あのマスカレードを終えて、何が変わったかと言われれば、特に何も変わってない。
強いて言うなら暇つぶしにギターを弾く機会が増えたし、時々ベースを触るぐらい。
「...ふぅ」
ようやく1曲を譜面なしで完璧に弾けるぐらいになった。
ライブのような10数曲を楽譜なしで弾くのは無理だ。
ーー俺ではなく、破滅を恐れない彼ならできるけど。
今の俺は彼ではない。
「...切り替えよ」
ギターを仕舞って、ベースを取り出す。
今日は休みだから、長めにスタジオを借りて2本持ってきた。
ベースを引っ掛けて、チューニングを済ませた瞬間に、スタジオのドアが開く。
「...楽奈」
「ん、ベース」
「...やるか?」
「...!うん」
誘ってもらったのが嬉しいのか、ウキウキでセットしてるように見える。
「スコア、ある?」
「んー...これ」
「ん、はい」
「覚えたの?早くね?」
「碧もいっしょ」
それもそうだとスコアを一通り読んで覚える。
「じゃ、行くぞ...!」
ホントに何もないよなと疑問を感じた約2時間前の俺、本当にナイス。
おかげでバイトの存在に気付いた。
で、今は休憩中。
「『仮面のステージに6人目』...ねぇ」
「...何ニヤニヤしてんの...」
「いやぁ、いつ仮面外してくれんのかなぁって」
俺は外したくないけど。
「神崎はそれ、行ったの?」
「行ったよ」
「...どうだった?」
「んー...良くも悪くも上に行く音楽って感じだった。まだまだ成長できると思うけど、どこか事務的って言うか」
「ふーん」
自分から聞いといて...と言い返したいところを堪える。
「椎名は行かないの?こういうの」
「行かない。バイトに勉強にバンドに忙しい」
「ふーん...」
椎名がバンドを組んでるのはなんとなく知ってたけど、特に触れずにおいた。
「やべ、休憩終わりだ」
「ん、お疲れ」
「あれ、椎名は?」
「帰って寝る、まともに寝れてないし」
「...お疲れ、椎名」
あの性格じゃ気苦労しそうだなと、そう思った。
閉店までの業務をそつなくこなし、今は自宅。
「...っ」
ひたすらに弾く。
ただ、無心で。
覚えたスコアをなぞるように。
機械のように繰り返して。
「...ぁ」
腕が限界だ。
仮面の彼のようには、まだ俺はなれないらしい。
同一人物だろとどこからか刺されそうだが、実際仮面を着けないとできないことがいっぱいある。
気持ちの問題かもしれないが、仮面を着けた状態だと視界制限とかがあって付けたふりで演奏はできない。
まぁ、色々とめんどくさいんだ。
「はぁ...」
と、携帯が震える。
「...初華?」
これまた珍しい人間からの電話だと、アイコンをスライドして電話に出る。
「もしもし?」
『もしもし、ごめんねこんな時間に』
「いや平気、なんかあった?」
『明日、空いてる?』
「明日は...ちょっとお待ちを...」
スピーカーにしてスケジュール表を開く。
「...多分、なんもない」
『じゃあ明日、RiNGに...1時ごろとかでもいい?』
「了解。ギター?」
そう聞くと、少しだけ間が開いた。
『...祥ちゃんがね、ベースも見てみたいって』
「...了解、じゃあ両方持ってく」
『...うん、ありがとう。じゃあまた明日』
「はいよ」
あのバンドにとって、豊川祥子という人物は重要人物であり、彼女がいなくなってしまえば、仮面のバンドも終わってしまう。
そこまで入れ込む理由が思い当たらないし、仮面の意味もさっぱり。
部外者である俺に教えるとは思わないが、いつか知れる時が来るのだろうか。
サブタイが何を示してるか分かったあなたは
立派なAveMujicaファンです、ようこそ。