キュゥべえである毎日   作:唐草

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「私の家に、来ませんか」

「キュゥべえ、そこ、段差あるから気をつけてね」

「ありがとう、ハルカちゃん」

 

 やって来ました、見滝原。さすがにチャリで来るのは不可能だったので、普通に電車を利用して来ました。

 一般的で実に普通な町並みと、一般的でなく実に異常な髪の色。見滝原は、とてもアンバランスな街だった。

 

「それにしても、キュゥべえって、人間に変身できたんだねー。結構格好いいよ、そのビジュアル」

「はは、実は僕も割と最近知ったんだけどね。……あと、この姿のときはキュゥべえじゃなく、米田悦(ヨネダエツ)って呼んでくれって言ったじゃないか」

 

 ハルカちゃんの家で色々と実験をしていると、再構成するときの容姿を、ある程度自由に選べることに気が付いた。……とはいっても、白髪に赤目は変わらないために、見える人には凄く目立ってしまうのが難点なのだが。

 それに、この姿だと、淫獣形態の三倍は胡散臭く見えてしまうというのもある。ダンガンロンパ2の狛枝に少し似ているだろうか。まあ、容姿はそんな感じだ。

 米田は、読んで字の通り、米田→ベイダ→インキュベイダーから来ている。下の名前は、いい名前が思い浮かばなかったために、僕の元の名前を使用している。もし僕が女だとしたら『いんく』とか、孵卵器から『ふらん』とかも使えただろうに、中々惜しかったりする。

 

「あっ、そうだったね。ごめんなさい……」

「気にしなくていいよ。友達だろう?」

 

 しゅんとするハルカちゃんを、撫でて慰める。そうすると、ハルカちゃんはみるみる匠の手によってそれほど劇的でもない表情の変化を果たし、笑顔になった。

 ナデポのちからってすげー。

 

「とりあえず、そうだね……拠点となるところを探そう。見つかったらあとは各自自由行動ってことで」

「うん、わかったよ。キュゥ……エツくん!」

「ん、よくできました」

 

 まさに『花の咲いたような』なんていう表現が似合う笑顔だった。やはりこの娘は可愛らしい。魔女なんかにせず、友達にして本当に良かったと思う。

 彼女と共に街を歩いて数十分。ようやく拠点となりそうな廃墟を見つけた。

 

「……お金ならあるから、ホテルにでも泊まればいいのに」

「そのお金がなくなったらどうするんだよ。ちゃんと節約しないと。それに、僕たちは揃って人外だ。こんなところで寝たって何の問題もないさ」

 

 ハルカちゃんは首を傾げてうーん、と唸ったあと、

 

「エツくんがそう言うならそうなんだね!」

 

と、とても他力本願な考えを披露してくれた。食べるという行為は日々の活力になるから金を残しておきたい、くらいのことが言えたら花丸をあげられたのだが、さすがの僕もこれには苦笑い。まあ、これくらい考え無しじゃないと、僕の言うままに見滝原に来てくれないかと思うと、これでも良かったのかもしれないけど……。

 

「じゃあ、ここから先は自由行動だから、適当に使い魔か魔女でも狩ってていいよ。あ、でも別の魔法少女見かけたらちゃんと逃げるんだよ。危なくなったら連絡してね」

「はーい」

 

 スキップしながら消えていく後ろ姿を見ながら、これからどうするかを考える。基本方針は、『友達を増やす』これに限る。美樹さやかあたりは簡単に友達になってくれそうだが、その前に魔女化されたら困る。グリーフシードは多めに持っていた方がいいかもしれない。

 

「当店は、リサイクルグリーフシード方式を採用しています」

 

 グリーフシードに限界まで穢れを溜め込んで、わざと魔女を孵化させてその瞬間全力全壊で圧殺してグリーフシードに戻すという、アレだ。これのおかげでハルカちゃんが魔女化する可能性は非常に下がって、さらにグリーフシードを僕とハルカちゃんで分割して持つことができるほど余裕ができた。先駆者さまさまだ。

 次に友達にしやすそうなのは、やはり巴マミだろうか。言わずと知れた豆腐メンタル。ただ、リサイクル方式の教えどころを間違えれば、他の魔法少女にも教えてしまいそうなのが難しいところだろうか。

 とりあえずこの二人を友達にしてしまえば、自分が必要とされていないと思っている鹿目まどかは、ずるずると懐柔……もとい、友達になるように説得できる確立が大いに上がる。

 

