sumimiのお渡し会概念描きてぇとか思ってたら長くなっちゃった
我らがフロント、ドロリスこと三角初華はAveMujicaとsumimiを兼任している。
アイドルユニットということで、俗にいう接近イベントが組まれることがある。
握手会やお渡し会などがそれにあたる。
で、なんでそんな話をわざわざしてるのかといえば...
「あはは、ありがとう。これからもsumimiをよろしくね?」
「...時間でーす」
「初華ちゃん!またね!」
「うん、またね」
俺がsumimiイベントの
遡ること約3時間前...。
ルーティンワークのように朝から事務所に行き、スタジオでギターを弾いていた。
12時回ったし昼飯でも食べに行こうかと思っていたところ、着信が入った。
見れば、初華の文字。
「もしもし?」
『あっ、もしもし碧くん?今大丈夫?』
「平気だけど...どうした?忙しいのか?」
電話口の向こうは少しざわついていた。
心なしか、初華の声も若干焦っているように聞こえる。
『今日って暇かな?その、頼みたいことがあって』
「まぁ、暇っちゃ暇だな。で、頼み事って?」
『今日、sumimiでお渡し会があるんだけど、人手が欲しくて...』
「スタッフさん方は?寝坊?」
『...体調、不良』
おいまじかよ。
まぁとはいえ、友人が困っているのに助けない義理はない。
「わかった、すぐ行く。どこ行けばいい?」
『ありがとう!えっと、事務所の202号室に来てほしい!話は通しておくから!』
「わかった、後でな」
そういって電話を切り、軽く汗を拭き、着替えてから件の部屋へ。
3回ノックをすれば、扉が軽く開いて、マネージャーらしき女性が顔を出した。
「初華さんに呼ばれてヘルプ来ました」
「あぁ、神崎君ね。入って」
「失礼します」
部屋に入ると、今日の段取りの確認をしているようだった。
15時から2時間は特典のお渡し会、30分ほどの休憩を挟んで、18時半からはCD追加購入特典のお渡し会、という感じらしい。
その手のイベントには言ったことないが、確認会議にいる人数としては少なく感じる、ざっと10人ほどだろうか。
「...では、そのような形で。よろしくお願いいたします」
「お願いします」
スタッフが散り散りに、それぞれの持ち場へ着いていく。
とりあえず現場監督?には挨拶しておくか。
「こんにちは、神崎と言います。ヘルプで来ました」
「神崎君、よく来てくれた。早速で悪いが、スタッフ用の服装に着替えてくれるかな?」
「わかりました、こっちですか?」
手狭なロッカー部屋でスタッフ用の黒服に着替え、もろもろ荷物を置いておく。
一応貴重品だけは持っとくか。
「着替えました~...」
「早いね、ありがとう。では、神崎君には
「剥がし?」
「sumimiは人気だ、お客さんも当然多く来るだろう。いくら当選者だけとはいえね。時間内に終わらせようと思ったら一人一人にそんな長く話させるわけにいかない。そこで、時間が近づいたら肩を軽く叩くか声をかけるかして、退室を促す、それが仕事だ」
なるほど、いうなれば回転率補助か。
確かに一人5分とかしゃべってたらそりゃ持たないよな。
「わかりました...とはいえ経験がないもので、少しご教授願えますか?」
「わかった。大体一人当たり20秒ほど想定している。16,7秒当たりで軽くポンポンとやってやるのさ。こんな具合でね」
肩に軽く触れる感覚。
「...そんなんでいいんですか?」
「常連さんならわかるし、そうじゃなくても雰囲気で察する。時間でーすとかも添えてやるといい」
「なるほど...」
あまり強く叩く必要もなければ、声を張り上げる必要もない。
納得しながら頭にメモをしていると、少し声を潜めて、「ただね」と切り出した。
「ただ?」
「...見るからにやばそうな人間には注意しておくんだ。今回のイベントはプレゼントやファンレターの類は受け取らないことになっている。そういうのを渡してくる人間は追い返せ」
「...了解しました」
そして、現在。
俺が担当しているのは初華側の列。
しかし担当していて思うのが、ファンの民度が異様に良い。
俺が行動を起こす前にまたね!と言って退出している。
体内に時計があるとしか思えない。
素晴らしい民度だと思う。
まぁ、とはいえ。
「...プレゼントはお持ち帰りくださーい」
こういうやつもいる。
当選画面を見せてもらったが、そういうのはだめだと事前に書いてあるらしい。
ご遠慮願いますって書いてあるからといって、遠慮しながら渡せばいいというものではない。
言葉通りに受け取ればいいというものではないというのがなぜわからない!と脳内で某生きる意志を召喚したところで状況は変わらないのだが。
横目で初華の様子を窺えば、
「いつもありがとう。この前の写真見たよ、すごかったね」
「この前のライブ来てくれたよね?ありがとう」
「初めまして?だよね。これからもよろしくね」
...意外と人覚えてるんだな、てっきり豊川一辺倒なのかと思ってたけど。
それかsumimiとムジカだと入れるスイッチが違うのか?
「...?」
まなさん側の列、異様な気配を感じる。
『まなさん側の方、丸刈りの大男付近警戒お願いします』
インカムで情報共有。
何もなければそれでいいのだ。
何もなければ。
そう思いながら、少しふくよかなおじさまの肩を叩く。
「...時間でーす」
...聞こえなかったか?
