17:狂い始める歯車
花咲川学園、昼休み。
誰にも声を掛けられずに教室を脱した俺は、校庭の端っこの方で弁当を食うことにした。
「いただきます」
いつも通り、冷食を詰め込んだ弁当を感情もなく食べる。
美味しい美味しくないの話ではなく、腹が満たされているかどうかで弁当を食べている節がある。
作った人間に感謝をと言われようが、これを作ったのは俺なので、特に何も問題はない。
「...そうだ」
ふと気になって、「ルイナス」で検索を掛けてみる。
『ドロリスの後ろにいる、ルイナスってギター、誰?』
『ルイナス、誰かの子供だったりするの?』
『ルイナス君滅茶苦茶ギターうまいし、パフォーマンスもすごかった。けど、見たことないよね』
「ははっ、随分とまぁ...」
好き勝手に言ってくれるものだ。
ぶっちゃけ放っておいて欲しいものだ、俺も、もちろん俺以外も。
「だからやめとけって言ったんだけどな...」
あの日、演劇の体で抵抗したのは俺だけだった。
他は無理矢理に、あるいは自主的に、仮面を剥がされ、正体が露わになった。
勿論、豊川の台本にそんな流れは一切なかったし、然るべきタイミングが今でもないのは十分わかってた。
けど、人間、何が起こるか完璧に予測はできないものだ。
俺の仮面が剝がされても、誰一人として歓声なんて上げなかった。
当たり前だ。
「そういうのでやってるわけじゃない」
言い聞かせる。
メンバーとの差は広がる。
縮まらない距離が、確実に開いていくのもよくわかる。
けれど、この路線になってしまったら。
「俺、必要ないかも」
そういう結論に至ってしまう。
AveMujicaのフロントなら十分に強い。
Sumimiの初華、若葉の娘、豊川の令嬢。
バックもディスラプションのベースにストリーマー。
人気度も盤石、むしろ俺がノイズですらある。
とはいえ。
「人生あげるって言っちゃったしな」
下を向いてぼやいた時、目の前に人影。
「そうだよ。辞めるなんてだめだよ」
「...盗み聞きとはずいぶんと悪趣味だね、初華さん」
クラスメイト、同じバンド、三角初華。
「たまたま聞こえちゃっただけだよ」
隣いい?と言いながら隣に座る初華。
「随分と質問攻めにあってたようだけど、撒いてきたの?」
「まぁ、そんな感じ。質問攻めも疲れちゃうよね」
あははと笑って、弁当を開ける初華。
粗方食べ終わった俺は反対に弁当を仕舞い、とりあえず隣にいることにした。
「碧くんはさ、後悔してる?」
「何を?」
「AveMujicaに入ったこと」
似たようなことを豊川にも聞かれた記憶がある。
「いや?正直めちゃくちゃ楽しいよ」
「...そっか」
「とはいえ、そう長くも続かないだろうね」
俺がそう言うと、初華は少し怯えた眼でこちらを見る。
「...なんで?」
「正体が暴かれた以上、俺はどう足掻こうと知名度レースには参加できない。そのうち非難の声も上がるだろうさ」
「でも、今は」
「それは今だから。ほとぼりが冷めたら、きっと」
覚悟を決める時かもしれない。
いつ、