ハイスクールD×D 眷属になれない部員の話 作:アルタイル10
イッセーとライザー、そして俺と眷属は中央の即席の舞台で対峙する。相手は殺す気でかかってくるつもりらしい。
「おい、貴様。今なら見逃しても良い。ここから帰れ」
なんかそう言われた。なので俺は返事をする。
「嫌ですよ。一応僕は招待されたんでね。人間だからといってそういうのは少しいただけないですね。それとも、あなた方は俺に負けるのが怖いんですか?」
その言葉にライザーの眷属たちは額に青筋を立てた。
「ふふふ、人間ごときが調子に乗ってくれたわね。殺されても良い覚悟があるのかしら?」
確かライザーの女王だった気がする。
「出来ないことをあまり口にしないほうが良いですよ」
その言葉を開戦の合図として向こうは武器を構え、襲い掛かってくる。
最初に到達したのは棍を構えた子だ。確か、最初に出会ったときは、イッセーを一撃で倒していたな。棍を俺に向けて振り下ろしてくる。それを回避行動ではなく迎撃するために拳を構え、そのまま放つ。
拳は棍の遠心力が最大にかかる、先を捉える。普通ならば拳が砕けるどころか腕もいかれるはずなのだが、魔力を流した俺の体はそれを無傷で破壊した。
「な!?」
さすがに拳で砕かれたことに驚いているようだ。しかし、今は時間がない。魔力を指先に集中させてルーンを描く。描くのは停滞のルーン、氷を意味している。描くのは彼女の足が着く場所だ。縦に一線戦を引くだけで済むからとても楽だ。
彼女が着地した瞬間、足場が凍り、彼女の足を地面に貼り付けた。それをもがいて抜け出そうとするが氷はびくともしない。
「悪いけど、このままでいてくれると助かる」
そう言って次に迫っている獣耳の二人とチェーンソーを振り回す似たような二人、たぶん双子だろう。そちらの方を向いた。武器をチェーンソーは危ないなと思い、体に更に魔力を込める。
チェーンソーを持つ二人は同時に首元に高速で回転する刃を振り下ろしてくる。それを俺は腕で受け止めた。
「うそ!?」
「えっ!?」
二人はチェーンソーを腕で受けたことに驚いている。無理もない。受け止めれば切り裂かれるはずの腕は切れないのだから。逆にチェーンソーの刃がどんどんなくなっていっている。そして、腕を押し返してチェーンソーを持った二人を押し返し、吹き飛ばした。その直後、背後に回っていた獣耳の二人が後ろから肺に向けて拳を叩き込もうとしていた。
俺は足を思いっきり地面に叩きつけて地面を揺らす。いわゆる震脚ってやつだ。会場全体を揺らすほどの一撃を決める。そのせいで、二人の拳も踏み込みが甘くなり、バランスを崩して転ぶ。その瞬間に停滞のルーンを描き、二人を氷で拘束した。
「ニャニャ!?」
「残り十二!」
素早く先ほど吹き飛ばしたチェーンソー姉妹に向けて駆け出す。震脚で転んでおり、立ち上がる瞬間であった。その前に指の魔力を調整して停滞のルーンを宙に刻む。すると離れていた二人を氷で作った枷につながれる。
「な!?」
「なにこれ!?」
「残り十!」
そして残る眷属たちに向けて走り出す。すると二人の剣士らしき人が出てきた。
「カーマライン、こいつは危険だ。騎士道なんてものは今は捨てて全力でこいつを倒すぞ!」
「騎士道に反するが、このような相手では仕方あるまい!」
二人は剣を構え、あちらも駆け出す。俺はカードから剣を取り出して、魔力を最大限に込める。
「はあああ!!」
「せやああ!!」
二人は同時に左右から剣を振りぬいてくる。しかも高低差をつけて膝と肩の辺りといやらしい位置で振り込んできていた。避けるなら後ろに飛ぶしかない。否、そんな時間のかかることをしてられない。視界の端に映るイッセーはすでに戦い激化している。イッセーは龍を模した鎧を着こんでライザーと戦っている。それにアイツは十秒で済ませると言っていた気がする。それならこちらも早めに済ませるべきであろう。
俺はその剣の間をすり抜けるように飛び、二つの根元をたたき、地面へと落下させた。それと同時に彼女らの足元に停滞のルーンを刻んで動けなくさせる。
「なっ!?」
「なに!?」
「残り八!」
回転しながら着地して態勢を整えようとした瞬間、足元で大きな爆発が起きた。
「これでお終いよ。お馬鹿な魔術師さん。これ以上はパーティーをしらけさせてしまうわ」
確か、リーダー格らしき女性の声だ。この攻撃は彼女によるものらしい。だが、これで倒せたと思っては困る。俺は爆煙から飛び出して彼女の目の前に一瞬で到達する。もちろん、自分ではこんなにスピードがだせないので移動のルーンを自分の足元に描いて爆発的な速度を出したおかげだ。
「え!?」
到達する。彼女は下がろうと魔力を足に込めるのだが、遅い。すぐに体に停滞のルーンを刻んだ。もちろん、魔力操作で頭は凍りつかないようにした。そして、凍りつけとなった。女性から視線を外し、その奥にいる残りのメンバーに向けて、魔力球を作り、一斉に射出する。
もちろん魔力球には停滞のルーンを刻んでいるものを複製したものなので当たった瞬間に凍りづけとなる。
「くそっ!」
「だせ!」
「冷たいよー!」
