティア・ファミリア】はベルを残して全滅。更に、友や知り合いも大勢失った。
それからというもの、彼は一人で冒険に明け暮れている。数年前、まだ『剣姫』が幼かった頃よりもずっと強い狂気で戦い続けている。
そんな彼にシルを含めて、優しい言葉を掛けるがそれでも自分を痛めつけるのを止めようとしない。冗談を投げかけても、帰って来るのは空笑いだ。
「……私は、ベルさんを救う事は出来ない。でも――」
確か他の世界に飛ばされたのは、その言葉を聞いた直ぐ後だった。
●●
「俺は、負けたんですか……」
青い空だ。
こうして頭上を見上げたのは何時振りだったか。
気持ちのいい風も吹いている。それに、頭はあったかくて――、
「うぇっ、膝枕!?」
何時ぞやに感じた事のあるその温もりは、シルの膝元。思わず飛び上がりそうになったアルだったが、生憎と体がそれを許してくれ無さそうだった。
「…………」
このまま説教でもされるのかと思ったが、彼女は何も言わなかった。言葉を探している訳ではなく、アルが何かを言い出すのを待っているようだ。
「皆が居なくなって凄く悲しくて。がむしゃらに頑張って、でも満たされなかった。そんな時、俺――僕はこの世界に来ました。ここなら皆が生きている、今度は絶対守って見せる、これが僕の未来だ」
「だけどずっと苦しかった。偽りと分かっていながらも皆と接するのが、恐ろしくもあった。ほんと、僕って馬鹿ですよね」
「実はシルさん達が来た時、嬉しかったんです。ああ、やっとこれで解放されるって、僕はきっとこの苦しみから解放される事を望んでた。――だから、終わらせてください」
目線の先。
アルの懐に入っている短剣を、シルに取り出すよう顎をしゃくる。死ぬのは怖くないし、むしろ膝枕されたまま可愛い女の子に殺されるのは本望だ。
謝罪は終わった、もう言うべきことは――。
「ぶぶー!ぜーんぜん駄目です!」
シュトン。
満身創痍の体でもギリギリ痛くない手刀が、アルのおでこに振り下ろされる。どうしてシルが頬を膨らませて怒っているのか分からず、アルはきょとんとした様子だ。
「やっぱり、何処の世界でもベルさんはベルさんですね。私が聞きたかったのは、謝罪じゃない」
「僕はもう立ち上がる事は出来ない。きっと貴方の期待には答えられない……」
「そう言う所ですよ。はぁ、アルさんの世界の私の心労を考えると頭が痛くなります。あ、私ってまだ生きてます……よね?」
こくりと首を縦に振ったアルに安堵の表情見せつつ、再びシルは薄紅の唇を開く。
「確かに、私はベルさんを救う事は出来ない。――でも、貴方を見続ける事は出来る」
ずっと暗かった瞳が、微かな光を宿して。そして初めて、アルはシルを見た。
「この先、貴方の世界がどうなっても。生きてる限り、私はきっとベルさんを見続ける。凄い事をしたら頭を撫でてあげますし、悪い事をしたら「こらー!」って叱ってあげます。――ベル・クラネルに救われた人が居る限り、仮にこの先どうなっても貴方は誰かの英雄なんですから。英雄は一人じゃない、偶には誰かに頼ったっていいじゃないですか」
救えなかった自分は一人で居るべきだと思った。
孤独であることが失った皆に、そしてその友人や家族に対する贖罪だと信じて疑わなかった。優しい言葉もきっと体だけで、心の中ではアルを卑下して恨んでいるのだと。
でも違った。
目の前にいる女の子から、その言葉を聞くのは二回目。二つの世界が、シル・フローヴァは本当にアルを助けたいと思っているのだと肯定した。
アルの行動は贖罪なんかじゃなくて、逆に誰かを悲しませる酷い
彼の心を縛っていた鎖はこの瞬間、遂に音を立てて灰と成る。それは解放の筈なのに、だけど凄く悲しくてアルの瞳からは自然に涙が溢れ出していた。
涙――そう、涙だ。
そう言えば今まで忘れていたかのように、仲間を失った時も流さなかった。
「苦しみも悲しみも、今ここで全部吐き出しちゃいましょう。アルさんの世界の私には悪いですけど、今は私が聖母になってあげます」
「……怖かった。寂しかった、苦しかった……!時の支配者らしく気取ってながらも、僕はずっと貴方達に助けて欲しかったっ!」
前の世界で一人になってからを含めると、優に一年以上、アルは一人で背負っていた。この世界で失った仲間達と過ごしながらも、何時か来たる『あの惨劇』が頭から離れなかった。
アルは泣いた。
年相応の少年らしく泣きじゃくって、シルのスカートを濡らした。その間も、彼女はその白い髪を優しく撫で続けてくれた。
語る言葉もなくなって、涙を流しきった後。言うべきだった言葉をアルは思い付いて、その
「ありがとう、ございます。」
「こんなの当たり前です。また何時でもシル・フローヴァに頼って下さい」
