雲海に覆われた世界、アルスト。
世界の中心にそびえ立つ世界樹。
その上にある豊穣の大地『楽園』。
人々はそこで、創造主でもある神と共に暮らしていた。
しかし、何時の日か人々はそこを追われてしまう。
雲海に放たれ死に瀕した人々を哀れんだのか、神は自らの僕である
人々は巨神獣に住み、国を作り、発展を遂げてきた。
しかし、月日は流れ巨神獣は寿命を迎え死に絶えようとしている。
人々は争う事を選んだ。
残り少ない
もしも神がいて、世界樹の上に楽園があるのなら、
もう血を流さずに済むのだろうか............
小鳥の囀りに耳を傾け、ソラは本を閉じた。
『グーラ戦役伝』
スペルビア帝国によるグーラ侵略を纏め、脚色した物語だ。
続きを読まずともその先はスペルビアの武勇伝が綴られていることは容易に想像が出来た。
戦争は勝者が全て。グーラ人であるソラがこれを読むには堪えるモノがあるだろう。
ソラはベッドから部屋を見渡す。
この本以外は既に何回も読み込んだ事のある本ばかりだ。
それもそのはず、生まれつき体の弱いソラは窓際のベッドから外を眺めつつの読書が唯一の趣味だからだ。
「傭兵団から新しい本を貸してもらったけど、やっぱり軍記物ばっかりだな」
ソラはそうぼやき本を机に戻す。
暇を持て余し、ふと窓の外に目線を移す。
「鬼ごっこだ!」「わたしおにー!」「きゃー!にげろー!」
外では子供達が無邪気に遊んでいる。
幼い頃は外の子供達を羨むこともあったが子供達を眺めることももう日常とかしている。
「おい!どけ、ガキ共!」
そんな子供達に大柄な男が怒鳴りつける。
彼はグーラ人特有の耳や尻尾がない。
そう、スペルビア人だ。
「俺はたちは今からドライバー勧誘を行う。ガキは帰れ!」
無骨な甲冑を身にまとった兵士に怒鳴られ子供達が散り散りに逃げていく。
「ホント、つくづくムカつくぜスペルビア兵の野郎」
ソラが振り返ると、部屋の入り口に1人の男が立っていた。
「ルーク!来てくれたのか!」
ルークと呼ばれた男は少しはにかんだ。
「そろそろ食料尽きんだろ。それにたまには顔を出してやれって団長がな」
そう言ってルークは食料の入ったかごを置いた。
傭兵団。もともと裕福だったソラは両親が幼い頃事故で亡くしてからその遺産で傭兵団から生活の支援を受けている。
「まったく、あの団長さんもお人好しがすぎるよ」
本来、傭兵団とは腕っ節集団であり長期間の1人の生活の援助なんてものはあまり請け負わない。
しかしインヴィディアのとある傭兵団はその依頼を破格で請け負ってくれたのだ。
「ああ。...ホント、あの人は...凄いよ」
ルークもそう言って天を仰ぐ。
しかしその途中スペルビア兵のドライバー勧誘が目に入り思わず顔をしかめる。
「......大丈夫?」
ソラの心配そうな呼びかけにルークは笑って返す。
「大丈夫だって。そんな...昔のこと」
ルークは昔グーラにやって来たスペルビア人だ。
グーラは移民に厳しいという訳ではない。
しかし彼の時は時期が悪かった。
丁度グーラとスペルビアの関係が悪くなりつつある時に来てしまった。
ルークはグーラの人々から冷たい視線に晒された。
同年代の子供も誰も彼に関わろうとはしなかった。
そんな中、彼に対等に接したのはソラだった。
何度も自分の家に招き、互いのことを話しているうちに徐々に打ち解けていった。
家の中しか知らないソラにとってルークの話はどれも新鮮なものだった。
そして2人は親友となり多くの時間を過ごした。
------戦争が彼らを引き裂くまで。
戦争により両親を失ったルークは法王庁アーケディアに保護された。
その後2人が再会したのは傭兵団としてルークがソラの家にやって来た時だ。
昔の思い出に浸っていた所、ルークが思い出したかのように声を上げた
「わりぃ俺この後まだ仕事あるんだったわ。じゃあな、また飯くわしてもらいに来るから!」
「食べさせてくれんじゃないのかよ。
まあ良いよ、団長さんによろしくね」
そう笑いながらソラは見送った。
1人になったソラは再び外を見つめていた。
なんてことは無いドライバー勧誘。
人間は"コアクリスタル"という蒼色の結晶に触れる事で"ブレイド"と呼ばれる亜種生命体と同調し、"ドライバー"となる。
ドライバーとブレイドは一心同体。
彼らは共に戦い、共に生き、共に死ぬ。
ブレイドはドライバーが死ぬとコアに戻る。
そしてまた新たなブレイドとして生きる。
以前の記憶を失って。
今日もトリゴの広場で、ある者は同調し、ある者は同調出来ずに倒れていく。
何の変哲も無い何時もの風景だ。
(そういえば昔あいつもあそこで同調しようとしてたっけ)
そう言って遠くを見ていたソラを1つの物音が呼び戻す。