「とりあえず、マミちゃんに接触してみるかな。キュゥべえと僕がどう繋がっているのかも知りたいし」

 

 廃墟から出て、その辺をぶらぶらと歩く。普通の人には僕は見えないので、道行く人が僕を避けて歩いてくれないのが少し不便だが、ほむらちゃんに出会い、出会い頭に撃ち抜かれるよりはマシだ。死体の処理とか、一々食べなくちゃいけないから面倒だし。

 数時間歩いて、いよいよ西日がきつくなってきたところで、ようやくマミちゃんを発見した。疲れを感じない体だとはいえ、数時間のウォーキングは中々退屈だった。

 マミちゃんは僕に背を向けており、肩にはキュゥべえを乗っけてコツコツと靴を鳴らしている。パトロールだろうか。足音をできるだけ殺し、マミちゃんの後ろに付いて、ストーキングを実践する。

 しばらく歩いていると、マミちゃんが急に立ち止まりトンネルの壁を見上げて言った。

 

「ここね……」

「そうだよ、マミ。場所と大きさに考えたら、やはり昨日逃した使い魔のものの可能性が高いかな」

「ええ、そうね……。いくら使い魔とはいえ、気を抜かないで行くわよ!」

 

 そうマミちゃんが言うと、マミちゃんの体が光に包まれて、瞬く間に、頭には白い飾りの付いたベレー帽、それに腹にはただでさえ大きい胸を強調するようなコルセットと、魔法少女の姿へと変貌する。

 それに呼応してか否か、魔女結界が辺りに展開された。

 おどろおどろしい雰囲気の多い魔女結界にしては珍しく、空は突き抜けるような青色で満たされていて、遠くには風車がくるくると回っている。ただ、周りは木のような山に囲まれていて、どことなく閉鎖的で、閉じこめられているような感じがした。

 

「……知らない結界だなあ」

「誰っ!?」

 

 アニメでも漫画でも見たことのない結界に、思わず声を出すと、マミちゃんにバレてしまった。迂闊というか、今回のは完全にうっかりである。

 

「誰だ彼だと聞かれても、僕は情け容赦はかけないタイプだからね。聞かれて答えるような「ここは危ないから、こっちへ!」あ、ちょ、人の話は聞こうよ」

 

 マミちゃんに連れられて、木のような山の幹の部分に避難する。

 マミちゃんの肩に乗っているキュゥべえが僕の異常性に気付いたのか、口を開いた。

 

「きみは……」

「なあ、そこのコスプレ少女ちゃん」

 

 キュゥべえの言葉を遮って、マミちゃんに話しかける。余計なことを言われて、取り返しの付かないことになったら台無しだ。

 

「色々と聞きたいことはあるでしょうけど、これが終わってからでお願いします。……キュゥべえ!」

「なんだい、マミ」

「この人のことを見ていてくれるかしら。どうやら使い魔はあっちからしか来ていないし、一応リボンの結界も残しておくけれど……万が一ってこともあるしね。使い魔が近づいたら連絡してくれるかしら」

「うん、了解したよ」

 

 ……そういえば、普通の人にはキュゥべえって見えないから、今マミちゃんは普通の人から見たらハイレベルな電波さんなんだろうな。

 向こうから迫ってくる使い魔は、チューリップを大量に固めて、そこから生えている影のような翼が、足のように蠢いているように見える。控えめに言って、気色が悪い。

 

「……チューリップ……風車…………。……オランダ?」

 

 単なる連想ゲームだ。面白くもなんともない。僕がくだらないことを考えている間に、マミちゃんはリボンを出し、僕とキュゥべえを包み込む。そうして、ベレー帽からマスケット銃を取り出して、高速で行ってしまった。残されたのは、僕とキュゥべえだけだ。

 しばらくして、キュゥべえが口を開く。……いや、この淫獣は喋っているときも口を開いていないが。

 

「……きみは、一体何者なんだい?」

 

 どうやら、僕の正体は割れていない。ならば話すべきではないだろう。

 

「何者って……じゃあ逆に聞くけど、どんな存在だったら嬉しい?」

「嬉しいという感情はボクには理解できないね。だけど、もしきみがボクやマミに協力してくれる存在だとしたら、都合がいいかな」

 

 まさにキュゥべえのお手本のような答えである。建前を交えつつ、それでかつ嘘をつかずに本音の一部も露出させる。こいつの本性を知らなければ完全に騙されていただろう。

 

