こいつが2人になってTSしたら死ぬまで殴り合うだけなので
とりあえずいじめてみようと思いました。
幼いころから体が弱かった。
それでも、豊川の人間として完璧を求められた。
「お前は長男なのだから」と、同じ日に生まれた妹の判例になるように、そう振舞うように躾けられた。
失敗したら、祖父があの手この手で躾けてくる。両親の見えないところで。
躾、そうやって言えばなんだってしていいと思って言う教育方針には、何も言えなかった。
言っても無駄だと悟ったからだ。
だから黙って受け入れた。どんなに苦しかろうが、辛かろうが。
「...しんど」
腹にでかいあざができているであろう
というよりいい加減、見えないところにあざをつけるのはやめてほしい。
新しく入ったメイドとかがいたら驚かれるだろうに。
とはいえ、そんな事態は起きない。
新しく入るメイドもいなければ、入ってきた瞬間に、文字通り爺さんに抱き込まれるからだ。
よくやるよ、あの体で。
殴られた腹をいたわるように少しゆっくり歩いていると、向こう側から人の気配。
「...っ、祥」
名前を呼べば、少し止まって、またすぐ歩いて行ってしまった。
豊川家にとって、俺は
隅に落ちてる埃程度。払われて消えないだけまだ埃よりカーストは上だといえる。
それでもまだ、父さんと母さんは祥子に負けないぐらいの愛情を注いでくれていたのだ。そう、くれていた。
母さんが病気で急逝し、環境は変わった。
ぐずぐずになった父さんが地面師詐欺に引っ掛かり――今となってはこれも爺さんの指金のように思えるが。
自信を喪失して、今は僻地のアパートで独り暮らしだそうだ。
まぁともかく、環境は180度変わった――俺以外は。
俺は今まで通り過ごせている。
もちろん、実の両親が実質死んだことは堪えたが、逆に言えば
注がれる愛情がぱったり消えるぐらい。
ウォーターサーバーの契約を打ち切って、来月から水飲めないなぁと思うぐらい。
だから、別に耐えられた。
だけど。
「碧、お前に豊川を継いでもらおう」
「...は?」
16になった年、冬期休暇中の俺を呼びつけた爺さんは、そんなことを言い出した。
「頭トチ狂ったのか?」
「私は本気だ」
爺さんは昔から堅物で、運動会や出し物でさえも、あれがどうこれがどうと口出しをし、できていなければ殴り飛ばしていた。
確かにふざける人間ではない。
「馬鹿かジジィ。散々殴られてはいそうですかなんて言うわけねえだろ。とうとうボケ始めたか?」
「お前が継がねば豊川は滅びる」
「じゃあ滅びちまえ、実の孫に殴る蹴るなどの暴行を加えた豊川定治を逮捕してな」
そうやって言えば、爺さんはまた俺を殴り飛ばした。
顔面はナシだろ...鼻血垂れてきた。
「ってぇな」
「継ぐと言え。出なければ祥子に継がせる」
「好きにしろよ。俺はこの家に微塵も恩義を感じてねえし」
「碧!!」
ブチギレる爺さんを後ろに、俺は爺さんの書斎を出た。
バカバカしい。
「はぁ...」
「継がないんですのね」
「誰が継ぐか、こんな家」
ドアの横でずっと立って聞いていたであろう祥子に吐き捨て、俺は家を出た。
特に行く当てもなかったけど、なんとなく外に出たかった。
屋敷を飛び出して15分。
外をぶらついて、適当な公園のベンチに腰かけた。
風が気持ちいい。
憂鬱な気分をやさしく包み込んで流してくれるようだ。
「...碧?」
そよ風に乗って、細い声が聞こえた。
祥子の幼馴染、若葉睦が音もなく横に立っていた。
「...睦か、どうした?」
「元気、なさそうだったから。心配で」
「...問題ないよ。ちょっとジジィと喧嘩しただけ」
「それは、ダメなんじゃ...?」
問題ではあるが、別に関係ない。
あいつ本人から祥子に継がせると言ったのだ。
俺に関係はない。
「そういえばさ。バンドはどうした?」
「...なくなった。祥の、お父さんの件と重なって」
「...気が変わった。仲直りしてくる」
なぜかそうしなきゃいけない気がして、屋敷に走った。
自分でもどうしてかはわからない。
でもきっと、わずかに残る兄としての尊厳がそうさせたのだろうと納得して、乾いた笑いが出た。
もう誰も、あの家の中で俺を家族としては見ないのに。
「おいジジィ!前言撤回だ。俺が継ぐ」
「...何の心変わりだ?」
「別に?ビビりなあんたに任せっぱなしじゃ豊川の先が危ぶまれるなと思っただけだ」
「...そうか」
何か言いたげな祖父の気配を無視して書斎を出ようとする。
「碧」
振り向かない。
「...祥子を頼んだぞ」
「...
書斎を出ると、まるで姉妹のように祥子と睦が抱き着いてくる。
「大丈夫なんですの!?あんな簡単に継ぐとか言って!?」
「私、心配」
「大丈夫大丈夫。何とかするよ。任せろ、お兄ちゃんにな」
笑いかけてみせると、2人はほっと息をついた。
安心したということは、少なくとも今の笑顔が貼り付けた虚像であると理解されなかったということ。
大丈夫。うまくやれるさ。
俺は豊川碧。
だから、ずっと。
祥子も睦も。
とっくのとうに
自分で生み出したキャラクターは何させてもいい法則