迷う心の在り処   作:ユイトアクエリア

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21:出番交代

「豊川、ちょっといいか」

「なんでしょう」

 

モーティスからの相談を受けた俺は、豊川へそのことを伝えることにした。

正直、信じるかどうかなんてわからない。

 

「...場所を変えたい」

「大事な話ですのね?いいでしょう」

 

空室の会議室を借り、豊川と対面して座る。

 

「...単刀直入に言うぞ。睦が壊れた」

「...どういうことですの?」

「睦の人格が完全に壊れて、今は別人格...便宜上モーティスと呼ぶが、それが動いてる」

 

そこまで行った時、豊川が席を立った。

 

「...与太話なら別の機会に」

「俺が冗談でこんなこと言うやつだと思うか?」

 

そう言えば、疑念が消えない顔で、しかし俺の話は聞く気があるようで、座りなおして「続けて」と促される。

 

「モーティスは、ギターが弾けないらしい」

「...睦の別人格だというなら、それはおかしい話では?」

「俺も完全に信じちゃいない。けど、あいつは「睦ちゃんの中でずっと聞いてた」って言ってた。少なくとも俺らのマスカレードは見てたはずだ」

「動きのトレースすらできない、と?」

 

そう聞かれたとき、俺はこの結論を話していいものか迷った。

けれど、話してしまわなければ、いけないと思った。

 

「...推測でしかないけど、ムジカに興味がないんだ」

「...は?」

「あるいは、ギター以外ができるから。俺はこっちだと思ってる」

 

全国ツアー初日に見せた語り口、俺にすり寄る態度。

()()()()()()、そんな動きだったようにも感じた。

真似る対象は?となったが、いるじゃないか。

最高に演技上手なのが、身内に。

 

「...まだ、豊川はモーティスと話してないんだっけ」

「えぇ、まだですわ」

「あの感じは、今まで視てきたものをアウトプットしてるだけ、そう感じた。その上でギターができないなら、音楽に興味がないだけなんだと思ってる」

「信じたくはないですが...信じざるを得ない、のでしょうね」

 

幼馴染が二重人格だったなんて、知りたいとは思わないはずだ。

 

「そこで、提案なんだけど」

「はい」

「モーティスの場所、しばらく俺がやることにしても?」

「...致し方ありません。それで対応しましょう。睦が帰ってくるまで」

「あ、それについてだけど」

 

仕事としてはここまでだが、忠告はしなければいけない。

これ以上、こじれる前に。

 

「...今の豊川じゃ、睦は帰ってこないぞ」

「...どういう意味ですの」

「モーティス曰く、『睦を壊した祥子ちゃんは嫌い』らしい。俺はよくわかってないけど、これからもムジカやるなら、考えてみた方がいいぞ」

「...心に留めておきますわ」

 

豊川の心持ちと、それをモーティスが赦すか。

後は色々あるけど、まだ焦らなくていい。

この場所を守るために、俺ができることは、全部やらなければ。

 

「時間作ってくれてありがとな。俺は帰るよ」

「えぇ、お気をつけて」

 

会議室を出て、エレベーターホールに直行する。

薄暗いと、なんだか少し怖い。

エレベーターを待っていると、

 

「おや、碧さん」

 

と、声がした。

 

「海鈴、どうしたこんな時間まで」

「スケジュール調整に時間を割いてました。そちらは?」

「...色々。よくわかんなくなっちゃって」

 

海鈴が「珍しいですね」とこぼしてから、

 

「相談でも乗りましょうか?」

 

と言ってくる。

 

「正直ありがたいけど、遠慮しとくよ」

「おや、ちょっとショックです」

「...別に、海鈴だからとかそういうわけじゃなくて、後で言われることだろうと思うし」

 

エレベーターに乗り込む。

 

「ムジカに関わることですか?」

「そ。多分明後日ぐらいとかにわかるんじゃない?」

 

豊川がどう出るか、モーティスがどう動くか。

全くわからないけど、勝負しなきゃいけないのはライブの日。

 

「楽しみにしていますね」

「そんな楽しみにする発表じゃないよ。まぁ心拍数は上がりそうだけど」

 

エレベーターのモニターに1と表示され、ドアが開く。

特に会話もなく事務所を出る。

 

「じゃ、俺こっちだから」

「はい、また明日。学校で」

「ん、また明日」

 

軽く手を振って、帰路を進む。

音楽アプリを立ち上げ、ムジカのプレイリストのうち、インスト音源を選択。

イヤホンを刺しながら、楽譜を開いて、睦の方の楽譜をコピーする。

 

「...すげえな」

 

改めて「幼少からギターを嗜んでいた」実力を思い知らされる。

それを信頼してこの譜面なのだろう、豊川は随分と幼馴染使いが荒いようだ。

 

「でも、今は俺の番」

 

モーティスが満足して引っ込むまで。

豊川がモーティスの条件をクリアするまで。

俺がやらなくちゃいけないんだ。

 

 

 

 

 

 

 

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