「協力?ははっ、一般人に化け物とドンパチやらかせと?冗談は耳毛だけにしてくれよ」

「冗談を言っているつもりはないんだけどね」

 

 キュゥべえが首を傾げながら紅い目で見つめてくる。

 

「きみは何だか……人間ではないようだからね。アルビノと言うのかい?そういった人間を模しているようだけど、ボクが見えて、会話ができる時点で十分一般人の枠からははみ出していると思うよ?」

「おやおや、きみと会話ができるのは電波を送受信できるパラボラ人間だけだって?なんてことだ、これは幻覚だったのか」

「そういう意味じゃないよ。ボクと会話ができる存在は、魔法少女の素質のある少女だけだからね」

「ユーモアを解さない奴だな。そんなんじゃあ、恋に恋する女子中学生の一人も口説けやしないぜ?」

「ボクにとっては口説く必要性が見あたらないかな。人類は繁殖のために結婚相手を探すのだよね?けど、繁殖相手をわざわざ選ぶだなんて、非効率的もいいところじゃないか」

 

 駄目だ。このナマモノ、皮肉を本当に言葉通りに受け取ってやがる。言い争いでは負ける気がしないが、勝てるヴィジョンも浮かばない。

 

「まったく、感情なんていうものに振り回されて生物としての本分を見失うだなんて……まったく、わけが───おっと、どうやら終わったようだね」

 

 キュゥべえがそう言うと、使い魔の結界が剥がれ落ちるようにして消滅し、元のトンネルの風景に戻った。さすがマミちゃんだ。仕事が早い。

 気が付いたら、見滝原中の制服姿に戻ったマミちゃんが隣にいた。結界の収縮のせいだとはわかってはいるが、正直、結構びっくりする。

 マミちゃんは少し困ったような笑みを浮かべたあと、こちらへ振り向いて「大丈夫ですか?」と声を掛けてきた。

 

「うん、見ての通り、無傷だよ。ところで、さっきのは?」

「……そうですね、とりあえず、自己紹介をしておきましょう。私は巴マミ。見滝原中の三年生で───」

 

 マミちゃんは、たっぷりと無駄に溜めてから、ドヤ顔で言った。

 

「───そこにいるキュゥべえと契約した、魔法少女です」

 

 スカートの裾を持ち上げて、優雅に礼をするマミちゃん。ここだけ見ていれば、頭のネジが一、二本余計に突き刺さっている人種の、それだ。というか、この瞬間を誰かに見られるとかいう考えが薄いのだろうか。ハルカちゃんもそうだったけど、魔法少女はもう少し周りの目を気にした方がいいと思う。

 そして、人が見ている場でこんなことをできる精神に感服を憶えた。おおよそ、羞恥心というものを持ち合わせていないのだろうか。薄着になるのも恥ずかしいと言うような、ハルカちゃんの羞恥心を分けてあげたい気持ちになった。

 

「……って、普通の人にはキュゥべえの姿は見えないんだったわね。キュゥべえ」

「その必要はなさそうだよ、マミ」

「あら、どうして?」

「彼には既にボクの姿が見えているようなんだ」

「へぇ、そう……………………ねえキュゥべえ、魔法少女って、男の人でもなれたのかしら?」

 

 駄目だ、錯乱していいらっしゃる。一つの文でこれほどまでに矛盾した文章は、バットマンレディーとか、女性カメラマンとか、そんなものだ。バットウーマンにするわけにはいかなかったのか。

 

「違うよ、マミ。彼に魔法を扱える素質は全くと言っていいほどない。それでも、彼にはボクがはっきりと見えているし、会話だってすることができるんだ。だから驚いているのさ」

 

 とても驚いているようには見えない。

 

「つまり……えっと…………?」

「それよりも、マミちゃん。さっきの化け物が何だったのか、教えてくれるかな?」

 

 混乱してきたマミちゃんに助け船を出す。年長者として、話の問題を気にせずに先へ先へと進ませていくことも、大事だと教える必要があるのだ。

 

「は、はい。えーとあれは『魔女』っていう存在で───「いいよマミ、そこから先はボクが説明しよう」

 

 淫獣が割って入ってきた。何故だ。僕としては淫獣が説明するよりも、美少女かつ友達候補のマミちゃんが説明してくれた方が嬉しいというのに。

 

「魔法少女は、ボクと契約することによって、魔女と戦う使命を負う代わりに何でも一つだけ願いを叶えることができるんだ。願いから生まれたのが魔法少女だとすれば、呪いから生まれるのが魔女。魔法少女は希望を振りまくように、魔女は絶望をまき散らす」

