迷う心の在り処   作:ユイトアクエリア

5 / 94
伏せた意味はないです


6/26:三角初■

「碧くん、一緒に帰らない?」

「祥子は…先に帰ったのか」

「うん…だからどうかなって」

 

碧くんは目線を遠くにやってから、いいよと返してくれる。

 

「ありがとう!すぐ準備するから待ってて!」

 

スタジオを出て、今は二人でなんとなく散歩してる。

夏が近くなって、日が落ちる時間が長くなって。

夕焼けの空の下を散歩するのが好きだ。

島にいたときは、それぐらいしか無かったから。

 

「…初華」

「ん?」

 

足を止めた碧くんに名前を呼ばれて、足を止める。

碧くんは少し辺りを見回すと、少し近づいてきた。

 

「や…ふたりだしいいか。初音」

「っ…なに?」

 

まだ慣れない。

勇気を出して本当のことを言ったけど、まだ初華って呼ばれることのほうが多い。

 

「…誕生日、だろ」

「そう、だけど…」

 

6/26。

今日は私の誕生日。

何もかも嘘だらけの私だけど、これだけは本当。

碧くんはどこから取り出したか、少し大きめの紙袋を差し出してきた。

もしかしたら最初から持ってたけど、私が気づかなかっただけかも。

 

「だから、これ…その、持ってたら、全然返すだの捨てるだのしていいから…」

 

中身を見ると、最近発売された家庭用のプラネタリウム。

 

「…え、これ高いやつだよ!?いいの!?」

「…プレゼントってそういうもんじゃないのか?」

 

碧くんはきょとんとする。

 

「いや、その、それにしてもで…」

「…悪かったな。人の誕生日にプレゼントあげるのなんか初めてだからさ」

 

かと思ったらシュンとする。

ちょっとかわいいとか思っちゃって少しだけ悔しい。

でも、気になることを言っていた。

プレゼントをあげるのは初めてだって。

 

「え、祥ちゃんにチョコあげてたのは…」

「あれはノーカン。バレンタインだし」

「で、でも海鈴ちゃんにはハンドクリームあげてたし…」

「必要な消耗品をあげることカウントするのか?」

 

…そうだ。

碧くんはこういう人だったね。

 

「…碧くんって、人誑しって言われない?」

「初耳だけど」

「ふーん…」

 

やっぱり碧くんはずるい。

私にないもの、何でもある。

…みんなが夢中になっちゃうの、わかるな。

 

「…なんだよ」

「…どうしてこう、人が喜ぶことしかできないんだろうって」

「褒めてる?」

「褒めてる。だから黙って聞いてて」

「ごめん」

 

好意は受け取らないくせに、否定的だと思ったら謝ってくる。

 

――誰かに、似てる。

 

「怒ってない。ねぇ、碧くん」

「ん?」

「正直、最初は碧くんのこと苦手だった。同じクラスになって、少しずつお話して、悪い人じゃないっていうのは分かったけど、それでも、何か怖かった」

 

碧くんにとっては、別に聞く価値もない話。

碧くんは、それでも相槌を打って聞いてくれる。

 

「私、初めて自分のこと話そうと思ったんだよ?碧くんが、初めて」

「光栄だな」

 

ーー祥ちゃんだ。

 

祥ちゃんに似てる。

でも、違う。

 

「…伝わってない、よね」

「悪いな。人の気持ちを汲み取るのは苦手なんだ」

「そうだけど、そうじゃなくて…うぅ…」

 

多分、どうあっても伝わらないから。

だから、勇気を出して。

碧くんが名前を呼んだのを合図に。

 

「…ごめん、碧くん」

 

ごめん、祥ちゃん。

 

「はつ…っ?」

 

いきなり謝られて困惑する碧くんの唇を奪った。

好きを表現するのに、言葉は嘘になるから。

 

「っ…初めて、だから。ちゃんと、好きだから」

「…祥子は」

「祥ちゃんは、また別というか…」

 

言い訳がましい私。

やっぱりそうなっちゃうんだなって。

でも、目の前の人は笑って、私の名前を呼んでくれる。

 

「碧くん…?」

「ありがと」

 

そうやって笑顔を見せてくれる碧くん。

碧くんの笑顔が、一番のプレゼントだよ。

 




矢印がデカくなってしまった…
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。