幸せになれ、マジで
2/14、聖人ヴァレンティノが死んだ日。
イタリアに住んでいたその人は、当時の法令に背きカップルを結婚させ、それを不快に思った皇帝がその人を殺した日である。
...と、重い話をする予定は微塵もなかったのだが、こんな話をするくらいにはバレンタインに対してヘイトがすごいことは理解してくれただろうか。
しかし、俺はバレンタインに対してヘイトがあるだけで、もう一つの記念日には恨みなど全くない。
むしろ、感謝してるまである。
そう、我らAveMujica...俺が我らって言うのも違うが、創設者「豊川祥子」の誕生日である。
MyGO!!!!!との対バン、後の和解、そしていろいろ吹っ切れて砕けた豊川だったら、そろそろ誕生日企画をしてもいいだろうということで、現在は豊川を除いたメンバー4人で企画会議中である。
「豊川って何好き?」
「...知らない」
「私も知らないなぁ...」
「なんでそんな万策尽きたみたいな顔してんだ」
話を振った俺が間違いだったのは少し認めなくもないが、好物がないだけで送るものがないとはならんだろう、普通。
「んー...でも祥子の好きなもの分かんないんだったらさ、渡しても喜ぶかどうかわからなくない?」
「そこだよなぁ...」
「今更なのですが、なぜそこまで碧さんが悩んでいるんですか?」
「え?いや、逆に悩んでないの?」
幼馴染'sが「全然」、リズム隊が「少し」と同時に言うのでさらに頭を抱えた。
「じゃあ決まってないの俺だけかよ...」
この軍団の中に俺がいるのも、すべて豊川が手を引いてくれたからであり、それの恩返しをしたい趣旨が9割。
1割は...色々。
「祥ちゃんに渡すもの、そんなに考えなくてもいい気がするけどなぁ」
「考えなくていいんだったら俺は今頃あんたら集めてうんうん頭振ってねえのよ...」
「いつになく饒舌ですね。お酒でも飲みました?」
「酔ってねえよ、素面だ」
俺未成年だし。
「ちょっと~?なんであたしの方見たんだ~?」
「みてないっすよ、自意識過剰じゃないっすか?」
「なーんか今日のあおこムカつく~」
「いつもとスタンス一緒ですけどね」
年齢不詳のドラマーは置いといて、もらっても邪魔にならないものを考える。
「碧さん、豊川さんの誕生日は何日ですか?」
「2/14。忘れてねえぞ」
「2/14と言えば、世界的なイベントがあるじゃないですか」
「んなもんねえよ。あったとて俺には縁が...それだ!!」
別にバレンタインは女→男のイベントではないだろう。
感謝の意を示すなら、乗っかってチョコレートでも...
「ほんとにそれでいいんか...?」
「あおこ、口調ぶれっぶれなんだけど」
「神崎百面相、売れますよ」
「人が真剣に悩んでるんだから撮って売るな、せめて印税寄越せ」
そんな事を言ってる場合ではないのに。
「碧の気持ちがあれば、祥は喜んでくれる」
「言ったな若葉のお嬢、信じるぞ」
もうテンションがおかしい。
睦がコクっと頷いたので、とりあえずチョコでも作ることにし、その日は解散した。
「祥ちゃん!お誕生日...」
「「「「「おめでとう!!!」」」」」
クラッカーを鳴らす。
音頭を初華に任せたのは、俺たちの豊川に対する呼び方がばらばらだったから。
「今日呼ばれたのは、このために...?」
「...いや、だった?」
「いえ、いいえ...そんな訳、ないでしょう...」
家庭環境のことも聞いたから、これで泣いてるのをバカにはできない。
「とりあえず顔上げろよ、主役がしゃんとしなきゃな」
「分かって、おりますわ...皆様、ありがとうございます」
「企画したのはあちらなので」
海鈴からの無慈悲なキラーパスが飛んでくる。
その流れで正規メンバーに向いていた目線が俺に戻ってくる。
「いや、その...」
「どうして、企画しようと思ったのですか?」
「いやだって...俺を引き込んでくれたのは豊川だし...感謝を伝えるべきかなって」
「本心なら目を合わせてから言ってくれませんこと?」
無理でしょ。
「...とりあえず楽しんでもらっていい?」
「楽しみの強要は良くないですわよ」
「じゃあせめて詰めるのはやめてもらっていい?」
「...分かりましたわ」
なんで俺不憫な目に合ってるんだ?
企画したこと自体がダメだったりしたのか?
「何を不安そうな顔をしてますの?」
「...え?」
「自分の誕生祭が催されて、嬉しくない訳ないじゃないですか」
「...そいつは良かったよ」
...後に渡したチョコに関しては「バレンタインと一緒にされました?」と苦言を呈されたけど、催しは楽しんでくれたみたいで。
心から笑った顔を、久しぶりに見た気がする。
とりあえず25年1月まで飛んでもらっていいですか?