キュゥべえである毎日   作:唐草

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「お前もかブルータス」

 

 魔法少女体験コースこと、魔女殺害お試しコースに参加するために、僕らは、何故かジャンクフード店にいた。さらにそこでマミちゃんは「魔法少女体験コース第一弾」だの何だの言っているので、周囲の目が気になったりする。張り切るのはいいが、すこし周りも気遣ってほしい。

 周りにこっちを見ている人は……うん、いないな。

 

「……マミさん、本当にエツさんも連れて行っていいんですか?だって、いざというときに魔法少女になることはできないんですよ?」

 

 まどかちゃんが心配そうに僕のことを見る。正直、いざというときにまどかちゃんたちが間髪入れずに契約できなければ同じことだと思うのだが、そこまで変わるだろうか。

 

「大丈夫よ。全員守るんだから、二人も三人も、それほど変わらないわ」

「ひゅーっ!マミさんカッコイー!」

 

 さやかちゃんが、まるでマミちゃんの筋肉が鋼みてえだとでも言いたげな発言をする。それはまぎれもなくヤツさ。

 

「ところでみんな、何か準備はしてきた?」

「準備になってるかどうかわからないけど、こんなのを持って来ちゃいました!何もないよりは、マシじゃないかと思って」

 

 さやかちゃんが鞄の中から布で巻かれた金属バットを取り出す。さやかちゃんは布をぶわっと投げ捨て、ホームラン予告のようなポーズをする。

 おい、やめろ。こんなところで誇らしげに金属バットを高々と持ち上げるんじゃない。ファストフード店で金属バットを取り出していいのは、二十代になってからだ。キレる十代が持ち歩くのはやめなさい。

 僕の心の中での非難と、周囲の若干訝しげな目を無視して、マミちゃんが苦笑いする。プロのぼっちは周りの目を気にしないとでも言うのか……!

 さて、冗談は程々に、全員の装備を確認する。

 まどかちゃんとさやかちゃんはバット以外はほぼ同じ装備。赤い蝶ネクタイにチェックのスカートと、見滝原中学の制服に身を包んでいる。これは、布の服で統一してよさそうだ。せめて服の下にジャンプでも仕込んでいろと言いたいが、まだ危険性の実感が薄いのだろう。仕方がない。

 マミちゃんも初期装備は布の服だが、変身することにより非常に高い防御性を持った魔法少女服になる。武器はマスケット銃とリボンだ。

 対して僕は、初期装備の服に、初期装備のズボン。そして───

 

「ん?エツ、どうしたんだい?」

 

 ───こいつがいる。用途はおそらく投擲用。投げれば囮くらいには使えるし、残機は無限だ。弾切れの心配はない。その上に、こいつが自分の死体を食っているところを見ると、マミちゃんたちに不信感を与えることもできるだろう。

 こいつは、自分たちとは違う生き物なのだと、見せつけることができる。

 欠点といえば、何故キュゥべえが生き返るかを知っていたかを問い詰められるとやばいということだ。必死だった、と答えれば誤魔化せないこともないが、それでも怪しさは払拭することはできないだろう。

 まったく、難しいね。

 

「いいや、戦いの間、キュゥべえはどうするのかと思ってね。コンパクトにマミちゃんの携帯にでも入ることができるのかい?」

「さすがにボクも携帯に入ることはできないね。まどかたちがいつでも契約できるように、彼女たちの近くにいるよ」

 

 まどかちゃんに抱かれながら、キュゥべえが言う。お前の『近くに』とは、零距離のことなのかそうなのか。

 

「しっかし、エツさんも魔女退治に付いてくるとは、意外でしたなぁ~」

「僕だって、人並みの好奇心くらいはあるからね」

「ふぅ~ん……それだけじゃないようにも見えますがねえ……」

 

 おどけて言うのではなく、純粋に疑問に思ったから言うという風に言うさやかちゃん。エスパーの才能があるのかもしれない。鞄の中に入ったり、虫が苦手だったりするのだろうか。

 だが、次の瞬間には興味を無くしたように、まどかちゃんへと絡む。

 

「そういえばまどかは何か持ってきた?ほれほれ、恥ずかしがってないでおねーさんに見せてごらんなさい」

「え?えっと、私はこれを……」

 

 まどかちゃんはノートを取り出して、ページを捲ってからテーブルの上に乗せる。そこには、アニメで見た魔法少女衣装そのままのデフォルメされたまどかちゃんが描かれていた。その絵の足下には、これまたデフォルメされたキュゥべえも描かれている。左のページにあるのは……マミちゃんとほむらちゃんだろうか。それほどよく見ていないというのに、よくもここまで描けるものだ。

