どうにかしてベル・クラネルを手に入れようとするのは間違っていないですよね?   作:ゴリラズダンジョン

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世界の瑕疵

 【ヘスティア・ファミリア】団長、アル・グレイグ。怒涛の勢いでLv5になった冒険者、二つ名を【白兎の脚《ラビット・フット》】。

 彼が成した数々の功績はオラリオ中に広がっていて、今や一番激熱(ホット)な人物である。

 

 

 『竈火(かまど)の館』を出たシル達は、ベルが居る筈だったポジションに居る『アル』なる人物に関して調べた。

 ギルドやフィンの知名度、それに【ヘルメス・ファミリア】であるローリエの情報網を使って調べ上げたが、その軌跡はベルとほぼ同じだった。

 

 18階層でのゴライアスの撃破、【アポロン・ファミリア】との『戦争遊戯(いざこざ)』。地上に現われた怪物(ミノタウロス)との一騎打ちに、【フレイヤ・ファミリア】との史上最大の『戦争遊戯(ウォーゲーム)』。

 

 それはシルも知っている所であって、何なら最後の出来事は自身が大きく関わっている。

 

 となると、この世界で女神を救った騎士はベルではなく、アル・グレイグになるが――。そもそもこの世界は異常な『結果』で、過程を色々詮索したとて益体がない。

 

 今はこの狂った歯車を戻す為に頭を使うべきだ。

 

「アル・グレイグ。彼がこの『ズレ』に関わっているのは前提として、それが果たして故意か偶然か」

 

「渦中に居る以上、どちらの可能性も又否定できないか」

 

「そうですね。現状、どうしてこうなったのか分かってません。解き明かすべきは、どこで歯車が狂ってしまったのか。それまで、アルさんには接触しない方が賢明だと思います」

 

 幸いな事に、シルを含めてこの場に居る全員はキレる頭の持ち主だ。少ない情報の中でもやるべきことを探してす事が出来るし、フィンに関してはLv7の実力も兼ねている。

 

「どこに行ってしまったのだ、ベル君……いやまさか、『時の狭間』に落ちてこの世界には存在しない……?」

 

 ただエルフとしてはまだ幼いローリエは、冷静を装いながらも不安が隠しきれていない様子だった。

 

「これは仮定ですけど、きっとベルさんはどこかで生きてると思います。そもそもフィンさんが過去のベルさんと接触したからこの状況が起こってる訳ですからね」

 

「そ、そうか、確かにそうだな!だがアル・グレイグに接触するのは危険、ベル君も何処に居るのか分からないとなると、私達は一体何を頼りに……」

 

「大いなる力には大いなる責任が伴う、か。好き勝手に過去を変えた張本人たちが、その世界の成行を観測できないのは致命的な欠陥だ。だが賽は投げられてしまったのだから、僕達は進み続けるしかない」

 

 暫く顎に手を当てて、フィンは次なる思考への『一考』をする。

 

「……現状、この世界で大きく変わっているのは君が言った"二人の人物"と、僕に対する"周囲の視線"だ。てっきり、これはベル・クラネルと何かあった結果だと思ってたけど、その彼はどこにもいない」

 

「冒険者として没落した兎と、秘密で禁断の恋……!って可能性もありますよ?」

 

「ともかく、僕は一度本拠地(ホーム)に戻って情報を探るよ。君達は引き続き、世界の『瑕疵』がないか探して待っておくといい」

 

 真剣な面立ちで去って行ったフィン。ローリエも事の重大さを実感し始めて、というかベルの事が気が気でない様子だった。

 ただ、シルだけは別だ。この細い糸を辿っていく探偵劇を、内心割と楽しいと思っている。

 

(全く悪い(ひと)ですね)

 

 そうやって自分の好奇心を諫めるシルだが、彼女は分かっていない。

 

 時とは正しく神をも上回る力であって、そのままの軽い気持ちでは決して乗り越えられない『試練』となって何れ降り注ぐことを――。

 

●●

 

「突然だがラウル、僕は君にどう思われているのかな?」

 

 【ロキ・ファミリア】の本拠地、『黄昏の館』から戻ったフィンはそう問いかけていた。ベル・クラネルの消失、そしてフィンに対する周囲の目が無関係とは考えられない。

 

 とはいっても、過去に戻った当の本人であるフィンはこの世界でフィン・ディムナが歩んだ『過程』を知らない為、気の知れた仲に聞いて探ることにした。

 

 正直者、というか気弱なラウルなら問いただせば、偽ることもましてや詭弁を垂れる事も無いだろうという算段だ。

 

「えーっと、どう思うと言われても……」

 

「忌憚のない意見を聞かせて欲しい。僕の事が嫌いで仕方が無いと言うなら、答えないのもやむを得ないけれど」

 

「そんな事はないっす!団長はカッコ良くて凄くて、自分の憧れっす!」

 

「そうか、それは良かった。でもそうは思わない者も居る。ラウル、僕に対する『噂』を聞いた事はあるかい?」

 

「噂っすか?えーっと、特に団長を貶すようなものは……あっ」

 

「何かあるなら正直に語って欲しいな」

 

「な、ナニモナイデスヨ!」

 

 明らかに硬直しているラウルに、フィンは表情を崩さずに優しい目を向け続ける。その無言の圧力に「ひぃ」と声を漏らした彼は気まずそうに頬を引き攣らせながら、

 

「そのえーっと……ここ最近、あの……団長が――」

 

「男色趣味って噂かな?」

 

「えっ、知ってる?じゃあどうして自分は犯人見たいに問いただされるんすか!?」

 

「確認したかっただけだよ。でもやっぱりそうか」

 

 だがフィンにとって重要なのは、客観的にそう見えるに至った『理由』である。

 

「ラウル、どうして僕がそう言われてるのか知ってるかい?」

 

「最初に言っておきますけど、自分はまじでそう思ってないっすから!そもそも最初の噂は、団長が――フィン・ディムナがヒューマンの少年に付き纏ってるって話から始まったっす」

 

「なるほど。その少年というのは?」

 

「名前は知らないっすけど、確か白髪で赤い目の……」

 

 其処まで人物像を聞けば、もうフィンの脳内に浮かぶのは一人だ。ベル・クラネル、何故だか分からないが冒険者として有名ではないにも関わらず、彼とフィンは多分な面識があるらしい。

 

 ―冒険者として没落した兎と、秘密で禁断の恋……!って可能性もありますよ?

 

 そんな言葉を思い出して頭が痛くなる。

 

(違うだろう、フィン・ディムナ。……違うよね?」

 

 ここまで不安に駆られるのは何時振りか。ただ団員の前で弱い姿を見せる事は出来ないので、フィンは毅然と姿勢を貫いて、それ以上考えるのを止めた。

 

「その少年が何処に居るかは?」

 

「確か【北区】の商店でアルバイトをしてたような気がするっす」

 

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