迷う心の在り処   作:ユイトアクエリア

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9:生涯と才能と決断

「人生...?」

「えぇ。サポートメンバーという名目で、私たちのバンド、『Ave Mujica』へ加入していただけませんか?」

「一生涯を、バンドに捧げろと?」

「はい。受けていただけませんか?」

 

ーー無理だ。

 

この際性別の壁はどうにでもなる、仮面で多少は誤魔化せるだろう。

しかし技術はそうはいかない。

俺のギターじゃ、このバンドを彩るに足らない。

 

「努力はするけど、きっとあなたの欲しいギターの音じゃない」

「いいえ、あなたに期待するのはギターだけではないですわ」

「いや、俺はギターしか弾けないんですけど...」

 

衝撃で抜けた敬語を取り戻しながら、俺は豊川さんの間違いを訂正する。

確かにギターしか弾けない訳じゃないし、海鈴にはベースもいけると言った気がする、

ただあの場で弾いたのはギターで、ベースに関してはもう最後に触ってから4年は経つ。

 

「では、今ここで弾いてみてくださる?」

「はぁ?」

「ギターと楽譜はこちらに。譜面台もそちらにありますわ」

「...分かった。気に入らないと思うけどな」

 

受け取った楽譜を台に置き、ギターのチューニングを簡単に済ませる。

ストラップを引っ掛けて、一度深呼吸。

 

ーー別に、普通にやればいいだけだ。

 

楽譜を読み取って、ただ鳴らせばいいだけ。

別に、何も考えなくたっていい。

 

楽譜を最後まで演奏し終わると、豊川さんが驚いた顔をしてこちらを見ていた。

 

「あなた今、一(・)度(・)も(・)演(・)奏(・)中(・)に(・)楽(・)譜(・)を(・)捲(・)ら(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)ですが...?」

「...両手塞がってるのにどうやって捲るんだよ」

「...その楽譜に裏面もあったのは存じていて?」

「あぁ、読んだよ」

 

それを聞いてさらに驚く。

 

「結構複雑化していたと思うのですが...」

「うん。テンポも拍子も変わってたね」

「それを全く見ることなく...?」

「...でも分かったでしょ。俺のギターは、あなたの世界観にはそぐわない」

 

ギターのストラップを外し、ケースに戻す。

 

「それじゃ、俺はこれで」

「お待ちなさい」

「豊川さんの契約は飲めない。俺のギターじゃ、仮面のバンドはできない」

「...それほどの技量があって、何故断るのですか?」

 

いつの間にか戻ってきていた海鈴と目があった。

若葉の令嬢も一緒に居る。

 

「言った通りだよ」

「それは、あなたの理由ではないでしょう?」

「...ただの趣味だから。演奏して拍手を貰えるようなものはできない」

 

それだけ言って、俺は若葉家から出た。

 

「生半可な覚悟じゃ、あのバンドはできないよ」

 

 

 

 

 

 

 




入ると、思っただろ
俺も入ると思ってた
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