 ところで、魔法少女の衣装って自分でデザインするものなのだろうか。それとも、あらかじめイメージがあればその服装になるのだろうか。

 

「うわ~……」

「と、とりあえず、衣装だけでも考えておこうかと思って」

 

 その言葉に、マミちゃんとさやかちゃんが笑う。さやかちゃんよ、笑うのはいいが、せめてバットを置いてからにした方がいいぞ。

 

「えっ、ええっ……」

 

 まどかちゃんが笑われたことに狼狽して、落ち込む。キュゥべえ、尻尾を振るな。うっおとしいぜ。

 笑いすぎで目に涙を溜めたマミちゃんが、手の甲で目を拭いながら言う。

 

「うん、意気込みとしては十分ね」

「こりゃ参った、あんたには負けるわ、あははっ!あははふふっ!」

「これこれさやかちゃん、そんなに笑ったらまどかちゃんが可愛そうじゃないか。笑うんなら、転げた箸でも見て笑ってなさい」

「え?何で箸?」

「急に素に戻るなよ……っと。ちょっとトイレ行ってくる」

 

 そう言って、トイレの個室に籠もって、携帯を取り出す。昨日登録したばかりの番号にかけて、何コールか待つ。

 

『もしもし、何か用?』

「あ、ほむらちゃん?きみのことだから今頃まどかちゃんのストーキングでもして自らの犯罪性をアップさせてる頃だと思うけど『切るわよ』ヘイ、ウェイトウェイト、落ち着こうぜ。重要な話だから、うん」

『……それで、何かしら?重要な話って』

「まあ聞いてくれ。とりあえずきみの目下の目標は、ワルプルギスの夜の撃破でいいよね?」

『……何故知っているかなんて言っても、どうせ答えてくれないんでしょうね』

「賢明だね。無駄なことは極力省いた方がいい。……と、話を戻そう。ワルプルギスの夜と戦うに当たって、きみの単独撃破は、不可能だ」

『……随分と自信を持って断言するのね』

 

 冷たく冷静なように聞こえるが、よく聞くと微妙に声が震えている。怒っているのかな?

 

「事実だからね。そこで、ワルプルギス戦で戦力になってくれる、マミちゃんが死んだらまずいことにならないかな?」

『何が言いたいの』

「このままだと死ぬってことさ。どうせきみも魔女を退治し終えた後にでも登場する気なんだろう?今日は大人しく帰ってくれないかな」

『……どうして』

「きみが来ると、マミちゃんの死亡フラグが進行するんだよ。それに、キュゥべえ殺してたとかで、マミちゃんに既に悪印象持たれているんだろう?それなら今登場するのは悪手だよ。どうやっても、仲違いにしかならない」

『…………』

 

 返事が返ってこない。物言わぬ屍になるのはまだ早すぎる。

 

『……わかったわ。その代わり、まどかに少しでも危害が及んだら、殺すわ』

「ひっでえ」

 

 そんなんだからクレイジーサイコレズなんて言われるんだよ。

 

『……何か失礼なことを言われた気がするわ』

「お前もかブルータス」

 

 魔法少女の条件に、エスパー技能も必須なのかもしれなかった。

 

 

 

 

 

 

「これが昨日の魔女が残していった魔力の痕跡。基本的に、魔女捜しは足頼みよ。こうしてソウルジェムが捉える魔女の気配を辿って行くわけ」

 

 マミちゃんが黄色く点滅するソウルジェムを掌に乗せて、その反応を僕らに見せながら歩く。

 

「意外と地味ですね」

 

 さやかちゃんのそんな言葉を聞きながら、歩いていく。

 歩いていく。

 歩く。

 あ。

 

 

 

「…………光、全然変わらないですね」

 

 橋の上で、さやかちゃんが言った。あたりは夕焼けで真っ赤に染まり、向こうに見えるビル群も、影で黒くなっている。

 

「取り逃がしてから、一晩経っちゃったものね。足跡も薄くなってるわ」

「あのとき、すぐ追いかけていたら……」

 

 まどかちゃんが申し訳なさそうに言う。生きる上では無駄にしかならないほど優しい彼女のことだ。きっと、責任を感じているのだろう。

 

「仕留められたかもしれないわね」

 

 まどかちゃんとさやかちゃんの顔色が変わる。責められているとでも思っているのだろうか。

 

「けど、あなたたちを放っておいてまで優先することじゃなかったわ」

「きみたちはあくまでキュゥべえのせいで巻き込まれただけなんだろう?それならどんと胸張って、被害者面してればいいんだよ。きみたちは一般人なんだから。それにきみたちを放っておいたせいで使い魔に食べられた、なんてなったらマミちゃんのトラウマにもなりかねないからね。何事も、深刻に考えるのは損だよ」

