迷う心の在り処   作:ユイトアクエリア

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ナンバリングはわざとです


Ⅵ:箱詰めの人形

「悪い、ちょっと我慢してくれ」

「いえ、お気遣いありがとうございます」

 

現在時刻、7:12。

現在地、満員電車内。

どうしてこうなったかと言えば、寝坊である。

俺はともかく、祥子はなぜなんだ。

まぁ、それはここを脱出してからでいいか。

 

「苦しくない?」

「えぇ、おかげさまで」

 

体勢的には俺が祥子を抱きしめる形。

俺は立場的にタレントを守る役回りだし、これでどう言われても文句を言うつもりないが、祥子の方はそうはいかないだろう。

どう考えたって嫌だろ、好きでもない男に抱きしめられるのは。

そんな事を考えていると、「碧」と小さく呼びかけられる。

 

「そんな顔をしないで。守ってくれているのでしょう?」

「まぁ、そうだけどさ」

祥子「なら文句なんて言いませんわ。ありがとう、碧」

 

端から見たら付き合ってるように見えたりするのだろうか。

でも実態はそうじゃない。ただの神とその従者だ。

神様に従者ってのもおかしい話だけど。

というかただの神ってなんだよ。

 

「…お兄様」

「え?」

「あ、その…呼んでみた、だけですわ」

 

確かに直近でオブリビオニスとモーティスの兄、という役でムジカの劇をやったことがあるけど。

 

「どうした?」

「気の所為なら、いいのですが、その」

 

その先は聞こえなかった。

多分言わなかったのだろうけど、理解した。

ちょうどよく駅に止まり、人波に紛れて祥子と俺の位置を入れ替える。

 

「あの、お兄様?」

「じっとしてなよ」

 

後でお叱りは受けるとして、一旦これで下品な手は近づいてこないだろう。

しかしまぁ、よくやるものだ。

 

「その、ありがとうございます」

「頼れよ。一人じゃないんだし」

 

言われるがままの役を作る。

睦を見て真似てみたけど、まだまだ付け焼き刃だな。

 

「碧は、優しいですわね」

「寝言なら寝て言えよ。降りるぞ」

 

終点2つ前の駅で降りる。

改札を出て、一息。

 

「本当に、何から何まで」

「神様だからな」

「…せめてムジカ外では、人間として扱ってくださる?」

「ムジカ外なら俺らは他人なのよ。難しいかな」

 

少し笑ってやれば、祥子も微笑んだ。

 

「いい顔するじゃん。行こうぜ」

「…碧は、よくモテると言われませんか?」

「いや?あいにく色恋沙汰には無縁なもんで」

「…そう、ですの」

 

祥子の歩行スピードが落ちた。

合わせて歩く。

 

「何?惚れた?」

「そういう、わけでは」

「だったらやめときなよ。俺よりいい奴が星の数ほどいる」

「…過小評価しすぎですわ。あれだけの行動を自然にやっておきながら」

「嫌だろ、180の男に壁に押し付けられるの」

 

さっきの電車内でのことだ。

祥子を魔の手から遠ざけるためとはいえ、2発ほど殴られる覚悟で居たのだが。

 

「助かったと言ってるじゃありませんか。これ以上自分を下げるようなら引っ叩きますわよ」

「どうぞ、存分に」

「…はぁ」

 

頬に痛みはこない。やめたようだ。

 

「なんだ、やんないのか」

「そうやすやすと体を差し出すものではありませんわよ」

「あいにくどれもこれもが初物だよ、よかったな」

 

軽口で返したら引っ叩かれた。意外と痛い。

 

「目覚めたわ」

「ならよかったですわ。次はグーですわよ」

「怖っ」

「さて、遅れてしまいますわ。行きましょう」

「はいよ、神様」

 




祥子にお兄様って呼ばれたいよね
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