多分三週目はない
そして誕生日から1週間遅れてるっていうね、あぁ。
ムジカの練習終わり、俺と睦は一緒に帰るのが日課になった。
身分の違いがどうの、立場の違いがどうのと足掻いた俺を、睦が進めば二つと引っ張り上げて、今この時間がある。
「睦、誕生日おめでとう」
「...碧、覚えててくれたんだ」
「彼女の誕生日忘れる彼氏がいるのか?」
「いる。目の前に」
顔の目の前に指を突き出され、すみませんとなってしまう。
概ね事実で申し開きもないのだが、知り合って1年未満の同級生、しかも女の子にプレゼントは普通に気持ち悪いと思う。
あとその時は付き合ってすらないし。
「そんなことない。碧の演奏嬉しかった。また聞きたい」
「...後でな」
「嬉しい。早く帰ろう?楽しみ」
「...はいはい」
「ただいま~」
「おかえり、あとただいま」
何度言われても実感がない。
なんで睦と一緒に住んでるんだろう俺。
「碧」
「ん?あー...はい」
玄関の鍵を閉めたことを確認し、睦を抱き寄せる。
これも日課だ。
「外寒かったから、もっとあったかい」
「寝るならベッドにしてくれよ...と、あとでな」
ハグのノリで顔が寄ってくるが、今はだめだと指で額を押さえる。
感染症とか怖いからね、致し方なし。
「手と顔洗ってうがいしてこい、そしたらしてやる」
「...うん」
さて、大体のスキンシップを終えたので誕生日パーティを敢行する。
ほんとは全員で祝いたかったが、当の本人が「碧と二人きりがいい」と言い出したので、全員でやるパーティは後日、ということにした。
「...碧、こんなに買ってきてくれたの?」
「二人きりでも盛大に祝いたいだろ」
テーブルの上には某チキン、某ピザ、某ジュース。
一般的にごちそうと呼ばれるようなものをチョイスした。
「...いくらだった?」
「そういうの主役が考えるな、俺のおごりってことにしとけ」
やっぱり立場の違いが如実に出る。
睦はきっと善意でやってくれてるのだろうが、これくらいなら自分でも出せる、と言われているようで少し悔しい。
...こういう捻くれた思想は割と前に考えないようにしてたんだけどな。
「碧、食べないの?」
「...睦がそういうの食べてるとこ、初めて見るから」
「...食べ方、教えて」
某チキンの...確かドラムとか言ったか、脚の部分。
「こっちの細っこいほう持って...ホイル巻くか」
巻いても巻かなくても油でべちゃべちゃになるのは変わらないが、まぁ気休めにはなるだろう。
「ホイル巻いた方を持って、こっちにかぶりつく。できそうか?」
「...うん。あー...ん」
小動物的なかわいさだ。
一口が小さくてかわいい。
「うまいか?」
「うん。おいしい」
「...よかった」
それにしても、高級店とかにいそうな美貌の子がジャンキーなもの食べてるの見ると...なんかこう、罪悪感が...
