――その時は、突然やって来た。
『...モーティス?』
仮面が剥がれた後の初舞台、睦...モーティスが突如演奏中に椅子に座りこんだ。
まるで、糸を切られた人形のように。
これじゃ、まずい。
『モーティス?』
呼びかける。
呼びかけながら、ドロリスにギターを預け、モーティスの方に寄る。
『...モーティス、眠ってしまったの?』
オブリビオニスの機転の利いたアドリブで、人形劇の演出と観客に誤認させる。
『...オブリビオニス、モーティスの魂がまずい』
『先ほどまでは何もなかったというのに、どうして』
『仮面が剝がれた人形に、月の光は毒か...』
モーティスからギターを一旦取って、椅子の後ろに置いてから、モーティスを抱える。
『ルイナス、何を』
『このまま月の光にさらし続けたら、何が起こるか分からない訳じゃないはずだ』
ドロリスの問いに答えながら、モーティスを抱えて舞台上から捌ける。
『俺らもそう長くはないが...自覚症状がないのが厄介だな』
音声として拾われているかはわからないが、まだルイナスとしてモーティスを輸送する。
休憩室のソファに寝かせ、同性のスタッフについててもらう。
「モーティス、ギター借りるぞ」
呟き、休憩室を後にする。
『...よし、避難は完了した』
『モーティスがいなければ、ギターがいないことになりますが』
『俺がやるよ』
イスの後ろに立て掛けておいたギターを引っ掛け、軽く音を鳴らす。
『ドロリス、腕は大丈夫だな?』
『うん。ボクは平気』
『ルイナスこそ、モーティスの部分なんて弾けるの~?』
『人形だぞ?できて当たり前だ』
フロント2人とアイコンタクト、キーボードのイントロ、リードギターの掛け合いが始まる。
サイドとして、いつもは違う奏で方。
けど、やることは変わらない。
いつも通り、譜面をなぞるだけ。
『――ようこそ。AveMujicaの世界へ』
「何とか、うまく行ったな」
控え室、手早く着替えてソファに身を沈める。
モーティス...睦の不調を劇の設定という方向に持ってってくれた豊川には感謝しなければいけない。
「お疲れ様です。3人で仕込んでいたんですか?」
「...ん、まぁ」
一時的にとはいえ回復した睦に回答はできず、アドリブをしてくれた豊川も今ここにはおらず。
「...違うんですか?」
「...あんまり、言いたくはないけど」
「...私が、間違えた」
睦が口を開いた。
「間違えた、というと?」
「ギター、間違えた」
「それで、そのままカバーもせず?」
「...」
睦は再び口を閉じる。
海鈴の顔からは、かすかな苛立ちを感じる。
「...何とか納得していただけましたわ」
ドアが開き、豊川が苛立ちを隠さずに声を上げる。
「え、ほんとにアドリブだったの?」
ようやく理解が追いついたのか、にゃむが素っ頓狂な声を出す。
「睦、どうしてあのようなことを」
「演奏を間違えたそうです。それであのまま」
「それだけで」
「...あのさ、豊川」
このままだと悪い方向に進みそうだったから、一旦口を挟む。
「それだけって言ったけど。睦があれだけのタスクをこなして、なお無事だと、ほんとにそう思ってたのか?」
「何が言いたいんですの?」
「度重なるインタビュー、そのたびに聞かれる親のこと、解散報道の真相、それを毎日大量に聞かれて。本当に無事でいたと?」
「疲れたから休む、なんてプロの世界では通用しないですわ!勝手なことをされては」
「逆だよ。疲れても休みがないんだ。このままだと本当に壊れるぞ」
壊れてからでは遅い。
何もかも手遅れになる前に忠告したけど、それで収まるわけじゃないのはよく知っている。
むしろ、これが忠告と受け取られてない可能性だってゼロじゃない。
「部外者だから遠慮なく口を挟むけど、何をしてほしいかぐらいはちゃんと話しなよ。じゃあな」
せめて壊れる前に、心の重りを少しでもと、そう思ってた。
――そのはず、だったのに。
『もう、大丈夫。おやすみなさい、良い夢を』
「...バカが」
何もかも、手遅れだった。
モーティスとの絡みが書きたかったのと
わんちゃんこうしておかないとムジカ存続の危機なのでは?と思ったので
ちゃんと救います