「ボクのせいでとは、些か含みがありそうな物言いだね」

 

 キュゥべえがまどかちゃんの腕の中で、嫌な顔一つせずに反論してくる。

 

「おや?違うのかい?話によると、マミちゃんじゃなくて真っ先に一般人のまどかちゃんに連絡したそうじゃないか。ご丁寧に、どこで調べたのか名指しでね」

「そのときは、素養が高そうなまどかの調査をしていて、近くにマミがいるなんて思ってもなかったからね。それならば既に近くにいると知っているまどかに助けを求めた方が効率的だろう?」

 

 僕がキュゥべえに牽制をしていると、僕らが険悪な雰囲気にあることに驚いたのか、呆然としていたマミちゃんがはっと意識を現実に戻した。

 

「キュ、キュゥべえ!駄目じゃない、魔法少女でもない子に助けを求めるようなことをしたら!」

「どうしてだい?遅かれ早かれ、ボクは彼女を魔法少女に勧誘するつもりでいたし、それに、あのときはああするしかないじゃないか。マミは、ボクが死んでもよかったと言うのかい?」

「そうじゃないけど……いい?これからは何かあったらすぐに私を呼ぶようにするのよ?」

「わかったよ、マミ」

 

 表面上は素直に納得したように見せかけるキュゥべえ。まどかちゃんの腕から肩に乗り移り、軽く目を閉じて聞き分けのいいマスコットをアピールする。

 

「……しっかし、エツさんとキュゥべえって、仲悪かったのかー。やっぱり、キャラ被りが原因?」

「カラーリングだけでキャラが被ったと言うのなら、黒髪の子は全員同じキャラかよ……。別に、仲が悪いってわけじゃないんだ。ただ、仲が良くもないだけで」

「な……仲良くしなきゃ駄目……ですよ?」

 

 博愛精神に溢れすぎて溺れそうな勢いのまどかちゃんが、端切れ悪く話しかけてきた。誰かが何かを嫌うという行為が、とても健全であることを理解できていないのだろう。僕よりも理想を夢見てるかもしれない。

 と言うより、現実が見えていないだけか。

 

「まどかちゃん」

「は、はい!」

「『一年生になったら』っていう歌を知ってるかい?」

「あ、知ってます。昔歌ったことありますから」

 

 それならば、知っているだろう。あの歌の残酷さを。

 

「友達百人作ったら、自分と合わせて合計何人か。わかるよね」

「百一人ですね」

「……エツさん、謎かけでもしてるんですか?まどかはそういうの苦手そうですから、あたしの方が……」

「いや、そうじゃないんだよ。……富士山の上でおにぎりを食べるのは百人だ。さて、みんなの合計は何人だったかな、とね」

「あ……!」

「うわっ、一人余るじゃん!」

 

 まどかちゃんが目を見開いて口を押さえ、大げさにさやかちゃんが驚く。ちなみにマミちゃんは一人遠い目をして自嘲めいた笑みを口元に浮かべていた。

 

「みんながみんな、仲良くすることなんてできないのさ」

「あ、なるほど。あたしも転校生みたいなやつとは仲良くできないからなー。ああもう、何なのよあいつ。本っ当にむかつくなぁ!」

 

 コツ、コツと僕たちの歩く足音が響き、茜色の空に消えていく。既に街頭は灯りを灯していて先ほどまで黒く見えていたビル群が薄くなっている。

 

「……ねえマミさん。魔女のいる場所……せめて、目星くらいはつけられないの?」

「魔女の呪いの影響で多いのは、交通事故や傷害事件よね。だから大きな道路や喧嘩が起きそうな歓楽街は、優先的にチェックしないと……あとは、自殺に向いてそうな人気のない場所。……それから、病院とかに取り憑かれると最悪よ。ただでさえ弱っている人たちから、生命力が吸い上げられるから、目も当てられないことになる……」

 

 と、その時、マミちゃんのソウルジェムが一段と強く点滅した。マミちゃんが立ち止まり、ワンテンポ遅れて、前を歩いていた二人も立ち止まって振り返る。

 

「かなり強い魔力の波動だわ……」

 

 図ったようなタイミングで怪しい風が吹き、不気味さを増長させると共に、僕の全能力を一段階上げた気がする。それでも、大して能力値は変わらないような気がするんだけど。

 

「……近いかも」

 

 

 

「間違いない、ここよ」

 