各々が叫び声を上げる。しかし、一人は体から炎を噴出させ、その氷を一瞬で溶かした。
「どうやら、あなただけは彼女らとは違うようですね」
「はあ、はあ。まさか、人間ごときがここまでやるなんて……」
「あまり人間を舐めるなってことですよ」
「黙りなさい!」
金髪の彼女は、ライザーと同じ感じの炎をこちらに向けて出してきた。それを防御のルーンを刻んだカードを出して防ぐ。もちろん、魔力はかなり多めに使って作られているため早々破られることはない。炎を防ぎきって、炎を出し切った彼女のの前に一瞬で到着すると、首に剣を当てる。
「……参りましたか?」
「そんなはずないでしょう!」
そう言って彼女自身から炎が吹き出してくる。それを危険と判断して遠くに離れる。
「あなたふざけているの!?今の戦いで、なぜあなたは私たちに攻撃を加えてこないの!私たちを動けなくさせるだけで、攻撃してこない?ふざけるのも大概にしなさい!」
そう言って彼女は俺に向けて先ほどよりも大きな炎を作り放つ。それを防御のルーンを使って防ぎきると再び彼女に接近する。そして、今度は確実に当てるという殺気を乗せて剣を振るう。
彼女はそれに始めて恐怖して、目を閉じるが、俺は剣を彼女に当てずに止める。
「もともと、フェニックスだからといってライザーのような傲慢な態度で話しかけてこないあなたを俺は高く評価している。確かに、俺はあなたたちにまともな攻撃を当ててないのは失礼だった。だけど、俺はあなた方と正直争うつもりはあまりない」
剣を下ろし、カードの中にしまいながら彼女に話しかけた。
「……じゃあ、何でこの余興に参加したんですか?」
「それは、憂さ晴らしです。最初、ライザーに炎をぶつけられましたからね。それに、レーティングゲームに参加できなかったことの。ライザーと戦うなら俺も本気で行こうとしましたが、相手があなたたちとなるとそうは行かない。話し合いのできる人とはあまり争わない。それが君みたいな可愛い子ならなおさらです」
「なっ!?」
そう言われて、顔を赤くする。こういうのに耐性がないのか、それとも異性に言われるのが初めてなのか。まあ、気にしなくて良いだろう。俺はイッセーのほうを見るとあちらもちょうど終えたのか少しボロボロになりながら立っているイッセーがいた。ライザーはもちろん、倒れている。
「あちらも終わったみたいですね。あまり、長居は無用なので、早めに降参してくれると助かります」
彼女を見てそう言うと、まだほんのり赤く頬を赤らめる女性は頷いた。
「わかりました。私たちの負けです。といっても、この人数で手も足も出なかったのにこれ以上やっても勝てる気がしません」
それを聞くと俺はもう一枚の魔方陣を取り出す。招待状の中に入っていた脱出用の魔方陣だ。魔力を込めずにここから立ち去りたいと思うだけで足元に魔法陣が現れる。それと同時に指を鳴らして氷で拘束していた彼女らの氷を一瞬で昇華させて消した。
「ま、待ってください、桐谷さん!」
「なんでしょうか?」
「レイヴェル。それが私の名前です。またどこかで会うことになったらそう呼んでください」
「分かりました。それじゃあ、レイヴェルさん。俺もコーキと呼んでください。みんな俺をそう呼んでいるので」
「はい、コーキさん」
俺は彼女、レイヴェルさんに頷き返すと魔方陣の光が更に強くなる。そして俺はそのまま家の玄関へと転移した。
☆
「不思議な方でした……」
会場に残ったたくさんの上級悪魔たちは婚約パーティーの主役がいなくなったことにより、どんどんいなくなって行った。そんな中、私はその会場の端にある席についてポーッとしていた。
考えているのは先ほど私たちと戦っていた、桐谷光輝という人だ。彼は私たちを圧倒する力を持ちながら傷つけることなく私たちを負かした。あの強さにはとても驚いた。
「また会いたいです……」
初めて会ったはず。いや、正確には二回目だ。一回目は駒王学園という場所。その時は彼は魔術すら使っておらず、弱い人間と思い、そこまで関心を抱かなかったが、二回目の今回は彼の強さを目の当たりした。あんなに強いのにお兄様と戦うのだったら本気を出す。彼は私たちと戦った時以上強いというのだ。
そんな彼に興味がある。もっと話してみたい。そんなことが頭の中に浮かんでは消える。
「ここにいましたか、レイヴェル様。もうパーティーも出来ないようなので帰りますよ」
私を心配で探していたらしいイザべラがこちらに向かってくる。
「分かったわ。すぐに行くから先に行っておいて頂戴」
そう言うとイザベラは扉から出て行った。私も帰ろう、そう思い立ち上がると会場の真ん中に何か落ちていた。それが何か気になりそちらに向かうと一枚カードが落ちていた。不思議な感じの文字。確かルーン文字だった気がする。
「これって……コーキさんの?」
確か、私の攻撃を防ぐ時に出していた物に似ている。もし、これが彼のものならば会う口実も出来るかもしれない。
私はそれを懐に仕舞うと足取りが軽くなった気がした。
また、会いましょう。コーキさん。
そう呟くとそのままパーティー会場を後にした。