ステージ袖。
会場に流れている3拍子の音楽に合わせ、オーディエンスのボルテージが上がっていくのを感じる。
「あー、あー、んんっ...あー...うん、よし」
「碧、平気?水飲む?」
「や...あー、うん、一応飲んどくか」
ストロー付きのペットボトルを受け取り、仮面の下から潜り込ませて口の半分ぐらいを液体で埋める。
「あんまり歌う前に咳払いするのよくないっていうんだけどね、ついやっちゃうよね」
「ん?んー、わかる」
初華...ドロリスがそういうのを、飲み干しながら答える。
現役の歌手でもついやっちゃうことを素人がやらないわけはない。
「さぁ、そろそろ出番ですわ。ルクシスは最後、いいですね?」
「OK。完璧に演り切ってやらぁ」
「では、行きましょう」
俺を除くメンバーの5人が、ステージへ出る。
少しすれば俺も出番だ。心構えをしなければ。
『...皆、揃っていますわね』
聖域:パラディーススにて、忘却神オブリビオニスが、自身の眼下に跪く騎士たちを一瞥する。
『アモーリス』『ここに』
『ティモリス』『ここに』
『モーティス』『...ここに』
『ドロリス』『はい、ここに』
騎士たちの確認を終えると、ドロリスが不意に『...足りない』と呟く。
『ドロリス、どうした?』
『もう一人、いるはずなんだ。ここをずっと守護っていた誰かが、いたはず』
ティモリスが、アモーリスとモーティスに『どうだ?』と聞くが、2人とも首を横に振った。
記憶にあるのは自分だけなのかと、呪詛のように『いたはずなんだ』と繰り返すドロリス。
瞬間、顔を勢いよく上げた。
『オブリビオニス様!!』
『何か?』
『あなたは、「ルイナス」という騎士のことを覚えていらっしゃいますか!?』
『いいえ。あるいは、そんな騎士は
『そん、な』
ドロリスは頭を抱えた。
しかしふと、思い出したことがある。
ルイナスの言葉、「お前は忘却に耐性があるのかもしれない」と言ったこと。
『ボクだけしか、覚えていない...?』
『――そう、オ前だけが、覚えてイてくれた』
ドロリスの呟きに呼応するように、パラディーススに部外者がやってきた。
『あんた何者?』
『楽園を汚す者は、排除する...』
アモーリス、モーティスが剣を向けるが、部外者は動じない。
それどころか、腰に吊ってある剣と思しき物すら、抜く素振りも見せない。
『血気盛んダなぁ。剣は仕舞っテくれ』
『...お前は?』
ティモリスの問いに、部外者は騎士礼で応えた。
『俺はルイナス。君が覚えてイてくれて、俺は存在デきた。ありがとウ、ドロリス』
『...違う』
ルイナスが差し出した手を、ドロリスは払った。
『違う。そんな人じゃない...君は、そうじゃなかった...!』
『...殻が壊れているのね』
オブリビオニスが呟くと、ルイナスはわざとらしく大ぶりな、カーテシーとレヴェランス*1を混ぜたような動きで礼をする。
『やァ、忘却神!お久しゅうごザいます』
『いいえ、あなたなど知りません。
そう聞けば、ルイナスの仮面が音もなく落ちた。
『...や、忘却神オブリビオニス。俺はルクシス。この閉塞した楽園に、光をもたらす人形さ』
なんだかんだで累計100話ですって、ありがとうございます。
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