少し強く叩く、が反応なし。
気のせいではないだろう、初華に向けて手が伸びている。
...仕方ない。
「キャストへの暴力行為はおやめください」
おじさまの手を握り、ニコッと笑って軽めの威圧。
委縮したのだろう、少し速足で出て行った。
同じタイミングで、警戒していた大男の番が回ってきたようだが、プレゼントをしようとしてたため、追い返したそうだ。
何もなさそうでよかった。
やがて、客がすべて出て行ったのを確認して、追加お渡し会の準備に入る。
どうやら2人で応対するらしく、俺は客の後ろに立つ感じになる。
「引き続き、剝がしをお願いするよ」
「了解です。時間は変わらず?」
「あぁ。特典配布は終了しているが、それでもさっきと同じぐらい来る。頼んだよ」
「はい」
目を光らせるのもまた大変だというわけだ。
「さ、追加配布を始めるぞ」
追加お渡し会は何も起きなかった。
さっきのプレゼント拒否が効いたのか、それとも別の要因があったか。
何事もなかったのは喜んでいいだろう。
「スタッフ一同、お疲れさま。解散!」
「お疲れ様でした!」
まるで軍隊のような挨拶の揃い方だったが、直後のばらけ方は普通に一般人のそれだ。
「神崎君もお疲れさま。今日の分は給与にプラスしておくからね」
「ありがとうございます」
「念のため、スタッフの用の裏口から出るといい。気をつけて帰ること」
「はい。お疲れ様でした」
ロッカールームに入り、大きく伸びを一つ。
「たちっぱなのも来るなぁ~...」
着替えながら腰を軽く叩く。
傍から見たらあまりにもお爺さんすぎるが、人目がないので許してほしい。
スタッフT...というかただの黒Tだが、これは記念にもらっていってということで、喜んで練習着に使わせてもらうとしよう。
「お疲れっした~...」
気の抜けたバイトのような挨拶を投げかけて部屋を出る。
電気の消えた事務所は、夜の学校みたいな不気味さがある。
スタッフ用裏口まで来ると、扉の前に見覚えのある人影が2つ。
「...何してんのお2人さん」
「えっ!?あっ、碧くんか、びっくりした...」
sumimiの二人がドアの前で立ち往生していた。
「...出待ち、されててさ。出るに出れなくて」
「出待ち...あぁ...どっちも狙われてる?」
「うん、たぶん」
「ういちゃん...」
「...何とかしてみるか」
夢を届けるアイドルの道を潰させるわけにはいかない。
「とりあえず変装...はしてるのか、じゃあ...走る?」
「私は大丈夫、でも、まなちゃんが」
「あ、はは...まな、短距離走苦手で...」
「んー...よし」
こういう時は大人に頼ろう。
「どっちか、sumimiのマネージャーに電話出来る?」
「じゃあ、まなが」
「もし出てくれたなら、出待ちされてるから近くの公園に車をよこしてくれって言ってくれ」
「わかりました...」
これで出てくれるなら問題なし、もし出てくれなかったら...
「あっ、もしもし、まなです...あの、出待ち、されてるみたいで、その」
「ごめん、まなさん、代わって」
「え、うん...」
「もしもし、ごめんなさい、Win-Wingの神崎です。お世話になっております。ちょっと困ったことになってるので、よろしければ2人を迎えに来ていただけないかというご相談で...良いですか?ありがとうございます。はい、すみません、失礼しまーす...ごめん、ありがとう」
まなさんに携帯を返して、返しの連絡を待つ。
「にしても諦め悪いな、帰ってくれないかな」
「いつもはいないのに、今日だけ...」
「...プレゼントの件かな。それがメガネのオヤジ」
初華の手を握ろうとしていたオヤジ、多分何かしらをするつもりだったのだろう。
そうは問屋が卸さない、と行きたいが。
「...あ、マネージャーさん。もしもし?」
「...来たか」
「車で行くのはいいけど、バレちゃうよ?」
「いや、車まで走る。だから公園を指定したんだ」
草木に隠れてナンバー判別をしづらくする、まぁうまくいってくれるだろう。
「見つかりにくい所に止めてるから早くって」
「了解した。初華は走れるな?」
「うん。まなちゃんは...」
「俺が背負う。失礼」
「お、お願いします...わっ」
ギターは置いていく。奴はこの戦いには足手まといになるからだ。
どっかの50m3秒の化け物みたくお姫様抱っこできればそれでよかったんだが、俺の腕は人の体重を支え切れない。
決してまなさんが重いわけじゃない。むしろ軽いぐらいだ。背中だからかよりそう感じる。
「首に腕回しておいてください。首絞めても大丈夫ですから」
「それはしないけど...よろしくお願いします!」
「初華、行くぞ...3,2,1...っ!!!」
ドアを蹴破る勢いで飛び出し、ちょっと遠くに控えていた出待ち勢を一瞬で追い抜く。
すぐそばに見える公演の草むら側に飛び込み、ちょうどよく開いたドアに飛び込む...勢いで乗った。
一人ならやったが、人を背負ってはやらない。
「はぁ、はぁ...やっば...」
「振り切れた、かな?」
「何とか、なったんですか...?」
出待ちが追っかけてくる様子はない。
「うまく行ってそうだ。良かった良かった」
「ありがとう、碧くん。来てくれて嬉しかった」
「まなからも言わせて!ありがとあーくん!」
「え、あーくん?」
初めて呼ばれる名だ。
「碧だからあーくん、ダメだった?」
「いや、まなさんがいいならそれで...」
「あーくん固い!呼び捨てでいいよ~」
「...ありがとう、まな」
そんなやり取りを凄い目で見てる初華の視線が痛い。
「碧くんが浮気してる」
「してねぇ。誰とも付き合っとらんわ」
「祥ちゃんのこと幸せにするって言ったのに!」
「言ってねえよ」
この後騒ぎすぎて怒られたのは、言うまでもない。
出待ちの対処にはスタッフが出向くんだろうけど、それはご都合主義ということで
関係ないけどローマ数字が12までしかないのは時計の関係だよね、きっと