迷う心の在り処   作:ユイトアクエリア

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39:この感情はなんと呼ぶ?

「...褒める?なぜ?」

 

祥子が当然ともいえる疑問を口にする。

 

『こいつの自己肯定感が低いのは知ってるだろ?頼むって』

「...碧は、どうしてるの」

『ちょっと寝てもらってるだけだよ。ちゃんと起こすから心配すんな、睦』

 

少しだけ微笑んだように見えたが、すぐに厳しい顔に戻る。

...バレたかな。

 

「で、あおこを褒め殺せって話?」

『まぁそんなとこだ。頼めるか?』

「まぁ、あおこっていいとこいっぱいあるよね。山手線ゲームでもする?」

 

にゃむの発言に、他4人がポカンとする。

 

「...え、みんな知らない?」

「初耳ですわ」

「私も」

「さきことむーこは知ってる!ういことうみこは知ってると思ってたんだけど!?」

 

にゃむの視線が初華と海鈴に向く。

 

「...私、島生まれだから」

「私も俗世には疎いので」

「バンドなんて俗世の塊でしょ!じゃなくて!!使い方間違ってるし!!」

 

ツッコミのいれすぎで肩で息をしている。

 

『...大変だな、お前も』

「あおこ~!!」

 

よしよしと頭を撫でながらダメそうか?と聞く。

 

「山手線ゲームじゃなくてもあおこを褒めることはできるし!まず顔が良い!つぎうみこ!」

「そうですね...覚えが早いです。三角さん」

「えっと...優しい、所?さ、祥ちゃん」

「メンバーをよく見ていらっしゃいます。私の目の届かないところまで、よく。睦」

「...碧は、偉い。ずっと、頑張ってる。好き」

 

...聞いてるのかな、こいつ()

 

「よし二週目!すっごい器用!」

「頭の回転が速いですね」

「ギターもベースも上手だよ」

「なくては、ならない音」

「ずっとここにいて」

 

――聞いてるか、碧。

 

『...ダメか』

「碧、帰ってこないんですの?」

『や、多分響いてないだけだ...代わりであることはちゃんと否定したんだけどな』

 

聞いてることは分かってるんだ。

 

「...ルイナス」

『睦?』

 

睦がオレの手を握る。

 

「碧の所に、連れて行って」

『いや...できなかないけど...帰ってこれる保証は』

「モーティスがいた時は、きっと碧がこうした」

『...帰ってこないって判断したら、引っ張り上げるからな』

 

睦は一つ頷いて、オレの手を両手で握って目を閉じた。

 

『祥子。睦を借りるぞ』

「えぇ。碧と共に帰ってくることを望みます」

『オレは?』

「...あなたは、ムジカの時だけでいいですわ」

『手厳しい。じゃ、行ってくる』

 

握られた手を包むようにもう片方の手を添えて、目を閉じた。

 


 

「...随分と、まぁ」

 

笑ってしまう。

あいつに主導権をあげたんだから、あいつが好き勝手やればいいのに。

ムジカの音に必要なのはあいつの音だ。俺じゃない。

 

「...いつまで、いじけてるの」

「あ?睦?」

「あんまり遅いから、迎えに来た」

 

どいつもこいつも。

 

「...いいだろ、ムジカに必要なのはあいつだ。俺じゃない」

「碧がいないとダメ」

「何がダメなんだよ。仲良しこよしは神様の意思に反するだろ」

「...祥は、そんな事言ってない」

 

いい加減、いやになってきたな。

 

「碧、どうして」

「...いやになったんだよ。あいつの方がギターが上手くて、演技も上手くて」

「聞いてたでしょ、みんな碧を待ってる。碧は碧だけ」

「そこにいるのは(ルイナス)でいい。というより、俺はいなくたっていい」

「そんなこといわないで」

 

...思ったより低い声出るんだな。

 

「...なんで睦が怒るんだ」

「碧が好きって、前にも言った」

「寝言は寝て言え、俺はそう言うのに興味はない」

「嘘、下手。碧は、嘘が顔に出る。ルイナスも一緒」

 

睦は俺の手を握る。

 

「碧、一緒に帰ろう」

「ルイナスに引っ張り上げてもらえ。俺はいかない」

「碧が一緒じゃなきゃいや、私も帰らない」

 

そのまま座り込んだ。

伊達に精神世界にいない訳じゃないってことか。

 

「...お前がいなきゃムジカのギターは半分いなくなるんだぞ」

「2/3。ルイナスがいる」

「俺、お前のそういうところ嫌い」

 

本心じゃない。けど前から思ってたことでもある。

 

「...私は、碧が好き。碧と一緒だから、ムジカもできる」

「訂正しな。ムジカに入ったきっかけはあの神さまの補佐だろ」

「それもある。けど、ムジカの時は、碧といられる」

「前から思ってたけど。第一俺が好きって何?お前にとっての一番は祥子じゃないの?」

「祥は、もちろん大事、大好き。でも、碧への気持ちとは、違う好き」

 

睦は目を細めて笑う。

 

「だから碧。戻ってきて。嫌になったら、私と逃げよう」

「馬鹿言うな。できるかよそんな事」

 

吐き捨てながら立ち上がる。

ある意味では、もう逃げられないのかもしれない。

 

「人生あげるって言っちゃったしなぁ」

「就職先は、私の隣」

「それは笑っていいやつか?」

「...分かりずらかった?」

「...睦のそれはボケなのかマジなのか分かんねえって話だよ」

 

待っててくれるんだったら、もう一度やってやろう。

まだやれることがあるなら。

 

「なぁ、無事に帰れると思うか?」

「無事には帰れる。その後は分からない」

 

睦の腕が絡む。

 

「一緒に怒られてあげる」

「...頼んだ」

「碧、好き」

「...その答えを出すのはもうちょっと後な」

「むぅ」

 

 

――次メンブレしたら沈めるからな。

 

そんな声が聞こえた。

怖いこと言うな、俺の半身は。

 

 

 

 

 

 

 




おかえり、お前が帰ってこないとわかれ道書けないんだよ(メタ)
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