「AveMujica...へぇ...」
RiNGでのバイトの休憩中、SNSのトレンドを埋めるその文字列。
「仮面を着けた5人組が織りなす、妖艶なステージ」と、ライブレポートに書いてある。
ジャンルで言うとメタル系というのだろう。
昨日にライブを行ったらしいが、今日のトレンドも埋めている。
よほどすごいステージだったんだろうな、見たかった。
「碧先輩、凛々子さんが呼んでます」
「ん、了解。サンキュー椎名」
「...いえ」
椎名と入れ替わりで休憩室を出て行って、バックヤードにいる凛々子さんの手伝いをする。
俺を呼ぶときは重いものを移動だのなんだのが大体。
「ごめんね碧くん」
「いえ、こういう時にしか活躍できないので」
「そんなことないよ~!ふぅ、これで全部かな」
荷物を運んで運んでを繰り返し、片付いた時には退勤時間になっていた。
「碧くんお疲れ様!立希ちゃんも一緒に上がっちゃっていいよ~!」
「「お疲れさまでした」」
息ピッタリに言い、息ピッタリに頭を下げる。
更衣室で着替え、出てきたタイミングも一緒だった。
「神崎のバイトって、ここだったんだな」
「そっちこそ、新人って椎名だったんだな」
だからといって別に何か変わるわけでもないのだけども。
「じゃ、私こっちだから」
「ん、お疲れ。また明日」
RiNG前で椎名と別れ、帰路に着く。
件のバンド、AveMujicaの楽曲が早くもサブスクで公開されているようなので、イヤホンを着けて聞いてみる。
「かっこよ」
「何が?」
「わっぁい!?」
「あはは、驚き過ぎじゃない?」
肩を叩き、俺を驚かせたのは
sumimiという、今をときめくアイドルグループでギターを担当している、クールな佇まいが受けている子だ。
「キミがこの時間ここにいるの珍しいから声かけちゃったよ」
「...仮にもアイドルだろアンタ」
「友達に話しかけるのにも気使わないといけないんだよね。だから帽子とサングラスなんだけど」
「...それでバレないんだからすげえよな」
ベージュのボブカットだったら帽子被ってても目立ちそうなもんだけどな。
「で、何がかっこいいの?」
「え?これ」
音楽配信アプリの画面を見せる。
「AveMujica...」
「昨日初ライブでトレンド総なめ、仮面を着けたステージだって」
「ふーん...」
「俺も見たかったんだけどね。バイト入っててさ」
「それは残念だったね。私も見て無いなぁ」
「系統違うから当然かぁ、見に行ってそうなもんだけどな」
アイドルユニットだからダークな世界観じゃ売らないのかななんて思いながら、初華と並んで歩く。
横顔イケメンだな、でも喋るとギャップを感じてそれはそれでファンには受けそうだなぁ、なんて。
「...あのさ、もし私がバンド始めたら、応援してくれる?」
「その辺でライブしてくれるなら全通しようかな」
「ちょっと離れるかもしれない、って言ったら?」
「んー...場所言ってくれれば。行ける範囲なら行くよ」
「...ふふ、そっか」
にこやかな笑顔の裏に少しだけ陰りが見えた気がするけど、人の闇に触れるのは好きじゃない。
「バンド始めたら連絡くれよ。ライブの場所と一緒にさ」
「...うん。じゃあ、また明日ね」
「あいよ、また明日」