迷う心の在り処   作:ユイトアクエリア

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希死念慮


68:funesta cogitationes

翌朝、自宅。時刻は10時。

どうやって帰ってきたかは覚えてないが、とりあえず初華と睦の甘めの拘束から抜け出したことまでは覚えている。

自室のベッドの上で意識のみ覚醒させたまま、体の力を抜く。

漠然と、何もしたくないと、そう思った。

これが燃え尽き症候群と言うやつか、そんなことを考えながら枕元のスマホを手探りで掴み、なんとなく弄る。

 

「...『ルクシス』...検索、0件」

 

少しだけ、悔しいと思ったのは内緒だ。

俺はムジカのステージを支えるためだけに存在している。

自惚れかもしれないが、今俺が抜けるとムジカのパフォーマンスは著しく落ちる、と思う。

だから別に、俺への話題がないのはおかしいことじゃない。

だから、別に。

 

「...悔しいよ。俺だって」

 

有名になりたかったわけじゃない。

目立ちたかったわけじゃない。

そういう欲求がなかったわけじゃないけど。

俺は、そういうもののためにムジカに入ったんじゃない。

 

「...本当に、そうだろうか?」

 

自分に問う。

答えは出ない。

俺しか知らない答えを、俺は知らない。

ならば、出るわけがない。

この問いの答えは、一生考えても出ないのだろう。

俺は俺が分からない。

 

「...はぁ」

 

ダメだ。

こんなことを考えていたら、カッターを持って風呂場でカットしかねない。

飯を食おう。腹が減った。

よし、店...じゃなくて飯を探そう。

そう思ってベッドから這い出た瞬間、スマホが震える。

 

「...睦?」

 

着信相手は睦。

こんな時間に何の用だろう。

 

「もしもし?」

『碧、おはよう。デートしよ』

「...え?」

『聞こえなかった?デートしよ、碧』

 

どうやら聞き間違いではなかったらしい。

 

「...いまから?」

『うん。迎えに行く。待ってて』

「え?あ、もしもし?」

 

電話が切れた。

その直後、インターホンが鳴る。

 

「...マジで?」

 

呟きつつモニターで確認すると、見たことある髪色の女の子。

 

『迎えに来たよ』

「...開けるから入って」

『ありがとう。だいすき』

 

...勘違いじゃないよな、いい加減。

 

玄関を開けると、白のワンピースを纏った睦。

夏に差し掛かるこの季節にはちょうどいいか。

 

「碧、寝起き?寝癖立ってる、可愛い」

「...あんまいじんな」

「ふふ、照れ屋」

「うるせぇ」

 

...俺これ事案にならないかな?

 

「碧、ご飯食べた?」

「昼はまだ。朝もまだ」

「作ってあげる。待ってて」

 

...睦の手料理?

俺は今日死ぬ?

 

「...作れんの?いやその、作ったことあるのかと思って」

「花嫁修業。碧で練習」

「...良いやつが捕まるといいな」

「花婿は碧。若葉あげる」

「いらない、俺にはでかい」

「だったら神崎ちょうだい」

 

語気が強い、どうしたんだこの子。

 

「いつまでも碧が好きに答えをくれないから聞きに来た。答えを出さないのは不誠実」

「いやまぁそうなんだけどさ...」

 

付き合う?こんな顔が良い子と?無理だが?

 

「ご飯できた。食べながら聞く」

「...ありがとう」

 

睦は対面に座りながら皿を滑らせてくる。

出てきたのはベーコンエッグと食パン。ほぼジ〇リ飯だが簡単と言ってはいけないぞ。殺されたくなければな。

 

「いただきます」

 

パンにのせて食べる。まぁ美味しい。

 

「それで、誰が好きなの?」

「...それ食事中にする質問であってる?」

 

危うく吹き出しかけた。

俺が逆流性食道炎になったらどうしてくれる。

 

「碧の好みを知りたい。私は合わせられる」

「...ないよ、好みなんて」

「胸がおっきい子?」

「あのさぁ」

 

飯食ってんだよこっちは。

 

「だって、いつも目で追ってる」

「それは本能的な...待ってバレてんの?」

「女の子はそういう視線に敏感。気を付けること」

「...うっす」

 

気を付けよう、今の時代、何がセクハラ・痴漢になるかわからんしな。

 

「碧はけだものだから、私が抑えないと」

「使命感持ってるとこ悪いけど、理性はある方だぞ」

「...碧のえっち」

「どこが!?んでなにが!?」

 

...付き合うとして、睦は候補からひっそり外すことにしたい。

そもそも候補なんかないけど、なるだけ入れたくない。

 

「...俺と付き合っても、楽しくないよ」

「そんなことない。私は楽しい」

「俺が不機嫌でも傍にいてくれんの?」

「...それは考える。けどサンドバッグにはなれる」

「なるな」

 

一人が楽だから、一人でいたい。

ただそれだけ。

 

「...別に、一人でも困りはしないから」

「じゃあ、お試ししよ?」

「お試し?」

 

食べ終わった俺の左手を睦が握る。

 

「一週間、付き合って。それで合うかどうか。心地良いならそのまま、いやだったら別れる。どう?」

「...メリットは?」

「私が碧と付き合える。碧は一人じゃなくなる。イチャイチャできる。寂しくなったら甘えられる」

「...もし、俺が嫌だって言ったら、きっぱり別れるの」

「...約束、だから」

 

そう言って目を閉じる睦。

まぁ、本人がお試しとして提示するなら、乗っかるのもありか。

 

「いいよ、睦。一週間な」

「...うん。よろしく、碧。まずはちゅーから」

「だったらせめて歯磨きさせてくれないかなぁ!?」

 

...先行きが不安です。




碧の下限値ギリギリ自己肯定感を引き上げよう作戦

率直に言って

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