「碧...」
「碧くん...」
どうして。
「碧さん...」
「あおこ~...」
なんで。
「...どうしたんですの、碧...もっと、こちらへ...」
――なんでこうなった。
――数時間前。
「全国ツアー千秋楽、無事終了しましたわね。お疲れ様でした」
「お疲れ~...」
事務所の会議室でささやかな打ち上げをしている。
「それにしても、平日にライブをしているのには、少し違和感がありますね」
「2、3年前まで学生だったしな」
現在、メンバー全員が成人を超え、プロとして一層忙しくしている。
AveMujicaの人気はそこそこに落ち着いてきたが、今は睦が女優業を兼任し、初華もsumimiの傍ら、ドラマや映画のゲスト出演をしている。
海鈴は音声収録に多く駆り出され、にゃむはバラエティタレントをする中で、たまにテレビのチョイ役などで出演している。
祥子も、人気が落ち着いたからと言って楽になった訳でもない。
定期的に開催するライブ...マスカレードの台本や、新曲の作成を主に担当してる。
「...みんなやつれてんな」
「...碧くんは、なんか元気そう...?」
「俺はみんなと違って仕事ないし」
「嘘だ、あおこテレビで見たよ」
別にそこまで忙しいものじゃなかったし、カウントしてなかっただけ。
「というか、あおこが一番テレビ出てるじゃん!このまえむーこと一緒に映画出てた!!」
「楽しかった」
「...みんなと違って仕事ないから自由にやらせてもらってるだけだよ」
一旦「楽しかった」の理由はスルーする。
「というかさ~、みんな久々に集まってオフじゃん?どっか行って飲まない?」
にゃむがそう言うと、祥子の顔が少し歪む。
「打ち上げって意味でも、どっかみんなで夜飯とかはありかと思うんだけど、どう?」
「私は賛成」
「私もです」
「...祥ちゃん?」
無理もない。
AveMujica結成当時の祥子の気性が荒かった原因は、酒にあると言っても過言ではないから。
「祥子、別にいやならいやでもいいぞ」
「いえ、行きましょう。こういうコミュニケーションが大事だというのは、身に沁みていますから」
「さきこかたーい!でも神様の許可下りたから早速予約しちゃお~!」
「にゃむ、お待ちになって」
早速予約を入れようとするにゃむを、祥子が止める。
「え、なに?」
「...私たちは、有名人ですわ。いくらオフとはいえ、声をかけてくる輩がいないとも限りません」
「...それは、別に。アタシは対応できるし」
「にゃむはそうでも、他は違います。なので、豊川の力を使います」
「...使えるものは何でも使うって、そういうことなのか...?」
そして、今に至る。
「碧くーん...えへへ~...」
「碧...すき、ずっと、一緒」
「...唐揚げ食っていい?」
ムジカメンバー、アルコールに弱いことが判明。
これから先そういう場もあるだろうに、心配だな。
「...初音、睦、離れろ」
「やだ~」
「碧、すき、だいすき」
「...この状況見られたら死ぬのは俺なんだよ」
という心配事も、この場に限っては必要ない。
祥子が予約した豊川傘下の居酒屋で、なおかつ一番奥の個室だから。
そして今、誰も注文をしていないので、この個室の扉を開ける者はいない。
故に、俺はずっとこのまま。
「三角さんズルいです、わたしも」
「むーこどいてよぉ、アタシも~」
「神たる私に譲りなさいですわ~...」
「もうむちゃくちゃだよ」
俺どうしたらいいんだよ。
どう動こうとも俺が社会的に死ぬのは確定してるんですよね、すでに柔らかいのが両腕と背中に当たってるし。
で何か祥子はいつの間にか正面にいるし。
「碧、だいすきですわ」
「やめろ、後で殴られたくない」
「私を娶れば豊川を手中に収められますわよ?」
「...だったら、私も。若葉、自由に動かせる」
「そんな権力もちたくねえから離れてくれ、そろそろ限界だ」
色々と限界だ。
と、いうより。
「お前らさては酔ってねえな?いやなアルコールの匂い全然しねえ」
「ばれてしまっては仕方ありませんわね」
「碧、鋭い。そういうところも好き」
...いや待て。
酔ってなくてあの発言?
唐突に冷や汗がにじみ出る。
「さて碧、覚悟してくださる?」
「...一旦、退避...」
「初音!!出口をブロックですわ!!」
「う、うんっ!」
退路を断たれた。
「海鈴、にゃむ、碧の拘束を」
「はい」
「はーい」
「お前らなんで乗り気なんだよ!?」
「だって神様に逆らうのは良くないじゃん?」
男女の違いがある以上、力にも差がある。
当然俺が本気で抵抗すれば容易に拘束を解除できるのだが、その際のメンバーへの危害は予測できない。
「...はぁ。海鈴、にゃむ、離してくれ」
「嫌です」
「信用しろ、抵抗する気なんかねえよ」
「はい」
「うみこ!?」
故に、俺は無抵抗を選択した。
俺はどうなってもいい。
どうされようが、俺は。
「碧、もっと自分を大事にして」
「そうですわ。もっと自信を持っていいんですのよ」
先の二人に変わり、祥子と睦が俺の腕をホールドする。
「碧、いつもありがとう。感謝していますわ。私、もうあなたなしでは生きていけませんわ」
「碧、大好き。ずっと一緒。ムジカ、やめないでくれて、ありがとう」
「碧くん、私からもありがとう。あの時、背中押してくれて。私も、大好きだから」
「碧さん、信用へのお返しは信用、ということで。私も好きですよ」
「あおこはさ、もっと自分がかっこいいって自覚もちなよ」
...どうやら、俺は結構愛されてるようだ。
「...ありがとう」
こういうのはテンションに任せて書くと楽しい