豊川祥子に救いを。
やりやがった。
いつかやると思ってた。
でも、兆しが見えなかったから警戒を怠っていた。
だからこそ、見逃した。
「おい、どういうつもりだ」
本能的に掴みかかり、低い声で問い詰める。
しかし当の本人は飄々として。
「え?もっと人を集めるための戦略?」
「そんなわけあるかよ!」
「じゃあなに?あおこはずっと隠したままでいいって言うの?」
「然るべきタイミングで外すって言ってただろうが!聞いてなかったのか!?」
「聞いてたけどさ~?そんなのいつなんだって話でさ?というか離してくれない?訴えていい?」
詰めていた首元を緩める。
しかし怒りは収まらない。
「アンタ、人の努力を何だと思ってんだよ」
「努力?するだけいいものだよね」
「それが分かるなら豊川の努力を台無しにしたことぐらいわかるだろ」
「だって顔と知名度で買われたのにさ~?ずっと顔隠したままなのつまんなくない?」
「...つまんない?」
こいつは、人が必死で作り上げたステージを「つまらない」で台無しにしたのか?
たったそれだけの理由で?
「それだけってひどいなぁ、あたしだって」
「...一個人の感情で踏みにじっていい努力なわけねえだろ」
「...え?」
「豊川の努力が!そんな事でないことになっていいわけねえだろ!!」
言われた本人も、周りも呆けている。
そんな事は、今関係ない。
「アンタ言ったよな、「昨日ファンでも今日飽きた」って」
「言ったよ?」
「ならどうして仮面を取った?」
「は?」
本当に一時の感情でしか動いてないのか、こいつは。
「仮面をつけてれば「仮面のバンド」のバリューがあるだろ。それがあるなら曲がある限り数字はついてくる」
「だーかーら!素顔の方が注目度も伸びるでしょって言ってんの!」
「いや違うな。アンタ、仮面を剝いだ理由を「面白いから」だけで片付けた。計画性がないことがモロバレだ。やるならもっとうまくやれよ」
「っ...!でも、sumimiと若葉の娘がいるんだったら...」
「アンタは?」
再び黙る。
「アンタはどうなんだよ。SNSが普及したこの時代、アンタを知らない人はいないだろうよ。でも、
「な、それだけって」
「それだけだよ。証言してたよな。「sumimiと若葉の娘がいるんだったら」って。あんたのネームは、その二人には負けるんだ」
「で、でもあたしがやったから」
「アンタがやらなきゃ!仮面バンドのバリューだけで済んだんだ!!」
俺はもう抑えられなかった。
もう、全部ぶちまけて何を失っても後悔はない。
「素顔を晒した方が流行りは早く廃るんだよ。流行り廃りを研究してるならわかってると思ったんだけどな」
「碧さん、もうそれくらいに...」
「それに、匂わせもしてたらしいな。守秘義務は守れよ。芸能界入りたいならさ」
「っ...もういい」
「逃げんのかよ、くっだらねぇ。てめえのエゴで振り回すなよ」
意識もないやつはいらない。
「ドラムは俺がやる」
「...できるの?」
「できるできないじゃねぇ。やるんだよ」
「でも」
「もちろん練習はするさ。ノー勉で出来るほどできた体はしてないからな」
これ以上壊すわけにはいかない。
この世界観に惚れて、俺はAveMujicaになったんだから。
この軸で続けたら多分救いなんかないので続かないです