自主練を重ねるにつれ、少しづつ弾けないフレーズが少なくなっていくのを感じる。
昨日できなかった部分が、今日はできる。
それが楽しくって、休みの日はずっとギターを触っている。
ちょっと前まではデジタル機器にどっぷり漬かっていた廃人だったころから考えれば、だいぶ進歩だ。
「...ん?」
ドアが開いてる。
そして見覚えのある白髪。
「...毎度毎度無音で入ってくるのやめろよ、楽奈」
「...?来た」
「呼んでねぇ」
セッションは確かに楽しいが、それはそれとして人の借りてる部屋に入ってくるのはどうなんだ。
「りりちゃんが教えてくれた」
「教えるかよ普通」
「ギター弾く、やろ」
「人の話聞けよ...ん?」
スコアを表示しているスマホが震える。
「椎名?珍しい...」
めったに表示されることがない名前を見て、少し身構える。
「はいはい?」
『あ、出た。神崎、今どこにいる?』
「RiNG」
『野良猫いる?』
野良猫?と疑問符を付けてから、「RiNGの」と言う修飾語を省略したのだと理解する。
「...今ちょうど俺の借りてる部屋に」
『回収するからそこに留まらせておいて、何番?』
「2、そんな長く持たないよ」
『10...いや5分でいい。よろしく』
返事する暇もなくブチッと電話を切られる。
「だれ?」
「...お前、バンドは?」
「...?」
「スマホ出せ」
「ん」
楽奈のスマホを受け取り、メッセージアプリを開く。
未読のメッセージが大量にたまり、一番上には「MyGO!!!!!」と言う名前のグループからの通知が50件ほど来ている。
「メッセージ読めよ」
「読んでる」
「通知だけで読んだ気になるなよ...」
呆れながらスマホを返した瞬間にドアが開く。
飼い主が回収に来たみたいだ。
「お疲れ椎名」
「どっか行くなよ楽奈...」
「あおの所」
「そうじゃない。勝手にふらふら行くなって言ってんの」
「...飼い主が回収しに来たことだし、俺は帰ろうかな」
ギターを仕舞って帰り支度を始める。
「帰るの?」
「暇だったから弾きに来ただけだからね。予約の時間ももうすぐだし」
「じゃあ、この後暇?」
「まぁ、うん」
「私たちの音楽、聞いて」
椎名が言うことには違和感があった。
「...何をお求めで?」
「別に。他人から聞いたらどう聞こえるのか気になっただけ」
「...まぁいいよ、他メンバーが良いって言うなら」
「あ...立希ちゃん、おかえり」
「りっきーおそーい!...あれ、後ろの人誰?もしかして彼氏!?」
「違うから。クラス一緒なだけ。こいつに練習みてもらおうと思って」
「...プロの人とか?」
「全然。客観的な意見が欲しいから連れてきた」
これがMyGO!!!!!と呼ばれるバンドかと思うと同時に、これがバンドとして成立しているのが不思議だった。
そこかしこに地雷が埋まり、それを踏めば分解してしまいそうな。
「バンドやろ」
「...楽奈っていつもこうなの?」
「そうなんですよ!あ、私ーー」
「知ってる。と言うかあの自己紹介で覚えられない訳ないだろ」
ボーカル、
MCを任せるには少し頼りないが、歌を紡げば話は別。
彼女の世界に取り込まれる。
サイドギター、
地図が読めるから迷子ではないと言ってたのは印象深い。
MCをやるなら彼女の方がいいかもしれないが、何か重要機密をポロっとしそうな危うさがある。
ギターの腕はそこそこ。
楽奈は知ってる、割愛。
ベース、長崎そよ。
高松と同じバンドだった経験あり、まとめあげるのはうまそうだ。
MCの際喋る回数は多くなかったのはボロが出るのを隠したかったか、よく分からんが。
ベースの腕はそこそこ。
立希も知ってる、割愛。
「...で、何をどう見ればいい?」
「技術とか、テンポ間とか」
「了解。けどまともなアドバイスじゃないから期待はすんなよ」
イベストで飼い主じゃなくて契約関係になったのは今知った所存