あると思います(?)
動かない。
腕が、手が、足が、顔が。
動かせない。
真顔で機械的に弾くことが、精一杯。
表情を隠せる仮面はない。
傍から見た俺が、真面目なギタリストに見えることを、期待したい。
「っ...はぁ、はぁ...」
普段着に着替え、ソファに身を沈め、思考を回す。
仮面が外れてから、一層演奏に入りこまないといけなくなった。
俺の気持ちの問題だが、やはりあの仮面なしではルイナスになりきれない。
どうしても、偽物になってしまう。
けれど、そんなのは言い訳に過ぎない。
やらなければ、俺の存在意義はない。
『...碧くん?』
控え室の扉の向こう、遠慮がちに我らのフロントの声が聞こえる。
「...あいてるよ」
『...じゃあ、失礼します』
扉を開けて入ってきたのは、私服姿の初華。
「何か用事?」
「ううん。その、今日のギターのことで」
「...やっぱ、違和感ある?」
そう聞くと、初華は少し迷って、頷く。
「だよね、俺もそう思ってる。ごめん」
「何か、理由があるの?」
「俺がルイナスになれないから」
「...なれ、ない?」
気持ちの問題、または視野の問題。
色々な要因を以て、俺はルイナスに成る。
「ごめんな、迷惑かけてる」
「自覚があるなら結構ですわ」
「...いるなら一言言えよ」
反省の声に返答したのは、少し高めの厳しい声。
「ギターの不安定さが粗削りで擁護できなくなりますわ」
「そうかい。なら努力するよ」
「生半可なものでは話になりません。プロとしての自覚を持ってください」
「プロ、ね。一個聞くけどさ」
俺がずっと、気になってる事。
「何のために、AveMujicaやってんの?」
「何のため、とは?」
「プロになって、どうすんの?」
「それは...」
言葉を濁すのは、メンバーには言えないのか、それとも。
「一応ないとは思うけど、遊びでやってるわけじゃないんだろ」
「当たり前ですわ」
「じゃあいい。遊びだとしたら俺はやめてた」
今は、探る時じゃないんだろうな。
パフォーマンスにも支障が出そうだ。
「...プロでい続けたいなら、メンバーのケアぐらいしろよ。もちろん、自分のも」
「それは、どういう」
「睦。限界が近いぞ」
豊川とは幼馴染だと聞いている。
Mujicaへの加入理由も、豊川のためを思って、とのことだった。
「幼馴染なんだろ」
「えぇ」
「ならなおさらだ。
忠告に初華が疑問を呈す。
「睦ちゃんが...?」
「疲労を隠すのがうまいのか、それとも周りが節穴すぎて気付いてないのか知らないけど、あんな詰め詰めのスケジュールで、よく生きていられるな」
「先方からの指定がほとんどですわ。仕方ない部分も」
「仕方ない、で。睦は納得したのか?」
海鈴のスケジュール表が出た時から、疑問に思うべきだった。
睦が、「若葉の娘」であることが、ここまでスケジュールを詰めるのかと。
「一度ちゃんと話し合った方がいい。スケジュールの件も、あいつのキャパも」
「...どうして、そこまで気に掛けるのですか?」
「メンバーだぞ?当たり前だろ。昔から知ってるお前と違って、俺は今しか知らないけど」
あんまり言いたくはないけれど、AveMujica存続のためには、言っておくべきだろう。
「いつ壊れても、おかしくないぞ」
それだけ言って、俺は控え室を後にした。
これで少しは、負担が減るといいんだけど。
「というか、らしくないな。どうしたんだろう、俺」
本当にどうしたんだろうね
モーティス、碧と絡ませたい気持ちはある