前回の話との設定の齟齬が生じたことによる修正
「~♪」
帰りがけに聞いただけでこんな耳に残るもんなんだなぁと、口ずさみながら考える。
俺も日常に奇跡起こしてほしいよ。
慈悲くれ神様。
「...何言ってんの?」
「え?あぁ、椎名。おはよう」
「おはよう、で、何言ってんの?」
「え、俺なんか言ってた?」
「いや、慈悲くれだのなんだの」
すごいね、歌詞じゃなくて本心が出てしまっていた。
「いやなんでもない、うん」
「何でもなくはないでしょ...」
本心が漏れたら椎名に引かれた。
どうしてだろうね。
「おはようございます、立希さん、碧さん」
「おはよ、海鈴」
「おはよー」
...バイト先が同じ人間とバイト先で稀に会う人間がクラスメイトなんだから話したっていいだろうに、そんな目を向けられる筋合いはないぞ。
「あぁそうだ。碧さん、今日の放課後暇ですか?」
頭の上に四角くて冷たい感覚。
「暇だよ。なんかある?」
「何か楽器やってますか?」
八幡に置かれたジュースを口に運びながらしばし考える。
「まぁ、経験はあるにはあるけど」
「ポジションは?」
「...ギターとベース?」
「なら良かったです。自主練に付き合ってください」
八幡の実力ならどこでも通じそうだとか思ってるけど、うまい人間には実力の維持方法はあるんだろうな。
「了解。ギター触るの2とか3年ぶりだけど大丈夫そう?」
「問題ないです。ではまた追って連絡します」
八幡は自分の席に戻っていった。
「...海鈴と仲良かったっけ」
「たまにバイト先来るよ。サポート前の小腹満たしとか言って」
「ふーん...」
何か言いたげだったような気もする「ふーん」を残して、椎名も席へ戻っていった。
相変わらず授業の9割は頭に入ってないが、惰性で書き写したノートが未来の俺に希望を送ることだろう。
「よっ...と」
ちょっとカバンが重い。
明日の授業の分以外の教科書だのノートだのをカバンに詰めたらこうなった。
置き勉はすると怒られるからやってないし、何なら予習したいし。
「碧さん、では後ほど。RiNGのロビーで待っています」
「了解、なるべく早く行く」
教室を出て、昇降口を抜けて、自分のチャリを出していつもの1.3倍で走る。
粒子出して赤くなってないけど、気分はそんな感じ。
「ただいまー」
虚空に言葉を投げ、パパっと着替えを済ませてギターケースを持ってまた家を出る。
学校よりRiNGの方が近いため、歩いていくことにする。
八幡より先に着いたらどうしようかなとか思いながら、有線イヤホンをスマホに刺して音楽を聴く。
「やっぱsumimiいいなぁ」
浮足立ったリズムで心も軽くなる。
スキップ気味に道を行けば、すぐそこにRiNGが見えた。
「おや、早いですね」
「なるべく早くと思って。待たせるのも悪いかなってさ」
「大丈夫ですよ。あぁそうだ、もう一人練習に呼んだのですが、大丈夫ですか?」
「まぁ、平気じゃないかな。俺の粗が目立ちそうだけど」
「そこは平気です、きっと。...おや、早いですね」
八幡の目線を追いかけると。
「...三角さん?」
「お待たせ、海鈴ちゃん。...と、神崎くん」
クラスメイトにして今をときめくアイドルユニット『sumimi』のギター、初華がそこに居た。
流石に初華とは呼べないので三角さんと呼んだが、彼女は面食らったみたいな顔をしている。
「俺がいたのは想定外って顔してますよ。帰りましょうか」
俺がそう言うと、慌ててかぶりを振って、「違うよ」と言ってから。
「意外だっただけ。神崎くんは...ギター?」
と聞いた。
「まぁ、一応。自主練に付き合ってくれって言われたから」
「そうなんだ。海鈴ちゃんと仲良かったっけ?」
「俺のバイト先、ここなんですけど、たまに来るから話してるぐらいですよ」
「へぇ~...ところでさ、敬語外してくれないかな?この前は普通にしてくれたのに」
今を生きるアイドルにタメ口は恐れ多いよ。
なんか雰囲気違ったような気もするし。
「呼び方だけは勘弁してね、三角さん」
「分かった。じゃあ私が碧くんって呼ぶね」
パーソナルスペースないんかこのアイドル。
「おや、受付してる間に仲良くなってますね。ちょっと妬けます」
「そういうんじゃ...」
「では行きましょうか。碧さんのギター、楽しみです」
「私も楽しみだな。頑張ろうね」
「...俺生きてっかなぁ」