「碧くん、一緒に帰らない?」
「祥子は…先に帰ったのか」
「うん…だからどうかなって」
碧くんは目線を遠くにやってから、いいよと返してくれる。
「ありがとう!すぐ準備するから待ってて!」
スタジオを出て、今は二人でなんとなく散歩してる。
夏が近くなって、日が落ちる時間が長くなって。
夕焼けの空の下を散歩するのが好きだ。
島にいたときは、それぐらいしか無かったから。
「…初華」
「ん?」
足を止めた碧くんに名前を呼ばれて、足を止める。
碧くんは少し辺りを見回すと、少し近づいてきた。
「や…ふたりだしいいか。初音」
「っ…なに?」
まだ慣れない。
勇気を出して本当のことを言ったけど、まだ初華って呼ばれることのほうが多い。
「…誕生日、だろ」
「そう、だけど…」
6/26。
今日は私の誕生日。
何もかも嘘だらけの私だけど、これだけは本当。
碧くんはどこから取り出したか、少し大きめの紙袋を差し出してきた。
もしかしたら最初から持ってたけど、私が気づかなかっただけかも。
「だから、これ…その、持ってたら、全然返すだの捨てるだのしていいから…」
中身を見ると、最近発売された家庭用のプラネタリウム。
「…え、これ高いやつだよ!?いいの!?」
「…プレゼントってそういうもんじゃないのか?」
碧くんはきょとんとする。
「いや、その、それにしてもで…」
「…悪かったな。人の誕生日にプレゼントあげるのなんか初めてだからさ」
かと思ったらシュンとする。
ちょっとかわいいとか思っちゃって少しだけ悔しい。
でも、気になることを言っていた。
プレゼントをあげるのは初めてだって。
「え、祥ちゃんにチョコあげてたのは…」
「あれはノーカン。バレンタインだし」
「で、でも海鈴ちゃんにはハンドクリームあげてたし…」
「必要な消耗品をあげることカウントするのか?」
…そうだ。
碧くんはこういう人だったね。
「…碧くんって、人誑しって言われない?」
「初耳だけど」
「ふーん…」
やっぱり碧くんはずるい。
私にないもの、何でもある。
…みんなが夢中になっちゃうの、わかるな。
「…なんだよ」
「…どうしてこう、人が喜ぶことしかできないんだろうって」
「褒めてる?」
「褒めてる。だから黙って聞いてて」
「ごめん」
好意は受け取らないくせに、否定的だと思ったら謝ってくる。
――誰かに、似てる。
「怒ってない。ねぇ、碧くん」
「ん?」
「正直、最初は碧くんのこと苦手だった。同じクラスになって、少しずつお話して、悪い人じゃないっていうのは分かったけど、それでも、何か怖かった」
碧くんにとっては、別に聞く価値もない話。
碧くんは、それでも相槌を打って聞いてくれる。
「私、初めて自分のこと話そうと思ったんだよ?碧くんが、初めて」
「光栄だな」
ーー祥ちゃんだ。
祥ちゃんに似てる。
でも、違う。
「…伝わってない、よね」
「悪いな。人の気持ちを汲み取るのは苦手なんだ」
「そうだけど、そうじゃなくて…うぅ…」
多分、どうあっても伝わらないから。
だから、勇気を出して。
碧くんが名前を呼んだのを合図に。
「…ごめん、碧くん」
ごめん、祥ちゃん。
「はつ…っ?」
いきなり謝られて困惑する碧くんの唇を奪った。
好きを表現するのに、言葉は嘘になるから。
「っ…初めて、だから。ちゃんと、好きだから」
「…祥子は」
「祥ちゃんは、また別というか…」
言い訳がましい私。
やっぱりそうなっちゃうんだなって。
でも、目の前の人は笑って、私の名前を呼んでくれる。
「碧くん…?」
「ありがと」
そうやって笑顔を見せてくれる碧くん。
碧くんの笑顔が、一番のプレゼントだよ。
矢印がデカくなってしまった…