後悔をしていない、と言えば嘘になる。
結果的に海鈴の救援を蹴ってしまったわけで、でもそんなことを考える頭はあの時の自分にはなくて。
「...ばっかじゃねえの」
何が世界観だ。
友人の頼みを蹴る言葉かよ、あれが。
「何もかも、クズヤロー...」
クズ野郎と言いたいのは俺ではなく向こう側のはずなのに。
何を言ってんだろうな、本当に。
「...碧」
「...あぇ?」
若葉の令嬢、何故ここに?
「忘れ物と、お届け物」
ギターケースとチケットを渡してくる。
「待って、このギター俺のじゃない」
「必要になるから。持ってて」
「...わかった。これも付けるってことは来いってことだな」
「...お願い」
それだけ言って帰っていった。
送ろうかの一言すら言えなかったのはちょっと後悔。
ギターケースを開けると、案の定俺のではないギターだったが、さっきの試奏で使ったギターでもない。
「...誰のだ?」
「...ただいま」
「お疲れ様ですわ、睦」
若葉家、ソファに座る祥子が睦を出迎える。
「正直、意外でした。豊川さんが自分の目で見たこともない人間をスカウトするなんて」
「誰でもいいわけではありませんでした。ですが、あの腕を逃したのは惜しい」
「...碧くん、受けてくれるかな」
初華は不安げに呟く。
「次のマスカレードまでにはどうにかしてこちら側に引き込む必要がありますが...ギターとチケットがあれば、否応なしに来てくださることでしょう」
「...碧、『わかった』って言ってた」
「...なら、心配ないですわね」
睦の答えを聞き、安堵の顔でつぶやく祥子。
「...一応、それとなく聞いておきます」
「助かりますわ」
「日曜、ね」
書かれている時刻は早め。
「...と、ギターね」
なんのモデルか全くわからないけど。
「...7弦、か」
自室に立てかけてあるギターは6弦。
「...おも」
ストラップを肩に引っ掛けて、軽く弾く。
音的に絶対高い。
7弦なんて弾いたことないけど。
「...これ、弾けって言うのか?」
でもまぁ託されたもんだし、と弾き方を調べようとしたところで、スマホの画面が暗転し、名前と緑アイコンと赤アイコンが表示される。
「...海鈴?」
とりあえず電話には出る。
「...もしもし」
『あぁ、碧さん。夜分遅くに失礼します。眠るところでしたか?』
「いや、さっきのギター弾こうと思ってたとこ。7弦なんて知らないし」
俺がそう言うと、海鈴は少し笑って、
『碧さんなら大丈夫、と信じていますので』
と言う。
なんで笑ったのかとか問い詰めたかったけど、別に今聞くことでもないからスルーしておく。
「...ありがと、ちょっとやる気でた」
『それは良かったです。では失礼します』
電話が切れる。
「...7弦の弾き方...と」
もう少しだけ、練習しよう。
あの世界に立っても、違和感がないように。
オチは決めた
後はそれに向かっていくだけ