迷う心の在り処   作:ユイトアクエリア

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恋人


71:Amator

「練習時間終わったから会議室にいるって」

「ん...気まずいなぁ、遅刻したうえで教室の前のドアから入る気分」

「あはは、ちょっとわかるかも」

 

逃げられないようにという名目で初華に手を繋がれている俺は、事務所の廊下を歩いている。

誰かに見られたりしたら倍気まずいんですけどね。

会議室の前までくると、自然と手を離し、初華がドアをノックする。

程なくして、どうぞと声が帰ってきた。

 

「ただいま、さきちゃん」

「...失礼します」

「初華、碧、おかえりなさい」

 

周りを見渡す。

睦はいない。

 

「...碧、答えは出まして?」

「...あぁ。もう迷わない」

「そう...でしてよ、睦」

「睦!?」

 

驚いて振り返っても、姿はない。

しかし、祥子の方からノイズ混じりの睦の声が聞こえた。

正確には、祥子の手の中にあるスマホから。

 

『ありがとう、祥。今から行くね』

 

電話が切れて、謎の緊張感が襲う。

 

「...やられた。同じ手口やっただけにやられるとムカつく」

「ふふ、詰めが甘いですわね。では、私たちはいったん外しますわ。睦にはここに来るように伝えておきますわね」

「...わかった。ありがとう」

 

 

俺以外が会議室から出てって、大体10分ぐらい。

控えめなノックが3回響いた。

 

「開いてるよ」

 

言い終わると同時にドアが開いた。

 

「お疲れ、睦」

「うん。碧もお疲れ様」

 

特に何の許可もなく、睦は俺の隣の椅子に腰を下ろした。

 

「みんなは?」

「...気遣って帰ったよ」

「そっか。じゃあ、早速」

 

睦は椅子から俺の膝へ移ってきた。

 

「答え、聞かせて」

「...最初にさ、言っとくんだけど。俺は、こういう人間だからさ。多分、これからもいろいろ嫌な思いはすると思う」

「うん」

 

心臓がうるさい。

顔が熱い。

体が震える。

 

「...それでも、良ければ。俺と...」

「いいよ」

「付き...え?」

 

今、なんて?

 

「碧なら、もっと長く言い訳すると思ってたから。思ってたより短くて、思わずOKしちゃった...安心した?」

「いや、まぁ...うん」

「私も、一つ、謝らなきゃいけない」

 

睦は俺の膝から滑るように降りて、片膝をついて頭を伏した。

 

「碧に見せてきたのは、『碧に好きと思ってもらえる』睦ちゃん。私だけど、私じゃない」

「...言っちゃなんだけど、便利だな、それ」

「碧に合わせて、いろんなパターンを考えてた。もう少し大人しめかな、もう少し活発かなって。でも、碧は私との時間をいつもと変わらないって言ってた。気を許してくれてるんだって思った。だから、考えたパターンは全部なくなった」

 

必要に応じて人格を入れ替える、演技の天才、あるいは化け物。

その異常性はよく分かってはいないが、必要に応じて、という部分が、特定の誰かに好かれるように、と読み替えることができるのではと、考える。

 

「だから、碧が今まで付き合ってた睦ちゃんは、私じゃない。ごめん」

「...いいよ、誰でも。睦は睦だろ?」

「...え、でも」

「例外はあるけど、どんなに内面が変わろうと、そこにいるのは若葉睦、それだけだ。睦は今ここにいる。んで...あ~...俺の彼女...になるのかな?」

「照れてる。かわいい」

 

...こういうところはどの人格でも変わらないのかなと思いつつ、うるせぇと言って睦の頭を少し乱暴に撫でる。

 

「私を乱暴にするの、碧だけ。そういう癖?」

「俺のことなんだと思ってんの?」

「かわいい」

「...あ、そう...」

 

 

 

 




コントやってんじゃないんだよ

付き合うか、付き合わないか

  • 付き合う
  • 付き合わない
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