リードもサイドも、基本的はあまり奏でる音は変わらないと知ったのは、碧の中からドロリスとモーティスのギターを聞いて分かったことだった。
とはいえ、やることはサイドの方が多い。
リズムギターとも呼ばれることがあるのは知識として知っていた。
とはいえ。
「...まだ、届かない」
睦の音とは、程遠い。
文字通り血反吐を吐きながら覚えたものであるのだろう、代用品であることを思い知らされる。
――これか、お前が抱えてた不安は。
所詮代わりでしかないのだから、興味なんて微塵もないって。
お前は、そう思ってたのか。
自分に語りかけても、いまだに返事はない。
でも、「なくてはならないギター」だから、頑張ってきた。
そうだよな、俺は知ってる。
お前が、どれだけ傷つきながらギターをやってたことも。
趣味なんて言葉で誤魔化して。
勝てないと知りながら。
代用品であることを一生懸命にこなして。
人の言葉を素直に受け取れないお前だから。
「傷つき続けるわけだよな、そんな性格なら」
言葉の裏を常に思考し、深読みして傷つく。
救えない性格だ。
人間なら、普通なのかもしれないが。
「おっはよーございまーす」
スタジオ一番乗り。
「あ、あおこだ!おはよー」
じゃなかったみたいだ。
「おはよう、にゃむ。調子どう?」
「まぁぼちぼち?というか、なんか雰囲気変わった?」
「そう?気のせいじゃない?」
「女の勘は当たるんだぞ?」
以外と侮れない。
計画表が雑だっただけで、この子もなかなかやり手だ。
まぁ、結果睦がああなったわけだが。
「なかなか怖いこと言うね」
「もしかして、彼女でもできた?」
「できないよ。バンド内恋愛禁止だろ?」
「そうなの?」
俺の後方に声をかけたにゃむは、どうやら丁度入ってくる祥子に問いかけたようだった。
「...恋愛はご勝手に。私の管轄外ですわ」
「じゃなくてー、バンド内恋愛ってありなの?」
「演奏と活動に支障がなければ、お好きに」
「だってさ、あおこ」
「嫌だよ、皆可愛いけどそういう感じじゃないだろ、今の雰囲気」
ちょっと苦言を呈したつもりだったが、にゃむと祥子にはすごく驚いた顔で俺を見てる。
なんかおかしいこと...あ、碧なら言わないこと言ったわ。
「可愛い...?」
「疑問符そこなの?顔の良い人集めたから当然っていうとこじゃないの?」
「それは、そうなんですが...まさか、碧さんの口から可愛いなんて言葉が出るとは思っておらず」
「あおこが外見褒めるの聞いたことない。本当に別人みたい」
まずい。
このままじゃまずい。
かろうじてギターは弾ける。
がしかし、まだモーティスのパートは暗譜してない。
碧ができることは俺もできる。だからこそ。
モーティスパートの暗譜が完全にできてない俺が、今ここでギターを弾いても。
「あおこ?顔真っ青だよ?大丈夫?」
「ぁ...ごめ」
「もしかしてまだ体調悪いとか?休んでた方がいいよ」
「...でも」
「また倒れられても困りますので。それに」
祥子が近づいてくる。
反射的に目を閉じる。
「...そんなに怯えなくても。まだ次のライブまでは2週間あります。そこまでに、睦の場所を完璧にしていただければ、とやかくは言いませんわ」
赦された。
まだ、居ていいらしい。
部屋の隅っこにあるパイプ椅子を一つ借りて、腰を落とす。
どうしたんだ、俺。
何を恐れてる?
いや、分かってる。
人形にとって捨てられるとは。
――紛れもなく、"死"なのだから。
人格が変わったとて、何でもできるわけじゃないんだなぁ