「碧、おいしいよ」
「...よかったよ。飽きるまで食え」
「うん...ふふっ」
「睦?」
「うれしい。碧と一緒に、2人きりでご飯食べられて」
...たびたび思うのが、やっぱりこの子は俺に関する好感度ゲージがバグり散らかしてると思うんだ。
なんでこんなに好かれてるのか、付き合った今ですらよくわかってない。
「碧も食べよう?」
「...ん、そうだな」
今は、考えてもしょうがないか。
諸々の片づけを終え、今は睦の風呂上がり待ち。
自室のベッドの上、どうでもいい思考を巡らせる。
「なんでこんなことに」
後悔ではなく、混乱、驚きのほう。
睦と付き合ったことを後悔しているわけではないが、なぜそこまでして俺と付き合いたかったのかはずっと疑問だ。
好感度がずっと高かった理由も、よくわからない。
と、ドアがノックされる。
「碧、出たよ」
「あいよ、じゃあ俺も行くか」
着替えをもってドアを開けると、一糸纏わぬ睦。
反射的に着替えで目を覆って天を仰ぐ。
「服着ろよ」
「着替え忘れた」
「なんでだよ」
「...碧なら、別に見られたっていい」
「よくねえよ」
足早に風呂場に向かう。
なるべくなら、あの睦を思い出さないように。
「...ほんとに、いいのに」
何か言ったような気がしたが、聞き返さないことにした。
聞き返したら、何かが壊れそうだから。
さて、風呂から上がり、また自室。
さっきと違うのは、隣に睦がいること。
ギターを弾くから呼んで、今ちょうど弾き終えてギターを置いたところ。
「...部屋、戻らないのか?」
「...今日は、一緒に寝たい」
「...まぁ、いいか」
誕生日だし、彼女のわがままぐらい受け止めるべきだろ。
と、睦が背中からくっついてきた。
腕がお腹の前で組まれている。
「どうした?」
「ちょっとだけ、こうしてたい」
そう言われたので、組まれている腕に手を重ねておくことにした。
「...どうせなら抱きしめるだのするのに」
「...碧、後ろからのほうが嬉しいかなって」
「...そんなことは」
やんわりと否定すれば、組まれている腕が若干締まる。
「にゃむに後ろから抱き着かれたとき、喜んでた」
「や、断じてない」
抱き着かれたことなんてあったかと思い返すと、誕生日の時に一回あった。
あれは抱き着かれたわけではないのだが、そこを否定するとまた訳分からないので、一旦置いておく。
「...小さくて、ごめん」
「なんで謝るんだよ睦が」
どことは言わないが、直前の話から、まあそういうことだろうと察する。
人間の成長スピードはそれぞれであって、別にそれを否定するつもりはないのだが。
「おっきかったら、碧が襲ってくれるかなって」
「睦さん!?」
この子とんでもないこと言うようになったな。
...俺のせいか?
「おっきいほうが、好き?」
「...否定は、しないけど」
否定しろ馬鹿。
「小さくても、興奮してくれる?」
「...全裸の睦を見て目をそらしたのが何よりの証拠だよ」
「ふふ、よかった。ちゃんと意識してくれてる」
「...あのなぁ、付き合ってんだから意識はするだろ」
そう言うと、組まれてた腕がさらに締め付けられる。
「嘘。碧はずっと、俺なんかって思ってる」
「...いや、そんな」
「嘘。思ってる。碧はそういうことを考える」
「違う、俺は」
「碧は、ずっと、私とは釣り合わないって思ってる」
実際、そうだ。
住む世界が違う。
身分が違う。
望まれて生まれたものではなかったとしても、生まれの時点で差がついている。
墜ちることは容易くとも、上がることは厳しい。
と、睦の顔が肩に触れる。
「碧。好き。愛してる」
耳元でささやかれると同時に、睦の体が密着する。
思わず、やめてくれと離れようとするが、睦はそうなってくれない。
「どうして?碧が好きって、言ってるだけ」
「ダメなんだよ。そういうの、俺は返せない」
「返さなくていい。私が好きで言ってるだけ。碧はただ、受け取ってくれるだけでいい」
睦の声と熱で、嫌でも意識できてしまう。
抗わなければ、堕とされる。
「碧、好き、好き...」
「やめ、ろ」
「碧、大丈夫。私は碧のこと、ずっと好き」
「ダメ、なんだって...大体、なんで、そんな」
そこまで言えば、睦の熱が離れる。
「...碧は、私と、モーティスを救ってくれた。私を
「...そりゃ、見せないだろ」
「あんなことがあったら、みんな少し距離を置くのに、碧は変わらないでいてくれた。だから、好き」
どうやらもう、諦めるしかなさそうだ。
「碧に付き合ってって言ったのも、他に取られたくなかったから。碧が受けてくれるのは、少しだけ、びっくりしたけど」
「それでもって言ったのは睦だろ。...いいよ分かった。俺の負けだ」
「...碧」
名前を呼ばれたことに反応した途端、唇を塞がれる。
口内を貪り尽くされるような感覚。
「――今日は、寝かせないから」
「...明日も練習あるんだけど。あとそれ俺のセリフだろ」
「関係ない。碧が悪い」
...翌日、睦の携帯に何百件の通知が来る音で目が覚めた。
「...怒られる覚悟しとこ」
Q:なんで【IF】なんですか?
A:この時間軸の碧は卑屈さがちょっとましになってるからです