迷う心の在り処   作:ユイトアクエリア

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5:ブランクとチケットとマスカレード

「あれ...俺こんな下手くそだったっけなぁ...」

 

八幡の自主練に付き合った帰り、右手に残る震えを誤魔化しながら呟く。

 

「碧さんが下手だとは感じませんでしたが。むしろ2年のブランクであれなら上手い方かと」

「初見の曲でもすぐ弾けるんだから、碧くんが下手なんてことはないと思うけどなぁ」

 

バリウマ女性陣に慰められるのはやりきれない気持ちがあるが、まぁいい。

 

「そういえば三角さん。この前のチケット、まだありますか?」

「あるよ。渡す?」

「せっかくなら来ていただきましょう」

 

なんか内緒話してるよ。

やっぱ下手なのはホントなんだよ。

 

「碧くん。来週の土曜日とか、予定ある?」

「土曜日は...ちょいとお持ち...」

 

スケジュールをスマホで確認する。

 

「何も...ないかな」

「良かった。じゃあ、これあげる」

「チケット?」

 

日時と場所だけが書かれたチケット。

何が行われるか全くわからないのが、怖いところ。

 

「怪しいところではないので。行って損はしないと思います」

「まぁそこは疑っちゃないんだけど...分かった、ありがとう」

「じゃあ碧くん、私達こっちだから、また明日!」

「ん、また明日」

 

何かの展示か、何かのイベントか。

彼女らが渡してきたのだから、何かのライブか。

 

「まぁ、行って損はしないだろ」

 

八幡もそう言ってたし。

 

「飯買ってかーえろ」

 


 

「...でかくね?」

 

日付は変わり、土曜日。

チケットに記載された座標までやってきた。

係員にチケットを見せ、中に入ると、一面に「Ave Mujica: masquerade 『Predere Omnia』」と書かれたポスター。

 

「マスカ、レード...?」

 

展示でもイベントでもなく、ライブイベントだというのはなんとなく理解したが、それならばマスカレード、というのがライブの呼称なのだろう。

仮面舞踏会であるなら持ってこいと書かれるはずだし。

 

「まぁ、来て損はないって言ってたしな」

 

ライブはオルスタ形式、チケットに席番がない時点で察してはいた。

ペンライトとか持ってないけど、良いかな。

 

「...始まったな」

 

『ーーようこそ。AveMujicaの世界へ』

 

曲名:AveMujica。

これは前々からサブスクサービスで聞いていた。

生となるとだいぶ変わるな。

 

キーボードが躍動し、ドラムもギターも割と荒れ気味、ベースは弾くことだけに集中しているようで、ギターボーカルもあまり動かない。

仮面を着けているために表情は伺えないが、事務的に演奏しているようにも見える。

 

「...?」

 

ギターボーカルとベースに何か既視感を感じる。

初めて見たライブで、メンバーに既視感なんて感じるわけがないのに。

 

「気のせいか...」

 

考え事をしているうちに演奏が終わっていた。

キーボードが一歩前に出て、軽いお辞儀をする。

 

『新しい楽曲をご用意いたしました。私たちが仮初の命を授かった日の記念、『黒のバースデイ』』

 

音圧で殴られる。

こんな音楽、知らない。

 


 

「ようこそって、そういうことか...」

 

あれは確かに、一種の世界だった。

惹き込まれた人間は、継続的に見に来てしまう。

まるで、別世界に取りこまれてしまったように。

 

「...おーい、大丈夫?」

「...っ!?」

「反応が返ってきましたね。死んでるわけじゃなかったみたいです」

 

それぞれの楽器ケースを持った海鈴と初華。

 

「そんなに呆けて、危ないよ?」

「いや、その...持ってかれかけたって言うか、なんていうか」

「...何か、惹き込まれるものを見たんですね」

「まぁ、そんな感じ。この前の貰ったの、見に行ってさ」

 

そういうと、二人の顔がちょっと強張る。

 

「...俺、まずいこと言った?」

「いえ...私たちの問題ですので、お気になさらず」

「碧くんは気にしないで。じゃあ、また...月曜?」

「月曜、だな。また」

 

足早に去っていく二人を見送るしかできなかった。

 

「...まさかな」

 

バンドとアイドルユニットを兼任してるわけないし、専属なわけがない。

AveMujicaのギタボとベースに似てたけど、きっと気のせいだ。

 

 

 

 




ライブの中はすべて虚言
1stライブ楽しみだね(3か月先)
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