自分ではない他の世界の彼女でも、きっとそう言うに違いない。だから代弁として、シルは力強く胸を叩いた。
「あ、あの……結局この後ってどうなるんですか?」
そよ風が止んだ頃、遠くで待っていたベルが恐る恐る近寄って来る。
「もう僕はこの世界のベル・クラネルじゃないと自任しました。正史に戻る、貴方は冒険者となって僕は元の世界に返される」
「…………あの、僕は――!」
「言わなくて大丈夫です。きっと、"僕は貴方が見た未来を変えてみせる!"って意気込もうとしてるんですよね?」
「うっ、筒抜け……さすがは僕」
「それを信じた所で、僕の世界が変わる事はない。――それに、ベル・クラネルなら当たり前だ。絶対やって見せろ、僕」
「……はい!」
空が色を失って、花は散っていく。数奇な運命によって導かれた出会いの時は今、終わろうとしている。
「うわぁ、体が薄く――」
先にベルが光粒となって消失した。これできっと、次会った時はシルが知っているベル・クラネルだ。
だが今、膝上で去って行こうとしているのも、又同じベル。どれだけシルが言っても、彼が元の世界で失った人たちは戻る事はないだろう。
過去を変革する事は出来ない。
シルはこの長くも短くもあった時間で痛い程知った。もし安易に手を出せば、今回以上の惨事が訪れるかも知れない。
しかしきっと、彼なら大丈夫だ。
だってもう彼はアルじゃなくて、シルが知ってる『ベル』なのだから。
「……シルさん」
もうすっかり互いの体が薄くなったところでベルはシルに向かって膝立ちになる。予想外の行動に目を丸くする娘の手をそっと取って、少年は曇りなく笑った。
「本当に、大好きです!」
消えかかる白陽を背景に、まるで姫に愛の告白をする騎士の如く彼は言い放った。さっきまで頼れるお姉さんだった筈のシルが、ポッと急激に紅潮する。
「そ、それってどういうことですか!?どういう好きですか!?」
その真意を聞くために問いただすが、もう遅い。最後に紫陽花の花弁が散ったのを見届けて、世界は白く染まった――。
●●
「最近、不思議な夢を見る」
「ほう」
「私がベル君を救って、「ローリエさん……しゅき!」って言いながら強く抱きしめられる夢なのだが、これは正夢という事でいいだろうか?」
「多分、ただの夢だと思います。でもどうして私にそんな事を?」
「うろ覚えだが、確かシル女史も出てきたような気がしてな……」
「きっとただの夢ですよ。後、ミア母さんが五月蝿いので早く出てってもらえますか?」
早朝、『豊穣の女主人』に現われたのは金の髪を結ったエルフの少女――ローリエだった。まるで都合の良い解釈をして『夢』を語っている彼女だが、的を得ていない訳ではない。
事実、シルは彼女と共に大冒険をした。
一歩間違うと、というか実際やらかしてしまった訳だが、過去を修正した事で綺麗サッパリ解決した。その事を彼女は完全ではないが、殆ど忘れてしまっている様子だ。
今日の日付は、まだ"過去に戻る"という選択肢すら出ていない日。だからこそ、仮に時戻しに関わったとしても何も覚えていないのは納得がいく。
ただ特殊であるシルだけはしっかりと記憶に焼き付いている。
別に意図して隠している訳ではない。というか、一度離れ離れになって、ベルと一緒に戻ってこなかった彼女の活躍をシルは全く知らず、大して語る事もなかった。
「帰りたいのは山々だが、私は外に出たら死ぬ」
「そんな迫真の表情で物騒な事を語るほど、オラリオの治安は悪くないと思いますよ」
「私を狙っているのはLv4だ。しかも透明になる事も出来る、もっと詳しく言うと
「あぁ……とにかく、謝りましょう!」
「やはり貴殿は何か知っているな!?」
この後、何処からともなく現れたアスフィに無事、ローリエは連行されて行った。
余談だが、数日後に尋ねて来た彼女から話しを聞くと、罰として魔道具の人体実験で酷い目を見たという。だが上機嫌な顔で「ベル君、ベル君~~~」と鼻歌を歌っていた。
どうやら何故がベルがローリエの元を訪れてデートに誘って来たらしい。
悔しいので、今度店に訪れた時は毒を盛る事にした。
其処からは……まぁ何時も通りの日常だ。
でも少しだけ。変わった事もある気がする。
「ベルさん、これお弁当です」
「ありがとうございます、シルさん。じゃあ行ってきます!」
何時も直ぐに遠ざかっていくその背が、最近は少し感じて。
「待って下さい!」
アルは仲間を失っても、決して諦める事はしなかった。自分が間違っていると分かっていながらも、抗った。
だからこそ、シルも負けてはいられない。もう負けヒロインだなんて言わせない。
振り向いた少年に、娘は決まって最近こういう。
