事務所の練習スタジオ。
「っ...ぐ...」
リードにはリードの、サイドにはサイドのむずかしさがある。
今、身をもって実感している。
譜面を頭に叩き込んだからと言って、腕や手がその通りに動くはずもなく。
どうしたって、実力差は生まれてしまう。
俺の付け焼刃は、睦の研ぎ澄まされたギターによって折られる運命にある。
「...いつも、こんなことしてたのかよ」
「睦ちゃん、すごいギター上手だから。碧くん、本当に大丈夫?」
「ありがと初華。でも俺がやんないといけないことだから」
初華から差し出された未開封のペットボトルを受け取って、首元に当てる。
興奮した体の熱をあらかた吸い取らせたところで、ボトルの中身を1/3ほど呷る。
「リードとは違うな...ギターって難しいんだな」
「とはいえ、2曲ほどは完璧に演奏できていました。及第点では?」
「ありがとう。でも受けた穴を埋めるって、穴以上に埋めないと見かけでバレるんだぜ」
この時ばかりは、7弦ギターが2人である構成に感謝した。
7から6,6から7に戻すのは二度とやりたくないからだ。
「それに、プロなんだからうまいのなんか当然だろ?俺だけ素人感丸出しだと場が冷める」
「真面目ですね」
「...いやでも真面目にならないといけないんだよ」
豊川に相談した件は、きちんとメンバーに伝わったようだ。
睦の代わりを俺が務める事にも、異論はなかったようだ。
「あおこ、ういこの後ろにいた時より余裕がないね」
「フロントで演奏するんだから当たり前なんだけどな...とはいえ、ドラムも目立たない訳じゃないか」
「なになに?にゃむのこと褒めてる?」
「...一応は。話題性作りだけでやってたかと思えば、滅茶苦茶うまくて驚いてるんですよ。練習法教えてくれませんか?」
「そんなに褒められると照れちゃうなぁ~。えっとねぇ~」
曰く、時間を決めてその時は全力でやるそうだ。
動画の書き出しとか、そういう時間を使ってやるらしい。
隙間時間の活用、試してみていいかもしれない。
「...みんな、真面目なんだな」
「当然ですわ」
「そうだな、疑って悪かったよ」
「...別に、そんな意味では言ってませんわ」
通る声でビシッと言われるのは嫌いだ、昔から。
疚しいことなんてないのに怒られた気分になる、昔からそうだ。
「...さて、続きを始めましょう。碧さん、準備は?」
「...いつでも。なんでも」
「では、『KiLLKiSS』」
ギターリフだったかギターソロだったか、ともかく睦のギターがイントロで目立つ曲だ。
でも、今の俺なら問題なく弾ける。
家に帰ってから家を出る時間まで防音室に籠って弾いてたんだ。
「...碧くん!?」
視界が暗転した。
何かすごい音がした。
しばらくした後に、背中に痛みを感じた。
なんだ?何が起こってる?
なんの音だ?どうして背中が痛い?
そのまま目を閉じ、再び開けたら。
――知らない天井だった。
文字通り命の灯を掲げて演奏してますからね、碧くんは