迷う心の在り処   作:ユイトアクエリア

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ある意味じゃこれもIFルート
血統って恐ろしい


Ⅻ:それが血であるのならば

前に聞いた、「豊川の血」の話。

類まれなる才能、圧倒的な美貌、人々を引き寄せ、従える驚異的なカリスマ力。

そんなことが容易くできるから、豊川の血は危ないと、祥子が爺さんから聞いたそうだ。

直系である祥子に、実質的には祥子の叔母に当たる初華...初音。

血が濃かれ薄かれ、その存在感とカリスマは薄れることはない。

しかし、そんな強力な効果には、強力なデメリットがかかる。

すなわち、生命活動時間の極端な減少。

祥子の母親は病で命を落とし、爺さんの奥さんもそうだと聞いた。

豊川の血はそういう意味でも危険だと、祥子は今になって理解したそうだが、先の二人に病気は見つからず、健康だという話だ。

 

「二人とも健康でよかったよ、多忙に多忙重ねて、疲労骨折でもしてたらどうしようかと」

「そんなやわっちくないですわ。初音も問題なかったんですのよね?」

「うん。むしろアイドルとバンドやってるからもうちょっと食べたほうがいいとか言われちゃって」

 

年相応の笑い声が聞こえる中、それに交じって耳鳴りがする。

そのうえ少し視界が歪んでいる。

これはまずいと近くの柱に寄りかかって、ゆっくり息を整える。

こういう時に過呼吸になってはいけない。

()()()()()()()()()()()()()()()()()のだから。

 

「碧くん?大丈夫?」

「あぁ、平気。ちょっとキーンってしただけ」

「無理は禁物ですわよ?わたくしたちより、よっぼど働いてるのはあなたですから」

「大丈夫、今日は8時間寝てきたから」

「そういう問題ではないのですが...」

 

初音と祥子の心配はありがたいが、今はそれどころではない。

視界の歪みは治ったが、代わりにズキズキと軽い頭痛に襲われている。

耳鳴りも続いたままだ。

このままでは、いずれ()()()()()()()なってしまう。

 

「ふーっ...はー...っ」

 

ゆっくり息を吐きだして、ゆっくりと和らげていく。

別に焦る必要なんてない。

ゆっくり慣らしていけば、それでいい。

が、しかし。

 

「は、ぁ...っ」

 

うまく息が吸えない。

うまく吐けない。

歩けない。

立てない。

わからない。

 

「碧!?」

「碧くん!?」

 

聞こえない。

やばい、おちる。

 


 

「検査の結果、入院することが決まりました」

 

いくつもの機械に繋がれ、目を開けない碧の横で、医者はそう言った。

入院すれば治る保証はあるのか、今まで通りの生活に戻れるのか。

そんなことを問いただしたかった。

でも、堪えた。

問いただしたら、激情のまま何もかもをさらけ出しそうだったから、耐えた。

医者の説明を話半分で聞き、医者が出て行ったところで、私はようやく息を吐いた。

 

「祥ちゃん...」

「どうして...どうして碧が、こんな目に合わなければならないんですの...?」

「...わからない。この世界を作った人は、意地悪なんだね」

「誰よりも優しい碧は、誰よりも報われなければならないのに...どうして...!!」

 

病室のドアが開く。

睦、海鈴、にゃむが息を切らしながら入ってきた。

 

「碧は――っ」

 

睦は、ベッドに横たわる碧を見て後退る。

ほかの二人も同様だ。

海鈴はあまり堪えてないように見えるが、心の奥底できっと悲しんでいることだろう。

 

「...あおこ、治るの?」

「...わかりませんわ。軽度なら記憶障害、重度なら植物状態だと、そう、言っておりました」

 

自分でも何を説明したらいいかわからない。

 

「碧さんは帰ってきます、今までだってそうでした。ここで信用してあげないで、どこで...」

 

海鈴の言葉も、いつもよりキレがない。

最悪な未来を、あえて見ないようにしているようで。

 

「帰ってくる。碧はきっと。私の時もダメかもって言ってたのに、ちゃんと帰ってきた。だから、きっと大丈夫」

 

精神的なものと肉体的なものは違う...とは言えなかった。

今はそういう言葉でさえ、救いになりえるから。

藁にも縋る思いとはこのことだろう。もっとも、その藁はもう、千切れに千切れているのだろうが。

 

「...そろそろ、面会時間すぎちゃうね。みんな、今日はいったん帰ろう」

 

初音の声でハッとする。

そうだ、今日で世界が終わるわけでもなければ、死んだと決まったわけでもない。

 

...仮に記憶障害を持ってたとしても、それは紛れもなく大好きな碧なのだから。

 

それに、翌日面会に行ってみれば「よっ、お疲れ」なんて言って元気かもしれないじゃないか。

そんなに悲観するようなことではない。

そう、何も今日、絶望しなくたっていいのだから。

と、この時の私は珍しく楽観していた。

 

でも、知っていたじゃないか。

 

 

――日常の崩壊は、なんも前触れもなく訪れる、と。

 


 

心電図が規則的な音を鳴らしている。

薄暗い部屋で、彼の手をそっと握る。

 

――冷たい。けど、温かい。

 

胸のわずかな上下に合わせて、自分の呼吸を静かに調整する。

 

存在を確かめるように「碧」と呼ぶ。――返事はない。

 

それでも、微かに温かい皮膚とモニターの体温表示が、彼がここに「生きている」ことをそっと証明していた。

 

植物状態からなら回復の可能性はある、ただしいつ、そもそも回復するかどうかはわからない。

そう聞いた。聞いただけ。

何の光にもならない。

 

 

もう、いっそ。

 

「私が、代わりになれたら、良かったのに」

 

そんな呟きにも、彼は答えてくれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

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