「いってらっしゃい、大好きですよー!」
「声が大きすぎです!?――でも、行ってきます!」
未来がどうなるかなんて誰にも分からない。だけど過去を変える事が出来ないのなら、シルは悔いのない生き方をしたいと思う。
「シル、朝から五月蝿いニャ!リューが帰った来たと思ったニャ!」
あと、実は数日前からリューが居なくなった。良くふらりと居なくなるので心配はしてないが、もしかして時の狭間にでも落ちて……。
(そんな訳ないですよね。第一巻き込まれたなら、リューはあの世界で颯爽と助けに来てくれるに決まってる)
確かにリューと出会っていないシルは、そう結論付けて仕事に戻るのだった。
●●
「……ジャガ丸くん大王、中々に手ごわい相手でした」
かなり時間が掛かってしまったが、リューは託された責務を全うした。
(奥で何か輝いたが、ベル達は大丈夫だろうか)
一刻も早く駆け付けたいが、今行っても加勢できる状況じゃない。それに、強さは劣ってもベルに対する愛の妄執が凄いローリエならどうにかして彼の事を守るだろう。
「……お前は……【疾風】か?」
「っ、誰だ!?」
凄まじい威圧感に振り向くと、其処にいたのは岩のような男だった。一瞬、リューはミノタウロスとも見間違ったが、それは余りにも失礼な誤認だった。
「貴方は……どうして
「分からない。異変を感じて、鉄兜の男が現れた」
「なるほど、理解しました。貴方もシルのお遊びに巻き込まれてしまったようだ」
「
「分かりません。此処に居るのは、私と弱いベル、それに同胞だけだ」
「お前意外に誰の気配も感じないが」
「一足先にこの場所から脱出したのかも知れない。私達も急ぎましょう」
「共闘はしない」
「四の五の言ってる場合じゃないでしょう。貴方が一刻も早くシルに会う為には、私の力は役に立つ」
「……必要なら勝手に来い」
それからリューはオッタルに同行する事になった。この『時の狭間』をぐるりと探したが、既にベルやローリエの姿はなく、新しい試練が訪れる気配もない。
そんな時ふと、オッタルは足を止める。
「……音が聞こえる」
「音、ですか?私には何も――」
「下だ」
その眼差しの先には小さな水溜まり。まさか人が隠れるほど大きい訳ではないが――、
「――うわぁああああああ!?」
直後、見っともない咆哮と共に人間が飛び出して来た。特殊なスキルによる襲撃かと咄嗟に身構えるが……。
「ベル……?」
その容姿はベルと瓜二つ、というか全くの同一人物だった。だがさっきのベルよりも体の線は細いし、何より纏っている服が学区の生徒が纏っているようなそれだ。
下から来たのに、まるで落っこちて来たかのように頭を抱えている少年は、立ち上がってリューとオッタルを交互に見るや否や、
「貴方達、何てことをしたんですか!」
「落ち着いて下さい、ベル……?いやベルに似た少年。話が読めない」
「僕は1200宇宙のベル・クラネル。科学と魔術が発展した世界から来ました。ここはどの世界からも唯一干渉される事のない『時の狭間』、だからこそこの場所には全世界を管理する『
「それは、アル・グレイグの事ですか?」
「あれはただここを勝手に使ってるに過ぎない。と・も・か・く!貴方達がそのマスターを殺しちゃったおかげで、今、全宇宙がとんでもない事になってるんです!その異常を察して、わざわざ僕はこうして――」
「待って下さい。あのジャガ丸くん大王が、ですか?」
「……?違います!時の支配者とは、もっとカッコ良くて赤い外套を被った魔術師の事です!」
「
問いかけると、珍しくオッタルは額に冷や汗を浮かべた。言葉にせずとも、それが答えだった。
「と言う訳で、彼が殺したようです」
「いやまじで、冗談じゃないですって!?責任、きちんととって貰いますよ?」
「責任とは?」
「あらゆる宇宙、世界で起きてる『瑕疵』を修復して貰います!さぁ、僕と一緒に――」
「待って下さい。この展開は余りに突拍子が無く、今までの物語との整合性も欠きます」
「……というと?」
「恐らく、次のページを捲った頃には「冒険はここからだ……!」とか言って『終わり』の言葉が書かれているかと」
「メタ的な発言やめて貰えますか!?というかそんな訳ないです、まだまだ僕達の冒険はこれからなんですから!!!!!」
…
……
………
~fin~
ここまで見てくれた方はありがとうございます!初めての二次創作で、感想を頂いた方には感謝しかないです。
文章力など反省点は多々ありますが、兎に角タイトルが悪かったと思います。元々五秒で考えた奴で、正直内容とは全く不一致ですね。
気が向いたらまた書くと思います。内容的には今回と同じでギャグ寄りのシリアスになると思うので、又是非に!