さて、無事に退院した俺ことルイナスだが、体を借りているということは学校に行かねばならないということである。
正直めんどくさい、ギターだけ弾いてたい。
ドロリスの後ろで弾いてた音から、モーティスの音へと変えていく作業に加えて、モーティスパートの暗譜もしなければならない。
そんな中で学校へなんて行ってられないが、ちゃんといかないと単位がどうとか、出席数でどうとか、赤点でどうとか言われてしまうため、めんどくさいのは承知で行かねばなるまい。
「んじゃ、行くか」
道は覚えてる。
時間的に余裕もあるし、ゆっくり歩いても間に合うだろう。
それはそれとして、だ。
「返すタイミング、下手したら一生こないかもなぁ...」
祥子の脳内をメンバーに開示するだけで解決するなら、それで問題ない。
あとは、モーティスが睦に体を返してもいいと判断できるぐらいのレベルに、祥子がなればいい。
どっちもやらなきゃいけない訳じゃないが、部外者としてずかずかと入り込める場所は入り込まなきゃならない。
長い付き合いだからこそのプライベートな部分に入り込んでいけるのは、赤の他人のやることだと思うから。
そんな事を考えながら歩を進めていたら、いつの間にか学校についていた。
靴を履き替え、教室のドアを開ける。
「おっはよーございまー...」
教室には人っ子一人いない。
現在時刻は8時過ぎ。
「...あー、早く来すぎたか」
どうやら思考を回しながら自然と早歩きになってしまったらしい。
仕方ないので席に荷物を置いて、飲食物を求めて1階へ。
「んぃ~...」
奇怪な声を出しながら悩む姿は、誰にも見られないことを祈りたい。
結局カフェラテのボトルを購入し、隣の食い物自販機でメロンパンを買った。
教室に戻ると、ベージュの髪が見えた。
「あっ、おはよう。もう平気なの?」
「おはよ、ただの過労だし、大丈夫」
「過労って大丈夫じゃないからそうなってるんだよ?」
心配してくれるのはありがたいが、俺は俺で問題ない。
「...碧くんは、やめないよね。Ave Mujica」
「やめる?なんでさ」
「...ううん。何でもない」
「何でもねえわけあるか、聞かせろ」
聞くわけない言葉が飛び出したので、思わず顔を近づけてしまった。
「睦ちゃんがああなっちゃった後に、碧くんも倒れちゃったから...その、不安に、なって」
「...一回ぶっ倒れた程度でやめるとでも?なめられたもんだな」
「そう、だよね。ごめん、疑ったりして」
「いいか?俺の目的はムジカの安寧と平穏だ。ビジネスバンドとは言えメンバーの不和はいつか分解を起こす。全員、腹を割る必要がある。抱えてるもんを洗いざらい話す必要がな」
今のムジカは、どこかを突けばそこから全部崩れそうなぐらい弱い。
バンドのメンバーとしては盤石の陣営だが、メンバーのメンタルはそうもいかない。
高校生が同年代のメンタルケアまでできるとは、とても思えない。
「でも、それは」
「ま、うまく行かないだろうよ」
「じゃあ、なんで」
「
目の前の靄を完全に振り切らない限り、光には気づかない。
その光を見つけた時、ムジカはきっとどこまでもいける。
それこそ、一切の不純物がない、完璧なバンドに。
「...なんか、ムジカの劇みたいな言い回しだね」
「...台本読み返してると、時々思考が先走るんだよ」
「でしたら、ぜひともご教授願えないでしょうか。仮面が取れてから、いまいち役に入りきれないので」
おはようございますと割って入ってきた海鈴におはようと返す。
「...いいけど、教えるの下手だぞ、俺」
「国語の成績なら負けません」
「そうじゃねえって」
碧のやつ、こんだけ好かれてるのに。
どうして、ずっとつらいなんて言い続けてるんだ?