 急ぐマミちゃんに駆け足でついて行くと、廃ビルに行き着いた。彼女の手の中のソウルジェムが強く光って唸る。轟いたり叫んだりする機能もついているのだろうか。

 全員がソウルジェムを見ている中で、さやかちゃんが何かに気付き、上を指さす。

 

「はっ、マミさん、あれ!」

 

 見上げると、太陽光が反射して眩しい廃ビルの屋上から、落ちてくる人影があった。どう見ても、人であり、間違いなく飛び降り自殺の真っ最中である。まどかちゃんが身を縮ませて、悲鳴を上げる。

 マミちゃんが前に飛び出して、跳躍しながら光のようなリボンに包まれて変身した。そして、落ちてくる女性の着地点で身を屈めて待ち構え、キャッチするかと思いきや、地獄からの使者やキノコ狩りの男が使いそうなリボンを女性に絡めて、ゆっくりと地面に降ろす。いや、キャッチしろよ。

 地面に降ろされた女性をマミちゃんが観察するように見て、少し遅れてさやかちゃんとまどかちゃんが駆け寄り、僕も後ろから女性を眺める。

 

「魔女の口づけ……やっぱりね」

「こ、この人は……」

「死んじゃあいないだろうよ。ちゃんと胸は上下してるし、指先も動いてる。これで、精神が戻る可能性があるほど現実が甘いのなら完璧だ」

「大丈夫、魔女を倒せば精神も元に戻るわ」

 

 女性をしばらく見ていたマミちゃんが立ち上がった。

 

「行くわよ」

 

 廃ビルの中に入って、マミちゃんが注意深くあたりを見回すと、髪留めのソウルジェムが輝き、空間を歪ませるようにして、綿毛に蝶が生えたかのようなマークが目の前の階段に現れた。

 

「今日こそ逃がさないわよ」

 

 言うなり、マミちゃんはいきなりさやかちゃんの持っているバットを手に取ると、黄色いゲル状になって、やたらとファンシーで装飾過多なバットに生まれ変わった。今回の匠はマミちゃんです。

 

「う、うわあー」

「すごーい」

 

 確かに凄いですね。でもそれ、元に戻せる保証はあるのでしょうか。変わったものが、二度と元の姿に戻れないことだってあるんですよ?

 例えば、魔法少女とか。

 

「気休めだけど……これで身を守る程度の役には立つわ。……絶対に私の側を離れないでね」

 

 階段を上がりながら、振り返ってマミちゃんが言う。その瞳は、このファンシーバットは自分がデザインしたものだ、と言わずして物語っていた。目は口ほどに残念なことを言うこともあるらしい。

 

「「はい!」」

「うーい」

 

 そうして、僕らは魔女の結界へと進入していった。

 さて、薔薇と鱗粉に塗れた蛞蝓には、かませ犬になってもらいましょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ひょっとすると、ゲルトルートの胴体は芋虫かもしれない。
でもあれは蛞蝓に見える。


-ひゅーっ!
-筋肉が鋼みてえ
-それはまぎれもなくヤツさ
その鬱フラグをぶち殺す宇宙海賊。こいつがこの世界に来たらどうなるんだろう。

-キレる十代
マスコミでよく取り上げられる言葉。
人間、キレる時は十代じゃなくてもキレる。

-ジャンプ
よく凶刃を受け止める役目を負う。同職に、サンデーやマガジンなどもいる。

-残機が無限
ゴール近くで亀を踏み続けるとできる。

-コンパクトに携帯に入る
格闘的な変身ヒロインたちの中ではよくあること。

-鞄の中に入る
伊藤。

-虫が苦手
悪い奴にはかすり傷さえ負わせられなかったりもする。

-うっおとしいぜ
もしかして:鬱陶しいぜ

-転げた箸
箸が転げても笑う年頃。関西人ならきっと「こいつ……生きてるぞ!」と言ってくれるはず。

-お前もかブルータス
実は二人いる。愛人の息子と、カエサルの腹心。
両方暗殺に荷担したため、この言葉がどちらを指すかは諸説別れる。ややこしいや。

-現実が見えてない
地に足が着いてないとも言う。ふわふわふわ。

-一年生になったら
この作品レベルの友達が百人もできたら、怖い。

-光って唸る
-轟き叫ぶ
シャイニングフィンガー。真っ赤に燃えるのはゴットフィンガー。

-魔女の口づけ
そもそも口があるのかどうか。

-今回の匠
劇的な変化をもたらしてくれる人のこと。誰かの名前ではない。

-かませ犬
よくヤムチャが例として挙げられるが、彼は相手がネームドでなければほぼ勝てるキャラ。決して弱くはない。なお、どちらにせよかませ犬なのは変わらない模様。
きえろぶっとばされんうちにな。

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