 

 なるほど、改めて聞いてみても、何一つ具体的な表現が成されていない曖昧で抽象的かつふんわりざっくり新作チョコ菓子風味な説明だ。

 

「理由のはっきりしない自殺や殺人は、かなりの確立で魔女の呪いが原因なんだ」

「ああ、うん。もういいよ。……それで、マミちゃん。このウサギと犬と猫を掛け合わせて三で割って耳毛を足したような生物は、一体なんなんだい?動く最新科学なぬいぐるみか、魔法少女のマスコットか、はたまた外宇宙からの侵略者かな?喋るときに口を動かさないだなんて、胡散臭すぎて思わず鼻を摘みたくなってしまうよ」

 

 マミちゃんは微妙な表情をして、こちらを情熱的に見ている。まるで『胡散臭さならあなたも負けてないわよ』と言っているようだ。

 

「……えっと、この子はキュゥべえ。素質のある女の子は、キュゥべえと契約することで魔法少女になれるんです。さっきあなたが言った、魔法少女のマスコットのようなものですね」

「へぇぇ、マスコットか」

 

 キュゥべえをむんずと掴み上げて、頭の上に乗せてみた。思ったより重さはなく、中に何が入っているのか気になった。まあ、以前僕の死体を解剖してみたけれど、真っ白い蛋白質らしきもの以外何も入っていない、まさにぬいぐるみだったわけなんだけどね。

 

「……そういえば、えーと、あなたの名前は……」

「ああ、名乗り忘れていたね。僕は米田悦。今現在は旅をしながら廃墟に隠れ住んでいるアウトドアなおにーさんだ」

「は、廃墟に!?そんな……危ないわ……ですよ。最近物騒ですし、魔女が出るかもしれないですし……」

「そうかなあ、僕にとっては居心地がいい廃墟だけど……っと、マミちゃん別に敬語じゃなくても構わないよ。僕の方が年上とは言っても、そう歳は離れていないだろうしね」

「え、ええ……。せっかくだから、そうさせてもらうわ」

 

 マミちゃんはどうやら、戸惑いつつも嬉しがっているように見える。ふむ、やはり気軽に話せるような友達もいないぼっちか。まあ、毎日毎日パトロールしたり魔女と戦ったり鉄板の上で焼かれたりしていたら友達もできないわな。

 友達にしてあげないと(使命感)。

 とりあえず巴マミとの接触には成功した。キュゥべえも僕がインキュベーター(亜種)だとは気付いていない。さて、この後はどうするべきか。

 

「あ、あの…………」

「うん?何かな?」

「えっと、その……住む所がないんだったら、えっと……」

 

 マミちゃんがもじもじしながら言い淀む。これは、もしや。

 

「その、私の家に、来ませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回出てきた使い魔

オランダの魔女の手下。その役割は景観。写真の中でしか見えない景色は、決して魔女には触れることができない。手のない魔女には手を伸ばすこともできず、景色はどんどん離れていく。


-チャリで来るのは
有名なプリクラのあれ。どうしてあそこまでネタにされてしまったんだ。

-匠の手によって
なんということをしてくれたのでしょう。

-ナデポのちからってすげー
おそらくその力は科学さえも超越している。

-さすがの僕もこれには苦笑い
それにしてもこの主人公(仮)、ノリノリである。

-リサイクルグリーフシード方式
生まれたての魔女は使い魔がいなかったり、迷路が完成していなかったりするらしい。先人たちの知恵に感謝を。

-体が光に包まれて
変身ヒロインの由緒正しき変身方法。男の皆さんはベルトをご着用ください。

-誰だ彼だと聞かれても
R団内でも答えないのが普通らしい。

-ハイレベルな電波
-パラボラ人間
プロはラジオの放送に介入できるらしい。

-耳毛
やたらと長い。手のように使うらしいが、それなら手を発達させておけと。

-なんてことだ、これは○○だったのか。
猿に占拠された惑星のお話。

-ナマモノ
加工をしていない魚介類等の食品、またはパプワ島に生息する生き物のこと。

-バットマンレディー
-女性カメラマン
マンなのかレディーなのか。男なのか女なのか。

-魔法少女のマスコット
特に、淫獣のようなものを指すことが多い。

-鉄板の上で焼かれたり
んま~いにっち、んま~いにっち、ぼくらはてっぱんのぉ~

-亜種
通常種よりも強いことが多い。
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