「?......これは!」
窓枠には小鳥...と呼ぶには少し大きい1羽の鳥が、
そしてその傍らには蒼く光る結晶----コアクリスタルがあった。
「お前!あんな大切な物を紛失したとは、どういうことだ!」
先程の広場から軍人の怒鳴り声が聞こえてくる。
「まさか....お前が?」
眼前の鳥はソラを一瞥するとそのまま何処かへ飛び去った。
太陽の光で輝く、コアクリスタルを残して。
外を見ると今日はもう終わりなのかスペルビア軍が早々に撤収を始めていた。
渡すことも出来た筈だが、ソラはただその様子を呆然と眺めていた。
「ボクに、出来るのか?ボクに...その権利はあるのか?」
幼い頃ソラはドライバーに憧れていた。
当然だろう。ブレイドと一心同体になり、人間を越えた力で戦う姿はアルストに住む者ならば1度は憧れるはずだ。
ソラは体が弱かったために遠くから彼らの姿を見ることしか出来なかった。
そんなソラを外の世界へ連れ出してくれたのはルークだった。
ルークの両親は敏腕のドライバーだった。
彼はソラを家から連れ出し会わせたのだ。
今まで家と窓から見える景色が全ての世界だったソラにとってその体験はかつてない衝撃で忘れられないものだった。
だが全てが上手くは行かなかった。
長時間外を歩き回ったことに体が耐え切れず、ソラは倒れてしまった。
幸い翌日には回復したので大事には至らなかった。
だがルークは自分が引き起こしたことだと責任を感じるようになってしまった。
その日以来、ソラに対して暗い顔を見せるようになったルーク。
それに耐えきれなくなったソラは、ある時こう言った。
「そんなに心配なら、ドライバーになってボクのことを守ってよ」
その言葉は最後の1押しだったのかもしれない。
ルークはコアクリスタルを持ってソラの家の窓からよく見える広場にやって来た。
「お前のことは、ドライバーである俺が守る!」
そう言ってルークは同調を始めた。
----だが、現実は非情だった。
両親に優れた才能があっても、子にその才能が受け継がれるとは限らない。
そう、ルークにドライバー適性は無かった。
その現場はまさに悲惨、そのものだった。
まだ幼かったこともあるだろうか、
ルークは全身から出血し、昏睡状態になってしまった。
幸い一命を取り留めたものの、それを間近で見ていたソラに大きな傷跡を残すことになった。
互いが互いに負い目を感じている。
そんな歪な状況は、戦争で2人が引き裂かれるまで続いた。
ソラは全身の不快感で目を覚ました。
全身が汗でびっしょりと濡れている。どうやら悪い夢を見ていたようだ。
軽く体を洗い、朝食を済ませ部屋に戻る。
目に飛び込んでくる蒼い輝き。
これは夢では無かった。コアクリスタルはまだそこにある。
あの日の恐怖が蘇る。
体の弱い自分なら、その同調を試みた瞬間に死んでしまうかもしれない。
それでもあの憧れが消えた訳ではない。
あの時のルークの両親の姿ははっきりと今も目に焼き付いている。
それにブレイドから力を貰えれば、自分1人で生活出来るくらいにはなれるかもしれない。
(そうすれば、ルークに迷惑をかけることも...)
この体じゃいつまで生きていられるか分からない。
ならば、覚悟を決めてしまえ。
(.........頼む)
集中する。エーテルの流れを感じ取り、コアクリスタルと自分のエーテルが流れるように意識する。
「......っ!」
鼓動が早くなる。
全身の血液が熱くなり、高速で体内を巡る。
コアクリスタルからエーテルが体内に流れ込む。
高温の金属が体に入ってくる様な感覚。
体中が痛み熱くなる。
心臓、肺、血管が悲鳴を上げる。意識が朦朧とする視界が暗くなる。
完全に意識が途絶える...直前にコアクリスタルと体内のエーテルが繋がる。
体中を調和したエーテルが巡る。徐々に体の感覚が戻ってくる。
視界が戻り感覚が回復した時には、コアクリスタルは少し小さい両手剣へと姿を変えていた。
そして、
「初めまして、私はシオリ。あなたに尽くす事が私の幸せ。よろしくおねがいしますね」
「ブレ......イド」
目の前には長い黒髪を後ろで纏めポニーテールにし、透き通った翡翠色の瞳に、白いウェディングワンピースに身を包んだ女性...ブレイドが佇んでいた。同調は成功したのだ。
呆気に取られていたソラだが、差し出された手を見て我にかえった。
「ぼ、ボクはソラ。よろしく、シオリ。」
----こうして、ソラとシオリの新たな生活が幕を開けた。
グーラの裏路地、1人の男が何かを待つように佇んでいた。
そこに小鳥と呼ぶには少し大きい1羽の鳥がやって来た。
「まさか......同調するとはな」
その男はそう呟くと、踵を返し人混みへと紛れた。